唐澤貴洋/新聞記事

2020年4月8日 (水) 18:28時点における>六高ダイによる版
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本項目では唐澤貴洋に関する新聞記事の内、独立記事が無いものの一覧を記載する。独立記事のあるものも含めた一覧については唐澤貴洋/メディア・資料を参照。

ネットに「殺す」 重い結末 少年、被害者に謝罪・反省(日本経済新聞、2015年4月6日)

憲法のいま 公布70年⑬ 「13条/プライバシー権 21条/表現の自由」(毎日新聞地方版、2016年7月2日)

公布70年/13 13条/プライバシー権 21条/表現の自由 /四国魚拓 
ネットと表現、深刻な被害も
インターネットが普及し、誰もが広く発信できるようになった。
市民の表現活動は新たな局面に入ったと言える。一方で、その表現が誰かを深く傷つけたり、膨大な情報を蓄積するネットの特性が、従来はなかった被害を生んだりする事態も。
憲法21条が定める表現の自由や知る権利と、13条の幸福追求権から導かれるプライバシー権、名誉権のバランスをどうとるかが課題になっている。

個人攻撃、殺害予告
「数え切れないほどの人に囲まれているようで、恐ろしくて夜も眠れなかった」。
第一東京弁護士会の唐沢貴洋弁護士は、2012年にネット上で始まった自身への攻撃について振り返る。
ネット上での中傷などに悩む人たちから相談を受け始めて約1年が過ぎた時期だった。
ある掲示板に、依頼者に関する書き込みの削除を求めたことで反発を買い、掲示板が個人攻撃であふれる「炎上」状態に。
殺害予告が連日書き込まれ、事務所の周囲には不審者がたびたび現れた。

表現の自由の乱用
警察が捜査に乗り出し、脅迫容疑などで10人程度が逮捕・書類送検されたという。
以前ほどではないが、攻撃は今も続く。「表現の自由が乱用されている。何らかの歯止めが必要では」と唐沢さんは言う。
言論や表現活動が国家から厳しく弾圧された明治憲法の時代を経て、現行憲法の下、市民は表現の自由を手にした。
しかし、ネット社会での「自由」の行使が、多くの炎上事例を生み、同じ市民の人権を侵害する事態が起きている。
唐沢さんは「ネットは市民同士の戦いの場になっている」と話す。

忘れられる権利
一方、個人のプライバシー権や名誉権を保護するため、新たな権利の概念が近年注目されている。
ネット上に残り続ける個人情報の削除を求める「忘れられる権利」だ。
本や新聞などの情報は時間の経過とともに人目に触れにくくなるが、ネットの場合は過去の情報にも容易にアクセスできることが背景にある。
例えば、犯罪や不祥事への関与などで一度悪評が付くと、グーグル、ヤフーといった検索エンジンで名前や関連する言葉を打ち込むことで簡単に情報が引き出される。
14年10月、忘れられる権利を日本で初めて認めたとされる東京地裁の仮処分決定は、原告の男性が反社会的集団に所属した過去を記したページの一部を、グーグルの検索結果から削除することを命じた。
「ネットの記載が、社会生活を営む上で悪影響を及ぼしている」という男性側の主張が認められた。

いびつな現状
ただ、検索結果に手を加える動きには、表現の自由と知る権利を保障する観点から慎重な意見もある。
国際大学GLOCOMの山口真一講師は「検索エンジンは公共性が高く、できるだけ中立を保つべきだ。削除は権力者に悪用される恐れもある」と指摘する。
山口さんの共著書「ネット炎上の研究」では、炎上を恐れてネットでの表現を控える人が相当数いる半面、掲示板に関連のコメントを投稿するなど炎上に「参加」した経験があるのは利用者全体の1%程度にとどまることを約2万人へのアンケート調査から示した。
さらにその中でも、相手を直接的に攻撃するような書き込みをする人はごく一部という。
少数が表現の自由を最大限使って極端な行動をとることで、周囲を萎縮させたり、規制論を呼び起こしたりして、多数の自由を損ねる、といういびつな現状があると分析する。
安易に炎上に加担しないよう、学校教育などを通じて市民のネットリテラシー(ネットを適切に使うための知識や能力)を高める必要性を力説する山口さん。
「多くの人が萎縮すると、ネットに出てくる意見は多様性が失われ、先鋭化したものばかりになってしまう」と懸念する。

