恒心文庫:カーランコア
本文
威力が足りない。唐澤貴洋がボソリと呟いた。日本のあちこちの地下深くにあるサティアンのどこか一つ、今回は東北サティアンで貴洋は核実験を行っていた。
凄まじい厚さのガラスの水槽には水が湛えられそのさらに奥で青い光を発する装置があった。貴洋は手下の者たちに核実験の進捗はどのようなものか聞いたところ震度6の地震を起こす程度の威力だと聞いたことに苛立ちを感じ始めた。
もっと巨大でないと悪いものたちを地震で滅ぼすことができない。貴洋はデータ集めの一環として手下達にカーランコアの研究を再度命じた。カーランコアとは未臨界のプルトニウムの塊であり、これまで何人もの手下の化学者などを葬っている。
貴洋がサティアンに設けられている病室の一つに見舞いに行った。そこには全身をガーゼに覆われて身動きひとつしない人の形をした何かが特殊なベッドに横たわっていた。
「裕明、随分と無惨な姿になったものだな、当職の事務所からむけて弁護士として一皮剥けてやると豪語していたが被曝により本当に皮が剥けてしまったな」
その人型とは裕明であった。裕明は拉致された後カーランコアの実験を危険性を知らされぬまま強引に参加させられ臨界事故を起こし放射線障害の治療を受けていた、ガーゼに覆われたその姿は彼の成れの果てである。
裕明の容態は極めて悪く、体表と下血により一日10リットルの水分が失われていくので
分刻みで輸血が行われていた、腎機能は廃絶し人工透析を受け、いつ止まるかわからない心臓を無理矢理動かすため強心剤が毎日のように投与されていた。
「当職は思うのだ、人の肉体をここまで崩壊させる核兵器と放射線というものは、悪いものたちを内面と同じくらい醜くして誅戮するのに大変都合がいいと。貴職もそう思うわないか?裕明」
貴洋は裕明に話しかける、がなんの返答もない、呼吸させるために気管に挿管されているからだ。貴洋は医師に裕明に意識はあるのかと問うと、対光反射が確認できないので脳死状態に近い、意識はないとの返答に貴洋は少し悲しそうな顔をした。
貴洋は踵を返し裕明の病室から出て行きまた東京に戻った。当職の理想である優しい世界を実現するためにはどうすればいいか、そんなことを考えているうちに裕明の事は頭の中から消えてしまった。
タイトルについて
この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。
この作品について
この作品は、終戦直後のアメリカで行われた「デーモン・コア実験」を唐澤貴洋らでパロディしたものである。