そのツイート炎上します!/本文

2021年10月23日 (土) 17:25時点における>島田「にかい」による版 (→‎なぜ炎上するのか)
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はじめに

 私は弁護士として、ネット上の法的問題をよく取り扱っています。専門家としてテレビでコメントする機会をいただくこともあります。弁護士として一般的にみなさんが想像されるような業務も数多く担当していますが、中でもネット問題に特に熱心に取り組んでいます。それは、私自身が過去にインターネット上で誹謗中傷や殺害予告を受けた経験があるからです。
 私に対する攻撃は2012年にネット上で誹謗中傷されていた少年の弁護を引き受けたことに端を発します。
 当時、掲示板「2ちゃんねる」は削除請求の依頼をすべてネット上で公開していました。つまり、中傷を受けている人が自分の被害を訴えて記事の削除を求めるとそれがまた心無い者の目に止まるということです。
 その結果どうなるか。削除されるどころか、さらに心無い記事が拡散される事態になりました。
 私はその少年の代理人として削除依頼を掲示板に書き込みました。当時、インターネット上の誹謗中傷などによる事件を担当する弁護士はあまり多くいませんでした。ですから、私の行動は目立ったのでしょう。

 掲示板が匿名で書き込めることを盾にして、心無い悪口や、人格を否定するようなことを繰り返し書き込む悪質な人間がいました。
 彼らは特定の人間を攻撃することを常習的に行っていました。
 当時はスマートフォンの普及時期と重なっていたので、インターネットがぐっと身近になり、ネット上の犯罪や誹謗中傷などが話題になった時期でもあります。
 私は仕事という枠を超えこの問題に熱心に取り組みました。そして、炎上問題に向き合うことを決意します。そのことが、惨事を招くとも知らずに。
 当時の私は34歳です。まだ弁護士としては駆け出しですし、若さと気力に溢れていましたから、自分のライフワークとも言える仕事に出会えたという感慨さえありました。誹謗中傷の被害者とも一生懸命に向き合ったつもりです。
 あることをきっかけに、ネット住民の中で、私の名前が次第に取りざたされるようになりました。
 少年への掲示板での複数の誹謗中傷に対し、削除依頼とともに発信者の情報開示請求を行ったことがどうも癪に障ったようです。弁護士という立場で法を振りかざし、自分たちの居場所を一方的に奪おうとする悪魔に見えたのかもしれません。私がさぞかし憎く思えたことでしょう。
 すると、私のツイッターのアカウントに粘着するものが現れました。アカウントはすぐに非公開にしたものの、そこに書かれていた情報やフォロワーなどから類推して、適当なネガティブワードの投稿が始まりました。
 例えば、グーグルなどのサーチエンジンで検索すると、同時によく検索されるワードが出てきます。私の名前とネガティブワードを並列した記事を投稿することで、もし一般の方が私の名前をグーグルなどで検索すると、そのネガティブワードがすぐに出てくるのです。これはサジェスト汚染といわれるもので、現在までも続く嫌がらせの一つです。

 同時に私に対する罵詈雑言も掲示板に多く投稿されるようになりました。今度は私が自ら自分に対する発言の削除依頼と発信者の情報開示請求を行ったのです。

 裁判所で仮処分申請を行ったその結果、私は大勢の悪意を一身に受けることになりました。まず私に敵意を向けたのは、掲示板で熱心に書き込んでいたネット住民です。彼らは自分自身の居場所を荒らそうとする私を敵とみなしたのです。
 私はその展開に驚き、元来小心者の私は日中も不安に苛まれ、睡眠はアルコールに頼るようになりました。いわゆる私の個人名が晒され「炎上」してからわずか数週間のことでした。

 その3ヶ月後のこと。
 想像していないことが起きました。私の殺害予告が書かれたのです。
 「唐澤貴洋を殺す」と言う投稿の存在に気がついた私は、すぐさま警察に相談しました。
 投稿の主は高校生でした。高校生は面白半分で書き込んだようですが、私は怒りを覚えるよりも先に、心の底から震えあがりました。見知らぬ人から殺すと予告される恐怖を皆さんは経験されたことがあるでしょうか。その日から私への無数の殺害予告が始まりました。
 ある時は事務所への爆破予告がありました。その時はテレビクルーが撮影に来ましたが、もちろん実際に爆弾が爆発することもなく、テレビ局のクルーは緊張感のない顔で帰って行きました。おそらく、爆破などされない単なる脅しであることもうすうすわかっていたのでしょう。
 掲示板では私に対する誹謗中傷は当たり前となっていました。殺害予告も頻繁に行われるようになります。本当に殺したいわけではなく、「殺す」という予告を書き込むことがブームのようになっていったのです。
 殺害予告は日夜繰り返されました。その数はなんと100万回以上もあったといいます。
 そして、私についたあだ名が「炎上弁護士」でした。

 「炎上」とはなんでしょうか。
 インターネット上の炎上とは、ひとことで言えば、「インターネットユーザーが行った投稿が集まった様子」を表します。
 多くの投稿が集まる、その現象が「炎上」と表現されるのです。
 実際には「炎上」という言葉は、ネガティブな意味として用いられることが多いでしょう。「炎上芸人」「炎上作家」「炎上弁護士」といった言葉がどんな文脈で使われるか想像していただければおわかりいただけると思います。
 投稿とは何のためにするのでしょうか。 文字、画像、音声を利用してわざわざ発信する目的。それは他のインターネットユーザーに言いたいことを伝えるための行為です。誰にも伝わることを求めていないのであれば、ワードにテキストをただ打ち込み、パソコンに保存すればいいだけですよね。つまり、投稿とは自分から他者に向けたひとつのコミュニケーション行為なのです。
 また、自分に対する他人の評価を、より自分が思っている自分に近づけるために、自分に関する情報をインターネット上に投稿する人もいます。  他者と自分が全く同一の存在であれば、何かを伝える必要はありません。しかし、この社会に自分と同一の他者は存在しません。
 人が何かを伝えるという営みは、自分に対する他人の理解を深めることを目的とした行為と言えます。

 投稿が「言いたいことを伝えるための行為」だとしたら、炎上とはコミュニケーションの集合体ということになります。
 そもそも、人が「誰かに何かを伝えたい」と思うのはどういう状態でしょうか。
 人は何かの事象が起こったときに、自分の頭の中で1認識して、2理解して、3感情が発生します。
 その際、人それぞれが持っている倫理観・思想・価値観に基づき、自分の中に事象を取り込みます。その後、感情が発生することもあります。そして、他者に自分の感じ方や考え方、「その事象についてどう思ったのか」を伝えようとします。
 この場合の感情とは、怒り、喜び、悲しみ、妬み、憂い、孤独感などです。


インターネット上で事象が発生
(わかりやすい表現としては「ネタの投下」)

人が認識、倫理感、価値感、論理的考え方、思想に基づく理解

人の感情の変化

事象に対する評価

評価の伝達としてのインターネット上での投稿

ネタの投下…

 炎上とはそれらの感情が大きく集まった状態を指します。
 このプロセスは決して単発的なものではなく、ネタとしての情報が投下されることが続く限り、永遠に連鎖を続けるのです。
 繰り返しになりますが、炎上とは単発的な投稿のことではなく、多数の投稿がなされることを指します。
 ここで大事なのは、「多数の投稿」という表現を使ったことです。『ネット炎上の研究』(山口真一著)によると、「インターネットで炎上に参加し投稿するのは0・5%しかいない」という研究が発表されています。多数の投稿はなされているが、マジョリティが参加しているわけではありません。
 本書では炎上のメカニズムから、炎上が起こった事例をもとにして、なぜその炎上が起こったのかを解説、さらに炎上を避ける心がけをご紹介したいと思います。
 次章では、日本や海外で起こった炎上の現象について、解説しましょう。

炎上百景

01 悪ふざけ 悪ふざけがネット上に流出して店もアルバイトも炎上

厨房内で不衛生な動画や写真を投稿して拡散、炎上。店の業績は大きく下がった。その結果、当該店員に対して損害賠償請求も

 東京都多摩区のそば屋でアルバイト店員が「洗浄機で洗われてきれいになっちゃった」というコメントをつけて、厨房の備品を使って仲間内でふざけて撮影した画像をツイッターに投稿したところ、あっという間に拡散。「不衛生」などのクレームの電話が相次ぎ、もともと店の業績が良くなかったこともあり、その後破産に至った。店はアルバイトに対し1385万円の損害賠償請求をした。
 この事件を端緒に、世間の目はアルバイトによる「バイトテロ」に目を光らせるようになった。だが、その後もアルバイトによる不適切投稿は相次いだ。
 記憶に新しいところでは回転寿司大手の「くら寿司」で、厨房で制服を着た男性が、魚の切り身を包丁でさばいて、「これは捨てます」と言いながらゴミ箱に投げ入れたあと、拾い上げてまな板の上に置く動画を投稿。くら寿司もその事実を把握し事態の収拾に動いたが、上場会社を舞台にしたバイトテロに世間は注目した。どちらもアルバイト店員の身分はネット上で特定され、個人攻撃が始まったことにも注意したい。
 くら寿司運営会社は2019年には店売上高4カ月連続前年割れを記録。本件の影響だけではないだろうが、イメージダウンは避けられなかったということだろう。