書き込み削除、議論を 宍戸常寿・東大教授
民主主義社会では表現の自由の下、原則として自由に意見や情報を発信し、互いにそれをぶつけ合うプロセスが重要だ。
インターネット上でも同様だと思う。
ただ、ネットでは一度発信したものがいつまでも残る。検索エンジンの存在もあり、知りたい情報を簡単に引き出せる一方、知られたくない情報を削除するのは困難だ。
そうしたネットの特徴を踏まえ、表現の自由や知る権利との兼ね合いを社会全体で考える時期にきている。
例えばマスメディアは実名報道の重要性を強調してきたが、報じた内容が拡散され残り続ける中、果たして微罪事件であっても容疑者の実名を報じるべきだと言えるのか。改めて検討しなければならないだろう。
ネットの世界が現実世界から独立して存在するわけではない。
ネット上の書き込みや転載であれ、それ以外の場での表現であれ、権利侵害があれば同じように対処をすべきだ。
現状の「忘れられる権利」は、検索エンジンの事業者に検索結果を削除させる権利のように見なされている。
しかし、もともとのサイトの表現自体を、削除しやすくする仕組みをつくる方が大切ではないか。
表現の自由や知る権利の尊重を前提としながら、議論を深める必要があるだろう。

憲法のいま 公布70年 第13条 21条

 
   

ネット中傷 弁護士が山梨学院大で講義(山梨日日新聞、2016年12月1日)

私見卓見「ネットの中傷 責任追及の仕組みを」(日本経済新聞、2017年6月27日)

なくならないツイッターのなりすまし投稿 小林麻央さん訃報でも悪意の拡散(産経新聞、2017年7月15日)

【ZOOM】ツイッター「なりすまし」ご用心 嘘の情報、拡散の危険性(産経新聞、2017年7月25日)

「ひと」(朝日新聞、2017年8月4日)

 
ネットの闇に立ち向かう弁護士 自分自身も「標的」に…
■ひと 唐澤貴洋さん(39)
 
弁護士の唐澤貴洋さん=早坂元興撮影

5年前。ネット掲示板で中傷された男性の依頼を受けて書き込みの削除を求めると、思いがけず自分自身が「標的」になった。

ネットでの中傷のほか、事務所ビルへの不法侵入や盗撮なども相次いだ。殺害予告の書き込みや名前をかたった爆破予告までされて警察に相談。
10人以上が脅迫容疑などで逮捕・書類送検されたが、会ったこともない少年や男性ばかり。
「私への嫌がらせは、彼らがネット空間のコミュニケーションで消費するネタに過ぎなかった」

匿名性の高いネット空間はデマや中傷が横行している。
仲間と作った東京・虎ノ門の法律事務所で被害者の相談にのる。現行の法制度は労力と費用がかかり、泣き寝入りも多い。
「誰が書き込んだのかを、容易かつ確実に後から特定できる仕組みをつくるべきだ」

17歳の時、1歳下の弟が自ら命を絶った。渋谷の非行グループからパーティー券を売りつけるよう迫られたが、できずに暴行された直後の悲劇だった。
「本当の悪い人間と闘うには武器が必要」と法曹の道を志した。
悪意に満ちた攻撃は今も続く。

6月にフリーアナウンサーの小林麻央さんが亡くなった際も、虚偽のツイッター投稿で名前を使われ、問い合わせや批判が法律事務所に殺到した。
「弟の苦しみに比べればたいしたことはない。何があろうと逃げないで闘う」

少年と罪 第4部「ネットの魔力」(中日新聞)

⑤劣勢「驚く研究力捜査後手」(2017年11月8日)

カランサムウェアがイメージ画像として登場

第4部「ネットの魔力」 ⑤劣勢「驚く研究力捜査後手」

 

⑥私刑「匿名の攻撃 実害次々」(2017年11月9日)

第4部「ネットの魔力」 ⑥私刑「匿名の攻撃 実害次々」

 

