インターネット業務妨害の現状と対策
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インターネット業務妨害の現状と対策(いんたーねっとぎょうむぼうがいのげんじょうとたいさく)とは、日本弁護士連合会が発刊している機関雑誌『自由と正義』上において2021年3月に掲載された特集記事である。 特集記事には唐澤貴洋と山岡裕明のほか4名の弁護士が寄稿している。
概要
2021年3月17日、『自由と正義』3月号に既に解散済みのクロスコンビが同じ特集記事に寄稿していたことが明かされる。
【長谷川亮太殺す】雑談★9【9周忌】【尊師似顔絵コンテスト】>>564(魚拓) 564 :一般カタルーニャ人:2021/03/17(水) 00:57:01.11 ID:9fEtKNke0 Jで情報提供 41 風吹けば名無し sage 2021/03/17(水) 00:42:45.97 ID:YGULEO4R0 【朗報】ゴールデンコンビ、仲良く日弁連会報誌に寄稿 https://i.imgur.com/EPPrWoc.jpg ※魚拓 https://i.imgur.com/6e09wNL.jpg ※魚拓 https://i.imgur.com/uCw0uaX.jpg ※魚拓
その後5月に匿名教徒の協力によって特集記事全ページが公開された。
【唐澤貴洋殺す】雑談★13【怒鳴って何が伝わるのでしょうか。】>>807(魚拓) 807 :一般カタルーニャ人:2021/05/20(木) 23:35:10.26 ID:aXCFmpJp0 今更やが、コロナで図書館が閉館していたので自由と正義3月号を郵送取り寄せした 教徒だとばれたくなかったので特集全ページ複写依頼したが 尊師と乳首以外も中々面白かった。以下当職の感想。 目次 https://anonfiles.com/Z6K2i4x7u8/_pdf 阿部弁護士 https://anonfiles.com/t9Mdi6x1ue/_pdf Ⅱインターネット弁護士業務妨害の現状 >Twitter等で「無能」といった書き込みがなされる 不意打ちでマヨ。弁護士業務妨害の8割はこのような誹謗中傷らしい、大変やね(棒) 唐澤弁護士 https://anonfiles.com/3cMei0xcu2/_pdf 自分の体験談がメイン。 得意の「まず女性はいない」「親の庇護」連呼。 >加害者の少年は父親とのコミュニケーションが取れていない ほーん。 警察の捜査をかく乱する技術は早急に対応する必要があるナリとのこと。 山岡弁護士 https://anonfiles.com/H4M4i8xduc/_pdf 業務妨害対策には米国の証拠開示制度の利点を紹介するリャマって感じ。 もっと自分の経験語ってええんやで 斎藤弁護士 https://anonfiles.com/j6N5i8xeu3/_pdf >業務妨害を受けていた弁護士の事件番号がインターネット上に投稿 「〇〇〇〇」のことでマヨ 閲覧制限された裁判記録のマスキング漏れは珍しくない[1]んやね。 北篠弁護士 https://anonfiles.com/ZbM2i5xduf/_pdf >実際、複数の法律事務所や弁護士会のウェブサイトが書き換えられる事案 船山暁子法律事務所とか埼玉弁護士会とかありましたね。 蔦弁護士 https://anonfiles.com/P0O6i2x5u1/_pdf >現在、わが国の弁護士業界においては、サイバーセキュリティに関する情報共有を行うような体制又は組織はない そういう組織体制ができたらリャマが入閣しそうだなと(間)思いました
目次
- インターネット弁護士業務妨害の現状と弁護士会の取組
- 阿部克臣(リンク総合法律事務所[2])
- 民事訴訟記録の閲覧による業務妨害とその対策の検討
- 斎藤悠貴(東京千代田法律事務所)
- サイバーセキュリティに関する情報共有の重要性
- 蔦大輔(森・濱田松本法律事務所)
冒頭
