唐澤貴洋/新聞記事
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本項目では唐澤貴洋に関する新聞記事の内、独立記事が無いものの一覧を記載する。独立記事のあるものも含めた一覧については唐澤貴洋/メディア・資料を参照。
ネットに「殺す」 重い結末 少年、被害者に謝罪・反省(日本経済新聞、2015年4月6日)
詳細は「日本経済新聞#ネットに「殺す」 重い結末 少年、被害者に謝罪・反省(2015年4月6日)」を参照。
憲法のいま 公布70年⑬ 「13条/プライバシー権 21条/表現の自由」(毎日新聞地方版、2016年7月2日)
公布70年/13 13条/プライバシー権 21条/表現の自由 /四国(魚拓) ネットと表現、深刻な被害も インターネットが普及し、誰もが広く発信できるようになった。 市民の表現活動は新たな局面に入ったと言える。一方で、その表現が誰かを深く傷つけたり、膨大な情報を蓄積するネットの特性が、従来はなかった被害を生んだりする事態も。 憲法21条が定める表現の自由や知る権利と、13条の幸福追求権から導かれるプライバシー権、名誉権のバランスをどうとるかが課題になっている。 個人攻撃、殺害予告 「数え切れないほどの人に囲まれているようで、恐ろしくて夜も眠れなかった」。 第一東京弁護士会の唐沢貴洋弁護士は、2012年にネット上で始まった自身への攻撃について振り返る。 ネット上での中傷などに悩む人たちから相談を受け始めて約1年が過ぎた時期だった。 ある掲示板に、依頼者に関する書き込みの削除を求めたことで反発を買い、掲示板が個人攻撃であふれる「炎上」状態に。 殺害予告が連日書き込まれ、事務所の周囲には不審者がたびたび現れた。 表現の自由の乱用 警察が捜査に乗り出し、脅迫容疑などで10人程度が逮捕・書類送検されたという。 以前ほどではないが、攻撃は今も続く。「表現の自由が乱用されている。何らかの歯止めが必要では」と唐沢さんは言う。 言論や表現活動が国家から厳しく弾圧された明治憲法の時代を経て、現行憲法の下、市民は表現の自由を手にした。 しかし、ネット社会での「自由」の行使が、多くの炎上事例を生み、同じ市民の人権を侵害する事態が起きている。 唐沢さんは「ネットは市民同士の戦いの場になっている」と話す。 忘れられる権利 一方、個人のプライバシー権や名誉権を保護するため、新たな権利の概念が近年注目されている。 ネット上に残り続ける個人情報の削除を求める「忘れられる権利」だ。 本や新聞などの情報は時間の経過とともに人目に触れにくくなるが、ネットの場合は過去の情報にも容易にアクセスできることが背景にある。 例えば、犯罪や不祥事への関与などで一度悪評が付くと、グーグル、ヤフーといった検索エンジンで名前や関連する言葉を打ち込むことで簡単に情報が引き出される。 14年10月、忘れられる権利を日本で初めて認めたとされる東京地裁の仮処分決定は、原告の男性が反社会的集団に所属した過去を記したページの一部を、グーグルの検索結果から削除することを命じた。 「ネットの記載が、社会生活を営む上で悪影響を及ぼしている」という男性側の主張が認められた。 いびつな現状 ただ、検索結果に手を加える動きには、表現の自由と知る権利を保障する観点から慎重な意見もある。 国際大学GLOCOMの山口真一講師は「検索エンジンは公共性が高く、できるだけ中立を保つべきだ。削除は権力者に悪用される恐れもある」と指摘する。 山口さんの共著書「ネット炎上の研究」では、炎上を恐れてネットでの表現を控える人が相当数いる半面、掲示板に関連のコメントを投稿するなど炎上に「参加」した経験があるのは利用者全体の1%程度にとどまることを約2万人へのアンケート調査から示した。 さらにその中でも、相手を直接的に攻撃するような書き込みをする人はごく一部という。 少数が表現の自由を最大限使って極端な行動をとることで、周囲を萎縮させたり、規制論を呼び起こしたりして、多数の自由を損ねる、といういびつな現状があると分析する。 安易に炎上に加担しないよう、学校教育などを通じて市民のネットリテラシー(ネットを適切に使うための知識や能力)を高める必要性を力説する山口さん。 「多くの人が萎縮すると、ネットに出てくる意見は多様性が失われ、先鋭化したものばかりになってしまう」と懸念する。 書き込み削除、議論を 宍戸常寿・東大教授 民主主義社会では表現の自由の下、原則として自由に意見や情報を発信し、互いにそれをぶつけ合うプロセスが重要だ。 インターネット上でも同様だと思う。 ただ、ネットでは一度発信したものがいつまでも残る。検索エンジンの存在もあり、知りたい情報を簡単に引き出せる一方、知られたくない情報を削除するのは困難だ。 そうしたネットの特徴を踏まえ、表現の自由や知る権利との兼ね合いを社会全体で考える時期にきている。 例えばマスメディアは実名報道の重要性を強調してきたが、報じた内容が拡散され残り続ける中、果たして微罪事件であっても容疑者の実名を報じるべきだと言えるのか。改めて検討しなければならないだろう。 ネットの世界が現実世界から独立して存在するわけではない。 ネット上の書き込みや転載であれ、それ以外の場での表現であれ、権利侵害があれば同じように対処をすべきだ。 現状の「忘れられる権利」は、検索エンジンの事業者に検索結果を削除させる権利のように見なされている。 しかし、もともとのサイトの表現自体を、削除しやすくする仕組みをつくる方が大切ではないか。 表現の自由や知る権利の尊重を前提としながら、議論を深める必要があるだろう。
ネット中傷 弁護士が山梨学院大で講義(山梨日日新聞、2016年12月1日)
詳細は「山梨日日新聞」を参照。
私見卓見「ネットの中傷 責任追及の仕組みを」(日本経済新聞、2017年6月27日)
詳細は「日本経済新聞#私見卓見「ネットの中傷 責任追及の仕組みを」(2017年6月27日)」を参照。
なくならないツイッターのなりすまし投稿 小林麻央さん訃報でも悪意の拡散(産経新聞、2017年7月15日)
詳細は「三宅令#なくならないツイッターのなりすまし投稿 小林麻央さん訃報でも悪意の拡散(2017年7月15日)」を参照。
【ZOOM】ツイッター「なりすまし」ご用心 嘘の情報、拡散の危険性(産経新聞、2017年7月25日)
詳細は「三宅令#【ZOOM】ツイッター「なりすまし」ご用心 嘘の情報、拡散の危険性(2017年7月25日)」を参照。
「ひと」(朝日新聞、2017年8月4日)
ネットの闇に立ち向かう弁護士 自分自身も「標的」に… ■ひと 唐澤貴洋さん(39) 弁護士の唐澤貴洋さん=早坂元興撮影 5年前。ネット掲示板で中傷された男性の依頼を受けて書き込みの削除を求めると、思いがけず自分自身が「標的」になった。 ネットでの中傷のほか、事務所ビルへの不法侵入や盗撮なども相次いだ。殺害予告の書き込みや名前をかたった爆破予告までされて警察に相談。 10人以上が脅迫容疑などで逮捕・書類送検されたが、会ったこともない少年や男性ばかり。 「私への嫌がらせは、彼らがネット空間のコミュニケーションで消費するネタに過ぎなかった」 匿名性の高いネット空間はデマや中傷が横行している。 仲間と作った東京・虎ノ門の法律事務所で被害者の相談にのる。現行の法制度は労力と費用がかかり、泣き寝入りも多い。 「誰が書き込んだのかを、容易かつ確実に後から特定できる仕組みをつくるべきだ」 17歳の時、1歳下の弟が自ら命を絶った。渋谷の非行グループからパーティー券を売りつけるよう迫られたが、できずに暴行された直後の悲劇だった。 「本当の悪い人間と闘うには武器が必要」と法曹の道を志した。 悪意に満ちた攻撃は今も続く。 6月にフリーアナウンサーの小林麻央さんが亡くなった際も、虚偽のツイッター投稿で名前を使われ、問い合わせや批判が法律事務所に殺到した。 「弟の苦しみに比べればたいしたことはない。何があろうと逃げないで闘う」
少年と罪 第4部「ネットの魔力」(中日新聞)
⑤劣勢「驚く研究力捜査後手」(2017年11月8日)
カランサムウェアがイメージ画像として登場
⑥私刑「匿名の攻撃 実害次々」(2017年11月9日)
事務所の玄関に「死ね」と落書きされた時の画像をパソコンで示しながら、殺害予告の経験を語る唐沢=東京都港区で 目の前に座っているのは、自分を「殺す」と宣言した十九歳の少年だった。 二年前の春、東京都港区の法律事務所。弁護士唐沢貴洋(三九)の前で、関東地方の男子浪人生がうな垂れていた。インターネットの掲示板に、唐沢を「ナイフでメッタ刺しにする」と書き込んだ。警視庁のサイバーパトロールで見つかり、自宅近くの警察署へ出頭。その後、両親と謝罪に来た。 「投稿している時は嫌なことを忘れられた。過激な内容を書くと、周りが反応するから」。動機は、受験の失敗などによるストレスの発散だった。 唐沢は弁護士として、ネット上の名誉毀損や不正アクセス問題に取り組む。巨大掲示板の旧「2ちゃんねる」を巡る弁護活動を契機に、ネット空間で「標的」になった。依頼人の高校生への悪質な書き込みの削除を掲示板で要請したら、自分への中傷が始まったのだ。 「僕は『遊び場を荒らす人物』と見做されたのだろう」。まもなく「殺す」と書き込まれた。この投稿を境に、脅迫や嫌がらせはネットの中から外へも広がり、現実の生活が危険にさらされるようになった。 唐沢の事務所が入居するビルに掲示板の利用者が不法侵入して、その動画を公開。実家の住所を晒されて、近くにある祖父の墓はスプレーで落書きされ、やはり画像が公開された。事務所や裁判所の周辺には不審な若者が潜むようになった。唐沢の盗撮が目的だ。 「一線越えたやろ」「もうちょっと面白い嫌がらせしろよ」。ネット空間が“炎上”するたびに、匿名の攻撃は過激化していった。 殺害予告は手口や日時を記すなど具体化した。なりすましも横行、北海道から沖縄までの学校や役所に唐沢を名乗る爆破予告メールが相次ぎ、警備強化や休校が続いた。事務所の表札に「死ね」と落書きした男子高校生は、駆け付けた唐沢を見ても薄ら笑いを浮かべただけだった。 もちろん、犯罪だ。唐沢によると、これまでに十数人が威力業務妨害や脅迫の容疑で立件された。半数近くは未成年で、殺害予告で書類送検された大分県の男子高校生=当時(16)=は「目立つと思ったから」と供述した。 「僕は彼らの“ネタ”にされているだけ」と唐沢。盗撮を避けるために通勤ルートを頻繁に変え、買い物や外食は控える。気が休まるのは事務所の一室だけ。その事務所も嫌がらせへの防犯対策などで2回の移転を強いられた。 唐沢は、投稿者を簡単に特定できるようにするなど、悪質な書き込みへの法整備が必要と訴える。そして、何より大切なのは学校教育。相手の痛みを感じ取りにくいネット空間の怖さと、すぐに標的が変わる流動性を教えてほしいと願う。 唐沢を揶揄するサイトには、殺害予告をした少年らの顔写真も“仲間”によって晒されている。まるで、騒ぐ理由を求めているだけに見える。唐沢は自分と重ねて、言う。「加害者と被害者は紙一重。誰がいつ僕と同じ目に遭ってもおかしくない」 (敬称略)
「保守速報」の記事掲載、差別と認定 地裁が賠償命じる(朝日新聞、2017年11月9日)