02 有名人であるがゆえ 若い女性が政治的発言をすると炎上しやすい傾向にある

ローラさんが政治的発言をしたら袋叩きに。若い女性や芸人が政治的発言をすると反論が必ずくる

 もともとおバカキャラで知られていたタレントのローラさんは、現在アメリカに拠点を移している。日本ではCMやインスタグラムでの活動が主だが、若者に対する彼女の影響力はとても大きい。
 彼女が昨年12月に辺野古の基地問題について発言をしたところ、世間からの大バッシングを浴びた。日本には芸能人が政治的発言をすることを良しとしない風潮がある。中でも大きい意見は、タレントがどちらかに肩入れすると、その反対派の支持を失うというものだ。CMなどの生命線とする[原文ママ]タレントにとってそのリスクは大きいようだ。
 彼女がインスタグラムで辺野古移設反対を表明すると、あっという間に袋叩きにあった。
 中でも若い女性が声をあげたことに対して、賞賛よりも、「勉強不足だ」「ハリウッドセレブが政治的発言をすることにあこがれただけ」という否定的な声が相次いだ。
 同時に右寄りの著名人からも[原文ママ]名指しで非難を開始。インフルエンサーの反応に呼応するかのように、ローラさんのインスタグラムには苦情コメントが殺到した。
 その投稿は削除されたものの、わけもわからないのに政治発言に首を突っ込みたがるというレッテルを貼られることになり、ますます意見を言うものが減った。
 言論の自由が認められている以上、論理的な戦いをすべきであり、勉強不足だと単に責めるだけでは何の意味もない。ローラさんのように自分の意見を自由に言える社会でなければならない。

03 暴言 ZOZOの前澤友作社長がツイッターで失言→株価下落

トップの軽率な発言でツイッターが炎上。株価は急落して企業はその対応に追われる

 「月に行く」と宣言したり、有名女優と浮名を流したり、個人納税額が70億だと公表したり、ツイッターのフォロワーに1億円をプレゼントしたりと話題を提供し続けたカリスマ経営者といえば「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの前澤友作社長だ。最近では服の原価を公表して炎上が起こり、最終的に株価が低下するなどツイッターでの話題作りにことかかない。
 前澤社長のツイッターの失敗は2012年10月に遡る。送料と手数料がかかることに対して不満のツイートをした顧客に対して、「二度と注文しなくていい」と発言したのだ。それも、前澤社長宛てのリプライではなく、本人がエゴサーチして見つけたという経緯もあって、前澤社長のツイッターは炎上した。
 前澤氏に対する擁護意見もあったが、企業の社長という立場にある人間の感情的かつ軽率な発言に対して株主はもちろん現場からも非難の声が相次いだ。
 その後、この問題の余波からか、11月からはそれまで1万円以下の買い物の際にかかっていた送料を無料にすると発表。顧客離れ対策に必死となった。
 近年も話題を振りまき続けた前澤社長だが、2019年2月にツイッター休止を宣言したところ、その直後に株価が上昇した。企業のトップとしては、情報発信をするときに、PR会社なりに任せるなど慎重な対応が求められる。

04 勘違い 東名高速事件の犯人の親と勘違いされた建設会社に威力業務妨害

デマ情報を鵜呑みにし正義感にかられたネット住民が電凸。迷惑電話をかけ、会社の機能を麻痺させ業務に支障を与えた  神奈川県の東名高速道路で2017年6月、ワゴン車が大型トラックに追突され夫婦が死亡した。発端となったのは高速道路のパーキングエリアでのささいなトラブルで、それに激昂した男性は、あおり運転を繰り返し最終的に高速道路上で夫婦を車外に出ざるをえない状況に追い込んだ。そこにトラックが追突し、夫婦は死亡した。
 センセーショナルな事件ゆえ、このニュースは大体的[原文ママ]に報じられ、あおり運転が法規制される大きな端緒となったが、同時にとある建設会社が加害者の実家であるとのデマがネット上を駆け巡った。「容疑者の勤務先」であり「実父」が経営するとネット上で拡散された建設会社には、中傷や嫌がらせの電話が殺到した。
 もともとはネット上の一つのデマだったが、やがてまとめサイトに掲載されると情報が爆発的に拡散。会社には嫌がらせの電話が殺到し、会社の機能は完全に麻痺した。  実害を被った建設会社の社長はテレビのインタビューで「どれだけ否定しても罵声を浴びせてくる」とその恐怖を語っている。
 この件で建設会社社長は名誉毀損で告訴状を提出。書き込みをした人物は特定され、11人が書類送検されたが、最終的に不起訴とされた。デマを流したものが罰せられなければ、デマを流す人間があふれかえることになってしまう危険がある。

05 ネット上のデマ ライオンが逃げたとデマを流して犯人が捕まる

災害時の不安な精神状態ゆえ思わずリツイート。だがその情報がデマである可能性も

2016年4月14日に発生した熊本地震の直後に「熊本の動物園からライオンが逃げた」というデマをツイッターに投稿したとして20代の会社員の男が逮捕された。「地震のせいでうちの近くの動物園からライオンが放たれた」という文とともに、コンクリート舗装された市街地を歩くライオンの写真が投稿されると、またたくまにリツイートされ、デマは一気に拡散した。同時に熊本市動植物園には問い合わせの電話が相次いだ。
 このケースではネットで拾った画像に適当なキャプションをつけて投稿。犯行の理由について「悪ふざけだった」と罪を認めたという。
 東日本大震災の当時も、被災地を荒らしまわる外国人窃盗集団などの情報や性犯罪の目撃談などが駆け巡ったが、実際に確認されたという報告はない。
 関東大震災の朝鮮人大虐殺に例を見るように、非常時におけるデマは拡散しやすいので注意が必要だ。
 災害時にデマを流し逮捕されるのは、熊本の事件が初めてであった。

06 広告の表現、主に男女に対するステレオタイプな描き方 牛乳石鹸の広告で家庭を顧みない父親を描き炎上

家庭を顧みない古き良き男性像、家庭を守る女性像。そのステレオタイプな価値観が消費者の怒りを増幅させる

 かつてはステレオタイプな男女像があった。男は夜遅くまで家庭を顧みず働くのがいいとされ、女は子供を産んで家事をしっかりこなし育児に専念するものだと。
 現在、炎上するCMや広告の問題でよくあるのは、その男女像に起因するものだ。広告を作る現場にいる人間、企業でその広告にゴーを出す人間が旧態依然としているとしか思えない。だから、問題の原因がどこにあるか、制作段階で問題であることが議論にすらなっていない可能性もある。
 炎上する理由は様々だが、すでに時代遅れの「男らしさ」「女らしさ」といった価値観の押し付けは大きな原因となる。
 2017年の牛乳石鹸のCMは、仕事に邁進するお父さんが、息子の誕生日を忘れて会社の同僚と酒を飲み帰宅する。酒宴の最中には何度も妻からの着信は[原文ママ]無視している。そして最後に風呂に入ってさっぱりして家族と仲直りするというストーリーだった。これはお父さんは仕事が何より大切という価値観を根底に敷いた物語であり、公開されるとすぐに非難の声が殺到した。
 特に石鹸のメインの購入層である女性からの否定的な意見が多く、企業はすぐにCMを削除した。

07 主に韓国人・在日に対するヘイトに反対するものへの嫌がらせ 炎上させる人たちの魔法の言葉「反日」

有田芳生議員に対して右寄りの有名人が批判。有田議員のツイッターは常に炎上状態に

 国会議員の有田芳生議員はもともとジャーナリストという経歴を持ち、オウム問題でその名を広く世間に知られるようになった。社会的弱者に積極的に手を差し伸べる政治スタンスを貫いており、特に「在日特権を許さない市民の会」などの保守と名乗る団体などが行う活動への批判を継続して行っている。
 朝鮮学校への学費無償化、外国人参政権の推進などの活動から、「反日」というレッテルを貼られ、ことあるごとに、いわゆる右寄りの著名人からの名指しの非難を受けている。拉致問題にも積極的に関わっているが、それに対しても「拉致問題を政治利用している」などの批判を受けることもある。
 この様に、一度「反日」と認定されると、その後は人格を否定するようなリプライが殺到する。有田議員は特に「熱狂的な」アンチを多く抱え、発言をするたび粘着質なコメントがつくことでも知られる。  右寄りの著名人は名指しで有田議員を批判し、それに呼応するように、批判コメントの量は増える。
 在日韓国人である女性に対しても、脅迫や嫌がらせが相次いで行われ問題になったが、それらはすべて「反日ゆるすまじ」という御旗のもとに行われている。
 ヘイトに基づく言論は、到底許されるものではなく、政府としても、ヘイトスピーチを厳罰に処す立法を行うべきという声も多い。

08 報道姿勢 報道機関と記者に対する憎しみで炎上

一度反日のレッテルを貼られたら何かあるたびにすぐに憎しみの対象となる。「朝日嫌い」というジャンルも確立

 新聞はどこも同じでない。新聞には各社、明確な主張のスタンスがある。右寄り、左寄りと二つに分けられるほど単純ではないが、朝日新聞と毎日新聞、そして東京新聞はネットでは怨嗟の対象になりやすいようだ。中でも、朝日新聞は反日の象徴として広く認定されており、「朝日新聞はつぶれるべき」との言論を広く目にする。
 過去に吉田証言をもとに事実と異なる記事を書いてしまった背景と、朝日新聞は日本を嫌いであるという過度な盲信によって批判は加熱[原文ママ]し、朝日新聞を批判する雑誌も多い。もはや「朝日嫌い」というジャンルが確立されたきらいもある。
 安倍政権の支持層と朝日嫌いは重複する面もあるだろう。首相が公の場である衆議院予算委員会で朝日新聞批判を行ったことは記憶に新しい。
 東京新聞の望月衣塑子記者に対する批判も最近は加熱[原文ママ]している。官邸から記者クラブへの望月記者の排除要請が報じられるに至って、海外からも批判の声が相次いだが、現実的にはネット上で「アンチ望月」がさらに加速している。
 安倍政権のやることなすことに批判するジャーナリストというレッテルを貼られた望月記者た[原文ママ]彼女の一挙手一投足が一部のものによって批判の対象となっている。しかし、記者としては質問を行うことは当然のことであり、ジャーナリストとしての職務を全うしているという視点も忘れてはならない。