インターネット掲示板での弁護士に対する誹謗中傷、Twitterでのなりすまし、事務所ウェブサイトの乗っ取り等、近年、インターネット上での弁護士に対する業務妨害が著しく増加している。 時に弁護士の日常業務に深刻な被害をもたらす多様かつ技術的な業務妨害に対して、どのような対処をすべきであろうか。 本特集では、弁護士に対する業務妨害の現状とこれに対する弁護士会の取組や、米国の証拠開示制度の活用等について紹介するとともに、発信者情報開示制度の問題点や裁判所の記録閲覧制度の問題点等について取り上げる。 また、個々の会員又は法律事務所における体制整備の参考となるように、弁護士業務におけるサイバーセキュリティーの具体的な方策や、我が国におけるサイバーセキュリティーの情報共有体制について解説する。
インターネット業務妨害の実態と課題(唐澤貴洋)
私に何が起こったのか
1 はじめに 私は、今現在もなおインターネット上で誹謗中傷や業務妨害を受けている。 それは、2012年3月に担当することになったインターネット掲示板2ちゃんねる(以下「2ちゃんねる」という。)への投稿記事削除等請求事件をきっかけとする。 本稿執筆時点の2020年12月では、既に8年超の権利侵害を受けていることになる。 ここでは、私がなぜ業務妨害を受けるに至ったか、そして、どのような権利侵害を受けていたのかについて述べたい。 2 きっかけ 私は、依頼者が誹謗中傷を反復継続して受ける「炎上」状態にあった案件で、依頼者を誹謗中傷する記事の削除等をしようと、2ちゃんねるに対して削除等の請求を行った。 当時の同掲示板の削除方法としては、掲示板上にスレッドを立てて、削除等請求を公開の場所で弁護士名を出して行わなければならなかった。 そのルールにのっとって、私が2ちゃんねる上で削除等請求を行うやいなや直ちに私に対する誹謗中傷が掲示板上で行われるようになった。 今でもそのときのことは覚えている。 削除等請求が終わり、仕事仲間と事務所近くで食事をしてい,たときに、2ちゃんねるで私を誹謗中傷する投稿がなされていた。 誹謗中傷は、「詐欺」、「無能」などとの言葉を用いて行われた。 削除等請求をした瞬間に、私自身も炎上当事者となったのだ。 具体的には、掲示板上で私の事務所(当時、私の事務所は、「恒心綜合法律事務所」という事務所名であった。)のホームページやTwitterが探し当てられ、揶揄され出していた。 当時、私の事務所は、誹謗中傷問題をメインの分野として、仕事をしていたので、名誉毀損と関わりがある政治家、芸能人、著名人などをTwitterでフォローしていた。 この中の芸能人にアイドルがいたことがインターネット上では問題視されていた。 私に、アイドルオタクを意味する「ドルオタ」とのレッテルを張り付けることで、ある種の高揚感を味わっているサイバー上の不特定多数人(「サイバーモブ」ともいう。)に違和感を覚えた。 インターネットでは、性的なことや何か差別的な意識に裏付けられた言葉をレッテルとして張り付けて、人を揶揄するというのはよく行われる手法である。 3 変化する権利侵害 私に対する権利侵害行為は、当初、誹謗中傷のみだったが、段々とエスカレートしてきた。 はじめに起こったのが殺害予告である。 2012年7月22日、「唐澤貴洋殺す」という投稿が、2ちゃんねるになされた。 これを投稿したのは、1997年生まれの当時15歳の少年であった。 同人の父親は、とある中小企業の社長をしていた。 私は、何不自由ない家庭で育ったであろうはずの人間が簡単に犯罪行為に手を染めてしまっていることに違和感を覚えた。 一人の少年が始めた殺害予告は模倣され、その後私に対して大量の殺害予告がなされるに至った。 殺害予告をめく゛っては、2014年3月に初めて逮捕者が出て、その後も、書類送検が複数人に対してなされ、刑事処分が下された。 次に起こったのは、プライバシー侵害行為であった。 私の実家の不動産登記簿がさらされ、実家・自宅が特定される、街中で盗撮をされる、ポス卜の中身が荒らされる、中学時代の卒業文集などが投稿される、大学時代の住所が投稿される、祖父母や弟のお墓が特定されるということが行われた。 その過程の中で、何ら関係のない同姓同名の方の不動産登記簿があげられるといった事態も生じた。 