「保守速報」の記事掲載、差別と認定 地裁が賠償命じる(魚拓) 大貫聡子 2017年11月16日19時41分 ネット上の差別的な投稿を集めて掲載され、名誉を傷つけられたとして在日朝鮮人の女性が、まとめサイト「保守速報」を運営する男性に2200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が16日、大阪地裁であった。 森田浩美裁判長は、運営者に名誉毀損(きそん)や差別の目的があったと認定し、200万円の支払いを命じた。 訴えていたのは、大阪府東大阪市在住のフリーライター李信恵(リシネ)さん(46)。 原告の弁護団は、まとめサイト運営者への賠償命令は「我々が知る限りで初めて」と評価した。運営者側は控訴する意向。 判決によると、運営者の男性は2013年7月から約1年間、保守速報に、匿名掲示板「2ちゃんねる」などに書き込まれた李さんを差別や侮蔑する投稿を、編集した上で掲載した。 判決は、李さんへの「頭おかしい」「朝鮮の工作員」といった表現は、社会通念上許される限度を超えた侮辱にあたると認めた。 「日本から叩(たた)き出せ」などの記述は排除をあおり、人種差別にあたると判断。容姿などの揶揄(やゆ)も挙げ「名誉感情や女性としての尊厳を害した程度は甚だしく、複合差別だ」と述べた。 運営者側は「情報の集約に過ぎず違法性はない」と主張していた。しかし判決は、表題の作成や情報量の圧縮で内容を効果的に把握できるようになったと指摘。 「2ちゃんねるとは異なる新たな意味合いを有するに至った」とし、引用元の投稿とは別に、憲法13条が認める人格権を侵害したと結論づけた。 判決後に会見した李さんは「大人も若い世代も見るまとめサイトに差別があふれていてはいけない。被害が認められてほっとしている」と述べた。 「ネットにはフェイクニュースやデマもあふれている。判決が自浄効果をもたらせばいい」とも語った。 ヘイトスピーチに詳しいジャーナリストの安田浩一さんは「ほかのまとめサイトへの抑止力になることを期待したい」と話す。 だが訴訟のハードルは高く「掲示板やSNSの運営者自身が、差別的書き込みを取り締まるなどの取り組みが必要だ」と指摘する。(大貫聡子) ◇ 〈ネットやSNSに詳しい唐澤貴洋弁護士の話〉 判決がまとめサイトの法的責任を認めたのは画期的だ。 まとめサイトでは、ネット上の書き込みを一覧できる一方、裏付けのない情報が真実であるかのように拡散しがちだ。 閲覧数を増やそうと差別的書き込みを引用し、扇情的な見出しをつけることも多い。「まとめただけ」という抗弁は通用しない。 運営者は責任ある記事掲載を求められる。 ◇ 〈まとめサイト〉 ネット上のニュースサイトや掲示板、ブログ、SNSに投稿された書き込みなどを、テーマごとに整理し一覧できるよう掲載したサイト。 より多くの閲覧者を集めるため、管理者らが見出しを付け投稿の順番を変えるなど編集していることが多い。
ネットにあふれる「トレンドブログ」 フェイクニュースの温床に(毎日新聞、2017年12月7日)
ネットにあふれる「トレンドブログ」 フェイクニュースの温床に=大村健一(統合デジタル取材センター)(魚拓) 9人の遺体が見つかったアパート。事件発覚直後からネット上にフェイクニュースが飛び交っている=神奈川県座間市で10月31日、本社ヘリから 事件や芸能界のスキャンダルなど世間が注目する話題を取り上げる「トレンドブログ」が、事実無根の「フェイクニュース」の温床となっている。神奈川県座間市の9遺体事件で、容疑者の親族が事件に共謀したかのような事実無根のうわさや臆測を投稿し、サイト内の広告で収益を上げるブログが多数ある。その一つの管理人が私の取材にメールのやり取りで応じ、11月20日朝刊「ネットウオッチ」で詳報した。 広告収入「多い月10万円台後半」も 管理人は<副業として始めた。広告収入は多い月に10万円台後半>とし、動機については<収益目的と世間のニュースやその裏を追いたい気持ち>と説明した。しかし、記事が出たあとブログ更新はストップ。まもなく私は管理人からのメールで、その後の経緯を知ることになった。 そもそも私がトレンドブログに興味を持つきっかけは座間市の事件だった。ネット上で容疑者名などで検索すると「容疑者の学歴は?」「家族の関与は?」などの見出しを掲げるブログが多数出てくる。ニュースサイト風で事件以外の話題も載せるが、大半の投稿内容はでたらめで独自取材の形跡はない。人権侵害の恐れが濃厚な投稿も多い。 どうしてこんなブログをやっているのか。過激な見出しを掲げる15のブログを選んで管理人に問い合わせのメールを送り、1人が前述のように証言した。自身を<近畿地方の30代男性>とする管理人は<報じられていない情報をいち早く記事にできた時はうれしい。しかし、他人に『こういうブログをやっている』と胸を張って言えないことは確かです>と後ろめたさを打ち明けた。それでも<収益目的もあるし、何より事件や芸能の裏を追うのは楽しい>としてブログを続けると表明していた。 だが、更新は止まった。その理由をメールで問い合わせると、相手は経緯を書き送ってきた。それによると、私の記事が出た直後に「お前のブログを(広告配信元に)通報した」と匿名の閲覧者から連絡があり、まもなく広告が消え収入が途絶えたという。 管理人は<投稿が違反だとは分かっていた。あのような記事を書くことに誇りはなかったし、非常にリスキーだった。ありがとうとは言えないが、いいきっかけになったので感謝している>などと反省をつづっていた。 しかし、今もネットにはおびただしい数の悪質なトレンドブログがあふれかえり、殺人事件などが起きると「(容疑者の)顔写真が判明」「出身校は?」などネット上であさった根拠に乏しい情報を垂れ流している。 虚偽情報転載で人権侵害を拡大 私の取材に回答を寄せたトレンドブログの管理人たちは、投稿による人権侵害の可能性を指摘すると「ネット上にあった意見をまとめただけなので責任は問われない」と反論した。だが、ネット上の名誉毀損(きそん)問題に詳しい唐沢貴洋弁護士は「(事実無根の情報を)転載したことで新たな読者を獲得し、権利の侵害を拡大しており、法的責任を問われる」と指摘する。 実際、ネット上の差別的な書き込みで名誉を傷つけられたとして在日朝鮮人の女性がサイト運営者に損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は先月、200万円の賠償を命じた。運営者は「他のサイトの投稿を引用し、わかりやすくまとめたもの」と主張していた。 そもそも、容疑者や親族などのプライバシーを探り、糾弾しようとする一部ネット利用者の行動は、常軌を逸している。「関東圏の40代」という別の管理人は「問題提起、真相究明、事件解決を望む正義感の強い人が多いからブログが乱立する」と話す。正義感を「飯の種」にし、ほくそ笑む管理人がいることを私たちは肝に銘じるべきだろう。 唐沢弁護士は「権利侵害が多数報告されたサイトについては、グーグルなどの検索サイトでもひっかかってこないようにするといった対策も必要だ」と話す。 国内9割以上のシェアを占めるグーグルは、詳細を明かさないが「フェイクニュース」対策を進めているとしている。企業の検索エンジン対策を請け負う辻正浩さん(43)は変化を実感している。例えば、数十人の芸能人の名前をそれぞれ検索し、一定期間ごとの結果を調べると、今年に入り、新聞や雑誌など大手メディアの情報が目立つ位置に置かれる傾向が顕著という。だが、芸能人の名前に「本名」と加えて検索すると、目立つ位置に怪しい情報が出てくる。ネット上で探したとみられる卒業アルバムの写真に基づく本名、芸能人の交際相手などに関するうわさ、真偽の不明な「実家の住所」……。 とはいえ、検索結果から悪質なブログを除外するために規制を強めると、良質のブログまで排除される可能性があり、悩ましい。グーグル側もウェブはオープンであるべきだとしている。検閲が許されない以上、ユーザーのモラルやリテラシーに頼るしかない。 ネット上をフェイクニュースが席巻する時代。送り手も受け手も、虚偽情報が瞬時に拡散するリスクを踏まえ、ネットに向き合う必要がある。
ネット中傷後絶たず 人権侵害1900件(日本経済新聞、2018年1月12日)
詳細は「日本経済新聞#ネット中傷後絶たず 人権侵害1900件(2018年1月12日)」を参照。
SNSの怒りを鎮めるには沈黙が一番(UOMO、2019年5月26日)
唐澤貴洋さん 弁護士 1978年生まれ。掲示板の誹謗中傷の情報開示請求を行ったころから100万回を超す殺害予告を受け「炎上弁護士」と呼ばれるように 「SNSの怒りを鎮めるには沈黙が一番」 「SNSがこれほどまで普及した現在、炎上は誰にでも起こりうる現象です。炎上の背景の一つにあるのは怒りであり、中でもツイッターは短文投稿の仕様ゆえ内容が切り取られやすく炎上の温床となっています。 炎上させる側は被害者が知られたくない、会社や家族などの個人情報を拡散しようとします。 炎上したらまずとるべき行動は燃料となる次のネタを与えないことです。燃料が投下されるとさらに盛り上がり、まとめサイトなどへの転載が始まり、炎上はさらに悪化するからです」
掲示板で実名あげて中傷、誰が? 悩んだ末の親子の決断(朝日新聞、2019年6月5日)
唐澤貴洋のコメント部分のみ記述する
ファイル:2019年6月5日朝日.jpg ネットで攻撃を受けても、下を向かないで[1][2] 大人がもっとかかわるべきだ、という人もいる。東京の弁護士の唐澤貴洋さん(41)は7年前、ネット掲示板で中傷された男性の依頼を受けたことをきっかけに、自らも標的となった。自宅住所などがさらされ、事務所の盗撮被害にも遭った。弁護士であるから対応できたが、子どもが一人で受け止めることは、簡単ではない。「恥ずかしがらず、まず身近な大人に相談してほしい」と語る。
人気スターのファンがSNS投稿でアンチから中傷、その解決法(NEWSポストセブン、2019年6月16日)
人気スターのファンがSNS投稿でアンチから中傷、その解決法[3] インターネット上で誹謗中傷を受け、個人情報が拡散される被害が増えている。ネット上で貼られたレッテルは現実社会にまで及び、その悪評がいつまでも消えない事例が多い。これを「デジタルタトゥー」という。被害者の体験談をもとに、解決策を探る。 人気スターのファンになると心躍ることもある半面、ほかのファンの嫉妬を買い、攻撃されることもある。ここでは、本誌・女性セブン記者A(45才)が体験した“アンチ”からのいわれなき中傷をお伝えする。 ◆好きな選手を擁護しただけなのに とある人気スポーツの国民的ヒーローである某選手の大ファンである記者Aは、彼に関するSNSの書き込みを見るのが楽しみだった。 「実力、容姿ともに世界トップであるその選手は、人気者ゆえ、好意的な書き込みも多いものの、ライバル選手のファンなど、彼を快く思っていない人も少なからずおり、そうした書き込みを繰り返す人も存在します。たとえば、彼がけがで休めば『仮病』と書き込んだり、動画を組み合わせて、彼が危険行為を冒したとニセ動画を流してみたり。 あまりにも、悪質なものの多さに、思わずツイッターで『アンチファンはスポーツというものを知らない』とつぶやきました。私はハンドルネームでツイッターをしているから、問題ないと思っていたんです。 その投稿には『いいね』が何百とつけられ、リツイートも100件近くを超えました。でも、それがアンチの怒りに触れてしまって…」(記者A・以下同) ある日、Aが自分の名前をネットで検索してみると、某掲示板がヒットした。のぞいてみると、Aの顔写真は出ていなかったものの、本名が載っており、そこには『中年ブス記者』『こいつ年齢いくつ? 60代以上にしか見えない(実際は45才)』『いかにも更年期、いや、認知症って感じの顔』などの書き込みがあったのだという。 「過去に、自分が書いた記事をツイッターで紹介したことがあったため、その署名記事から本名を割り出したようです。 さらに、『こいつのFacebookの写真、地味すぎて気持ち悪い』という書き込みを目にしてぞっとしました。 私のFacebookには、本名と自分の写真を出していたのです。すぐに変更しましたが、一度、自分の悪口を目にすると、気になって仕方がない。それからも頻繁に、自分に対する書き込みがないか、掲示板を見ては、傷つく毎日を送っていました」 ◆仕事先にまで嫌がらせの電話が いつも一緒に応援しに出かけていた友人に相談すると、彼女も同様な被害に遭っていることがわかった。 「彼女の場合は、好きな選手のライバルが試合でミスをしたのに、採点に反映されなかったことに対して、『何でこれを見逃したのかな~、審判、ちゃんと見てよ~』と、つぶやいたのに対して、『お前が書いたことはウソだから訂正しろ』と、攻撃を受けたのです。 スポーツを見ている人なら、誤審に抗議するつぶやきをすることはよくあることなのですが、彼女には5000人近いフォロワーがいることもあり、影響力があると思われたのか、アンチファンの人たちに、ライバルを批判したととられてしまったんです」 その怒りは思いのほか強く、ネット上でのバッシングだけにとどまらず、『あいつをやめさせろ』と会社にまで抗議の電話がかかってきたという。 「怖いのは、家族にまで害が及んでしまうこと。実家が飲食店をやっているので、万が一、『あそこの店の食べ物にはゴキブリが入っていた』などと口コミサイトにウソの書き込みをされようものなら、家族にまで迷惑がかかってしまうと、彼女は困り果てていました。 そんな書き込みは、見なければいいじゃないか、と周りからは言われますが、私は自分が知らないところで、知らない人に悪口を書き込まれ、名前も顔も知られてしまっている事実が恐ろしくてなりません」 ◆【解決法】SNSで被害を公表する 具体的な実害が発生していない場合は、「無視するのがいちばん」と言うのは、インターネットトラブルに詳しい『グリー』社会貢献チーム・マネージャーの小木曽健さん。 