09 アイドルがらみ アイドルグループのずさんな運営で炎上

アイドルが暴行されるという衝撃的事件と、穏当に幕引きを図ろうとする運営との対立

 2019年1月9日、アイドルグループのNGT48に所属する山口真帆さんがファンに向けた生配信中に衝撃的な告白を行った。彼女が語ったのは、悪質なファンが自宅に押しかけて暴行されたというショッキングな内容であった。涙ながらにその被害を訴えたものの、途中で配信は中断された。
 その後、グループ内部とつながっているメンバーが存在することを彼女が示唆した。
 3月には運営会社が第三者委員会の調査に基づく報告を行った。ファンと関係があったメンバーの存在を認めたが、問題の事件に対する関与はないとし、メンバーへの責任追求は行われなかった。
 この会見中に、山口さん本人がツイッターで異議を唱える。つながっているメンバーは全員解雇すると約束したこと、謝罪の手紙を書かされたことなどを暴露。運営の会見を根底から否定する内容に世間は騒然とした。  山口さんに対する応援の声は日増しに増え、運営への批判は加熱[原文ママ]した。同時に関与が疑われるメンバーのSNSには攻撃的なコメントが並び炎上状態となった。
 そして問題が解決しないまま山口さんはグループからの脱退を宣言。運営から批判されたことを明かし、山口さんに対する同情が集まった。

10 義憤 モンスタークレーマーに対する義憤、すぐに本人が特定され炎上

店にクレームを入れる様子を撮影。さらにそれをSNSやユーチューブにアップしたことで事件が発覚、逮捕へ

 2013年10月。店で購入した商品に瑕疵があったことで、店にクレームを入れに訪れ、さらに店員に土下座を強要した女が逮捕された。女は土下座の様子を携帯電話で撮影しあろうことかツイッターに載せたことで、アカウントが炎上。個人情報が特定されるなどのお約束の流れになったが、その後女は強要罪に当たるとして逮捕された。
 2014年にはコンビニの店員の対応にクレームをつけた集団が店長と本社社員を土下座させ、「おわびのしるし」としてタバコなどの商品を恐喝する。さらにその様子を撮影して動画サイトにアップしたことで問題が拡散。
 ネット上で本人たちの素性が特定され、情報が拡散していることを知った犯人の一人が警察に出頭し逮捕され、その後、他の者も逮捕された。
 どちらのケースも本人たちが自身の不法行為を無自覚にSNSにアップしたことで問題が発覚した事例だが、こういう場合の義憤に駆られたネット住民の行動は迅速で、すぐに犯人の個人情報が特定され、本人はもちろん家族の写真などがまとめサイトにアップされた。

11 差別意識 軽い気持ちのツイートが世界規模でトレンド入り。実況中継もされる

冗談で投稿した人種差別的ツイートが世界規模で話題となり、非難が殺到。勤務先からも解雇される

 世界でもっとも有名な炎上事件として知られるのがジャスティン・サッコという女性をめぐる一連のストーリーだ。この事件の内容は『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(光文社新書)という本に詳しい。それによれば、ある企業の広報部長だった彼女は南アフリカへ向かう飛行機に搭乗する直前、ツイッターに「アフリカでエイズにかからないといいな。というのは冗談、だって私は白人だから」と投稿した。
 この投稿が問題になった。彼女としては軽い気持ちだったという。11時間のフライト後に彼女は驚いた。なぜなら彼女のツイッターのリプライ欄は批判のリプライで埋め尽くされていたからだ。
 フライト中に起きていることも彼女をびっくりさせた。ツイートの対応に追われたジャスティンの所属会社は彼女に連絡を取ろうと試みたが、飛行中に携帯電話の電源を切っていたこともありコンタクトは取れなかった。会社が彼女が南アフリカにフライト中である旨をリリースしたため、「#hasjustinelandedyet(ジャスティンはもう着陸したか)」というハッシュタグがトレンド入りした。軽い気持ちで投稿した内容が世界を巻き込む大問題となり彼女は会社を解雇された。

12 政治家の失言 勢いに載る政治家の失言で潮目が一気に変わった

反安倍の急先鋒であった小池百合子都知事が「排除します」と発言したことであっという間に形勢逆転。議席を伸ばすことができなかった

 小池百合子都知事率いる希望の党。背水の陣の民進党は両院議員総会で希望の党への合流を決断した。だが合流するにあたって、リベラル派も取り込む形になるのかという報道陣からの質問に対し、小池都知事代表は「排除いたします」と厳しい言葉を用いた。さらに、その直後、質問した記者に向かって軽く笑んだ。
 その様子は「緑のタヌキ」というテロップ付きで拡散された。
 さらに小池代表の発言が全国ニュースで流されるに至って、それまでの追い風ムードから一転、世論は小池陣営に逆風となった。
 特に排除という言葉のもつインパクトは大きかったようで、希望の党の勢いは急激に失速した。結果、議席も伸びず、「あの発言がなければ自民党と競っていただろう」と残念がる者も多かった。  総理大臣の座を狙っていたとも噂され、飛ぶ鳥を落とす勢いだった小池代表は、軽はずみなひとことであっという間に勢いを失い、政治家の失言の痛手の大きさを広く世間に知らしめた。

13 不謹慎 猿に王女の名前をつけた動物園が炎上

新しく誕生した猿の名前を英国王室のベビーにちなんでつけたところ、「不謹慎だ」と大騒ぎに

 2015年大分市の高崎山自然動物園で赤ちゃんサルが誕生した。当時世間はイギリスのロイヤルベイビー[原文ママ]ブームに沸いていたため、ウィリアム王子とキャサリン妃の間に生まれた王女にあやかって、赤ちゃんサルは「シャーロット」と命名された。
 その直後から園には抗議の電話が相次いだ。
 「英国の王室に対して失礼だ」という意見と、「他国のサルに皇族の名前をつけられたらどんな気持ちがするのか」というものが大半であった。
 園の関係者は「冷静に判断すべきであった」と命名取り消しも検討するとしたが、そもそも名前は投票で決められる予定で、もっとも投票数が多かったのが「シャーロット」だった。
 動物園は「世間に迷惑をかけた」と謝罪したが、当の英国王室広報が「気にしていません」とアナウンスした。
 その結果、問題は一気に収束。怒っていた人たちは、ふりあげた拳を下ろす先がなくなったのか騒動はあっという間に沈静化した。
 現在もシャーロットは高崎山で元気に過ごしており、昨年末に行われた動物園の中で人気のサルを決める「選抜総選挙」ではメスザル部門で1番人気に選ばれ、トータル3度目の栄冠に輝いた。

14 インフルエンサー 人気ユーチューバー・ラファエル

炎上させて儲けるシステムを作り上げたものの、損をしたファンの怒りを買いユーチューバーが殺害予告を受ける

 人気ユーチューバー、ラファエルさんとヒカルさんは、「VALU」という仮想通貨サイトを使い、8月9日に上場した。VALUは購入者が増えると価値が上がる仕組みになっているため、ラファエルさんたちは自分たちの所有するVALUをツイッター上で宣伝し、VALUの価値を上げることに成功した。だが、これを8月15日に一斉にVALUを[原文ママ]売りに出し利益を得たという。
 しかし、所有するVALUを一斉に売却してしまったため、価値は一気に下がり購入したファンが損をすることとなった。これによってラファエルさんは炎上し、本人が経営しているとされる会社の登記簿を特定され、ラファエルさんの本名と住所ではないかという情報がネット上に出回った。
 さらに、イスラムの経典であるコーランをラファエルさんが燃やす動画が合成され、これが原因でラファエルさんは殺害予告を受けた。
 2018年には80%超という高利回りの投資として水耕栽培を紹介。これに関しても、みずにゃんさんなど複数のユーチューバーが投資の危険を訴えた。
 12月6日にBuzzFeedJapanが「人気ユーチューバー「世界一儲かる投資」「利回り80%超⁉」紹介動画が波紋」という記事を公開した。投資を募るには、出資法等の規制がかかるので、適法であるかをチェックする必要がある。
 ラファエルさんは、今年過激な動画を撮影し、炎上させて再生数を稼ぐというスタイルから変わることを宣言しており、その動向が注目される。

15 盗用 五輪エンブレムを登用したとして炎上

東京五輪の公式ロゴに採用されたデザインに盗用疑惑が。さらに騒動は飛び火して過去の作品にも飛び火した[原文ママ]