 
事務所の玄関に「死ね」と落書きされた時の画像をパソコンで示しながら、殺害予告の経験を語る唐沢=東京都港区で

 目の前に座っているのは、自分を「殺す」と宣言した十九歳の少年だった。
 二年前の春、東京都港区の法律事務所。弁護士唐沢貴洋(三九)の前で、関東地方の男子浪人生がうな垂れていた。インターネットの掲示板に、唐沢を「ナイフでメッタ刺しにする」と書き込んだ。警視庁のサイバーパトロールで見つかり、自宅近くの警察署へ出頭。その後、両親と謝罪に来た。
 「投稿している時は嫌なことを忘れられた。過激な内容を書くと、周りが反応するから」。動機は、受験の失敗などによるストレスの発散だった。
 唐沢は弁護士として、ネット上の名誉毀損や不正アクセス問題に取り組む。巨大掲示板の旧「2ちゃんねる」を巡る弁護活動を契機に、ネット空間で「標的」になった。依頼人の高校生への悪質な書き込みの削除を掲示板で要請したら、自分への中傷が始まったのだ。
 「僕は『遊び場を荒らす人物』と見做されたのだろう」。まもなく「殺す」と書き込まれた。この投稿を境に、脅迫や嫌がらせはネットの中から外へも広がり、現実の生活が危険にさらされるようになった。
 唐沢の事務所が入居するビルに掲示板の利用者が不法侵入して、その動画を公開。実家の住所を晒されて、近くにある祖父の墓はスプレーで落書きされ、やはり画像が公開された。事務所や裁判所の周辺には不審な若者が潜むようになった。唐沢の盗撮が目的だ。
 「一線越えたやろ」「もうちょっと面白い嫌がらせしろよ」。ネット空間が“炎上”するたびに、匿名の攻撃は過激化していった。
 殺害予告は手口や日時を記すなど具体化した。なりすましも横行、北海道から沖縄までの学校や役所に唐沢を名乗る爆破予告メールが相次ぎ、警備強化や休校が続いた。事務所の表札に「死ね」と落書きした男子高校生は、駆け付けた唐沢を見ても薄ら笑いを浮かべただけだった。
 もちろん、犯罪だ。唐沢によると、これまでに十数人が威力業務妨害や脅迫の容疑で立件された。半数近くは未成年で、殺害予告で書類送検された大分県の男子高校生=当時(16)=は「目立つと思ったから」と供述した。
 「僕は彼らの“ネタ”にされているだけ」と唐沢。盗撮を避けるために通勤ルートを頻繁に変え、買い物や外食は控える。気が休まるのは事務所の一室だけ。その事務所も嫌がらせへの防犯対策などで2回の移転を強いられた。
 唐沢は、投稿者を簡単に特定できるようにするなど、悪質な書き込みへの法整備が必要と訴える。そして、何より大切なのは学校教育。相手の痛みを感じ取りにくいネット空間の怖さと、すぐに標的が変わる流動性を教えてほしいと願う。
 唐沢を揶揄するサイトには、殺害予告をした少年らの顔写真も“仲間”によって晒されている。まるで、騒ぐ理由を求めているだけに見える。唐沢は自分と重ねて、言う。「加害者と被害者は紙一重。誰がいつ僕と同じ目に遭ってもおかしくない」 (敬称略)

「保守速報」の記事掲載、差別と認定 地裁が賠償命じる(朝日新聞、2017年11月9日)

「まとめただけ」抗弁は通用せず

「保守速報」の記事掲載、差別と認定 地裁が賠償命じる魚拓)
大貫聡子 2017年11月16日19時41分
ネット上の差別的な投稿を集めて掲載され、名誉を傷つけられたとして在日朝鮮人の女性が、まとめサイト「保守速報」を運営する男性に2200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が16日、大阪地裁であった。
森田浩美裁判長は、運営者に名誉毀損(きそん)や差別の目的があったと認定し、200万円の支払いを命じた。

訴えていたのは、大阪府東大阪市在住のフリーライター李信恵(リシネ)さん(46)。
原告の弁護団は、まとめサイト運営者への賠償命令は「我々が知る限りで初めて」と評価した。運営者側は控訴する意向。

判決によると、運営者の男性は2013年7月から約1年間、保守速報に、匿名掲示板「2ちゃんねる」などに書き込まれた李さんを差別や侮蔑する投稿を、編集した上で掲載した。

判決は、李さんへの「頭おかしい」「朝鮮の工作員」といった表現は、社会通念上許される限度を超えた侮辱にあたると認めた。
「日本から叩(たた)き出せ」などの記述は排除をあおり、人種差別にあたると判断。容姿などの揶揄(やゆ)も挙げ「名誉感情や女性としての尊厳を害した程度は甚だしく、複合差別だ」と述べた。