「単なる好みや趣味嗜好の分野なのに自分の意見と異なるからといって、個人攻撃までする人は、正直まともじゃありません。仮に顔写真が拡散しても、第三者がそれに興味を持つことはありませんし、むしろ変な人に絡まれて気の毒にと思うぐらい。容姿批判や荒唐無稽な言いがかりも面白がっているのは当人だけ。第三者からは失笑されるような行為なので、相手にしないのが賢明です。個人情報を公表されても、それを悪用してさらなる嫌がらせをする人間はまれ。もしも実害が発生したら、警察に被害届を出すなどして、法的に償わせればいいのです」(小木曽さん) 自身もネットトラブルに巻き込まれ、100万回を超す殺害予告を受けたことのある弁護士・唐澤貴洋さん(41才)もこれに同意見だと言う。 「消極的に思えるかもしれませんが、攻撃してくる人間と同じ土俵に乗ってはいけません。彼らは反応をすると、喜んでさらに攻撃してきます。大切なのは、ネタを与えないこと。投稿はしばらく休んで、SNSから遠ざかると、相手もネタがなくなるので、攻撃をしなくなりますよ」(唐澤さん) 個人情報が流出するのは気持ち悪いが、ほとんどはそれによって実害は生まれない。それでも誹謗中傷がやまない場合は、次のような手段に出るといい。 「自分のSNSのトップページやプロフィール欄に、『今、ネット上で私にまつわる誹謗中傷やねつ造が出回っています。まったくのウソなので、無視してください。関係機関と連携しながら、被害届や訴訟の検討、準備を進めています』と投稿するのです。誹謗中傷している人たちは攻撃している人のSNSも気になりのぞきに来ます。そこで逆に脅しをかけるのです。この方法で嫌がらせが減ったケースはたくさんあります」(小木曽さん・以下同) ◆証拠を押さえておく 仕事先にまで嫌がらせの電話をかけてくるのは、場合によっては犯罪にもなる。 「警察に相談すれば、被害届が受理されるケースもあります。また、ネット上の書き込みでも実害が伴うようなものは画像とデータで保存し、証拠として残しておきましょう。 攻撃するすべての人間に対処するのは現実的ではありません。いちばん目立つ、もっとも悪質な攻撃者に見せしめとして罪を償わせることで、周囲の人間にも警告を与え、攻撃をやめさせることができます」 では、具体的にはどうしたらいいのか。 「まず相手の特定ですが、これは個人にはハードルが高く、ネットでの誹謗中傷は民事案件になることが多いので、警察は動けません。弁護士などに頼った方がスムーズです。 最初は、無料法律相談も受け付けている『法テラス』に相談するのがおすすめです。どのくらいの費用や手間がかかるかという目安がわかるでしょう。まずは電話かメールで問い合わせましょう」 実際に相手を特定するには、書き込まれたサイトの管理人、サーバ管理会社、ウェブサービス提供会社に対して発信者の情報開示請求を行うこととなる。この際は書面作成の件数をこなしている弁護士を介した方がスムーズだ。 そして、発信者を特定するIPアドレスを管理するプロバイダーに対して契約者情報の開示を求める。この場合、裁判所を通じることが多い。 最終的に、発信者情報開示請求訴訟に勝訴後、契約者情報が開示され、個人の特定に至る。ただし、相手が特定でき、裁判を起こした場合、弁護士費用や裁判手続きだけで数十万円かかる。 「慰謝料は実害に伴い数百万円ということもありますが、せいぜい数十万円とれればいい方。ただ、弁護士が内容証明を作成するだけで1件2万~3万円、相手に投稿を削除させるのにも、弁護士を通せば1件2万円以上はかかります。それ以外の経費を含めると、回収できない可能性が高いですね」(唐澤さん) それでも相手に社会的制裁を与えたい場合は、時間とお金と労力がかかることを心しておこう。 ※女性セブン2019年6月27日号
(耕論)芸術祭、噴き出た感情 黒瀬陽平さん、宮台真司さん、唐澤貴洋さん(朝日新聞、2019年8月10日)
唐澤貴洋のインタビュー部分のみ記述する
ネット版と紙面でタイトルと配信日時が異なっている、ネット版は『「政治判断優先した」「抗議だけでは」識者語る不自由展』で2019年8月9日
(耕論)芸術祭、噴き出た感情 黒瀬陽平さん、宮台真司さん、唐澤貴洋さん(魚拓) 中止の判断 あまりに性急 唐澤 貴洋さん 弁護士 1978年生まれ。ネット上の権利侵害に詳しい。著書に「炎上弁護士」「そのツイート炎上します!」など。 今回の展示を巡る問題で事務局などに抗議電話が殺到したのは、有名人らがツイッターなどで扇動したことが大きな影響を与えています。ネット空間と現実の世界が絡み合い、あっという間に騒ぎが広がるのが最近の特徴です。 例えば朝鮮学校への補助金交付に絡んで、全国の弁護士会に弁護士の懲戒請求が出された事件がありました。交付に反対するブログが懲戒請求のひな形を示し、あおられた人たちが、事の真偽や自らの行為が違法かどうかの判断をせずに動き出しました 私は7年前、インターネットの掲示板で中傷された少年の弁護を引き受けたことで、自らがネット攻撃の対象とされました。自宅の住所や家族関係がさらされ、数え切れない中傷や殺害予告を受けました。私の名をかたった爆破予告の電話が自治体にかかったり、実家の墓に私の名前がペンキでかかれたりしました。警察が数人を逮捕しましたが、今もネット上には私を中傷する文章が大量にあり事務所を訪れる不審者がいます。 加害者5人に会ったことがあります。外見は物静かな若者や青年でした。共通しているのは、孤独で自分の言い分を論理的に伝えるのが苦手だという点でした。社会に居場所を見つけられず、ネットのコミュニティーにそれを求めたというのが私の分析です。 私という「ネタ」をこき下ろす。街を歩いている姿を撮影し、ネットに上げれば仲間から称賛されます。『なぜやったのか』と問うと『すいません』と謝るだけでした。 ただ、一弁護士である私への個人攻撃と比べると、今回は幅広い人々を動かし、大きな社会的な圧力が生まれました。「慰安婦問題」という「日本人」のナショナリズムを刺激する要素があり、怒りの原動力となったのです。 河村たかし名古屋市長が「日本人の心を踏みにじる」と堂々と発言し、ナショナリズムを媒介に共感する人たちが少なからずいる。自分たちが騒げばメディアが動き、社会が動く。やっている側は達成感に満たされたことでしょう。しかし慰安婦問題に関し、資料にあたり事実関係をきちんと把握できた人が、どれだけいたかは疑問です。 実行委員会が展示を中止したのは、あまりにも性急な判断でした。大村秀章・愛知県知事は、ガソリン缶を持ち込むという脅迫があったことを明らかにしました。対応する職員が大変なのは私も経験があり、分かります。しかし警備強化などで毅然たる対応がとれなかったのでしょうか。 「表現の自由」への確固たる意志よりも、政治的判断を優先させたように思えて残念です。今回の件が、表現の自由を侵害しただけでなく、人々の歴史認識に影響を与えた点で警鐘を鳴らさざるを得ません。 (聞き手・桜井泉)
問われるネット上の所作(中国新聞、2019年10月19日)
問われるネット上の所作[4] ネット上で殺害予告を100万回以上受けるなどした唐沢貴洋さん=写真=の異名は「炎上弁護士」。深刻な被害の経験や、ネット上で批判が集中する「炎上」の背景や対策を近著につづった。「炎上が日々起きている時代。現代社会に拮抗するほど膨れあがったネット社会の中で、自分がどういう所作をとるのかが、スマホを使う人全員に問われています」 著書「そのツイート炎上します!」で取り上げたのは、飲食店アルバイトの悪ふざけ動画やアイドルグループのずさんな運営などの「炎上百景」。さらに、炎上がなぜ起こるのかという考察から、起こさないための心構えまで多岐にわたる。 高校を中退し、2年後に別の高校に入り直すなど曲折を経て弁護士になった。仲の良い弟が不良グループに追い詰められて自死を選んだことから「世の中にある理不尽を法律という武器で退治したい」と考え、志した。 2012年、ネット掲示板で誹謗中傷された少年を弁護する過程で自身が「標的」に。度重なる殺害予告や事務所の爆破予告で「酒がなければ眠れない夜が数年間続いた」。警察に相談したが、当時はそうしたネット被害に対処する手だては限られ、戦う「技術」は自分で一つ一つ開拓した。 「感情を刺激する事柄は全て炎上につながる。攻撃する側にとって対象は何でもよく、充足感が得られるなどの悪魔的な魅力もある。けれどそれは断ち切らなければいけない。他人を攻撃するために生まれてきた人はいないはずです」 激しいバッシングに遭う人を報道で見ると、弁護したくなる。もはや世間の評判や、仮に敗訴して実績に傷がつくことは気にしない。「弟の死や高校中退の経験が、私の原点になっています」
ネット発信、「○○に行く」が危険 Hagexさん事件(朝日新聞、2019年11月22日)
唐澤貴洋のコメント部分のみ記述する
ファイル:2019年11月22日朝日.jpg ネットは人の「素」が出やすい[5][6] 発信する側はどんな点に注意すればよいのか。ネット上の権利侵害に詳しい唐澤貴洋弁護士は「情報の受け手が自分と同じような感性や考え方とは限らない。自分にとっては何でもないことでも傷ついたり、いらだったりする人がいる可能性を理解した上で、発信することが必要だ」と話す。 匿名で投稿しても、別の書き込みや写真などから個人が特定されることもあり得る。「ネット上の発信には常に一定のリスクがあると知っておくべきだ」 今回の事件の被告にとって、ネット空間が「唯一の居場所」だったとみる。「被害者の通報によって居場所を奪われ、強烈に自己否定されたと感じたのだろう。相手を攻撃することで自己を肯定しようとするのは、ネット上でよくみられる精神構造」と分析した。 現実の社会で攻撃的な言動をとれば、刑事事件になったり、福祉行政につながったりする可能性がある。だがネット上では、アカウントが削除されるなど、存在が消されるだけだ。今回の被告のように、新たなアカウントを作っては凍結されることを繰り返すケースも多い。 「現実世界で破壊行動に出る人は、今後も出てくるだろう。ネット上で切り捨てておしまいではなく、現実の福祉的ケアにつなげる仕組みをつくるなど、社会が対応を考えていく時期にきている」と指摘する。
SNS 悩むオカザえもん(朝日新聞、2020年3月23日)
唐澤貴洋のコメント部分のみ記述する
ネット版と紙面でタイトルが異なっている、ネット版は『「人の気持ち考えろ」 オカザえもん、苦悩のSNS発信』
過剰な批判「出し手の問題ではない」[7] SNS問題に詳しい唐澤貴洋弁護士は「日常的な言動の発信さえも批判され、その反応を見た人に発信者のマイナスイメージの植え付けがなされる。ネットでは、意見が異なる対立的な存在に対して何をしてもいいのだという言論が目立ち、これは時代やその時の空気に合わない表現への過剰な批判にも見られる傾向だ。情報の出し手の問題ではないので臆病になる必要はない」と指摘する。
Hana Kimura death spurs new law to regulate cyberbullying in Japan(The Washington Post、2020年5月26日)[8]
唐澤貴洋と清水陽平のコメント部分のみ記述する
Lawyer Takahiro Karasawa said victims have to go through the courts to identify abusers, which can take six months to a year and is costly in terms of legal fees. Service providers are not required to keep communications logs and often claim not to have records. Even if senders are identified, police are reluctant to investigate cases, and damages, if awarded, are usually low and may not even cover legal costs, he said. It is even more difficult for police to investigate cases involving overseas platforms such as Twitter, said Yohei Shimizu of law firm Alcien.
