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恒心文庫:浅い海の虎

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

人は人を殺してはいけない法律を遥か昔に作った。
私は何度も父に尋ねた。何故そのような法律を作ったのかと。
父は、その度こう答えた。それは人間が社会的な生き物だからだと。
自分は初めにこう考えた。人間は人を殺すという快楽に溺れていたら種を残せないからだと。
しかし、それは過ちだったと気付かされた。それほどまでは昂らなかったからだ。
俺は次にこう考えた。人を殺すと己に刃が帰ってくるからではないかと、だ。
つまりある種の自己防衛だ。
しかし、これも違った。俺の心臓が止まることはなかった。
あくる日から僕は毎日、殺すと不特定多数の人間から予告を受けるようになった。
けれども一度も命を脅かされることはなかった。
心臓に寄せては返す血潮は止まらない。
僕は分からなかった。殺人は人間の作った法律への叛逆だ。
それを仄めかすような発言ですらペナルティを受けるというのに彼らは止まらない。一手に殺害予告を受けた私が感じたのは「衝動」だった。私は激しく震えた。
俺は思った。殺意はやはり神が平等に人間に分け与えてるのだと。
僕は真理にたどり着いた。人間は一度に全ての人間を殺す事ができるその日まで、お互いに手を出さないようにしてたのだ。
神になる人間が現れる、その日まで。
手のひらの中にある小さな箱の突起がとても愛おしい。
当職はきっと、もうすぐ神になる。

挿絵

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