そういったことが起こるのは、企業等団体のデータベースにおける個人情報管理が杜撰であることを示していた。 さらに、私的空間の立入りは、インターネットへのプライバシー情報の投稿にとどまらず、動画配信サービスを利用して実況中継をしながら私の事務所にやってくる、私の祖父母や弟のお墓にペンキをばらまくといった実際の行動を伴う形で過激になっていった。 2015年6月からは、地方自治体に対する爆破予告に、私の名前が使われた。 爆破予告に名前が使われることで、警察や地方自治体への対応に追われ、業務が著しく妨害された。 爆破予告事件では、突然、警察の方が事務所に訪れ、通信ログの提供を要請されたが、自分がもしかすると嫌疑を持たれているのではないかとの思いに駆られ、大変な恐怖を覚えた。 その後、複数回爆破予告をしていた者が逮捕され、実刑判決を受けたことで一旦はその模倣は収まった。 しかし、現在も様々な団体への爆破予告は断続的に行われている。 その他嫌がらせを挙げればきりがないが、インターネット上での嫌がらせとして、私が経営する法律事務所のなりすましサイトや、私の個人名のTwitterアカウントが作られるということがあった。 なりすましアカウントが乱立することで、どれが本当のアカウントかわからないとよく言われる。 なりすましアカウントでは、他人への権利侵害や意味不明な言動が発信されていることが多い。 インターネットでは、他人の人格になりすますことは容易であり、このこと自体を端的に取り締まる法律は存在しない。
私が会った加害者たち
これまで、私への加害行為により10人以上が刑事事件として立件されており、そこで把握した加害者の属性、また、個人的に把握した殺害予告犯等業務妨害行為者複数名の属性は、10代の学生が多数、次いで20代の学生及び無職、そして30代の無職であり、全て男性であった。 その中の複数人と実際に会った。 親がいる者は、親も一緒に会う機会を持った。 その結果、加害者のコミュニケーション能力は低く、周りに加害者のことを理解している者が少ない孤独な者が多いと感じた。 動機も自身の身近な生活にあることを忘れたかった、インターネットで反応があるのが面白かった、没入感を味わいたかったなどであり、個人的に私に恨みを持って炎上行為に加担した者はいなかった。 罪悪感を持って行為に及んでいた者はおらず、刑事事件になるという認識も持っていなかった。 そして、皆私と何ら関係がない人だった。 親は、子どもがインターネット上で何をしているのか知らず、また、そもそも私からの問合せや刑事事件にならなければ、そのようなことに関心すらない印象を受けた。 ある加害者の少年とその両親に同席してもらい話をしたときである。 少年の父親が少年の横に座っていたが、父親はどこか現実感覚がなく、子どもとのコミュニケーションがうまくいっていないように見えた。 そこで、家庭内のことを聞いてみた。 少年と少年の母親は、父親に大変気を使っており、言いたいことも言えない、咳をするのにも気をつかう環境にあると言っていたのが印象的である。 少年は、なぜ私に対して殺害予告をしたのかという問いに対して、殺害予告をするとインターネットで反応があり、自分の日常を忘れられると返答した。
炎上の定義。炎上の原理。そして、人はなぜ炎上行為に参加するのか
1 炎上の定義 私への業務妨害はいわゆる「炎上」の中で行われた。 ここでは、炎上についての私の考え方を示し、今後の議論の参考にしてもらいたい。 炎上が、インターネット上での誹謗中傷等権利侵害行為又は違法とは評価できない批判行為の繰り返しを特徴とすることには争いはないと思う。 これに対して、炎上が誰によってなされているかを定義の中に入れることは難しい。 匿名 を維持した状態でなされることが多いので外形的にはわからず、参加者の多寡は一見不明であるため、一概に参加者はこうだとは言えないからだ。 そこで、炎上の定義としては、インターネット上で誹謗中傷等権利侵害行為又は違法とは評価できない批判行為が反復継続して行われる現象としたい。 なお、炎上行為は、特定少数であっても行うことが可能である。 