 2020年に開催される東京五輪に向けて、コンペで採用されたデザインに盗用疑惑が発覚し、白紙に戻されたのが2015年9月のこと。
 アートディレクターの佐野研二郎氏がデザインしたロゴが、ベルギーのデザイナーが作成したシアターのロゴに酷似しているとしてIOCに使用差し止めを求める訴訟がベルギーのデザイナーによって起こされた。
 国家を挙げての大イベントであり、国民が一致団結しようと盛り上げるオリンピックにケチがつくことはもっとも避けるべき事態であったが騒ぎは大きくなる一方であった。
 佐野氏は盗用疑惑の指摘について「全くの事実無根です」と盗用を否定したが、同時期に佐野氏の作った過去の作品が、様々なフリー素材を無断で使っていたことがネット民の調査で続々と指摘された。この一連の流れを受けて、サントリーは佐野氏の作品を使ったキャンペーンを中止した。
 佐野氏の作品のアラを探すことでネットは祭り状態になり、家族のプライバシーも脅かされた。

16 事後対応 後輩への発言で大炎上

後輩への揶揄を投稿してしまい、さらにシステムの不具合ですとわかりにくい言い訳を重ねてさらに大炎上

 2016年にHKT48宮脇咲良さんが田島芽瑠さんのファンのツイートにコメントする形で後輩・田島芽瑠さんの体型に関する話題を投稿した。
 「ぱんっぱん」というツイートは明らかに、田島さんの体型に対するもので、これに対して多くのファンから苦情が寄せられると同時に、裏アカウントに投稿すべき内容を誤爆してしまったのではと推察された。
 これに対し宮脇さんはツイッターの不具合であるとわかりにくい説明をしたことでさらに炎上した。
 誤爆といえば、楽天トラベルの公式アカウントが、歌手の柴田淳さんに対して「ブサイク」とリプライを送って大炎上したこともあった。
 企業の公式アカウントを運用する人物が自分のアカウントと間違えてか、プライベートな内容を投稿してしまうミスは後を絶たないが、悪質だったり、悪意があるものはすぐに発火して企業の価値を下げる恐れもある。
 現在はSNSの運用にガイドラインを設ける企業も増えている。

17 感情を逆なで タイミングが悪い場合も炎上する

原爆投下の日に無神経なツイートをしたとしてディズニー公式アカウントが炎上。謝罪してツイートを削除

 ディズニー公式アカウントが、長崎に原爆が投下された8月9日に「なんでもない日おめでとう」とツイートしたことで物議を醸した。
 実は「なんでもない日」というフレーズは、もともと「不思議の国のアリス」で用いられており、「誕生日ではない残りの364日を祝おう」という人生の喜びを教えてくれる素晴らしい言葉だ。
 ディズニーの公式アカウントはそれまでも作品内で用いられた印象的なフレーズを定期的に投稿しており、このポストもその一つだったのだが、あまりにタイミングが悪かった。
 それまでのツイッターでの活動を知っていたディズニーファンからは投稿に理解を示す声もあったが、日本人にとって忘れられないいたましい日に投稿すべき内容でないと非難が殺到した。
 その後ディズニー公式ツイッターはツイートを削除し、謝罪文を発表。
 どんな素敵な文言で、悪意がなくても、タイミングが悪いと相手の神経を逆撫でして炎上するという例である。ディズニーは日本に根付いて何十年もたっており、ホスピタリティに基づきPRには細心[原文ママ]注意を払っているのかと思われていたが、中々難しかったようだ。

18 不勉強 羊水が腐ると発言した倖田來未

35歳をすぎるとお腹の中の羊水が腐ると発言して女性から猛バッシング。活動自粛に追い込まれる

 歌手の倖田來未がラジオ番組内で「35歳になるとお母さんの羊水が腐ってくる」と発言したことで大炎上した事件はまだ私たちの記憶に強烈な印象を残している。
 当時はまだ高齢出産する人が今と比べると少なかったのもあるが、倖田さんは、そもそも出産に関する知識が足りなかったと言わざるをえないだろう。現在では35歳以上をそう定義するが、1993年までは30歳以上が高齢出産とされていたように、年々高齢出産の割合は増加している2017年の統計では、3割近くが35歳以上での出産を経験しているように、女性の出産年齢の幅は広がってきているが、女は早く子供を産めといった思い込みに基づく勘違いとして、リスナーおよびそのニュースを知った一般人の感情をいたく刺激した。
 世間での騒ぎを受けて、所属会社と本人から謝罪文が発表された。
 芸能人が舌禍が原因でインターネット上で炎上して、さらに芸能活動の自粛に追い込まれるという先駆的な事例となり、人々の記憶に残った。

19 社会的倫理・虚偽広告 宣伝時に利用した画像と異なるおせちを販売して炎上したクーポン共同購入サイトとカフェ

ハレの日のおせち料理、フタを開けたらゴミのような見た目で、1万円の金額に見合わないあまりにひどい内容に消費者の怒り爆発

 クーポン共同購入サイトが流行ったのが2010年代前半。顧客がまとめて購入することで割安になるサービスで、集客に高い効果があり、店としてはたとえ赤字でも宣伝になるということで、世間に広く浸透した。
 グルーポンのおせちが騒ぎになったのは2011年のこと。横浜のカフェが「謹製おせち」300セットを定価の半額である10500円で販売したのだが、事前に注文数を500に増やしたことで、厨房が大混乱。大量のおせちを少人数で仕上げなくてはいけない緊急事態で、その結果、元日までに届かない上に、見本のちらしとは似ても似つかぬスカスカのおせちが客の元に届いた。
 すぐにネット上に苦情の声が投稿され、販売元への非難が殺到する。おせちという年に一度のめでたい食事にけちがついた消費者の怒りは凄まじいものがあった。
 慣れないおせち販売という誘いに安易に乗った経営者の見込みの甘さが招いた事件であったがその代償は大きかった。おせちを販売したカフェは客への返金に応じ、弁済のため3000万円を工面したとも伝えられる。
 クーポン共同購入サイトの名前で検索すると、サジェストワードで「おせち」がいまだに登場する。企業としておせちの改善は図ったものの、いまだに過去を引きずる結果となっている。

20 職業意識の低さ 従業員のプロ意識の低さが招いた炎上騒ぎ

都内の一流ホテルの従業員が有名人のデートの様子をつぶやく。空港職員が来店した芸能人のクレジットカード情報を漏らして大問題に

 2010年、サッカー元日本代表の稲本潤一選手と当時交際中であったモデルの田中美保さんとの食事の様子が、アルバイト従業員によりツイッターに投稿された。その数時間後に2ちゃんねるにスレッドが立ち、アルバイト従業員は投稿をあわてて投稿を[原文ママ]削除するも、女性のSNSアカウントや出身高校など個人情報が次々と特定され、掲示板は祭り状態となった。現在でも女性の名前や個人情報はインターネット上で閲覧することができる。
 2013年には玉木宏さんが成田空港の免税店で買い物をしたところ、店員がクレジットカードの伝票の控えをケータイで撮影した[原文ママ]同僚のパート社員に転送。そのパート社員が「玉木宏さんが来店しました」とその写真を添えてツイッターにアップしたところ、すぐに非難が殺到した。写真はクレジットカードの下3桁を除く番号とサインが鮮明に写っていた。
 すぐに投稿は削除されたが、その余波は大きかった。「有名人がきたことを知らせたかった」とパート社員は反省したというが同僚とともに解雇され、運営会社も玉木さんの所属事務所に謝罪。被害者の玉木さんもカードを変更するなどの負担を余儀なくされた。
 アルバイト従業員の職業意識の低さはこれ以降も大きな問題になっている。

コラム「炎上による経済的損失・心理的負担」

 炎上して大変でしたねとよく言われます。実態を知らない人もいますし、面白がっている人もいます。時に笑いながら聞かれることだってあります。
 炎上しても気にしなければいいんだよという人もいます。
 そういう人に限って自分が炎上したときに、狼狽え、普通の精神状態ではいられなくなることでしょう。
 炎上をすることで、人は多大な精神的・経済的負担を強いられます。そのことを決して軽視してはいけません。これは、人の権利・自由を失わせるものであり、人権問題であると考えます。
 日本では市民によって人権が勝ち取られてきた歴史があります。水平社は部落への差別と戦ってきた結社で、水平社宣言の最後はこう結ばれています。
 「人の世に熱あれ、人間に光りあれ。」
 ネット上でも人間に光あれと願わずにはいられません。

なぜ炎上するのか

なぜ炎上は頻繁に起こるのか

 ここ最近は炎上案件が増えていると感じます。その理由はなんでしょうか。
 その理由の一つは、スマートフォンの普及でどこでもだれでもどんなときでもすぐにインターネットに接続できるようになったことが挙げられるでしょう。
 電車に乗れば誰の手にもスマホが握られている光景が当たり前です。数年前なら、新聞や本を読んでいる人もそれなりにいましたが、現在は圧倒的にスマホばかり。特に電車内で新聞を読む人が少なくなったと感じます。
 スマホは便利ですよね。特に近年はインターフェイスが改良されて、どんどん使いやすくなっていますし、見るのにお金がかからないコンテンツも豊富になりました。それゆえスマホを見る時間は年々増えていますし、SNSを開く回数も以前と比べて増えたことでしょう。