訳
弁護士の唐澤貴洋氏は、被害者が悪用者を特定するためには裁判所を通さなければならず、半年から1年かかることもあり、弁護士費用も高額になるという。サービス提供者は通信記録を残す必要がなく、記録がないと主張することが多い。 送信者が特定されたとしても、警察は事件の捜査に消極的で、損害賠償金が認められたとしても、通常は低額で、訴訟費用をカバーできないこともある、と同氏は述べています。 警察がツイッターなど海外のプラットフォームを使った事件を捜査するのはさらに難しいと、法律事務所アルシエンの清水陽平氏は言う。
余談だが、尊師がtwitterで触れた唯一の記事である。
ネット中傷 闘った苦心(朝日新聞、2020年6月6日)
唐澤貴洋のコメント部分のみ記述する
「権利侵害を放置」[9] 「現状では中傷される側の権利侵害が実質放置されている。発信者の開示請求に対する判断が早くでるような、仕組みにするべきだ」 こう話すのは、ネット中傷の発信者を特定する仕事を多く手がけ、自身も中傷の対象になった経験を持つ唐澤貴洋弁護士(42)だ。 2012年、ネット掲示板で中傷を受けたという高校生から依頼を受けた。掲示板の運営者に削除請求をし、裁判所は発信者開示の仮処分を決定。唐澤さんへの中傷が始まったのはそれからだ。「詐欺師」「無能」。批判や揶揄(やゆ)がツイッターなどにあふれ、次第に脅迫に変わっていった。 「ナイフでめった刺しにして殺すとか、過激になった」。家族の名前や実家の登記簿などもネット上にさらされた。 警察に相談し、脅迫容疑などで約10人が逮捕・書類送検された。その後、過激な書き込みは減ったが、中傷は続く。「(ネット空間では)話し合う以前に、自分の主張に合わなければ人格否定をする。健全な言論空間として機能していない」 唐澤さんがネット中傷問題にこだわる原点は、高校時代に弟を失った経験だ。 当時、1歳年下の弟が知人グループに目をつけられていた。パーティー券を売るよう指示されたが、お金が集められず、河川敷で集団暴行を受けたという。 翌日、弟は自室の出窓にベルトをかけて首をつっていた。唐澤さんは弟の受けた集団暴行と、ネット中傷を重ね合わせる。「どちらも、人を人と思わない弱いモノいじめに過ぎない」 匿名の誹謗中傷の投稿者を特定しやすくすべきではないか。そんな議論が政府内で高まる。「表現の自由」を脅かす、との指摘もあるが、唐澤さんはこう考える。 「公益性が強い表現ほど匿名を担保する必要性がある。表現の対象と内容に留意して、公益情報は(特定しやすくする)対象外にするなど、判断基準を細分化していくことが必要だ」
突然、掲示板に「詐欺師」 炎上弁護士が見たネット中傷(朝日新聞、2020年6月6日)
唐澤貴洋弁護士=東京都港区[10] プロレスラーの木村花さん(22)が亡くなったことをきっかけに、ネットでの匿名の誹謗(ひぼう)中傷が社会問題化している。中傷がどれほど過激で、どのようにエスカレートしていくのか。ネット中傷問題に長年取り組み、自身も中傷の対象となった経験のある唐澤貴洋弁護士(42)に聞いた。 ――ネット上で中傷の対象となり、「炎上弁護士」とも呼ばれていますね 2012年3月、「2ちゃんねる」で誹謗(ひぼう)中傷を受けたと訴えてきた高校生を弁護することになりました。当時、2ちゃんでは、投稿の削除請求や発信者の情報開示請求に関して、裁判所の仮処分命令を掲示板にアップするのがルールでした。請求文書には、担当弁護士の名前も記載されます。アップされたその日の夜、弁護士事務所の近くの居酒屋でスタッフと食事をしていました。どんな反応か気になって、携帯電話で掲示板を確認したところ、私に対する数え切れない投稿があふれていました。 詐欺師、犯罪者、無能など、否定的なキーワードです。唐澤貴洋、詐欺師のような言葉を羅列するだけのものも多かったです。後にツイッターでも中傷の投稿が始まりました。 ――どう対応したのですか 掲示板にスレッドを立てられ、大量の投稿がされる。だから、一つ一つ誰が投稿したのか、開示請求をして特定しようとしましたが、それ自体を非難され、中傷するような投稿内容から過激な投稿に変わっていきました。毎日のように「何時にナイフでめった刺しにする」などと投稿され、さすがに「これはやばい」と思って警察署に相談しました。 私の名前を使った嫌がらせも続きました。ある地方自治体へのウェブフォームからの爆破予告です。あるとき、警察から、私のパソコンの通信履歴を見たいから、任意で提出してほしいと言われました。理由を聞くと、私の名前が爆破予告に使われていたのです。 ほかにもネット上に自宅の住所などがさらされました。弁護士事務所への出入りが盗撮され、その写真もアップされた。実家の登記簿も公開されました。 ――殺害予告をした人物はその後、逮捕されました。脅迫罪などで十数人が逮捕または書類送検されたそうですね 問題の掲示板で逮捕者が出たことで、投稿の数は激減しました。ところが、私に関する新しい掲示板が立ち上がり、そこにまた誹謗中傷が書き込まれるようになった。この掲示板の管理者が誰かは、決定的な証拠がなく法的な責任追及ができていない。この掲示板サイトは、海外のサーバーを経由しており、発信者の開示請求が事実上困難です。 ――誹謗中傷の書き込みをした人物数人に直接会ったそうですね 警察からの協力などで本人たちに接触できました。何人かに会って「どうしてこんなことをしたのか」と聞きました。彼らは、投稿の反応が楽しみだったといいます。過激な投稿で起きるリアクションが自分の存在確認。それが目的でした。もともと私とは何の面識もない。私がその人たちにひどいことをしているなら、当然わかりますが。 ネット社会では、ネタになれば何でもいい。今まで仲間と思っていたグループが、その集団で好かれないことをしたらその人が攻撃対象になる。集団を維持するための共食いです。憎しみが動機ではなく、集団コミュニケーションのなかの居場所探しでしかない。 もちろん、ネット上での議論は健全なことです。問題は、是非を話し合う以前に、「自殺に追い込め」みたいな、テーマについての議論ではなく存在、人格自体を否定しようとすること。自分の主張に合わなければ、ネット空間から追い出す。人格否定をする。健全な言論空間としてネットが機能していない。 その一因が、現状の法制度では、被害者負担で発信者を特定しなければならないことです。匿名の下、何ら自分の発言にリスクがないと誤信し、人を傷つける発言をする。ネットになると、表現の攻撃性が変わる。ネット上で刺激の強い情報を摂取する中で、いつの間にか自分自身が刺激の強い情報を発信している。歯止めをかけるには、倫理的な教育はもちろん、ルールが必要です。みんなで議論するところから始めないといけない。人権意識が低下した一部のネット社会が、現実の社会になってしまっては、取り返しがつかなくなる。 ――規制強化が、公益通報やウィキリークスのような匿名による告発を萎縮させることにならないでしょうか。言論・表現の自由を脅かすとの指摘もあります ネットの誹謗中傷は、民主主義に役立つ情報発信ではないただの人格否定です。公益性もなく、私人の権利を侵害してもよい表現の自由は認められません。対権力との関係で、意義のある公益通報などは重要です。誹謗中傷を取り締まることは、匿名による通報を規制することに直ちにつながりません。それは、制度設計の仕方次第です。 ――被害者を救済しやすくするためにはどうすればよいでしょうか ツイッターなどのコンテンツプロバイダーや、インターネットサービスプロバイダーが、よりプラットフォーマーとしての自覚を持つことです。自分が管理するプラットフォームで人格否定がなされているなら、積極的に対処しなければいけない。被害者救済の観点から法律を改正するか、新法を作っていくことも必要です。 ――匿名の発信者を特定しやすいルール作りが必要だと 書き込みの削除請求だけでは、再び書き込まれる可能性もあります。発信者を特定すれば、書き込みをやめさせるため、民事でも刑事でも、責任を問えます。ただ、刑事であれば、証拠があったとしてもなかなか警察は被害届や告訴状を受理してくれない。民事では、主に弁護士がプロバイダ責任制限法に基づいて、開示請求をするわけですが、損害賠償請求を含めると被害者の負担は弁護士費用だけで通常50万円超です。発信者情報の開示も半年から1年くらいかかる。時間とコストをかけてまで、どれくらいの人たちができるでしょうか。 発信者を特定する場合、基本的に裁判手続きが2段階必要です。いきなり、プロバイダーに裁判外で請求しても、対応してくれないことがほとんどです。そのため、裁判所の仮処分命令を用いて開示請求します。シンプルに説明すると、▽コンテンツプロバイダーが発信者のIPアドレスを開示▽そのIPアドレスからサービスプロバイダーを特定▽プロバイダーに開示請求を行い、IPアドレスの利用者に関する契約者情報(氏名や住所、メールアドレスなど)を開示してもらう、という流れです。 サービスプロバイダーが接続記録を保存している期間は通常3~6カ月。法律では、保存義務が定められていません。漏洩(ろうえい)を防ぐため、個人情報はなるべく早く消すというスタンスだからです。最初のIPアドレスの開示請求で時間がかかると、開示決定が出た頃には接続履歴が消えてしまっているというケースがあります。IPアドレスがわかっても、アドレスとその利用時間だけでは、利用者を特定できない場合もあります。 通信記録の保存を義務づけるほか、裁判所とは別に有識者を集めた第三者機関が開示の可否を決めるなどして、迅速な判断をしてもらう。プロバイダーとしては、判断がしっかりしたものであれば、決定に従って開示するでしょう。内容的に争うというものであれば、しっかり争えばいい。 ――なぜそこまでこの問題にこだわるのでしょうか ネット中傷のような集団リンチが許せないからです。弁護士になった原点でもあるのですが、私の弟は16歳の時自殺しました。1歳年下の弟は、知人グループに目をつけられ、パーティー券を配るよう指示されました。結局パー券は売れず、河川敷で集団暴行を受けました。私は、その夜はなぜか眠れず、家で映画を見ていました。弟は家に帰っていましたが、翌朝、部屋から出てこない。父が合鍵か何かで部屋を開けると、弟は出窓にベルトをかけて首をつっていました。バックにはパー券がたくさん入っていた。弟がリンチにあっていたことは、彼の知人や警察から聞いてわかりました。 私は、悔しくて仕返ししたいのに何もできなかった。当時、高校を中退し、図書館で片っ端から本を読みあさるか、ただ当てもなく河川敷を走る日々から、定時制高校に入り直したばかりでした。自分は何もできなかった。だから戦う「武器」がいると、子どもながら感じた。その後、弁護士を目指しました。 ネット中傷の問題を扱う以上、自分が攻撃の対象になります。殺害予告を受けた時も、周囲には「大丈夫です」と言っていても、しんどかった。お酒を大量に飲まないと寝付けず、暴飲暴食で体重もかなり増えました。でも弁護士をやめようとは思っていない。弟の時に感じた理不尽をネット中傷に感じます。こちらは死ぬ気でやっていますから。匿名で人権を侵害する人たちとは、徹底的に戦うつもりです。
ネット中傷との闘い方 経験者2人が語る「ハードル」(朝日新聞、2020年6月22日)
唐澤貴洋のコメント部分のみ記述する
2020年6月6日の「ネット中傷 闘った苦心」の本文と違う箇所を強調する
発信者の開示「判断早めて」[11] 「現状では中傷される側の権利侵害が実質放置されている。発信者の開示請求に対する判断が早くでるような、仕組みにするべきだ」 こう話すのは、ネット中傷の発信者を特定する仕事を多く手がけ、自身も中傷の対象になった経験を持つ唐澤貴洋弁護士(42)だ。 2012年、ネット掲示板で中傷を受けたという高校生から依頼を受けた。掲示板の運営者に削除請求をし、裁判所は発信者開示の仮処分を決定。唐澤さんへの中傷が始まったのはそれからだ。「詐欺師」「無能」。批判や揶揄(やゆ)がツイッターなどにあふれ、次第に脅迫に変わっていった。 「ナイフでめった刺しにして殺すとか、過激になった」。家族の名前や実家の登記簿などもネット上にさらされた。 警察に相談し、脅迫容疑などで約10人が逮捕・書類送検された。その後、警察の協力もあり、書き込みをした人物数人に直接会った。「どうしてこんなことをしたのか」と聞くと、彼らは「投稿の反応が楽しみだった」と答えた。 唐澤さんは「ネット社会ではネタになれば何でもいい。憎しみが動機ではなく、集団コミュニケーションの中の居場所探しでしかない」とした上で「(ネット空間では)話し合う以前に、自分の主張に合わなければ人格否定をする。健全な言論空間として機能していない」と指摘する。 唐澤さんがネット中傷問題にこだわる原点は、高校時代に弟を失った経験だ。 当時、1歳年下の弟が知人グループに目をつけられていた。パーティー券を売るよう指示されたが、お金が集められず、河川敷で集団暴行を受けたという。 翌日、弟は自室の出窓にベルトをかけて首をつっていた。唐澤さんは弟の受けた集団暴行と、ネット中傷を重ね合わせる。「どちらも、人を人と思わない弱いモノいじめに過ぎない」 匿名の誹謗中傷の投稿者を特定しやすくすべきではないか。そんな議論が政府内で高まる。「表現の自由」を脅かす、との指摘もあるが、唐澤さんは「公益性が強い表現ほど匿名を担保する必要性がある。表現の対象と内容に留意して、公益情報は(特定しやすくする)対象外にするべきだ」。私人に対するプライバシー侵害については、「開示請求を受けたプロバイダーが、開示するかどうかを判断しやすくする仕組みを作るべきだ」とも訴える。
SNSでの誹謗中傷(後編) 抑止になる法整備を(中日新聞、2020年7月12日)