私の件に限っていえば、コアな人物が逮捕されたり、刑事的に立件されたりすると、同様の行為が収まることが多い。 これが意味するのは、加害行為に及んでいる者の数が必ずしも多数ではない可能性だ。 統計的な研究は、山口真一准教授(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)の『ネット炎上の研究 誰があおり、どう対処するのか』(動草書房、2016年)が詳しい。 同書の中では、個別事件で書き込みを行う人は、ごく一握りであることが示されている。 この結論は、私が実務において感じていること、ノイジー・マイノリティが炎上行為における中心的活動を行っているということと一致する。 2 炎上の原理 次に、炎上がどういうきっかけで発生し、継続していくのか、その原理について私見を述べる。 炎上というものは、インターネット上では、投稿、すなわち意思伝達行為の形で出現している。 すなわち、炎上は、ある種のコミュニケーションの体と言ってもいい。 人間の中で感情の起扶があり、その感情の起伏に基づいた意見を他者に伝えようとするときに、コミュニケーションがなされる。 すなわち、炎上は、人間の感情(嫉妬、怒り、悲しさ、自尊心など)や価値観(正義感、政治的信条など)に訴求する現象が生じたときに発生する。 トリガーとなる事象の訴求男が強ければ強いほど、発生する意見の数、情報量も多くなり、炎上は大きくなる。 炎上の中で行われていることが、単なる誹謗中傷ならまだ理解できるが、私に起こった事象は一般の方には理解し難いだろう。 誹謗中傷の域を越え、生命への危険性、現実的な生活上に支障が出る事態が、日々頻繁に生じている。 このようなことがなぜ起こりうるのか。 これは、炎上という現象が、炎上行為によって達成する目的が存在せず、ただ炎上が続くことが自己目的化している側面があることにほかならない。 コミュニケーションは、通常、相手に対して意思を伝え、何らかの影響を相手に及ぼそうとする営みであるが、存続のみを目的とした炎上は、コミュニケーションの本来的、機能的な意味はなく、コミュニケーション環境としての場が存続し、孤独な者の居場所を維持するために存在するのだ。 コミュニケーション環境が維持されるためには、「ネタ」が必要とされる。 同じネタばかり話していても、コミュニケーションは続かない。 卑近な例として、小学校や中学校でのコミュニケーションが挙げられる。 前日あったスポーツなり共通の趣味の話などコミュニケーションのネタになる話を仕入れてきて、その場で話すが、その営みには意味などない。 大人になれば、何を話したか覚えている者はほとんどいないだろう。 そこでは、コミュニケーションをして時間を消費しているという事実だけが重要なのであり、炎上も同じだ。 新しいネタを仕入れて消費していくが、日々の消費には特に意味はない。 炎上で、誹謗中傷をはじめとして、プライバシー侵害等次から次へと権利侵害行為が行われるのは、新たなネタを作って、炎上を維持しようとする試みにほかならない。 インターネットでは、炎上行為に参加していた者同士で、権利侵害し合うというカニバリズム(共食い)がよく見受けられる。 このような共食いもまた、あらたなネタ提供として炎上の中で消費されていくのだ。 炎上参加者は、コミュニケーションという情報の海に入り、没入感を味わっている。 これにより、現実世界と隔離されてある種の満足感を覚え、かつコミュニケーションが相互作用に基づくものではなく単に攻撃するだけの場合にはある種の万能感を味わうことができる。 さらに、過激な権利侵害行為がネタ提供として称賛されることで承認欲求が充足される。 これが、私が考える炎上行為参加者の本質的な動機である。
日本におけるネット炎上をめぐる法律的課題