運営者側は「情報の集約に過ぎず違法性はない」と主張していた。しかし判決は、表題の作成や情報量の圧縮で内容を効果的に把握できるようになったと指摘。
「2ちゃんねるとは異なる新たな意味合いを有するに至った」とし、引用元の投稿とは別に、憲法13条が認める人格権を侵害したと結論づけた。

判決後に会見した李さんは「大人も若い世代も見るまとめサイトに差別があふれていてはいけない。被害が認められてほっとしている」と述べた。
「ネットにはフェイクニュースやデマもあふれている。判決が自浄効果をもたらせばいい」とも語った。

ヘイトスピーチに詳しいジャーナリストの安田浩一さんは「ほかのまとめサイトへの抑止力になることを期待したい」と話す。
だが訴訟のハードルは高く「掲示板やSNSの運営者自身が、差別的書き込みを取り締まるなどの取り組みが必要だ」と指摘する。(大貫聡子)
     ◇
〈ネットやSNSに詳しい唐澤貴洋弁護士の話〉 
判決がまとめサイトの法的責任を認めたのは画期的だ。
まとめサイトでは、ネット上の書き込みを一覧できる一方、裏付けのない情報が真実であるかのように拡散しがちだ。
閲覧数を増やそうと差別的書き込みを引用し、扇情的な見出しをつけることも多い。「まとめただけ」という抗弁は通用しない。
運営者は責任ある記事掲載を求められる。
     ◇
〈まとめサイト〉
ネット上のニュースサイトや掲示板、ブログ、SNSに投稿された書き込みなどを、テーマごとに整理し一覧できるよう掲載したサイト。
より多くの閲覧者を集めるため、管理者らが見出しを付け投稿の順番を変えるなど編集していることが多い。

ネットにあふれる「トレンドブログ」 フェイクニュースの温床に(毎日新聞、2017年12月7日)

ネットにあふれる「トレンドブログ」 フェイクニュースの温床に=大村健一(統合デジタル取材センター)(魚拓)
 
9人の遺体が見つかったアパート。事件発覚直後からネット上にフェイクニュースが飛び交っている=神奈川県座間市で10月31日、本社ヘリから

事件や芸能界のスキャンダルなど世間が注目する話題を取り上げる「トレンドブログ」が、事実無根の「フェイクニュース」の温床となっている。神奈川県座間市の9遺体事件で、容疑者の親族が事件に共謀したかのような事実無根のうわさや臆測を投稿し、サイト内の広告で収益を上げるブログが多数ある。その一つの管理人が私の取材にメールのやり取りで応じ、11月20日朝刊「ネットウオッチ」で詳報した。

広告収入「多い月10万円台後半」も
管理人は<副業として始めた。広告収入は多い月に10万円台後半>とし、動機については<収益目的と世間のニュースやその裏を追いたい気持ち>と説明した。しかし、記事が出たあとブログ更新はストップ。まもなく私は管理人からのメールで、その後の経緯を知ることになった。
そもそも私がトレンドブログに興味を持つきっかけは座間市の事件だった。ネット上で容疑者名などで検索すると「容疑者の学歴は?」「家族の関与は?」などの見出しを掲げるブログが多数出てくる。ニュースサイト風で事件以外の話題も載せるが、大半の投稿内容はでたらめで独自取材の形跡はない。人権侵害の恐れが濃厚な投稿も多い。
どうしてこんなブログをやっているのか。過激な見出しを掲げる15のブログを選んで管理人に問い合わせのメールを送り、1人が前述のように証言した。自身を<近畿地方の30代男性>とする管理人は<報じられていない情報をいち早く記事にできた時はうれしい。しかし、他人に『こういうブログをやっている』と胸を張って言えないことは確かです>と後ろめたさを打ち明けた。それでも<収益目的もあるし、何より事件や芸能の裏を追うのは楽しい>としてブログを続けると表明していた。
だが、更新は止まった。その理由をメールで問い合わせると、相手は経緯を書き送ってきた。それによると、私の記事が出た直後に「お前のブログを(広告配信元に)通報した」と匿名の閲覧者から連絡があり、まもなく広告が消え収入が途絶えたという。
管理人は<投稿が違反だとは分かっていた。あのような記事を書くことに誇りはなかったし、非常にリスキーだった。ありがとうとは言えないが、いいきっかけになったので感謝している>などと反省をつづっていた。
しかし、今もネットにはおびただしい数の悪質なトレンドブログがあふれかえり、殺人事件などが起きると「(容疑者の)顔写真が判明」「出身校は?」などネット上であさった根拠に乏しい情報を垂れ流している。