抑止になる法整備を 弁護士 唐沢[12]貴洋さん 二〇一二年以降、インターネット上で殺害予告などの脅迫やさまざまな誹謗中傷を受けています。自宅の住所がネット上にさらされた時は荷物をまとめ、その日のうちに家を出ました。 これほどの損害を受けても、日本の裁判では費用を回収できません。発信者特定に必要な弁護士費用は五十万~八十万。損害賠償を求める民事裁判を起こしてもわずかなお金しか受け取れません。発信者が刑事責任を問われることも、ほぼありません。 「プロバイダー責任制限法」は被害者のためになっていない。法改正で被害者が使いやすく、犯罪行為が抑止されるようにしなくてはいけません。 総務省の有識者会議での議論は、開示する発信者情報に電話番号を加えるというもの。新たな裁判手続きを設けようという議論もありますが、結局、裁判的なやり取りが必要になるのなら時間がかかるだけ。それより、ネットの接続業者らが対応部署を充実させ、請求がきたら誠実に対応すればいいのです。 それがだめなら、削除や情報開示を迅速かつ公正に判断する第三者機関の設置も視野に入れていい。私個人は「あしたはあなたが被害者になるかもしれない」と注意喚起するしかないと思っています。
匿名の刃~SNS暴力考 100万回殺害予告受けた弁護士が加害者に面会して目にした「意外な素顔」(毎日新聞、2020年7月18日)
インタビューに応じる唐澤貴洋弁護士=東京都港区で2020年6月24日午後0時51分、牧野宏美撮影[13][14] 「自分を苦しめたのはどんな人物で、何のためにやったのか」。業務上の書き込みをきっかけにインターネット上で「炎上」し、約100万回に及ぶ殺害予告など壮絶な被害を受けた唐澤貴洋(たかひろ)弁護士(第一東京弁護士会)は、複数の加害者を特定し、面会した。見えてきたのは、攻撃的な投稿とは結びつかない、意外な姿だったという。その実像と動機とは――。【牧野宏美/統合デジタル取材センター】 掲示板の削除要請がエスカレート ――炎上のきっかけは2012年3月、ネット掲示板「2ちゃんねる」上で、誹謗(ひぼう)中傷を受けた依頼者のために、自身の名前を出して書き込みの削除要請をしたことでしたね。 ◆依頼者は少年で、掲示板に学校の成績をさらされるなどの嫌がらせを受け、相談を受けました。当時は削除要請や発信者情報開示の依頼は掲示板上で行うことになっており、内容がすべて公開されている状態でした。そこで名前を出していた私が標的になったようです。要請して数時間後に掲示板を確認すると、既に私をやゆ、中傷するような書き込みが多数あって、何だろうと驚きました。例えば、私がツイッターで今後の仕事のためにとフォローしていた著名人などをチェックして、そこにアイドルがいたから「アイドルオタク」と書いてレッテル貼りをする、というようなものです。当時、まだ「炎上」という言葉も定着していませんでしたが、荒れているなと危機感を覚え、ツイッターを鍵付きにして見えないようにしました。そうすると、掲示板で「本人が見てるぞ」とさらに盛り上がってしまい、投稿が止まらなくなりました。 内容はどんどんエスカレートし、「犯罪者」などと根も葉もないことを書かれ、私の名前を検索エンジンに入力すると、「詐欺」などのマイナスイメージの言葉が出てくるようになりました。「サジェスト(予測変換)汚染」と呼ばれるものです。法的手段を講じようと発信者情報開示の依頼をするとさらにそれがネタになり、その年の7月ごろには具体的な日時を指定した殺害予告が書き込まれるようになりました。身の危険を感じ、さすがに警察に相談しました。 ストレスで眠れず、酒あおるように ――殺害予告を見た時は、どんな気持ちでしたか。 ◆ぞっとしましたね。「殺す」という言葉はすごく重いです。その上、匿名なので誰が言っているかも分からない。それは恐怖でしかありません。誹謗中傷もそうですが、誰がそんなことを言うのか、現象として理解できませんでした。既にそれまでの炎上で疲弊し、ストレスでよく眠れない状態が続いていましたが、殺害予告でさらに追い詰められました。不安や恐怖をごまかすため、強くないのに毎晩酒をあおりました。床に入る時、何度も「このまま目覚めなければ楽になるのに」と思いました。 日常生活も一変しました。自宅に帰るルートを毎日変え、背後に人がいないか、常に気にしていました。エレベーターもなるべく見知らぬ人と一緒に乗らないようにしました。疑心暗鬼が深まり、人の多いところに出かけることも、仕事で人と会うことも負担に感じ、避けるようになりました。 ――被害はさらに広がり、家族や、現実世界にも及ぶようになったんですね。 ◆はい。両親の名前や実家の住所が特定されてネット上にさらされ、実家近くの墓にペンキがかけられたこともありました。弁護士事務所にも「実動部隊」が嫌がらせに来るようになり、郵便ポストに生ゴミを入れたり、鍵穴に接着剤を詰められたり、私の後ろ姿が盗撮されてネットに投稿されたりと、ありとあらゆる実害を受けました。事務所は3回も移転を余儀なくされました。さらに私になりすましてある自治体に爆破予告をする者まで現れました。被害は、最初の炎上から5年ほど続きました。 うつむき、おどおど…「面白かった」 ――壮絶ですね。一方で、殺害予告をするなどした加害者と面会したそうですが、なぜですか。 ◆自分に起きていたことが理解できず、得体の知れない不安を抱えていたので、どんな人物が、どんな気持ちで、なぜこんなことをするのか、知っておいた方がいいと思ったからです。もちろん怒りもあり、納得できない気持ちを抱えていたこともあります。 ――実際に会ってみると、どんな人たちでしたか。 殺害予告された体験について書かれた著書「炎上弁護士」を持つ唐澤貴洋弁護士=東京港区で2018年12月26日午後6時7分、大村健一撮影 ◆警察に相談して1年半以上過ぎた14年5月に最初の逮捕者が出て、計10人ほどが検挙されました。これまでに会ったのは、殺害予告をしたり、事件化はしなかったが事務所に嫌がらせをしたりした人たち数人です。全員男性で、10~20代中心の学生やひきこもり。全く面識のない人でした。 最初に会ったのは、20歳ぐらいの大学生。両親も一緒でした。父親はきちんとした会社に勤め、母親は普通の感じの人。大学生はうつむきがちで口数が少なく、理由を聞くと「面白かったのでやっていました。そんなに悪いことだと思っていませんでした」。過激な投稿を称賛する他のユーザーの反応や、度胸試しみたいな雰囲気が面白かったようです。 30歳過ぎの無職の男性は、年老いた母親と一緒に事務所に来ました。ずっとおどおどして「すみません」と言い続けていました。理由を聞いても、まともに答えなかったです。 医学部志望の浪人生もいました。2浪中で、父親が医者。両親も一緒に面会しましたが、父親は自分の息子が問題行為に関わったことについて、どこか人ごとのような態度でした。不思議に思った私が「どういう家庭なんですか」と聞くと、浪人生が「父親が怖くて、せきをする音にもおびえて生活している。浪人生で居場所もない。投稿をしているといやなことを忘れられる」と語ったんです。父親から相当のプレッシャーを感じていたのだと思います。 私の事務所の鍵穴に接着剤を詰めてその場で警察官に取り押さえられた少年と、その母親とも話しました。母親は着古したコートを着て、涙を流して私に謝罪しました。母子家庭で、少年は中学校で勉強についていけなくなり、通信制の高校に通っていました。母親によると、少年は常にインターネットを見ていて、母親がやめさせようとパソコンを取り上げたものの、バス代として渡したお金でネットカフェに行き、掲示板に書き込みを続けていたようです。少年のものとみられる書き込みを見ると、他のユーザーからあおられて、どんどん過激な投稿をしていた様子が分かりました。実家近くの墓を特定して写真を投稿したのもこの少年でした。 殺害予告で逮捕された20代の元派遣社員からは、「謝罪したい」と手紙をもらいました。怖い気持ちもありましたが、会ってみると、優しそうで繊細な印象の青年で、「投稿に対する反応が面白くてやった。申し訳ない」と言っていました。さらに詳しく聞くと、「友達がいなくて孤独で、掲示板に書き込んでしまった」と明かしました。 殺害予告を書き込んだ大学生からは、経緯や反省をつづった手紙をもらいました。現実逃避のためにネットに夢中になり、掲示板を利用するように。最初は私への中傷の書き込みを眺めているだけだったのが、人を傷つける凶悪な言葉を繰り返し目にするうちに感覚がまひし、いつしか自分も傷つける側になっていったそうです。殺害予告を「ネットのコミュニケーションの一つ」と表現し、私がどんな気持ちになるかは考えなかったと告白していました。ただ、最後に謝罪とともに「苦しめられる人から目を背けない大人になりたい」と書いてあり、少し救われました。 過激なネタで居場所を維持 ――会うことで、納得できましたか? ◆正直、拍子抜けしました。相手に何か言い分があれば、こちらも怒鳴り合うぐらいの覚悟はできていましたが、みんなすんなりと謝るんです。私に恨みがあったり、こだわりやドロドロした感情を抱いていたりする人はいませんでした。共通していたのは、総じてコミュニケーション能力が低く、周囲に理解者が少なく孤独、罪悪感が乏しい、という点でした。 そこで、私は「彼らにとってインターネットは居場所だったんだ」と考えるようになりました。掲示板はある種のコミュニケーション空間で、疑似的な仲間がいる。過激な内容の「ネタ」を随時投稿することによって、会話が盛り上がって円滑になり、居場所が保たれ続ける構造なのです。それが彼らの自己確認、存在証明の場になっているのでしょう。だからテーマや攻撃の対象は何でもいいわけです。私という人間に興味があるわけでなく、みんなが知っている共通の「記号」としてネタにされていただけなのだと思います。その証拠に、私への攻撃が落ち着いた後、今度は攻撃していた側の一人が標的にされ、炎上していました。大義があるわけではないのです。 処罰は対症療法、教育・福祉支援を ――どうすれば、炎上への参加や誹謗中傷の投稿を防ぐことができるのでしょうか。 ◆政府が法規制の検討を進めていますが、私は以前から、発信者情報の開示をしやすくする、ネット上の権利侵害に対する新たな処罰規定を設ける、ことなどを提案してきました。ただそれは対症療法に過ぎません。加害者のバックグラウンドを知ると、「居場所」をネット空間に求めてしまう社会的、構造的な問題にも目を向けるべきではないか、と思うようになりました。もちろん、私が会った加害者の特徴がすべての炎上にあてはまるわけではありませんが、ネットリテラシーなどの教育や福祉的支援が必要な人は多いと思います。誰もが被害者、加害者になり得ます。法律だけでなく、精神医学などさまざまな専門分野の人が知恵を出し合い、早急に解決していかなければならない問題です。 からさわ・たかひろ 1978年生まれ。早稲田大法科大学院修了。著書に「炎上弁護士」、監訳に「サイバーハラスメント―現実へと溢れ出すヘイトクライム」など。
SNS暴力~なぜ人は匿名の刃をふるうのか 第1章・ネット炎上と加速する私刑(2)誹謗中傷は「スープに入ってきたハエ」(毎日新聞、2020年12月8日)
SNS暴力~なぜ人は匿名の刃をふるうのか 第1章・ネット炎上と加速する私刑(2)誹謗中傷は「スープに入ってきたハエ」(魚拓)[14] フジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に出演していた木村花さん=番組公式ホームページから 木村花さんが亡くなった5月23日、SNS上では、中傷書き込みの責任の重さを巡って、議論が渦巻いた。そんな中、ある投稿が目に留まった。 〈悪口や中傷に傷つく人はSNSは向いてない、そうじゃない。SNSに向いてないの平気で人を傷つける人。ネットにはルールとマナー、そして人権がある。言論の自由は何してもいい訳じゃない、それは言論の無法。最初に言論の責任がある。命を離すまでどれだけ悩み苦しんだか、もう悲しくてやるせない。〉 傍観者の目線ではない、ひときわ強いメッセージ性と説得力を感じた。ネット上で「殺人関与」などのデマに長年苦しめられた経験があるお笑い芸人、スマイリーキクチさん(48)の投稿だった。すぐに連絡をとり、インタビューに応じてもらった。 新型コロナウイルス禍のため、オンラインで対面したスマイリーさん。花さんが亡くなったことをどう受け止めたのか。改めて聞くと、言葉を選びながらこう答えた。 「ネット上の誹謗中傷への悩みがあったと聞いて、一人で抱え込んでしまったのかもしれない、と思いました。言葉が刃物のようになって心に突き刺さり、命を絶つまで彼女を追い詰めてしまったのかもしれない、と」 「言葉は刃物になる」。重い言葉だった。 「本当に誹謗中傷が原因だったとしたら、こういう事態が起きないように活動してきた者として、非常に残念で悔しいです」 スマイリーさんはさらに、こう続けた。 「彼女のインスタグラムやツイッターには、誹謗中傷だけでなく、応援メッセージもたくさんありますよね。でも、自分も経験したから分かるのですが、『スープに入ってきたハエ』と同じなんです」 目の前に出されたスープにハエが入ってしまったら、スープ全体の量からすればたとえ小さなハエであっても、どうしても気になってしまう。中傷から逃れられない心情を分かりやすい例えで説明した。 デマから炎上、そして殺害予告 誹謗中傷を受けた経験者として、スマイリーさんのもとには多くの芸能人らが相談に来るという。木村さんの件についても「何か救う手立てはなかったのか、という気持ちもあります」と無念そうに語った。 自身の体験は壮絶なものだった。 〈事実無根を証明しろ、強姦の共犯者、スマイリー鬼畜、氏ね〉 〈ネタにしたんだろ?