スマホとSNSの普及

 私たちの暮らしの中に浸透したスマホ、そしてSNSの普及も炎上件数増加の理由に挙げられるでしょう。
 若い人にはインスタグラムやツイッターが圧倒的な人気を誇っています。中年にはいまだフェイスブックが人気のようですが、ミクシーやグリーはSNSとしてかつての勢いはありません。
 それらのSNSのなかでも炎上の温床として筆頭に挙げられるのがツイッターでしょう。ほかのSNSもそれなりに炎上のリスクはあるのですが、ツイッターは特に炎上する可能性を含んでいます。
 その理由は短文で投稿できるというツイッターの仕様にあります。
 ツイッターは短文で簡単に投稿できることが良しとされています。つまり途切れた文章でも投稿として成立する。ブログだったらそうはいかないでしょう。
 ブログであるならある程度の分量が必要であるため、文の一部だけを見て誤解されるリスクは少ないでしょう。
 しかしツイッターは切り取られた短文であるゆえ、過敏で不快な印象をダイレクトに与えやすい。
 つまり、ツイッターのやりとりの中では怒りが生まれやすいといえます。

ツイッターは炎上の温床になっている

 ツイッターをやっている人の意識は、有名人でもないかぎり「鍵アカウント」に近い意識でやっているのが実情かもしれません。たとえパブリックに公開されるプライバシー設定でも、フォロワーしか見てないと勘違いしているのです。しかし、それは大きな間違いで、あなたのツイートは世界中の人に見られる危険性があるということを決して忘れてはいけません。
 リツイート数やファボ数も、大きな意味をもっていると考えます。
 これはツイートが面白かったり気に入ったときに評価するボタンとしてのイメージが強いかもしれませんが、この結果は受け手の感情を数字という目に見える単位で刺激するのです。
 炎上するとその様子が数字で表示される。1回燃えると、どんどん人が集まって注目を集めさらに加速する。妬んでいる人、面白がっている人、愉快犯、ビジネス目的など様々な人が集まってきます。たとえばデマが何万人という大人数にリツイートされたとしても、それの訂正ツイートがその1/100にも及ばないように、表現の正しさは多数決で決まらないのですが数字が炎上の度合いの目安となっていくのです。
 常にスマホが手元にあるおかげで、投稿するまでの時間が短くなったことも「燃えやすさ」に一役買っている気がします。推敲をしないで動物的な感覚ですぐに投稿してしまう。スマホの功罪は計り知れません。

炎上の原動力の一つは怒り

 炎上を起こす原動力は何でしょうか。
 怒りという感情は炎上を[原文ママ]きっかけとなる大きなエネルギーの一つといえるでしょう。
 テレビを見ていてずっと怒っている人がいます。でも深夜の放送休止中の砂嵐を見ても怒ったりはしないでしょう。つまり、誰かが行動することで、人の感情を動かす。その中でも、怒りは大きな炎上を生み出すエネルギーとなります。
 たとえば、タレントのあびる優さんがテレビ番組で自分が過去に犯した万引きを面白おかしく告白した時は、抗議が殺到して番組は打ち切りになりました。彼女の発言の真偽はわかりませんが、その店が潰れたという情報が拡散されさらに怒りの火に油を注ぎました。
 あびる優さんは謝罪の末、芸能活動を休止することになりました。視聴者の怒りが「結果」を出したのです。

 バイトテロという言葉はもはや定着した感さえありますが、アルバイトが仲間内のふざけた動画を投稿して、それが目に触れて炎上するパターンもあります。たとえば食材をゴミ箱に入れたり、食洗機の中に入ってその様子を投稿するといった行為には弁解の余地はありません。その非常識で不衛生かつ不謹慎な行為が受け手の感情を動かしたのです。
 これらはバイトという立場の責任感のなさからくる行動ではあり、若気の至りということもできますが、その行為が招いた結果はあまりに重大で、時に企業や店の存続を揺るがす場合もあります。
 ホテル従業員がタレントのお忍びの様子をツイートしたり、ショップ店員が有名人のクレジットカードの控えをツイートした事件もありました。
 これらはプロ意識の欠落が招いた結果であるといえます。
 バイトテロという新時代のリスクを目の当たりにした企業はそれ以降、従業員のSNS教育が必須の課題となりました。一従業員の悪意ない行動がとんでもない結果を招いた事例を他山の石としたのです。
 それでも現在に至るまで、「バイトテロ」は後を絶ちません。

いびつな正義感が起こした炎上

 スマイリーキクチさんを執拗に攻撃した人たちは怒りや正義感を原動力としていました。ただし、「その根拠となる情報が間違っていたとしたら」という前提が頭から欠落していたのです。
 スマイリーキクチさんを攻撃した人たちは、足立区の殺人事件の犯人であるというデマを信じてインターネット上で彼の攻撃を始めたようです。あんな凄惨な事件の犯人がまだのうのうと社会で大手を振って生きていることは絶対に許せない。そんな「怒り」に駆られた人々は、彼を侮辱する言葉を事務所の掲示板など人目に触れる場所に投稿し続けました。
 その根本にあったのは悪人の逃げ得を決して許してはいけないという義憤だったようです。
 ただし、その前提となる情報が間違っているという想像はできなかったのでしょうか。事務所や本人は重ねて事実無根であるとの声明を出しましたが、デマを盲信した人はその打ち消しに貸す耳を持ちませんでした。それもすべて間違った正義感が起こした炎上と言えるでしょう。
 この事件は最終的に19人もの検挙者を出しました。詳しくはこの後の対談をご覧ください。

炎上を焚きつける外野の存在

 ネットへの書き込みは匿名性が高いものです。ただし、完全な匿名とは少し違います。それを過信している方も多いようで、誹謗中傷を書き込んで実際に検挙される人が後を絶ちません。
 匿名性の高い掲示板で、炎上を加速させるエッセンスの一つとして、炎上を面白がる外野の存在が欠かせません。
 私の例を見てもわかるように、一旦炎上すると、それを燃やし続けるために、次々と燃料が投下される必要があります。
 燃料とは何でしょう。私の場合は私自身の盗撮写真であったり、事務所へのいたずらであったり、殺害予告であったりします。それらの材料(燃料)を投下すると、そのコミュニティでは英雄になれます。外野はそれを賞賛して、それと同時にあらたなる次の刺激を欲します。
 その結果、私に対する攻撃は次第にエスカレートしました。
 ついには実家近くにあった家族の墓地に立っていた墓石に白いペンキを塗られました。さらには「貴洋」と書かれた写真がアップされたときには大きな衝撃と悲しみを覚えました。
 基本的にこれらの継続的な炎上はいじめの構造と同じです。いちど悪意を持たれたらずっと目をつけられる。学校でのいじめがなかなか終わらないのと一緒です。
 では、どうしたらいじめは終わるのか。いじめるほうが自発的にいじめをやめる理由は、飽きる以外ありません。学校でのいじめのターゲットが次々と移っていくのと同じで、対象は誰でもいいのです。私の場合もたまたまその対象に選ばれてしまったのです。

 タイミングと言えば、「不謹慎」と言うワードも大事な鍵となります。
 例えば、地震などの天災のあとは必ず騒ぎがおこります。タレントがなにを投稿しても不謹慎だと叩かれることもあります。
 これは被災者よりも当事者以外が怒っていることが多いのが印象的です。こうあるべきだという自分の規範から外れた他人の行為を正義感や怒りに基づき糾弾するのです。

ルールやマナーと妬み

 ルールやマナーに対する話題も炎上を起こしやすいものです。
 例えばあるモデルがアーティストのライブに行ったところ、アーティストの目の前で見える最前列という特等席にもかかわらず、自分たちのインスタグラムに載せる動画撮影に集中しすぎてステージに背を向け、怒ったアーティストがタオルを投げつけたという出来事がありました。
 この件はまずアーティストの気分が[原文ママ]害したタレントの行為への批判から始まりました。同時に、ライブ中のアーティストへのリスペクトが欠けているといったマナー違反も炎上の材料となります。いい思いをしている有名人は叩いてもいいと思っているのか、積極的に炎上させられる傾向があります。
 「自分よりもいい思いをしている」という妬みは炎上のもう一つのキーワードです。
 ベビーカー問題も根っこは同じかもしれません。
 満員電車で辛い思いをしているのに、広いスペースを使いやがってという気持ちがどこかにあるからでしょう。自分が狭い思いをしているのだから、みんながこの苦痛を同じように甘受すべきであると。
 この世の中の不寛容さが炎上を起こしているとも言えます。

炎上をマーケティング

 なにを言っても炎上する人がいます。逆張りの意見をいうことで人の目を引くという狙いもあるのかもしれません。
 分析の上での意見であれば、まったく逆張りの意見をぶつけて炎上してもあとをひきません。その二つを議論にすればいいからです。逆に言えば、議論の余地があれば逆張りもできるということです。互いに議論できる余地を想像させればいいのです。
 たとえば作家の百田尚樹さんはよく炎上しますが、かならず一方の期待に応える発言をします。もちろんそのあと大きな議論になります。これは問題に注目を集めるための戦法といえるかもしれません。
 炎上と名前がつくとあまりいいイメージがないかもしれませんが、炎上することは、大きな注目を集める効果があります。実際に、常に炎上しているイメージが強いキングコング西野さんや堀江貴文さんの本はよく売れています。
 一般的な見解と異なる意見を表明すると、大きな反発も予想されるけれど、その対立がまた炎上を加速させて本が話題になる。
 これは立派なマーケティングであるといえます。