虚偽情報転載で人権侵害を拡大
私の取材に回答を寄せたトレンドブログの管理人たちは、投稿による人権侵害の可能性を指摘すると「ネット上にあった意見をまとめただけなので責任は問われない」と反論した。だが、ネット上の名誉毀損(きそん)問題に詳しい唐沢貴洋弁護士は「(事実無根の情報を)転載したことで新たな読者を獲得し、権利の侵害を拡大しており、法的責任を問われる」と指摘する。

実際、ネット上の差別的な書き込みで名誉を傷つけられたとして在日朝鮮人の女性がサイト運営者に損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は先月、200万円の賠償を命じた。運営者は「他のサイトの投稿を引用し、わかりやすくまとめたもの」と主張していた。

そもそも、容疑者や親族などのプライバシーを探り、糾弾しようとする一部ネット利用者の行動は、常軌を逸している。「関東圏の40代」という別の管理人は「問題提起、真相究明、事件解決を望む正義感の強い人が多いからブログが乱立する」と話す。正義感を「飯の種」にし、ほくそ笑む管理人がいることを私たちは肝に銘じるべきだろう。

唐沢弁護士は「権利侵害が多数報告されたサイトについては、グーグルなどの検索サイトでもひっかかってこないようにするといった対策も必要だ」と話す。

国内9割以上のシェアを占めるグーグルは、詳細を明かさないが「フェイクニュース」対策を進めているとしている。企業の検索エンジン対策を請け負う辻正浩さん(43)は変化を実感している。例えば、数十人の芸能人の名前をそれぞれ検索し、一定期間ごとの結果を調べると、今年に入り、新聞や雑誌など大手メディアの情報が目立つ位置に置かれる傾向が顕著という。だが、芸能人の名前に「本名」と加えて検索すると、目立つ位置に怪しい情報が出てくる。ネット上で探したとみられる卒業アルバムの写真に基づく本名、芸能人の交際相手などに関するうわさ、真偽の不明な「実家の住所」……。

とはいえ、検索結果から悪質なブログを除外するために規制を強めると、良質のブログまで排除される可能性があり、悩ましい。グーグル側もウェブはオープンであるべきだとしている。検閲が許されない以上、ユーザーのモラルやリテラシーに頼るしかない。
ネット上をフェイクニュースが席巻する時代。送り手も受け手も、虚偽情報が瞬時に拡散するリスクを踏まえ、ネットに向き合う必要がある。

ネット中傷後絶たず 人権侵害1900件(日本経済新聞、2018年1月12日)

SNSの怒りを鎮めるには沈黙が一番(UOMO、2019年5月26日)

 

唐澤貴洋さん 弁護士
1978年生まれ。掲示板の誹謗中傷の情報開示請求を行ったころから100万回を超す殺害予告を受け「炎上弁護士」と呼ばれるように

「SNSの怒りを鎮めるには沈黙が一番」
「SNSがこれほどまで普及した現在、炎上は誰にでも起こりうる現象です。炎上の背景の一つにあるのは怒りであり、中でもツイッターは短文投稿の仕様ゆえ内容が切り取られやすく炎上の温床となっています。
 炎上させる側は被害者が知られたくない、会社や家族などの個人情報を拡散しようとします。
 炎上したらまずとるべき行動は燃料となる次のネタを与えないことです。燃料が投下されるとさらに盛り上がり、まとめサイトなどへの転載が始まり、炎上はさらに悪化するからです」

人気スターのファンがSNS投稿でアンチから中傷、その解決法(NEWSポストセブン、2019年6月16日)

人気スターのファンがSNS投稿でアンチから中傷、その解決法[1]

 インターネット上で誹謗中傷を受け、個人情報が拡散される被害が増えている。ネット上で貼られたレッテルは現実社会にまで及び、その悪評がいつまでも消えない事例が多い。これを「デジタルタトゥー」という。被害者の体験談をもとに、解決策を探る。

 人気スターのファンになると心躍ることもある半面、ほかのファンの嫉妬を買い、攻撃されることもある。ここでは、本誌・女性セブン記者A(45才)が体験した“アンチ”からのいわれなき中傷をお伝えする。