犯罪者に人権はない、人殺しは即刻死刑せよ〉 〈生きる資格がねぇ、レイプ犯、早く死ね〉 1999年夏。当時SNSはまだ普及しておらず、誹謗中傷の舞台は「2ちゃんねる」などネット上の匿名の掲示板だった。「10年前に東京都足立区で起きた女子高生コンクリート詰め殺人事件の犯人」という、いわれのないデマに基づいていた。スマイリーさんが足立区出身で、事件の犯人と同世代ということ以外、何の根拠もない。書き込んだ者のほとんどが、「少年法により名無し」という匿名のハンドルネームを使っていた。 所属事務所のホームページで、事件への関与と「事件を(お笑いの)ネタにした」といううわさを否定したが、誹謗中傷は収まるどころかさらに広がった。 「当初は、正直ショックでもなくて、『なんとばかばかしい』ぐらいに思っていました。ネットをほとんど使っていなかったので、見なければ知らない問題でもあった」 スマイリーさんは、当時をそう振り返る。 だが、「実害」が出始めた。仕事先にも嫌がらせが入るようになったのだ。出演していた番組やCMスポンサーに「殺人犯は出すな」との抗議が寄せられ、お笑いのライブでも客がヒソヒソうわさするようになった。 さらに、家族や恋人にまで、被害が広がった。 〈家族の情報を知っていたら教えて〉 〈家族も見つけ次第殺す〉 ネット上の投稿は、個人情報を探り出す動きになり、殺害予告もあった。〈彼女がいたら乱暴しよう〉という内容もあった。そして、ある書き込みに戦慄した。 〈近所でスマイリーキクチをみた〉 〈おんなといた。多分あれ彼女だぜ〉 〈この店 ○○○〉 実際、恋人と当時よく行っていた店だった。 「身近にいる。家族も恋人も、町を歩いていたら確実に何かされる。時間の問題だ」 そう考えると、怖くなった 姿の見えない相手が、自分を殺人犯だと思い込み、無数の嫌がらせを送っている。誰が、何の目的で? 「疑問で頭がいっぱいになり、自分が言葉で人を殺すゲームのキャラクターにされたようにも感じました」 さらなる「炎上」要因もあった。ネット上の検索エンジン「Yahoo!」で、質問を送ったり回答したりできる「Yahoo!知恵袋」。2008年3月、ある質問が載った。 〈「○○」という本を読みましたら、「○○(スマイリーさんのデマが流れた事件名)」の主犯格のひとりがお笑いコンビを結成し、芸能界デビューをしているという事実が書いてありました。そのお笑い芸人とは誰なのでしょう?〉 質問に対する回答の「ベストアンサー」にはこんな回答が選ばれた。 〈スマイリー菊地という芸人ですがピン芸人ではなかったかな。本人の事件関与については謎です。〉 この○○という本は実在する。「元警視庁刑事」を名乗り、ワイドショーでコメンテーターとして活動していた男性の著書だった。質問に書かれた記述もあった。 この書き込みをきっかけに、スマイリーさんの名前とデマはさらに拡散された。 警察は血では動くが字では動かない 炎上が続き、スマイリーさんは警察に相談したが、何十人もの警察官に笑われたり、ばかにされたりした。「殺されたら捜査してあげるよ」とも言われた。 「殴られたら血が出るという実害が見えるけれど、誹謗中傷による『心のけが』は第三者から見えないんですよね。警察は血では動くけれど、字では動いてもらえない、と思いました」と振り返る。 そのうち、警察を含め相談した人たちから「あなた頭おかしいよ」「ネット上の言葉を一番信じているのは、あなただよ」と言われるように。味方と考えていた警察まで敵に見えてきた。「俺がおかしいのか?」。自問自答の日々が続いた。 弁護士にも相談すると、「必要な経費は200万円」と言われた。当時のスマイリーさんには、簡単には出せない大金だった。「プロバイダが発信者の情報を開示しなければ、最高裁までいく可能性がある」とも言われた。 解決の糸口が見つからず、袋小路に入ったが、諦めるわけにはいかない。 スマイリーさんには「二つの許せないこと」があった。一つは、スマイリーさんや家族、周囲の人たちにも殺害予告が届いていたこと。「死んだら許してやる」という書き込みが山ほどあった。だからこそ、「生きて身の潔白を晴らす」という思いが強く心の中にあった。 「『死ね、死ね』とたくさん書き込まれて本当に傷ついたけれど、逆に生きることが仕返しだと思った。思いっきり幸せに生きてやる、と」 もう一つは、勝手に犯人だとされた殺人事件の被害者を、冒瀆する書き込みもたくさんあったことだ。「『死人に口なし』とばかりに書き込んでいて、心から許せなかった」 諦めずに警察への相談を繰り返した結果、信頼できる刑事と出会う。2008年夏から捜査が本格化。翌年3月までに、中傷を書き込んだとされる男女19人が名誉毀損容疑などで摘発され、うち7人が書類送検(いずれも後日不起訴処分)された。「ブログ炎上 初の摘発」「ネット暴力に警鐘」といった見出しが新聞各紙に載った。 「ガラケー女」に間違えられて 誹謗中傷の被害者となるのは、著名人だけではない。多くの人がインターネットで広くつながっている時代。誰であっても突然、匿名による卑劣な攻撃にさらされる危険性はある。 「ガラケー女」に間違えられた女性に攻撃的な言葉を投げつけてきた人から、容疑者逮捕の直後には一転、謝罪のメッセージが届いた=東京都内で、五味香織撮影 「ガラケー女」という言葉が盛んに飛び交う事件があった。 2019年8月、茨城県の常磐自動車道で、後方からあおり運転をした男が、相手の車を停車させ、運転席の男性を殴ってけがをさせた事件だ。男が暴行を加えた際、「ガラパゴス携帯」と呼ばれる折りたたみ式の携帯電話を持つサングラス姿の女性が、笑いながら暴行の様子を撮影していたのだ。「ガラケー女」と名付けられたこの女性の姿を収めた動画がSNSで拡散され、テレビのニュースでも繰り返し報じられた。男の粗暴ぶりもさることながら、男と同乗していた非情な「ガラケー女」にも世間の関心が集まった。 事件から1週間後、お盆の終わりの週末だった。東京都内に住む30代女性は午前6時ごろ、枕元に置いたスマートフォンの着信音で目が覚めた。早朝にもかかわらず、電話とメールが鳴り止まない。寝ぼけ眼で手に取ると、知らない電話番号や番号非通知の着信が大量に表示されていた。その中にあった友人からのメッセージを見ると、「ネットに情報がさらされている」という知らせだった。 添えられていたアドレスをクリックして、飛び起きた。 あるウェブサイトに自分の名前や顔写真が掲載されていた。〈犯人だ〉という言葉も目に飛び込んできた。女性があおり運転事件の「ガラケー女」だという指摘だった。 全く身に覚えがない。サイトは、事件などに関する情報を集積した「まとめサイト」と呼ばれるブログで、〈捕まえろ〉〈自首しろ〉と責め立てる言葉が並んでいた。 知らせてくれた友人からは、SNSで否定するよう勧められたものの、焦りと混乱で何を書けばいいのか分からない。女性は当時、事件についてあまり関心がなく、サイトで自分の写真と一緒に並べられた加害者の男が誰なのかも分からなかった。 女性が個人経営する会社のウェブサイトが画像として出回っていたため、会社に電話やメールが殺到し、転送先のスマートフォンに届いたのだった。女性のインスタグラムにも「早く自首しろ」などという書き込みが相次いだ。匿名で利用していたにもかかわらず、なぜか女性のアカウントだと特定されていた。人違いだということを発信しても、〈そんなことを投稿する暇があるなら、早く警察に行け〉というコメントがつき、さらに炎上した。やがて〈詐欺師〉〈ブス〉などと、事件とは無関係の中傷も交じるようになった。 幸い、翌日に、あおり運転の加害者の男と「ガラケー女」は傷害や犯人隠避などの疑いで逮捕され、SNS上の攻撃は一気に収束した。しかし、約2日間で、不審な電話の着信は約300件に上り、インスタグラムに届いたダイレクトメッセージは1000件を超えた。ツイッターの中傷投稿は、代理人の小沢一仁弁護士(東京弁護士会)が確認しただけでも100件以上のアカウントから届いていた。リツイートを含めると、その何倍もの人が誤った情報を拡散したとみられる。 誤認された理由はこう推測される。女性は匿名でインスタグラムを利用していたが、趣味の旅行や食事のほか商品紹介などで注目され、フォロワーが約1万人もいた。加害者の男もその一人で、そのつながりから男の交際相手と一方的に決めつけられたとみられる。インスタグラムは一方的にフォローが可能で、女性はフォローされていることも知らなかった。 まとめサイトに載せられた女性の写真は、一緒に写っている友人がフェイスブックに掲載した写真を切り取ったものだった。事件当時の「ガラケー女」の服装と似た、帽子とサングラスを着けた写真も出回った。匿名のインスタグラムのアカウントから、どうやって実名のフェイスブックにたどり着いたのかは、その後も謎だ。ちなみに女性は、「ガラケー」は使っていない。 あおり運転関与の男女が逮捕されたと伝わると、インスタグラムやツイッターには、謝罪の言葉が届くようになった。目立ったのは「デマを信じて暴言を吐きました」と釈明する内容のもの。しかし、女性は「デマを信じることと、暴言を発信することは全然違う。許されないでしょう」と憤る。「すみませんでした」という言葉の後に絵文字を付けてくる人もいた。自身の痛みに比べ、あまりの「軽さ」に驚いた。お詫びのメッセージを送ってきた後、アカウントを消して逃げる人もいた。 約1週間後、女性と小沢弁護士は東京都内で記者会見した。中傷投稿した人物に対し、損害賠償請求や刑事告訴をすると明らかにした。損害賠償請求の準備のため、ツイッター社やSNS事業者に対し、発信者情報の開示請求を始め、小沢弁護士は「請求対象は百件単位の規模になる」と話す。 自ら名乗り出て来た人とは和解に応じているが、「普通の人」が多かったという。未成年から年配者まで年齢層は幅広く、住んでいる地域も全国各地に及んだ。子どもに代わって平謝りする保護者、「家族に知られて肩身が狭い」と連絡してくる男性……。幼い子どもを持ち、普段は「良いママ」として暮らしていそうな人もいた。 一方で、女性が訴え、判決が出たケースもある。愛知県豊田市議(当時)の50代の男性は、自身のフェイスブックに、女性の写真を転載し、「早く逮捕されるよう拡散お願いします」などと投稿。2020年8月17日、東京地裁は、男性の投稿が「原告(女性)の社会的評価を低下させる」として、男性に33万円の支払いを命じる判決を言い渡した。ネット中傷に振り回された「激動の日」から、ちょうど1年を迎える日だった。 木村花さんが亡くなったことが報じられた後、女性はある友人に「同じようなことをされたんだよね。生きていてくれてありがとう」と言われた。改めて、自身の被害の大きさを実感した。その一方で、ネット上には、引き続き匿名による悪意が渦巻く。事件や裁判に関連する報道が出る度、SNS上には〈謝っているんだから許してやれよ〉〈しつこい女〉〈金の亡者〉などの心ない中傷が相次ぐ。 ネット中傷問題では、被害者本人だけでなく、代理人になる弁護士に火の粉が降りかかることも少なくない。小沢弁護士も一連の事件対応に関連し、SNS上で身の危険を感じるような中傷を受けたり、画像を面白おかしく加工されたりしたという。 「被害を受けるリスクを考え、ネットトラブルの訴訟を引き受けたがらない弁護士もいると思います」 小沢弁護士はそんな被害の「象徴的な事例」として、次に登場する弁護士の名前を挙げた。 100万回の殺害予告を受けた「炎上弁護士」 「何だ、これ」。2012年3月、東京都内の沖縄料理の居酒屋。知人らと和やかに食事をしていた唐澤貴洋弁護士(第一東京弁護士会)は、携帯電話の画面を見て衝撃を受けた。匿名掲示板「2ちゃんねる」に、自分を中傷する投稿があふれていたのだ。そこから100万回に及ぶ殺害予告など5年にわたる壮絶な被害が始まった。ネット中傷の問題に取り組む弁護士ら関係者の間で、唐澤弁護士を知らない人はいない。 発端は、2ちゃんねるに成績表をさらされるなどした少年から依頼を受け、掲示板に唐澤弁護士の実名入りで削除要請の書き込みをしたことだった。当時は削除要請や発信者情報開示の依頼は掲示板上で行うことになっており、内容がすべて公開された状態だった。唐澤弁護士は名前を出していたため、標的になったとみられる。 削除要請をして数時間後に掲示板を確認すると、既に「炎上」が始まっていた。今後の仕事のためにとツイッターでフォローしていた著名人の中にアイドルの女性が含まれていたことから、〈ドルオタ(アイドルオタク)だ〉と揶揄するようなコメントが相次いでいた。「荒れている」ことに唐澤さんは危機感を覚え、とりあえずツイッターを鍵つきにして見えないようにした。すると、掲示板では〈本人が見てるぞ〉とさらに盛り上がり、投稿が止まらなくなった。 内容は数週間の間にどんどんエスカレートした。そのうち、唐澤弁護士の名前や事務所名を検索エンジンに入力すると、検索予測に「犯罪者」「詐欺師」などの言葉が出てくるようになった。掲示板上では、唐澤弁護士の名前とネガティブな言葉を組み合わせて繰り返し投稿することで、検索エンジンのサジェスト(予測変換)ワードを作りだそうとする動きがあったという。いわゆる「サジェスト汚染」だ。この状態が続けば、弁護士としての信用を失い、仕事にも影響する。そう考えた唐澤弁護士が法的手段を講じようと発信者情報開示の依頼をすると、さらにそれがネタになり、収拾がつかなくなった。 やがて被害は現実世界へ 連日の誹謗中傷は、唐澤弁護士を精神的に追い込んだ。インターネットを見ないようにしようとしても、掲示板などで何が書かれているか気になり、どうしても確認してしまう。見ていない時でも何か悪いことが起きているのではないかと不安で、夜もよく眠れなくなった。頻繁に悪夢にうなされ、感情の起伏もなくなった。少しでもその苦しさから逃れようと、強くもない酒を毎晩あおった。 