 対極の思想があるものはかならず炎上すると言っても過言ではないでしょう。特に政治は熱くなりがちです。
 反日という言葉は万能です。ネットに張り付いている層とネトウヨの親和性が高いのも特徴で、反日のレッテルが貼られた人々を探し出しては糾弾を続けます。糾弾を行う人は日本のためという大義名分があると信じています。
 ジェンダーというくくりがすべてかはわかりませんが、「目立つ女性」に対する反発も特に大きいと感じます。女性であるという要素が、潜在意識の中で批判の対象となる不条理も存在しています。
 かつて台湾籍を有し、政党党首を歴任した蓮舫議員などに対しては、常に批判的な目を向ける人がいます。二重国籍問題から端を発したバッシングは、もはや政策ではなく人格攻撃を目的としているように見えることもあります。彼女たちは何をしても誹謗中傷の対象となります。

守りたいという純粋な気持ちが炎上を引き起こす

 嫌中嫌韓、いわゆるネトウヨになる中年層が多いというニュースが話題になりました。
 大抵の新聞は左寄りであり、本当のことはネットに書いてあると信じる彼・彼女らはネット上のデマサイトを真に受けてしまう人も多いといいます。そして「害虫」から日本を守るため、常に目を皿のようにして敵を探しています。
 だからこそ、日本を貶める(と彼らが思っている)行動をとる人間に対して攻撃の手を緩めることはありません。
 文筆家の古谷経衡氏はネット右翼の条件を「中国・勧告・朝日新聞が嫌いなこと」と断言しました。「その中の一つでも好きだったら反日である」。いろいろな意見はあるとは思いますが、この見解は端的である意味で的を射ている気もします。
 この中の一つに対して親和性を見出すと、愛国心がない「反日」と判断されかねません。一度反日認定をされたら、そこからは延々とネトウヨから監視されます。彼らの追求の手が緩むことはありません。

 誰か、またはなにかを守りたいと思う純粋な気持ちが敵を作ることがあります。その結果、敵に対する攻撃意識が芽生えるのです。
 最近ではアイドルグループNGTの運営の対応が大きな話題になりました。
 現役のアイドルがファンに襲われるという事件は大きな衝撃を与えました。ファンとつながっていたメンバーがいたこと。さらにタレントの帰宅時間を暴露したという事実が明かになるにつれ、事態は悪化の一途を辿りました。
 そこに追い討ちをかけたのが運営側の体質でした。真偽はわかりませんが、襲われたメンバーに口裏合わせを依頼したことなどが、メンバー本人の口から語られ大きな騒ぎとなりました。
 応援するタレントが生命の危機にさらされたという事実。さらに、事態を沈静化させるために開いたはずの会見が風向きをさらに悪くしたことで、炎上の火勢は衰えることはありませんでした。

さらに燃え上がり、祭りが加速する理由

 炎上する対象や、それに対する人間の感情、考え方は様々ですが、炎上が加速するシステムは明白です。
 炎上させる側にとって正義感やそれに基づく怒りは重要な動機の一つです。まるで自分の身に災厄が降りかかったかのように他人の言動に憤り、実際に行動に移して炎上させます。その行為に迷いはありません。
 炎上は単純化すると次のページのような順番で悪化していきます。


ネタ投下

感情が刺激され
炎上・拡散

情報の蓄積・
さらなる燃料投下

大炎上

 炎上する大前提として、見ている人間に大きな反感を抱かせることが大事です。それと同時に、炎上を加速させる大きな要因のひとつに「まとめサイト」の存在があります。
 まとめサイトとは「テーマに沿って情報を収集・編集したウェブサイト」のことです。そのとき話題になっている出来事を簡単に読めるため[原文ママ]のサービスで、ご覧になったことがある方も多いでしょう。
 炎上が始まると、まとめサイトにはすぐに情報が編集され、炎上した経緯、経過、現状がひと目でわかるような記事がアップされます。
 「どうやら炎上しているな」と思って検索をするとまとめサイトがヒットする[原文ママ]まとめサイトを見ることで炎上の理由などが端的にわかるようになっています。ただ、内容として偏っていたり、虚偽の事実が含まれることも多々あります。
 まとめサイトの広告収入で稼ごうという人も多く、このようなサイトは乱立しています。

炎上を悪化させる特定班の存在

 一般人が炎上するとかならず現れるのが特定班です。あの問題を起こしたのはどんな人なのだろうという興味は誰もが抱くものですが、実際にまとめサイトなどを見ると、炎上した人間の個人情報が詳細に書いてあることもあります。
 その陰には個人情報を暴き出す機動力のある特定班の存在があります。
 彼らは炎上した人間のツイッターやインスタグラムのアカウントを過去まで遡り、本人の投稿はもちろん交友関係などから炎上者の本名、居住地、学校、勤務先、家族構成などを暴き出すのです。
 彼らの存在は炎上が加速する過程において欠かせません。では彼らは何のためにそこまで頑張るのか。
 おそらく、特定のコミュニティでヒーローになるために、誰よりも先にみんなが知りたい情報を集めて目立ちたいという気持ちがあるのでしょう。私が炎上したときとまったく同じ構造がそこにはありました。掲示板などに自分の存在感を求め、そこでの評価や承認に生きる意味を見出す人もいました。
 まとめサイトの運営者は、特定班による情報を参考にしながら、サイトを運用していきます。
 情報の特定が行われる根本的な原因は特定班の成果を待ち望む人がいることです。非常に醜悪な話ですが、これもまた人間の一面です。
 こうして、まとめサイトに情報が集積されると、やがて個人情報などもどんどん蓄積していきます。
 情報をストックして土台ができると、さらに広いところから情報が集まる。このようにして、炎上はどんどん大きく広がっていきます。

炎上させる人のモチベーションとは

 そもそも、炎上させる人たちはどんな気持ちで行動しているのでしょうか。
 とにかく人を困らせたいという愉快犯もいるでしょう。ですが、おそらく大抵は、犯罪行為、ルール違反、モラルに反する言動をした人を許せない、という正義感を持って炎上に参加する人もいます[原文ママ]間違いを正して、正しい世の中にしたいというまっすぐな気持ちを持った人なのかもしれません。
 先ほども書きましたが、自分がルールを守っているから、それらを守らない人間が許せないという理屈から行動に移してしまう人は多いようです。
 同時に、反社会的・モラルに反する行為を行った「非常識な」相手を追い詰めて、謝罪させたり社会的立場を失わせる[原文ママ]ことへの達成感や興奮もあるでしょう。カタルシスを感じているのかもしれません。

 昨今の炎上をみるにつけ、確かに炎上の当事者の行為自体に問題がある場合でも、そこまでの社会的制裁やペナルティを受けるべきなのかという疑問を感じることが多々あります。
 炎上させることで誰かを追い詰めるのは、法が認めた行為ではなく、いわゆる「私刑」にあたります。
 民事裁判、刑事裁判でもなく、一部の人間による人民法廷の様相を呈しています。それはまるで、ヨーロッパで中世以降に生じた「魔女狩り」と同様の行為ともいえます。
 現代に魔女がいると誰も思わないでしょうが、当時は「あいつは魔女だ」と断罪する人が現に存在しました。
 法の概念でデュープロセスオブローという考え方があります。日本国憲法第31条には、「何人も、法律の定める手続き[原文ママ]によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」とその考え方が定められています。
 法の定める手続によらず、炎上によって生活しにくくなるなど、人の自由が失われている現実がそこにはあるのです。
 現代において炎上が私刑の役割を果たしているという事実に、私は大変な危機感を覚えています。

コラム「SNSの恐ろしさ」

 巷には「出会い系サイト」の広告があふれています。
 例えば、出会い系サイトやマッチングアプリを通じて「パパ活」が生まれました。パパ活とは、若年層のお金をあまり持っていない女性が、経済的な援助をしてくれる男性(パパ)を探して、実際に金銭的な支援を受ける行為の俗称です。肉体関係のない交際だけでなく、若年層に比べて資金力のある層(主に男性)が金銭を支払い、若年層(主に女性)の性や時間を買うことも行われているようです。
 他にも個人が’’コモディティ化’’され、個人の生活空間や時間が切り売りされて、商材として取引されている現実が存在し、そこにはSNSが介在しています。
 インターネットは人を幸せにしているのか、改めて考えていく必要があると思います。

対談 芸人 スマイリーキクチ

ネット犯罪被害に立ちはだかる
「見なければいい理論」

スマイリーキクチ
お笑い芸人

スマイリーキクチ 1972年生まれ。東京都足立区出身。笑顔とおだやかな口調ながらするどい切り口のトークが特徴。「ボキャブラ天国」や「ペ・ヨンジュン」のものまねなどで活躍。自身のネット中傷被害の経験から、芸能活動の傍らインターネットに関するマナー講座や講演会などを行っている。

ネットの誹謗中傷が一斉摘発された
前代未聞の炎上事例

唐澤 お笑い芸人のスマイリーキクチさんは、ネットの書き込みで殺人事件の実行犯だといういわれのない誹謗・中傷被害を長年に渡って受けてきた被害者です。スマイリーキクチさんのように、ネットの炎上が事件化されたのは、2008年に起こった「スマイリーキクチ中傷被害事件」が、おそらく日本で初めての事例ですよね?

スマイリー ネットへの書き込みが名誉毀損で複数の犯人が一斉摘発されたのは、前例がなかったと思います。

唐澤 スマイリーさんがネットの書き込みに気づいたのはいつ頃ですか?