1 はじめに 今現在、インターネット上で炎上現象にあったら、被害者は実質的には泣き寝入りせざるをえない。 その理由は、加害者を特定することに伴う負担を被害者が負担しなければならないこと、インターネットでは炎上現象により大量に拡散した投稿記事を全て削除するのは不可能に近いこと、技術的な問題やインターネットというそもそも国境概念を前提としていない舞台での権利侵害行為に対して警察をもってしても一定の限界が存在することにある。 2 被害者負担の問題 インターネットで誹謗中傷された場合、加害者を特定するために、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)を用いる。 ここでは、権利侵害が明白であるときに限って、発信者情報が開示される。 発信者情報としては、基本的にIPアドレス及びタイムスタンプ並びに契約者情報を必要とするため、2回にわたり法的手続をとる必要がある。 コンテンツプロバイダであれ、経由プロバイダであれ、通信の秘密の保護を理由として、発信者情報の開示には裁判手続をとることを求めるプロバイダが多数である。 これは、2回にわたる裁判手続を被害者は自己負担で行わなければならないことを意味する(この点については、現在、新たな手続の創設が議論されている。)。 日本の名誉毀損訴訟で認められる損害賠償金は低額である。 仮に発信者を特定できたとしても弁護士費用等やその間受けた精神的損害を慰謝するに十分な損害賠償金を獲得するのは困難である。 また、プロバイダに対する発信者情報の保存形式及び方法について法定されていないため、開示されたIPアドレス及びタイムスタンプを基にしても、発信者情報の開示を受けることができないということがある。 また、開示されたIPアドレスが海外のものであれば、発信者の特定は事実上不可能となっている。 そして、日本では、匿名訴訟が認められていないため、発信者情報開示請求訴訟は、被害者が実名を出して訴訟を追行しなければならない。 この場合、被害者が発信者情報開示請求訴訟を提起しているという事実がインターネット上に投稿され、新たな誹謗中傷がなされるといった事態が生じている。 3 記事拡散の問題 炎上して一旦記事が拡散してしまうと全ての記事を掲載先から削除するのは事実上困難となる。 海外のアーカイブサイトに保存され、そのサイト運営者は一切削除に応じないという場合もある。 ウェブサイトの運営者が意図的に海外のレジストラ、海外のホスティングサービス、Cloudflareなどのコンテンツデリバリネットワーク(CDN)を利用し、責任主体であることを意図的に隠し、ウェブサイトの適切な管理を怠るものすら存在する。 誹謗中傷記事を一般に見られないようにする手段として検索エンジンに検索結果からの削除 を求めることが考えられるが、検索エンジンからの記事削除を求めるのには裁判手続を要する場合があり、被害者にとっては多大な負担である。 4 国境を超える捜査の限界の問題 インターネットでは、海外ホスティングサービス、海外レジストラ、CDN、TOR、プロキシといった要素を組み合わせることにより、海外に責任主体がいるかのような偽装が容易にでき、警察の捜査をかく乱することが容易となっている。 このような技術に対して、早急に対応する必要がある。 これには、国際間の捜査共助の体制を整えるとともに、技術的な対応をしていく必要もある。
インターネット業務妨害に対する米国の証拠開示制度の活用(山岡裕明)
はじめに
インターネット上の権利侵害が深刻化し、2020年9月には、総務省から「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」(※1)が公表され、インターネット上の誹謗中傷に対する総合的な対策が提案されている。 こうした問題は弁護士にとっても無縁ではなく、業務妨害という形で現れ、筆者の所属する第一東京弁護士会業務妨害対策委員会にも多くの支援要請が届いている。 また、支援要請とは別に直接相談を受ける機会も増えている。 その中で多いのは、Google、Twitter、Facebookなど米国企業が提供するインターネットサービスを利用した業務妨害である。 こうした業務妨害への対策の一つとして、米国の証拠開示制度の活用が考えられる。 筆者は2019年に米国カリフォルニア州に渡米し、現地の弁護士の協力を仰いで、米国の証拠開示制度を実際に活用した。 具体的には、日本で依頼を受けたインターネット上の誹謗中傷事案について、米国の証拠開示制度を通じて投稿者の情報(以下「発信者情報」という。)の開示手続を行った。 その過程において、国内の手続との異同が明らかとなった。 その経験を踏まえたうえで、本稿では米国の証拠開示制度の利点を紹介する。