◆好きな選手を擁護しただけなのに

 とある人気スポーツの国民的ヒーローである某選手の大ファンである記者Aは、彼に関するSNSの書き込みを見るのが楽しみだった。

「実力、容姿ともに世界トップであるその選手は、人気者ゆえ、好意的な書き込みも多いものの、ライバル選手のファンなど、彼を快く思っていない人も少なからずおり、そうした書き込みを繰り返す人も存在します。たとえば、彼がけがで休めば『仮病』と書き込んだり、動画を組み合わせて、彼が危険行為を冒したとニセ動画を流してみたり。

 あまりにも、悪質なものの多さに、思わずツイッターで『アンチファンはスポーツというものを知らない』とつぶやきました。私はハンドルネームでツイッターをしているから、問題ないと思っていたんです。

 その投稿には『いいね』が何百とつけられ、リツイートも100件近くを超えました。でも、それがアンチの怒りに触れてしまって…」(記者A・以下同)

 ある日、Aが自分の名前をネットで検索してみると、某掲示板がヒットした。のぞいてみると、Aの顔写真は出ていなかったものの、本名が載っており、そこには『中年ブス記者』『こいつ年齢いくつ? 60代以上にしか見えない(実際は45才)』『いかにも更年期、いや、認知症って感じの顔』などの書き込みがあったのだという。

「過去に、自分が書いた記事をツイッターで紹介したことがあったため、その署名記事から本名を割り出したようです。

 さらに、『こいつのFacebookの写真、地味すぎて気持ち悪い』という書き込みを目にしてぞっとしました。

 私のFacebookには、本名と自分の写真を出していたのです。すぐに変更しましたが、一度、自分の悪口を目にすると、気になって仕方がない。それからも頻繁に、自分に対する書き込みがないか、掲示板を見ては、傷つく毎日を送っていました」

◆仕事先にまで嫌がらせの電話が

 いつも一緒に応援しに出かけていた友人に相談すると、彼女も同様な被害に遭っていることがわかった。

「彼女の場合は、好きな選手のライバルが試合でミスをしたのに、採点に反映されなかったことに対して、『何でこれを見逃したのかな~、審判、ちゃんと見てよ~』と、つぶやいたのに対して、『お前が書いたことはウソだから訂正しろ』と、攻撃を受けたのです。

 スポーツを見ている人なら、誤審に抗議するつぶやきをすることはよくあることなのですが、彼女には5000人近いフォロワーがいることもあり、影響力があると思われたのか、アンチファンの人たちに、ライバルを批判したととられてしまったんです」

 その怒りは思いのほか強く、ネット上でのバッシングだけにとどまらず、『あいつをやめさせろ』と会社にまで抗議の電話がかかってきたという。

「怖いのは、家族にまで害が及んでしまうこと。実家が飲食店をやっているので、万が一、『あそこの店の食べ物にはゴキブリが入っていた』などと口コミサイトにウソの書き込みをされようものなら、家族にまで迷惑がかかってしまうと、彼女は困り果てていました。

 そんな書き込みは、見なければいいじゃないか、と周りからは言われますが、私は自分が知らないところで、知らない人に悪口を書き込まれ、名前も顔も知られてしまっている事実が恐ろしくてなりません」

◆【解決法】SNSで被害を公表する

 具体的な実害が発生していない場合は、「無視するのがいちばん」と言うのは、インターネットトラブルに詳しい『グリー』社会貢献チーム・マネージャーの小木曽健さん。

「単なる好みや趣味嗜好の分野なのに自分の意見と異なるからといって、個人攻撃までする人は、正直まともじゃありません。仮に顔写真が拡散しても、第三者がそれに興味を持つことはありませんし、むしろ変な人に絡まれて気の毒にと思うぐらい。容姿批判や荒唐無稽な言いがかりも面白がっているのは当人だけ。第三者からは失笑されるような行為なので、相手にしないのが賢明です。個人情報を公表されても、それを悪用してさらなる嫌がらせをする人間はまれ。もしも実害が発生したら、警察に被害届を出すなどして、法的に償わせればいいのです」(小木曽さん)

 自身もネットトラブルに巻き込まれ、100万回を超す殺害予告を受けたことのある弁護士・唐澤貴洋さん(41才)もこれに同意見だと言う。

「消極的に思えるかもしれませんが、攻撃してくる人間と同じ土俵に乗ってはいけません。彼らは反応をすると、喜んでさらに攻撃してきます。大切なのは、ネタを与えないこと。投稿はしばらく休んで、SNSから遠ざかると、相手もネタがなくなるので、攻撃をしなくなりますよ」(唐澤さん)