最初の投稿から4カ月ほどたった頃、ついに殺害予告が書き込まれた。 〈8月16日、五反田で唐澤貴洋を殺す〉〈ナイフでめった刺しにする〉 具体的な日時や事務所を構えている場所、手段まで指定する内容で、今までの誹謗中傷とは明らかに次元が違う。唐澤弁護士は振り返る。 「ぞっとしました。『殺す』という言葉はすごく重い。その上、匿名なので誰が言っているかも分からない。それは恐怖でしかありません」 身の危険を感じて警察に相談したが、当時は警察もネット上の脅迫に対し、犯罪という認識が薄く、捜査には時間がかかった。 その間もさらに追い詰められ、生活は一変した。 「いつどこで危害を加えられるか分からない」とおびえ、行動パターンを把握されないよう自宅に帰るルートを毎日変え、背後に人がいないか常に気にするように。密室を恐れ、エレベーターではなるべく見知らぬ人と同乗しないようにした。疑心暗鬼が深まり、人の多いところに出かけることも、仕事で人と会うことも負担に感じ、避けるようになったという。 被害はさらに広がり、家族や、現実世界にも及ぶようになった。両親の名前や実家の住所が特定されてネット上にさらされ、それをきっかけに実家周辺の写真や実家の登記簿までアップされた。実家近くの唐澤家の墓に白いペンキがかけられ、墓石に唐澤弁護士の名前「貴洋」が書かれたこともあった。そしてその写真も投稿された。 実は唐澤弁護士には一つ年下の弟がいたが、高校生の時に不良グループから恐喝まがいのことをされて集団リンチに遭い、それを苦に自殺している。弟を救えなかったという無力感が、「法を武器に悪と闘いたい」と弁護士を目指すきっかけになったという。弟が眠る大切な場所が汚されるのは、耐えがたいことだった。寺に迷惑をかけたとお詫びに行った帰り道、涙がこぼれ落ちた。 さらに弁護士事務所にも「実動部隊」が嫌がらせに来るようになった。郵便受けに生ゴミを入れたり、鍵穴に接着剤を詰められたり、唐澤弁護士の後ろ姿が盗撮されてネットに投稿されたりと、ありとあらゆる実害を受けた。このため、事務所は3回も移転を余儀なくされた。さらにグーグル・マップを改ざんして、皇居や警察庁を唐澤弁護士の事務所名に書き換えたり、唐澤弁護士になりすまし、ある自治体に爆破予告したりする者まで現れた。 「当初は実害の矛先は私やその周辺に向いていたのに、だんだん私というネタを利用して『社会を巻き込んで面白いことをしよう』という方向にエスカレートしていきました。完全に愉快犯です」 被害が落ち着いても消えない恐怖心 警察が集計したところ、殺害予告の投稿は約100万回に及んだ。唐澤弁護士によると、海外のネットメディアが出所と思われる「殺害予告をされた件数の世界ランキング」では、1位が世界的人気を誇るカナダの歌手のジャスティン・ビーバー、2位が唐澤弁護士、3位がジョージ・W・ブッシュ元米国大統領──となっているといい、件数の異様さがうかがえる。 2014年5月以降、唐澤弁護士に殺害予告や爆破予告をした人物など10人以上が脅迫容疑などで逮捕または書類送検(一部が不起訴処分)された。しかし、その後も同様のネット中傷や悪質な嫌がらせは続いた。17年夏には、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんの妻・小林麻央さんが亡くなった時、唐澤弁護士になりすました人物がツイッターに〈姪が亡くなりました〉などとデマを投稿し、大炎上。ツイッター上で〈親族でもない人間が勝手なことを言うな〉などといわれのない非難を受けた。 唐澤弁護士は18年に、長年にわたる壮絶な経験を綴り、『炎上弁護士』とのタイトルで書籍を出版。「100万回の殺害予告に立ち向かった弁護士」としてテレビ番組にも出演し、頼まれれば学校などで体験を話すこともある。 被害はここ2~3年は落ち着き、表向きは立ち直ったように見えるが、唐澤弁護士は「今も恐怖心から逃れられない」と明かす。しつこく後をつけられた経験から常に人の視線が気になる。自宅などが特定されないよう、近距離移動でもタクシーを使う。仕事上、人に会わざるを得ないが、初対面の時はとても緊張するようになった。 ちょっとした相手への否定的な感情や遊び感覚で「着火」され、ネット特有の拡散力によって燃え上がる「炎上」。行為に関わる人たちの軽さとは裏腹に、命を絶つほど精神的に追い込まれたり、長年にわたり身の危険を感じておびえたり、被害者が受ける被害はあまりに重大だ。法律的根拠もなく個人に制裁を加える「私刑」とも言える。炎上という現象の周辺にはどんな人たちがいるのか、どんな心理で関わるのだろうか……。(第2章につづく)
SNS暴力~なぜ人は匿名の刃をふるうのか 第2章・加害者たちの正体(2)炎上弁護士、加害者と会う(毎日新聞、2020年12月9日)
SNS暴力~なぜ人は匿名の刃をふるうのか 第2章・加害者たちの正体(2)炎上弁護士、加害者と会う - 毎日新聞(魚拓)[14] インタビューに応じる唐澤貴洋弁護士=牧野宏美撮影 「自分を苦しめたのはどんな人物で、何のためにやったのか」 誹謗中傷の被害を受け、その理由を知りたいと自ら加害者と接触した人たちもいる。 第1章で登場した唐澤貴洋弁護士は、複数の加害者を特定し、面会した。本人の了解を得たうえで警察から情報を得て、探し当てたという。見えてきたのは、攻撃的な投稿とは結びつかない、意外な姿だったという。 唐澤弁護士が会ったのは、殺害予告をしたり、事務所に嫌がらせをしたりした人たち数人だ。全員男性で、10~30代の学生やひきこもり。全く面識はなかった。 最初に会ったのは、20歳ぐらいの大学生で、両親も同行していた。父親は堅い会社に勤め、母親はどこにでもいそうな普通の感じの女性。大学生はうつむきがちで口数が少なく、理由を聞くと「面白かったのでやっていました。そんなに悪いことだと思っていませんでした」。過激な投稿を称賛する他のユーザーの反応や、度胸試しみたいな雰囲気が面白かったようだという。 30代の無職の男性は、年老いた母親と事務所を訪れた。ずっとおどおどして「すみません」と言い続け、「理由を聞いてもまともに答えなかった」という。 医学部志望の男性は浪人2年目で、父親が医師。面会は両親も一緒だったが、唐澤弁護士は、父親が自分の息子が問題行為に関わったことについて、どこか人ごとのような態度だったのが気になった。そこで「どういう家庭なんですか」と聞くと、その男性は「父親が怖くて、せきをする音にもおびえて生活している。浪人生で居場所もない。投稿をしているといやなことを忘れられる」と語ったという。 唐澤弁護士は事務所の鍵穴に接着剤を詰められる被害にも遭った。実行したのは10代少年で、その場で警察官に取り押さえられた。唐澤弁護士は被害届を出さなかったが、母親を電話で呼び出し、少年とともに会った。着古したコート姿で現れた母親は、涙を流して謝罪の言葉を述べ、語り始めた。少年は母子家庭で育ち、中学校で勉強についていけなくなり、通信制の高校に在籍していた。常にインターネットを見ていて、母親がやめさせようとパソコンを取り上げたものの、バス代として渡したお金でネットカフェに行き、掲示板に書き込みを続けていた。唐澤弁護士が少年のものとみられる書き込みを確認すると、他のユーザーからあおられて、どんどん過激な投稿をしていた様子が分かった。唐澤弁護士の実家近くの墓を特定して写真を投稿したのもこの少年だった。 殺害予告の書き込みについては事件化され、逮捕された人物にも会った。20代の元派遣社員で、「謝罪したい」と手紙をもらったためだ。殺害予告の相手と会うことになり、唐澤弁護士もさすがに恐怖心を抱いたが、実際に会ってみると「優しそうで繊細な印象の青年」だった。とつとつとした口調で、「投稿に対する反応が面白くてやった。申し訳ない。友達がいなくて孤独で、掲示板に書き込んでしまった」と語った。 直接会うことはなかったが、殺害予告を書き込んだ別の大学生からは、几帳面な文字で経緯や反省を綴った手紙が届いた。「現実逃避のためにネットに夢中になり、掲示板を利用するようになった。最初は唐澤さんへの中傷の書き込みを眺めているだけだったのが、人を傷つける凶悪な言葉を繰り返し目にするうちに感覚がまひし、いつしか自分も傷つける側になっていった」などと経緯を説明。殺害予告については「ネットのコミュニケーションの一つ」という言葉で表現し、「唐澤さんがどんな気持ちになるかは考えなかった」と書かれていた。 ネットは居場所、孤独で罪悪感乏しく 複数の加害者と面会した唐澤弁護士は、「正直、拍子抜けした」と明かす。 相手が開き直って何か主張してくれれば怒鳴り合うぐらいの覚悟はできていたが、「みんなすんなりと謝るんです。私に恨みがあったり、こだわりやドロドロした感情を抱いていたりする人はいませんでした」。 彼らに共通するのは、コミュニケーション能力が低く、周囲に理解者が少なく孤独、罪悪感が乏しい──という点だった。 「彼らにとってインターネットは居場所だったんだ」。加害者との面会を通じ、唐澤弁護士はこう考えるようになった。掲示板はある種のコミュニケーション空間で、疑似的な「仲間」がいる。過激な内容のネタを随時投稿することによって、会話が盛り上がって関係が円滑になり、居場所が保たれる。それが彼らの自己確認、存在証明の場になっている──というのだ。 「テーマや攻撃の対象は何でもいいわけです。私という人間に興味があるわけでなく、みんなが知っている共通の『記号』としてネタにされていただけなのだと思います。その証拠に、私への攻撃が落ち着いた後、今度は攻撃していた側の一人が標的にされ、炎上していました。大義があるわけではないのです」 前述した大学生は、手紙の最後に謝罪とともにこう綴っていた。 「弁護士として真面目に仕事をされていただけの方が、大勢の匿名の悪意にさらされることの理不尽さが、今の自分にはやっと分かるようになりました。苦しめられる人から目を背けない大人になりたい」 少し救われた気がした。唐澤弁護士は、居場所をネット空間に求める若者たちの背景にある社会的、構造的な問題にも目を向けるべきだと考えている。 俳優が10代加害者と対話を重ねた理由 テレビや舞台で活動する俳優の土屋シオンさん(28)も加害者と向き合った一人だ。 仕事や趣味、日常のニュースから感じたことを積極的にツイッターでつぶやいていた土屋さん。2020年2月頃から、悪質な書き込みや嫌がらせのようなリツイートが増えた。 〈この4流役者め!!!!!!〉 〈四流俳優の死ってドラマ作ろうww〉 粘着質な相手には〈二度と絡んでくんな〉と返信したが、逆にさらなる「炎上」を招いた。「ウィキペディア」の土屋さんを紹介するページは、「没年月日 2020年3月30日」「死没地 twitter」などと改変された(現在は削除)。 自身のフォロワーは約3万人。ツイートに「いいね」してくれる人は、本当に自分を支持してくれる仲間なのだろうか? それとも敵なのか? 「3万人が監視していて、その中に殺人鬼がいるような気がした」 疑心暗鬼に陥り、街で少し視線を向けてきただけの人も怖くなった。 だが、こうした中傷を「スルーせず、向き合いたい」と約10人の身元を特定。驚いたのは、ほとんどが10代だったことだ。「人生これから」という時期。訴訟に持ち込んだり、通っている学校に連絡したりして、退学に追い込むようなことは避けたい。そう考え、電話で直接やり取りすることにした。 「書き込んだのは、なんとなく。理由なんてないです」 中学生から大学生までの男女と話したが、総じて加害意識が希薄だった。 「芸能人はみんな(中傷されることを)我慢しています」「(土屋さんの)イメージ悪くなりますよ」などと、自分のしたことを「正論」のように主張する学生もいた。 土屋さんの電話を受け、「これって、要は訴えたり学校に連絡しないから話せって事ですよね」と、「脅迫された被害者」のように振る舞う人もいたという。 彼らの主張に対し、土屋さんは冷静にこう説いた。 「『なんとなく』『芸能人だから』という理由で奪っていい尊厳なんてないし、『みんながやっているから』というのも違う。それは正しさの証明にはならない。何が正しいか、自分で考えることが大事だ」 ネット上と現実世界を切り分けてとらえている点も気になった。 「ネットの問題をリアルの世界に持ち込まないでください」「母親とか学校とかにツイート見られる方が地獄」。彼らは迷惑そうに反論した。土屋さんは「殴り合いのけんかをすれば、殴られた人の顔も見える。でも、ネット上では殴っている感覚がなかったのだと思います」と分析する。 土屋さんには、ネット上の誹謗中傷に悩んだ末に芸能界を引退した仲間もいて、「ネット上で拡散した言葉で、一人の人生が奪われた。許せなかった」と話す。被害は誰にでも生じ、深刻な結果をもたらす。次第にネット中傷そのものをなくしたいとの思いが強くなった。中傷加害者の若者たちと直接話したのも「大人として、ちゃんと子どもたちと向き合って、すてきな人生を送ってもらいたかった」ためだ。特撮ヒーロー番組に出演した経験もあり、「子どもたちにとっての『ヒーロー』でありたい」との思いもある。 「行動を起こして良かった」と思えることもあった。メールでやりとりした男子高校生から後日、「やりたいことを見つけて、友達もできました」との連絡があったのだ。 「彼らはネット上で他人を見下すことで、人から認められたいのだと感じました。でも、自分の実生活で努力して居場所を見つけてくれて、本当にうれしかった」 属性さまざま 街中でも分からない「普通の人」 ここまで紹介した誹謗中傷の加害事例は、若年層の男性によるものがやや多い印象だが、取材を総合すると、実際は性別や年代はあまり関係ないようだ。 先述した甲本弁護士は、「加害者」からの相談を受け付ける専用サイト「名誉毀損ドットコム」を2016年に開設。