インターネット上の業務妨害の一例
昨今インターネット業務妨害の相談で多いのがGoogIe Maps上の口コミである。 これは、GoogIe Maps上の施設に関して誰でも匿名で投稿でき、星の数で表す1から5までの評価と文章で構成される。 この口コミに、特段の根拠なく、あえて星1個という低評価をつけたり、「反社会的勢力の顧問事務所である」、「利益相反行為を平然と行っている」、「預り金を横領された」等という口コミが投稿されたりする形で業務妨害がなされる。 他の媒体における誹謗中傷との最大の違いは、人目の付きやすさである。 具体的には、法律事務所名をGoogleで検索すると、上位の右側に大きく表示され、所在地を確認しようとGoogle Maps上で検索しても、同様に表示される。 ウェブ広告を通じて集客している法律事務所にとっては、ウェブ上の目立つ位置に表示されるため、潜在的な相談者にネガティブな影響を与えかねない。 また、その他の法律事務所にとっても、相談者が所在地を確認しようとGoogIe Mapsに事務所名を入力した際に、低評価やネガティブな口コミが表示されると当該相談者に不信感を与えることになる。
一般的な対策
Google Maps上の口コミを始めとするインターネット上の業務妨害の対策として、大きく分けて口コミの削除と口コミを投稿した者の特定がある。 削除の方が比較的早期に結果が出ることがあるが、弁護士に対する業務妨害の特殊性として、業務妨害者は元依頼者や相手方など一定の関係性を有する者であることが多く、執拗に業務妨害が繰り返されることが少なくない。 そうすると、せっかく手間を掛けて削除に至っても繰り返し投稿されることが懸念されるため、その有効性は限定的である。 他方で、投稿者を特定すれば、業務妨害や名誉権侵害を理由に責任を追及することが可能となる。 責任を追及する中で口コミを削除させたり、二度と投稿をしない旨の誓約をとったりすることも可能となる。 業務妨害対策委員会としても、妨害者が特定できている方が支援が容易である。 こうした観点から、インターネット上の業務妨害については、発信者情報の特定が非常に重要となる。
米国の証拠開示制度
ここで、発信者情報の特定に有用な手段となり得るのが米国の証拠開示制度(以下「ディスカバリー」という。)である。 まずは、同制度の概略を紹介したうえで、国内の手続との比較を行う。 1 概要 一般的に、ディスカバリーは、米国で民事訴訟を提起した後に、公判審理(トライアル/Trial)の前に実施される証拠開示手続である。 トライアルの準備のため、法廷外で当事者主導のもと、お互いに事件に関する情報を開示し収集する手続のことである(連邦民事訴訟規則26条等)。 これは、原被告間で実施されるものであるから、米国における訴訟提起及び訴訟係属を前提とする。 そうすると、日本国内でのインターネット上の誹謗中傷事業においては、被害者たる原告は、そもそも投稿者が不明である場合には訴訟提起に至っていないし、仮に訴訟をするにしても日本の裁判所に訴訟を提起することになるため、ディスカバリーは利用できないこととなる。 ところが、このディスカバリーの特則として民事手続合衆国連邦法典第28編1782 (a)(標題「外国及び国際法廷並びにその当事者のための援助」)があり、この制度を利用することにより、米国で訴訟提起を予定していなくても、日本において訴訟提起を予定する者は、簡易迅速に米国企業からアカウント情報の開示を受けることが可能となっている。 すなわち、証拠収集のためだけに、相手方を予定しない(一方当事者による)申立てを裁判所に行い、裁判所が認存命令を発令した場合、命令書と必要書類をいわゆるコンテンツプロバイダに送付することで、当該プロバイダから証拠開示を受けることができる。 