スマイリー 1999年でした。所属している太田プロのホームページに掲示板があるんですけど、そこに僕が殺人事件の犯人だという誹謗中傷が書いてあったんですね。当時は携帯電話もiモードがスタートしたばかりでしたから、インターネットっていうのはよっぽど好きな人じゃないとやらない時代。僕自身もパソコンをやっていなかったので、初めて見つけたときは「殺人事件の犯人にされてる。何だろうこれ」と。ショックでもなく、悲しみとか怒りも現実感もなく他人事でしたね。僕がお笑いライブで殺人事件のことをネタにしたっていう書き込みまであるんですよ。

唐澤 根も葉もないことですもんね。

スマイリー そうですね。これだけ嘘がいっぱい書いてあると反論する気もない。正直、馬鹿馬鹿しいなって思いました。しかも、僕が殺人事件について話しているのを直接聞きましたって書き込みをしている人が、みんな匿名なんです。自分のことを嫌っている人の顔が見えないっていうのは初めてで。たとえば、学生時代に僕のことを嫌っている人は目の前にいたり、影で言っててもその人にたどり着いたんですよね。でもネットは全く顔が見えないので、匿名のオーラって言うのが、ものすごく大きかったです。

唐澤 とてつもなく黒いオーラですよね。ネットでの嫌がらせは事務所のホームページからスタートしたんですか?

スマイリー スタートは2ちゃんねるへの書き込みだったんですよ。

唐澤 じゃあ、2ちゃんねるから飛び火して事務所のホームページに?

スマイリー はい。2ちゃんねるに「スマイリーキクチを糾弾しよう」って太田プロのURLが貼ってあって、それを見た匿名の集団が、今度は太田プロのホームページに書き込むようになったんです。当時、事務所のホームページには、ライブの情報や感想を書き込める掲示板があったんですね。普段は「ライブ見ました」とか平和な書き込みだけの掲示板なのに、1〜2日で400件くらい「人殺し」ってどーんと書き込まれていて。

唐澤 そのとき、スマイリーさんはどんな対策をとられたんですか?

スマイリー いや、全然でしたね。あの当時は、警察にハイテク犯罪対策センターというのはあったんですけど、電話で相談しても、「ネットっていうのは基本嘘ですから、誰もあなたのこと本気で犯人だとは思ってませんよ」って、あしらわれられる[原文ママ]だけで終わってしまいました。

唐澤 ネットは便所の落書きと一緒だろうというね。気にするなって言われませんでした?

スマイリー そう。「こういうのはちょっと時間をおけば落ち着きますから」って。1999年からもう9年続いているんですけど、どうすればいいですか? って聞いても、「ちょっと様子見れば落ち着きます」って返ってくるんですよ(笑)。最終的には「キクチさんが見なければいい」って。見ないことが解決策なんですよって。

唐澤 「見なければいい理論」と言うのもすごいですね。

スマイリー ただ見なければいいっていうのは相手の理論であって、被害者からしたらたまったもんじゃないですよね。要は刃物を手にして襲ってくる人物に対して、逃げればいいんですよって言うのと同じ。そんな簡単じゃない、目の前にいるんだからって。その頃はもう「実際に僕の彼女に対して何かしてやるぞ」みたいな書き込みもあったので、この状態で放置して家族や周りの人に万が一のことがあったとしたら、警察は何をしてくれるんだろうと。

唐澤 だから自分で行動しなくてはと思ったんですね。

スマイリー これは本当にやばいなって危機感をもったのが、秋葉原の歩行者天国の無差別殺人事件です。あの事件で驚いたのは、まず書き込みをしたことを本気で実行する人がいるんだってこと。そして事件で現場にいた人が血だらけの被害者たちにカメラを向けて写真を撮り、ネットにあげて「すごい瞬間が撮れた」って喜んでるんです。

唐澤 集団心理の怖さを感じますね。

スマイリー 自分たちの掲示板に誹謗中傷を書いてる人たちと、秋葉原で写真を撮っている人たちって同じなんだろうなと。当時僕のブログでは誰が一番ひどいことをするかって書き込みで争ってて、一方でそれを煽る連中もいたんですよね。「スマイリーキクチやその周りの人たちを殺せば事件になるけど、ネットではヒーローだな」みたいな。  あと、もう一つ許せなかったのが、あの事件の被害者の方を茶化すコメントが結構あったんです。ネットの不思議なところは、僕を犯人だと思い込んでいる人物と、本当に犯人を憎んでいる人物、それに事件に憧れている異常な人物。3種類の書き込みが一つのスレッドの中に共存しているんですよ。

唐澤 ネットは匿名だから、悪意も正義感もすべてがむき出しですね。

スマイリー そう。普段こんなこと言ったら絶対に人間性を疑われるようなことも、ネットだと平気で書き込める。被害者に対する冒涜だったり、異常な性癖って言うんですかね。そういう性癖をもつ人間が「俺はこういうことをしたい」と。遊びなのか本気なのかわからないけど、事件の被害者の方を茶化すことに怒りを覚えました。

ネットオタクの刑事との
出会いが転機に

唐澤 警察が動いてくれない中で、犯人が逮捕されるに至るまでにどんなプロセスがあったんですか?

スマイリー 当時はまずパソコンに詳しい弁護士さんを探すのも大変でした。いざ相談しても「私が2ちゃんねるに電話して誰が書いたか聞いてあげるよ。君は素人だから無理だけど、私は弁護士だから電話一本すれば大丈夫」と。何言ってんだ?そんなんで誰が書いたか開示してくれるわけないだろって思いましたね(笑)。  それで自分でいろいろ調べていく中で、なにかのホームページに、誹謗中傷でお困りの方は生活安全課に行ってもお悩み相談室なので、ぜひ刑事課に行って刑事告訴してください、って書いてあったんです。警察って総合病院のような場所。目が痛ければ眼科、骨が折れたら整形外科、風邪を引いたら内科みたいな感じで、たとえばDVやストーカーだったら生活安全課、名誉棄損・脅迫だったら刑事課に行かなければいけなかった。だけど僕は間違えてずっと生活安全課に相談に行ってたんです。  ただ、ネットがわからない人にいくら説明しても無駄だと思って、まず警察に電話してネットに詳しい刑事さんが刑事課にいるか聞きました。そしたらちょうどいますよって言われて、すぐにタクシーを飛ばしました。その刑事さんはネットに対してすごく理解のある方で、ご本人も「俺オタクだから」っていうくらい精通してて(笑)。

唐澤 じゃあスマイリーさんの現状をご存知だったんですかね?

スマイリー 知らなかったみたいですが、その刑事さんは僕が犯人とされた殺人事件の捜査にも携わっていて、事件に対して強い思い入れがある方だったんです。初めてお会いしたときに「どうして今まで警察に来なかったの?」みたいなことを聞くから、「相談に行ったら、殺されたら捜査してやる」って言われたって話したら「すみませんでした!」ってずっと頭を下げてくれた。それで警察には憎しみも何もなくなりました。  その刑事さんが熱心に動いてくださったおかげで、2008年に書き込みをしている犯人たちの逮捕につながりました。

相手の言い訳を全部封じ込めないと

唐澤 2008年は弁護士を探すのも大変だったとおっしゃっていたように、当時はまだネット犯罪への戦い方も確立していないインターネット黎明期ですよね。前例がない中で、どういった戦い方をされたんですか?

スマイリー 摘発した人物の言い訳をすべて断ちたいと思いました。そのうち考えたのが、捕まった人が取調べで逃げ道として、嫌がらせした理由に本を使うだろうって。当時はヤフー知恵袋やミクシーに、「本に書いてある犯人はスマイリーキクチです」と載っていたので、「あの本を見てやりました」って言い訳する人がいるなって思ったんです。だから警察が動いた時点で、本の出版元に内容証明を作ってくださいと連絡しました。

唐澤 あの本は明らかにスマイリーさんのことを書いてましたよね?

スマイリー 実は警察が動いてくれる前に、事務所から出版社に抗議の電話をしたことがあったんです。こういう事実はないので否定してくださいって。でも相手方からはそんなことをする必要はありませんって突っぱねられました。いざ警察が動き出したら、あっちはネットの書き込みを思いっきり信じてたと思うので、「え、違うの?やばい」ってなったんだと思います。それで出版社から「この本に書かれているのはあなたのことではありません」という内容証明がきたので、万一摘発された人が取調べで本のことを理由にしても言い訳にはならないぞと。弁護士さんにはそこまでしなくても、と言われたけど、とにかく相手の言い訳を全部封じ込めないといけないと。

唐澤 その戦法は素晴らしいと思うんです。名誉毀損で訴えたときには、相手方にスマイリーさんが犯人である真実を立証する責任があります。自分の書いたことが真実であるということを立証させない証拠を、事前に抑えているわけじゃないですか。相手の言い訳を断つというのは、仮に訴訟になった時でも非常に有効な手段だなと思います。 スマイリー 相手に対して反論を一切しなかったのも良かったのかもしれません。1999年から2008年まで書き込みに対して否定はしたけど反論はしなかったんです。

唐澤 「燃料投下」をしなかった。

スマイリー そうです。最初に書き込みを見た時点で、反論して争う価値がない。討論する時間ももったいないなって。そのおかげで必要以上に被害を大きくせずに済んだのだと思います。

唐澤 犯人検挙の報道はかなりセンセーショナルでした。スマイリーさんが芸能人ということもあったと思いますが、新聞でもかなり大きく取り上げられましたよね。

スマイリー 以前、爆笑問題の太田さんが殺害予告で犯人を開示という事例はあったんですけど、複数の犯人を一斉摘発と言うのはなかったです。

唐澤 何人くらい摘発されたんですか?