年間150~200件の相談を受けているが、年齢層は20~50代で男女はほぼ同数、職業も無職や会社員、公務員、主婦など幅広い。「ネットユーザーの構成と同じという印象」と話す。 第1章で紹介したスマイリーキクチさんも、警察から中傷を書き込んだ相手の写真を見せてもらったことがある。サラリーマン、主婦、国立大職員、プログラマー、高校生──と属性はさまざまだが、「街中ですれ違っても全く分からないような、ごく普通の顔の人」だったという。暴力的な書き込みと大きなギャップを感じ、「彼らは匿名になった瞬間にこんな言葉を書くのかと。ショックでした」と振り返る。 加害者の男女比の正確なデータはないが、「女性が多い傾向がある」との指摘もある。ネットトラブルに詳しい深澤諭史弁護士(第二東京弁護士会)は、ネット上で中傷した側の相談対応や代理人も手がけてきたが、こうした投稿のうち3分の2近くを女性が占め、30~40代が多いという。 「あくまで私が取り扱ったケースですが」と前置きしたうえで、男性は相手から不快なことをされて恨みを抱いて攻撃的な投稿をするケース、女性は他人の良い暮らしぶりなどに嫉妬を抱いて悪意を持つケースが目立つという。最近、女性に特徴的なのは、写真をメインにしたインスタグラムの投稿を巡るトラブルだ。ブランド品を持っていたり、高級マンションに住んでいたりする様子を写真で見ると、それに嫉妬した人が根拠がないまま〈実は中古品だ〉とか〈高級マンションと言うが、部屋は低層階だ〉などと相次いで書き込む。こうした投稿をした理由を聞くと、「他の人のコメントを読み、すごく悪い人だと思った」などと語り、自身の書き込みの違法性を認識できない人が多いという。 多くの相談に乗ってきた深澤弁護士は、誹謗中傷に及ぶ背景の共通点として、「現実社会で感じている抑圧への反動がある」と指摘。誰でもやりたくてもできないことがあり、不満がある。「SNSならやりきれない現実から離れ、我慢しなくていい。だから、攻撃的な投稿に走り、興奮し、快感を覚えるようになるのではないか」と分析する。 被害と加害は表裏一体 中傷に関わる多くは「普通の人」だからこそ、いったん自分のしたことの重さを知ると、罪の意識にとらわれ、深い苦しみに陥るケースも多いようだ。 甲本弁護士によると、相談に訪れる加害者の多くは、被害者側がプロバイダ業者などに発信者情報の開示を請求し、業者からそれに同意するかを問う意見照会書が送られて初めて自身の悪質な行為に気づくという。 相談者の大半が、精神的に不安定になり、何日も眠れない、食事が喉を通らない、仕事に行けない、などと訴える。 「匿名だからと安心して書き込んでいたのに、突然ネット上でしか知らない相手方とつながったことにショックを受けるようです。ひどい場合には自傷行為に走ったり、自殺してしまった人もいました」 甲本弁護士によると、自殺したのは30代のひきこもりの男性だった。命を絶った後、家族が男性あての意見照会書を見つけて、相談に訪れたという。 「自分はとんでもないことをしたのではないか、警察に逮捕されるんじゃないか、と思い詰めて八方塞がりになったようです」 罪悪感にさいなまれる加害者は多い。甲本弁護士のもとには、「死のうと思って、今踏切にいます」「今から自殺します」という電話が半年に1度ぐらいかかってくる。そのたびに「死ぬような問題ではない」と落ち着かせて、後日相談に来るよう説得するという。 多くの事例を扱ってきた甲本弁護士は「経験上、ネットトラブルの背景にはネットへの依存があると感じています」と語る。そのうえで、「交通事故と似ていますが、自ら動いてたくさん発信している以上、誰でも被害者にも加害者にもなる可能性があります」と指摘する。 ネットによる誹謗中傷は、被害者側は言うまでもないが、加害する側も深い傷を負う。 炎上に油を注ぐ特定班とは 人々を加害行為に駆り立て、炎上を過熱させる背景の一つに、「特定班」と呼ばれる人たちの存在がある。ネット上で話題になったり、非難されていたりする人物の個人情報を突き止め、さらす人たちだ。特定班の人たちがもたらす情報によって、新たな「標的」が設定され、炎上が生まれる条件が整えられていく。 〈地下鉄サリン事件と変わらないテロ行為〉 〈傷害罪ではすまない、殺人未遂だ〉 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言発令下の2020年5月、ツイッター上には激しい非難の言葉が飛び交った。大型連休で東京都から山梨県内へ帰省中にコロナ感染が確認された女性が、PCR検査で陽性判明後に高速バスで都内に戻っていたにもかかわらず虚偽申告していた、と報道された。これをきっかけに女性に対するバッシングが過熱したのだ。 女性の本名や勤務先、顔写真、家族の職業などを「特定」したとする真偽不明の情報が拡散された。これには、山梨県が数日にわたって記者会見を開き、女性の帰省中の行動エリアや女性の実家のおおまかな場所などを発表したことも影響したとみられる。 女性に関する情報をまとめた「トレンドブログ」もネット上に乱立し、東京都内の「勤務先」の電話番号を記載して通報を促すものもあった。女性の勤務先として一方的に名指しされた飲食関連の企業は、ホームページ上に「SNS等における事実無根の情報について」と題した文面をアップし、「当社関係各位に新型コロナウイルス感染者は確認されておりません。(中略)この風評被害に関しては、法的措置も視野に厳正に対応していく」と抗議した。女性の友人と称するツイッターのアカウントも「自分が彼女とバーベキューをした人物だと勘違いされ、職場に多数問い合わせがあったり、親戚の家に無言電話が来たりしている」などと被害を訴えた。 炎上の「燃料」としての役割を果たす「特定班」の正体は何なのか。ジャーナリストの渋井哲也さん(50)は、インターネットでつながる人たちを取材する中で、「特定班」と名乗る複数人と接触した経験があるという。 渋井さんによると、「特定班」が登場するようになったのは2000年頃。インターネットが普及し、「2ちゃんねる」などのネット掲示板の利用者が増えてきた時期だ。 「起源は不明ですが、代表的な活動場所としては『2ちゃんねる』のスレッドの一つ『既婚女性板(通称「鬼女」)』が挙げられます」 特定作業には手間がかかることから、パソコンの前に長時間いる人という意味で、名付けられたが、実際にはなりすましもいて、専業主婦のほかにIT関係者、大学院生も多かったとみられる。 「班」といっても、互いのつながりがあるわけではなく、それぞれが自分が得た情報を成果として投稿していき、集積された情報によって特定につなげる仕組みだ。 対象となるジャンルは、芸能ネタや事件、いわゆる「バカッター」と呼ばれる、悪ふざけ動画を投稿した一般の人など多岐にわたる。芸能ネタでは、タレントの男女のSNSなどをチェック。発信している場所や時間、内容に共通性があれば「交際しているのでは」などと情報を流す。 ある女性タレントの投稿したコメントの行頭の文字を拾っていくとある著名スポーツ選手の名前を挙げてメッセージを送っているように読めるとして、この二人が不倫をしているという発信もされて話題になった。また、白紙撤回に追い込まれた東京オリンピックのエンブレムについては、ネット掲示板などでデザイナーの盗用疑惑が次々に指摘された。 社会をにぎわす大きな事件では、容疑者に関する情報を徹底的に調べる。名前やニックネームなど、考え得るあらゆるパターンで検索をかけてSNSやブログを割り出したり、背景写真から画像検索をして実家などゆかりの場所を特定したりするという。 動機はエンターテインメントと少しの正義感 前述の山梨県に帰省した女性のように、一般人が特定班の標的にされる例は少なくない。 バイト中に冷蔵庫に入るなど悪ふざけした動画を仲間内の「LINE」で共有していたところ、一人がツイッターなど開放されたSNSに投稿してしまい、それが拡散して批判を浴び、標的にされるケースもあった。また、ある出会い系サイトで、「有名企業の就職内定者だ」と言って女性を誘っていた男性が氏名を特定され、それを誰かが企業側に通報して内定を取り消されたケースもあったという。 「特定班」は何のために動いているのか。渋井さんは、「エンターテインメントと少しの正義感」と考える。ネット上にあるヒントを集めて情報を絞っていく作業自体が楽しく、真実か噓かは関係ない。特定することでツイッターで称賛され、話題が広がっていくのが快感なのだと。「その過程で、少しだけ正義感を感じる時もあるのではないか」と推測する。 山梨の事例のように、特定したとされる事実が間違っていることも多い。第1章で紹介した、2019年の常磐道あおり運転事件で、主犯の同乗者と誤認された女性の事例も同様だ。渋井さんは「間違った情報を流して特定した場合は、名誉毀損などで損害賠償を求められる可能性が高い。たとえ正しかったとしてもプライバシー侵害になる」と警告する。 匿名による中傷によって、相手が受ける被害は甚大で傷は深いが、対照的に加害者の動機はあまりに軽い。(第3章につづく)
SNS暴力~なぜ人は匿名の刃をふるうのか 第4章・深刻化する被害の真相(2)中傷は突然降りかかってくる火の粉(毎日新聞、2020年12月11日)
当記事については唐澤貴洋について書かれている部分が少ないため、一部のみ抜粋して掲載する。
SNS暴力~なぜ人は匿名の刃をふるうのか 第4章・深刻化する被害の真相(2)中傷は突然降りかかってくる火の粉(魚拓)[14] 〜略〜 「見なければいい」ができない心のメカニズム ネット上の誹謗中傷への対処方法として「見なければいい」「気にしなければいい」という見方があるが、現実には難しいようだ。第1章でスマイリーキクチさんは、ネット上の暴言を「スープに入ってきたハエ」に例え、支持や応援が大半でも、批判が気になると語った。唐澤貴洋弁護士も、「何が書かれているか気になり、インターネットを見ずにいられなかった」と証言する。これはどういう心の働きによるものだろうか。 インターネットとストレスの関係を研究している明治大学の岡安孝弘教授(健康心理学)によると、人は特定の物事を考えないようにすればするほど、かえってそのことが頭から離れなくなってしまう傾向(思考抑制の逆説的効果)や、仮にポジティブな経験とネガティブな経験が同程度の量であっても、「ネガティブな経験ばかりしている」ととらえてしまう傾向(選択的注目)があるという。 これらを踏まえ、岡安教授は「ネット上の誹謗中傷にとらわれてしまうのは、少数であってもネガティブなコメントに『選択的注目』してしまい、それを忘れようとすればするほど忘れられなくなるという『思考抑制の逆説的効果』の状態にはまりこんでしまっていると考えられます」と指摘する。 こうした思考回路によって抑うつ傾向が強まると、さらに四六時中、ネガティブな思考を続けてしまう「ネガティブ思考の反すう」が起きる。SNSを見ないようにするなどの遮断行為を取ることも難しくなる。反すうしているうちに、「自分が想像しているよりもひどいコメントが書き込まれているのではないか」と不安になり、不安を解消するために見ざるを得なくなってしまうからだという。不安と確認の悪循環が起こり、この状態が悪化するとうつ病になり、自殺に至ってしまうこともある。 香山さんは追い詰められる人の心理に関し、「特に自分が揺らぎ、自信がない時に誹謗中傷が拡散されたり、大勢が同意したりしている状況が続くと、この世には居場所がないと思ってしまう人もいます」と分析する。 「匿名の投稿であっても、実は知り合いなんじゃないかとか、自分が誹謗中傷されていることをみんな知っているんじゃないか、とだんだん疑心暗鬼が深まる。リアルな生活でも思い詰めてしまうのです」 1日100件もの中傷を受けた、と書き残した木村花さんは、どれほどのダメージを受けたのだろうか。香山さんは「まだ若く、プロレス選手としてどう活動していくか、芸能活動とのバランスをどうとるか、などいろいろ考え、悩みもあったと思います。そういう中でテレビに出て、その出演シーンに対して中傷され、彼女自身の悩みや揺らぎが大きくなってしまったのではないか」と推測する。 〜略〜
註釈
- ↑ 掲示板で実名あげて中傷、誰が? 悩んだ末の親子の決断:朝日新聞デジタル(スクリーンショット)
- ↑ 書き起こし(上段)
- ↑ NEWSポストセブン 人気スターのファンがSNS投稿でアンチから中傷、その解決法 1(魚拓)、2(魚拓)、3(魚拓)
- ↑ スバケー 【八神太一殺す】雑談★19【(コテデビューしちゃ)いかんのか?】>>515(魚拓)
- ↑ ネット発信、「○○に行く」が危険 Hagexさん事件:朝日新聞デジタル(スクリーンショット)
- ↑ 書き起こし(中段)
- ↑ スバケー 【唐澤貴洋殺す】雑談★34【いまは無き法律事務所。】>>484(魚拓)
- ↑ Hana Kimura death spurs new law to regulate cyberbullying in Japan(魚拓)
- ↑ ネット中傷、闘った苦心 発信者の特定に壁:朝日新聞デジタル(魚拓)
- ↑ 突然、掲示板に「詐欺師」 炎上弁護士が見たネット中傷:朝日新聞デジタル(魚拓)
- ↑ ネット中傷との闘い方 経験者2人が語る「ハードル」:朝日新聞デジタル(魚拓)
- ↑ 「澤」の字が新字体になっているのは、尊師の誤記ではなく、中日新聞社の表記規定に基づくものである。
- ↑ 匿名の刃~SNS暴力考:100万回殺害予告受けた弁護士が加害者に面会して目にした「意外な素顔」 - 毎日新聞(魚拓)
- ↑ 14.0 14.1 14.2 14.3 有料記事。毎日新聞の有料記事はUserAgentをGooglebotに偽装することで無料で閲覧することが可能。