上記のGoogle Mapsの例で言えば、命令書と必要書類をGoogle社に送付することにより、口コミを投稿した者の情報(正確には口コミの投稿に利用されたアカウントに登録された情報)の開示を受けることができる。 2 要件 (1)実体的要件 合衆国連邦法典第28編1782 (a)は、裁判所が開示命令を行う要件として、以下の3つを規定している。 ①申立人が利害関係人であること(it is an "interested person" in a foreign proceeding.) ②ディスカバリーが外国裁判所での手続のために用いられること(the proceeding is before a foreign "tribunal,"and) ③証拠開示を求められている者(以下「開示対象者」という。)が裁判所の管轄内にいること(the person from whom evidence is sought is in the district of the court before which the application has been filed.) 以上の法律上の3要件を満たした場合であっても、開示命令を出すか否かは裁判所の裁量となっている(The district court… may order)。 そこで、いかなる場合に開示命令が出されるかについては、連邦最高裁判所が以下の4つの考慮要素を示しているため、実務上、これらの要素を考慮して開示命令を出すか否かが判断される傾向にある。 ①開示対象者(本稿におけるGoogle社)が当該外国裁判の参加者か ②外国裁判所が連邦裁判所の司法援助を受け入れるか ③外国の証拠収集制限等を潜脱する意図があるか ④開示対象の「範囲」が開示対象者にとって不当に侵害的または煩雑なものか (2)手続の流れ 一般的な手続の流れは、以下のとおりである。 ①連邦裁判所に対して開示命令を求める申立書(Ex Parte (当事者一方だけ) Application)の提出 ②裁判所からの命令の発令(Order Re Ex Parte Application For Discover) ③当事者から開示対象者へ命令と召喚状(Subpoena)の送付 ④開示対象者が、アカウント保有者へ開示に同意するかの照会 ⑤開示対象者から異議がなければ、開示対象者からアカウント情報の開示 国内の発信者情報の開示命令を求める仮処分手続でも同様であるが、実際には裁判官及び開示対象者の対応によって、手続の進捗は大きく異なる。 筆者の経験上、裁判官が申立てに理由があると判断するまでに、何度か面接を設定されることもあれば、申立てから即日で命令が出されることもある。 また、裁判官がアカウント保有者のプライバシー保護の必要性があると判断した場合には、開示対象者及びアカウント保有者からの異議が出る前の②の段階で早々に申立てが棄却される場合もある。 さらに、開示命令が出された以上は粛々と③~⑤の手続を進める開示対象者がいる一方で、積極的に異議を出して争ってくる開示対象者もいる。 3 ディスカバリー制度の利点 Google Maps上の業務妨害を想定した場合、国内の手続と比較した場合のディスカバリーを利用する実務上の利点は、現在のところ以下のとおりである。 (1)手続の簡易迅速性 国内の手続の場合、まずは、Google社を債務者として、IPアドレスの開示を求めて仮処分手続をとることになる。 この場合、米国法人を相手とするので、国内法人を相手方とする場合に比して、資格証明書の取得及び申立書類の送達について時間がかかるほか、申立書の英訳などの手間もかかる。 さらに、同手続で開示対象となるのはIPアドレス(及びそのタイムスタンプ)に限られるため、IPアドレスの開示を受けた後に、当該IPアドレスを管理するアクセスプロバイダに対して改めて発信者情報開示請求訴訟を提起する必要がある。 これら2つの手続を経て最終的に氏名・住所といった発信者情報を取得するまでに、おおよそ半年程度が見込まれる。 他方で、ディスカバリーの場合、最短で申立てから1か月程度でアカウント情報が開示される。 