 個人情報が流出するのは気持ち悪いが、ほとんどはそれによって実害は生まれない。それでも誹謗中傷がやまない場合は、次のような手段に出るといい。

「自分のSNSのトップページやプロフィール欄に、『今、ネット上で私にまつわる誹謗中傷やねつ造が出回っています。まったくのウソなので、無視してください。関係機関と連携しながら、被害届や訴訟の検討、準備を進めています』と投稿するのです。誹謗中傷している人たちは攻撃している人のSNSも気になりのぞきに来ます。そこで逆に脅しをかけるのです。この方法で嫌がらせが減ったケースはたくさんあります」(小木曽さん・以下同)

◆証拠を押さえておく

 仕事先にまで嫌がらせの電話をかけてくるのは、場合によっては犯罪にもなる。

「警察に相談すれば、被害届が受理されるケースもあります。また、ネット上の書き込みでも実害が伴うようなものは画像とデータで保存し、証拠として残しておきましょう。

 攻撃するすべての人間に対処するのは現実的ではありません。いちばん目立つ、もっとも悪質な攻撃者に見せしめとして罪を償わせることで、周囲の人間にも警告を与え、攻撃をやめさせることができます」

 では、具体的にはどうしたらいいのか。

「まず相手の特定ですが、これは個人にはハードルが高く、ネットでの誹謗中傷は民事案件になることが多いので、警察は動けません。弁護士などに頼った方がスムーズです。

 最初は、無料法律相談も受け付けている『法テラス』に相談するのがおすすめです。どのくらいの費用や手間がかかるかという目安がわかるでしょう。まずは電話かメールで問い合わせましょう」

 実際に相手を特定するには、書き込まれたサイトの管理人、サーバ管理会社、ウェブサービス提供会社に対して発信者の情報開示請求を行うこととなる。この際は書面作成の件数をこなしている弁護士を介した方がスムーズだ。

 そして、発信者を特定するIPアドレスを管理するプロバイダーに対して契約者情報の開示を求める。この場合、裁判所を通じることが多い。

 最終的に、発信者情報開示請求訴訟に勝訴後、契約者情報が開示され、個人の特定に至る。ただし、相手が特定でき、裁判を起こした場合、弁護士費用や裁判手続きだけで数十万円かかる。

「慰謝料は実害に伴い数百万円ということもありますが、せいぜい数十万円とれればいい方。ただ、弁護士が内容証明を作成するだけで1件2万~3万円、相手に投稿を削除させるのにも、弁護士を通せば1件2万円以上はかかります。それ以外の経費を含めると、回収できない可能性が高いですね」(唐澤さん)

 それでも相手に社会的制裁を与えたい場合は、時間とお金と労力がかかることを心しておこう。

※女性セブン2019年6月27日号

(耕論)芸術祭、噴き出た感情 黒瀬陽平さん、宮台真司さん、唐澤貴洋さん(朝日新聞、2019年8月10日)

唐澤貴洋のインタビュー部分のみ記述する
ネット版と紙面でタイトルと配信日時が異なっている、ネット版は『「政治判断優先した」「抗議だけでは」識者語る不自由展』で2019年8月9日

(耕論)芸術祭、噴き出た感情 黒瀬陽平さん、宮台真司さん、唐澤貴洋さん(魚拓)
 
中止の判断 あまりに性急

唐澤 貴洋さん 弁護士
 1978年生まれ。ネット上の権利侵害に詳しい。著書に「炎上弁護士」「そのツイート炎上します!」など。

 今回の展示を巡る問題で事務局などに抗議電話が殺到したのは、有名人らがツイッターなどで扇動したことが大きな影響を与えています。ネット空間と現実の世界が絡み合い、あっという間に騒ぎが広がるのが最近の特徴です。

 例えば朝鮮学校への補助金交付に絡んで、全国の弁護士会に弁護士の懲戒請求が出された事件がありました。交付に反対するブログが懲戒請求のひな形を示し、あおられた人たちが、事の真偽や自らの行為が違法かどうかの判断をせずに動き出しました

 私は7年前、インターネットの掲示板で中傷された少年の弁護を引き受けたことで、自らがネット攻撃の対象とされました。自宅の住所や家族関係がさらされ、数え切れない中傷や殺害予告を受けました。私の名をかたった爆破予告の電話が自治体にかかったり、実家の墓に私の名前がペンキでかかれたりしました。警察が数人を逮捕しましたが、今もネット上には私を中傷する文章が大量にあり事務所を訪れる不審者がいます。