しかも、その情報の中には、登録さえあれば、電話番号や、クレジットカード情報(カード名義、カード番号、有効期限等)も含まれる。 クレジットカード情報であれば、事実上その段階で発信者を特定できるし、電話番号であっても、弁護士法23条の2に基づく照会により当該番号の契約者情報を求めることで、1か月程度で契約者の氏名や住所といった情報の入手が可能となる。 そうなると、国内の手続に比較して、より簡易迅速に発信者情報を入手できるという利点がある。 (2)開示情報の範囲 (1)の記載事項と重複するが、ディスカバリーの方が、プロバイダ責任制限法(※2)に基づく開示情報の範囲よりも、開示される情報の範囲が広い。 すなわち、プロバイダ責任制限法に基づく開示請求の対象となる情報の範囲は、総務省令(※3)の1号から8号までに列挙された事項に限られる。 他方で、ディスカバリーにはこのような限定がないため、例えば、アカウント情報として電話番号やクレジットカード情報が登録されていれば、それらの情報も開示対象となり得るのである。 なお、2020年8月のプロバイダ責任制限法にかかる省令改正に伴い開示請求の対象に電話番号が加えられたが、電話番号はIPアドレスと異なり「早期に開示しないと消えてしまう」性質の情報ではないため、仮処分手続において電話番号の開示は保全の必要性の観点から認められないものと思われる。 したがって、同改正をもってしても、現状では、上記のディスカバリーの利点は失われていないというのが筆者の私見である。 ※1 総務省「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」(2020年9月) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/02kiban18_02000105.html ※2 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ※3 平成十四年総務省令第五十七号「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」
余談
- 2021年3月18日、一般社団法人弁護士デジタル化推進協会[5]にて、⾃由と正義3⽉号特集記事「インターネット業務妨害の現状と対策」解説という、上記弁護士らが自らの記事を解説するオンラインセミナー[6]が開催されたが、なぜか唐澤貴洋のみ参加しておらず[7]、マヨケーではいじめではないかと話題になった[8]。
- 山岡裕明はこの報告が評価され、NPO法人デジタル・フォレンジック研究会が選出する「デジタル・フォレンジック優秀若手研究者賞」2021年度最優秀賞を受賞した[9]。
脚注
- ↑ 2022年3月、福永活也が裁判記録のマスキング漏れから依頼人はあちゅうの住所を開示するという事件が発生している
- ↑ この法律事務所は、カルト問題に強い紀藤正樹弁護士が解説した事務所であり、山口貴士弁護士も所属している
- ↑ 電気通信大学大学院電気通信学研究科を卒業後、警察庁情報通信局情報技術解析課サイバーテロ対策技術室勤務経験のある弁護士である。山岡裕明とは、サイバーセキュリティ関係法令の調査検討等を目的としたサブワーキンググループ タスクフォースのメンバ-(魚拓)であり、同じくデジタルフォレンジック研究会に所属し、「業種別にわかるデータ保護・活用の法務Q&A」を共著している。2022年4月、埼玉県警のサイバー犯罪対策技術顧問に就任している。
- ↑ 菊地弁護士が過去に所属していた。なお、北條弁護士とは入所時期がかぶっていない
- ↑ 北條孝佳弁護士が理事を勤める団体である
- ↑ 開催のお知らせ(魚拓)
- ↑ 【唐澤貴洋殺す】雑談★25【山本祥平新事務所】【電池の捨て方】【enゲェジ】>>186-190(魚拓) - マヨケー
- ↑ 山岡裕明が嫌っている説、お互い嫌い合っている説、唐澤貴洋への業務妨害が特殊なため、他の弁護士には参考にならない説がある
- ↑ デジタル・フォレンジック・コミュニティ2021 in TOKYO プログラム(魚拓)
関連項目