 加害者5人に会ったことがあります。外見は物静かな若者や青年でした。共通しているのは、孤独で自分の言い分を論理的に伝えるのが苦手だという点でした。社会に居場所を見つけられず、ネットのコミュニティーにそれを求めたというのが私の分析です。

 私という「ネタ」をこき下ろす。街を歩いている姿を撮影し、ネットに上げれば仲間から称賛されます。『なぜやったのか』と問うと『すいません』と謝るだけでした。
 ただ、一弁護士である私への個人攻撃と比べると、今回は幅広い人々を動かし、大きな社会的な圧力が生まれました。「慰安婦問題」という「日本人」のナショナリズムを刺激する要素があり、怒りの原動力となったのです。

 河村たかし名古屋市長が「日本人の心を踏みにじる」と堂々と発言し、ナショナリズムを媒介に共感する人たちが少なからずいる。自分たちが騒げばメディアが動き、社会が動く。やっている側は達成感に満たされたことでしょう。しかし慰安婦問題に関し、資料にあたり事実関係をきちんと把握できた人が、どれだけいたかは疑問です。

 実行委員会が展示を中止したのは、あまりにも性急な判断でした。大村秀章・愛知県知事は、ガソリン缶を持ち込むという脅迫があったことを明らかにしました。対応する職員が大変なのは私も経験があり、分かります。しかし警備強化などで毅然たる対応がとれなかったのでしょうか。

 「表現の自由」への確固たる意志よりも、政治的判断を優先させたように思えて残念です。今回の件が、表現の自由を侵害しただけでなく、人々の歴史認識に影響を与えた点で警鐘を鳴らさざるを得ません。 (聞き手・桜井泉)

問われるネット上の所作(中国新聞、2019年10月19日)

 
問われるネット上の所作[2]

 ネット上で殺害予告を100万回以上受けるなどした唐沢貴洋さん=写真=の異名は「炎上弁護士」。深刻な被害の経験や、ネット上で批判が集中する「炎上」の背景や対策を近著につづった。「炎上が日々起きている時代。現代社会に拮抗するほど膨れあがったネット社会の中で、自分がどういう所作をとるのかが、スマホを使う人全員に問われています」
 著書「そのツイート炎上します!」で取り上げたのは、飲食店アルバイトの悪ふざけ動画やアイドルグループのずさんな運営などの「炎上百景」。さらに、炎上がなぜ起こるのかという考察から、起こさないための心構えまで多岐にわたる。
 高校を中退し、2年後に別の高校に入り直すなど曲折を経て弁護士になった。仲の良い弟が不良グループに追い詰められて自死を選んだことから「世の中にある理不尽を法律という武器で退治したい」と考え、志した。
 2012年、ネット掲示板で誹謗中傷された少年を弁護する過程で自身が「標的」に。度重なる殺害予告や事務所の爆破予告で「酒がなければ眠れない夜が数年間続いた」。警察に相談したが、当時はそうしたネット被害に対処する手だては限られ、戦う「技術」は自分で一つ一つ開拓した。
 「感情を刺激する事柄は全て炎上につながる。攻撃する側にとって対象は何でもよく、充足感が得られるなどの悪魔的な魅力もある。けれどそれは断ち切らなければいけない。他人を攻撃するために生まれてきた人はいないはずです」
 激しいバッシングに遭う人を報道で見ると、弁護したくなる。もはや世間の評判や、仮に敗訴して実績に傷がつくことは気にしない。「弟の死や高校中退の経験が、私の原点になっています」

SNS 悩むオカザえもん(朝日新聞、2020年3月23日)

唐澤貴洋のコメント部分のみ記述する
ネット版と紙面でタイトルが異なっている、ネット版は『「人の気持ち考えろ」 オカザえもん、苦悩のSNS発信』

  
過剰な批判「出し手の問題ではない」[3]

 SNS問題に詳しい唐澤貴洋弁護士は「日常的な言動の発信さえも批判され、その反応を見た人に発信者のマイナスイメージの植え付けがなされる。ネットでは、意見が異なる対立的な存在に対して何をしてもいいのだという言論が目立ち、これは時代やその時の空気に合わない表現への過剰な批判にも見られる傾向だ。情報の出し手の問題ではないので臆病になる必要はない」と指摘する。

註釈

唐澤貴洋
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