スマイリー 19人です。2009年2月5日に新聞で初めて報道されたときは、新聞朝刊でどーんと大きく取り上げられました。当初は書き込みをしていた犯人たちの実名も報道する予定だったんですけど、全国で前例のない事件だから、やった人物の名前や顔が出たりしたときに、犯人が脅迫されるかもしれないって。

唐澤 負の連鎖ですね。

スマイリー 本来加害者なのに、脅迫によって被害者になってしまったらバランスを崩しちゃうと。警察としては新たな被害者ゼロのまま、犯人を書類送検したいから名前を全部伏せようって判断になったんです。だからこそ新聞では記事を大きく扱おうと。最初手のひらサイズ記事だった予定が、一面丸々使って報道された。そこで初めて警視庁の上層部の方々が、「あれ、ネットでこんなことが起きてたの?」と知ってくれたのもあると思います。

一番怖いのは
デマを見抜けない人ではない

唐澤 全国初の事件でしたからね。事件が明るみになった後では、スマイリーさんのブログの書き込みに何か変化がありましたか?

スマイリー 新聞報道が出る前は、僕に対して「死ね死ね」っていう書き込みばかりだったんですけど、報道の翌日、翌々日になると書き込みの内容が「死にたい」に変わったんですよね。誹謗中傷と同じくらい「自分も同じ経験をして死にたいです」と悩みを抱えている方からのメッセージが送られてきました。こんなにたくさんの人たちが苦しんでいる中で、自分がその矢面に立って動いているのだから、万が一にもこの事件の犯人が無罪になったら、この人たちも巻き添えになってしまう。僕の事件が前例になる責任感とプレッシャーも感じていました。

唐澤 あの事件で摘発された19人の中で、スマイリーさんに謝りにきた人はいるんですか?

スマイリー いませんでしたね。19人中10人は謝罪しますみたいなことを言うので、僕も間[原文ママ]に受けちゃったんですけど、「謝罪したい」って言えば罪が軽くなるのを知ってたんだと思います。結局誰も謝罪には来ませんでした。あとは謝罪どころかあいつのせいで捕まったって怒っていた人もいたみたいです。

唐澤 怒りが憎しみに変わるかもしれないという恐怖はありましたか?

スマイリー それはもちろんありました。刑事さんに「逆恨みもあるから気をつけてね」と言われてたので、警戒しました。刑事さんがこんなに疲れる取調べはないって言うくらい、いくら説明しても理解してもらえないんですって。「だってネットにスマイリーキクチが犯人だって書いてあるじゃないですか! それに騙された僕は被害者だ」って言うんです。「あんたは被害者じゃない、加害者だ」って言っても「事件が許せなかったんですよ」と。その結果、「キクチは許せない」って。

唐澤 一度絡まった糸はほどけないんですね。

スマイリー この10年くらいで思ったのは、デマを見抜けない人じゃなくて、デマを認めない人。そういう人って、とにかく自分の正義感を見せつけるために他人を傷つけるんです。みんな正義だと思って他人を攻撃する、もう正義という名の暴力ですよね。しかも集団でやっているので、集団ヒステリー状態になって狂信して突っ走るから。

幸せになることが 犯人への一番の仕返し

唐澤 そんな集団の被害にあってしまったとき、逃げたくないって思う反面、心が折れてしまうこともありますよね。スマイリーさんは自分の気持ちとどう向き合っていたんでしょうか?

スマイリー 絶対に仕返ししてやる、って思っていました。ただし、仕返しというのは自分が幸せになること。書き込みをしている人たちが、ネットで僕を誹謗中傷している時間を、僕は楽しみを見つけて自分のプラスになる時間にしようと。とにかく自分が幸せになることが、嫌がらせをした人たちへの一番の仕返しだと考えています。

唐澤 それってすごく前向きな考え方ですね。ずっとそんな風に思っていたんですか?

スマイリー 最初からですね。相手の顔が見えないんだから、そうするしかなかった。そもそも「人生どうにかなる」くらいの気持ちでいないと、芸人という不安定な仕事はやれないと思うんですよ。

唐澤 売れるかどうかは誰にもわからないですからね。

スマイリー あと、僕が前向きに考えられたのは、うちのばあちゃんの影響もあると思います。ばあちゃんは戦争や関東大震災を経験しているので「生きる」という言葉に敏感で、「生きてること自体運がいいから、あとは人に迷惑かけなきゃ、好きなように生きる。それが一番の幸せなんだ」って。

唐澤 生きてるだけで幸せ。素敵な考え方ですね。

スマイリー だから、誹謗中傷を受けたときも「死にたいな」って気持ちにならなくて、むしろ生きて身の潔白を証明してやろうっていう思いの方が強かったです。

唐澤 今後、スマイリーさんのような被害者を減らしていくためには、何が大事だと思いますか?

スマイリー 被害者を減らすっていうのは実際難しいんですよね。ただ加害者には誰でもなりうるんです。だから今後はみんながネットをうまく利用できるように、加害者を減らす活動をしていきたいと思っています。ネットのいじめや晒し行為を減らすには、リテラシーとモラルだけでなく、そこに法律を加えた教育が必要なんじゃないかって。僕自身の経験を通して学んだことを役立ててもらって、苦しんでいる人を一人でも救えたらいいなと考えています。

コラム「炎上に加担する人」

 炎上に加担する人はどのような人ですかと聞かれることがあります。炎上によって被害者が生まれることを望んでいる人には寂しい人が多いように私は思います。
 炎上の現場にいるとコミュニケーションが活発に行われるため孤独感が薄れていくそうです。そこで過激なことをして、人の注目を得て、称賛をもらおうとする人もいます。
 犯罪的行為で一生十字架を背負うかもしれないのに、コミュニケーションに加わっている高揚感が人を狂わせていくのです。
 人を傷つけたら、世界には最終的に自分しかいなくなります。そのような世界を望んでいるわけではないでしょう。しかし、孤独が炎上にコミットさせ、さらに孤独になっていくという恐ろしい悪循環がそこには存在します。
 孤独は解消できないかもしれません。ただ、どんどん外に出て、空の高さ、青さを体で感じてほしいと思います。それが生きるということであると私は思っているからです。

まずは炎上しないために

1 表現に気をつける、想像力をもって

投稿することを心がける

 炎上とは、人の感情・価値観・人が持っている基準(正義感や倫理観など)に引っかかるときに、起こりうるというお話をしました。
 その引っかかり方を起こすのは、インターネット上で飛び交う情報や投稿です。となると、投稿する際は「読んだ人の心をザラッとさせない」表現をしていく必要があるでしょう。
 さらに、注意すべき話題もあります。どのような表現が炎上を起こしたことがあるのか次に列挙します。

 貧富の格差
 LGBT
 性差
 女性への性被害
 マイノリティへの差別
 美醜
 他社への迷惑がかかることを想像させること
 世代論
 倫理観
 安全保障問題、労働問題などの政治的イシュー

 これらに関わる表現は受け手が二極化している、あるいはセンシティブなものであり、投稿には細心の注意が必要です。

読み手がどう思うかを常に意識する

 極論を言ってしまえば、これらの表現をしないことが炎上を避けることにつながるのでしょうが、それでは、表現の自由が保証された社会とは言えません。
 表現する側には、表現される側や読み手に対する配慮が求められます。
 日本という国において、そして現在の世の中の文脈の中で、言葉のもつ意味に留意することが必要です。つまり、その言葉を相手が受け取ったときに、どのように受けとるのかを、全体の文章の中で、正確に把握して表現していく必要があるのです。表現されたほうが、それを読んでどんな気持ちになるかゆっくり考えてください
 さらに、「女性は〜」「貧乏人は〜」「若者は〜」「韓国は〜」「安倍政権は〜」と言った表現で一括りにしていくことにも問題があります。
 若い人の中にも、様々な若者があるでしょう。すべてが均一化された若者など存在しないのです。つまり、そういう発言をすることで必ず反発なり批判が起こることが予想されます。
 一括りにした物言いの方が楽ですし、ウケるのはわかりますが、大雑把に一括りにせず丁寧に表現することが大切なのです。

2 なぜそう思ったのか理由を書く

 大胆な表現といえば、2016年に「保育園落ちた日本死ね」というブログが話題になりました。保育園に入れなかったお母さんが、働くお母さんに厳しい日本の世の中を憂いたこの投稿がきっかけとなり、保育園に入れない待機児童問題が[原文ママ]母親の社会復帰を阻んでいることが広く世間に知られるようになりました。  この投稿がなぜここまで話題になったのか。注目されるきっかけとなったのは、その乱暴な言葉遣いではないでしょうか。  世間のお母さんも、もちろん記事の中身に共感する声が聞かれましたが、こういった言い方だからこそ目に止まる投稿になったと考える人が多かったようです。同じことを訴えるために普通のブログを書いたとしても、世間の注目を集めなかったのではないかと。  タイトルは過激ですが、ブログの中では「日本死ね」と表現する理由が語られています。言葉遣いはどうかという議論になりましたが、内容には賛同する声が多かったように記憶しています。

結論を出すに至ったプロセスを明記する

 ツイッターは短文投稿です。ツイッターに先程のブログのタイトルのみを投稿したらどうでしょう。理由を書かずに、「保育園落ちた日本死ね」と投稿したとします。すると、受け手の印象はかなり変わるのではないでしょうか。
 つまり、結論のみだとどういう論理過程で表現がなされたかわからず批判の対象になりやすいのです。
 人が何らかの意見を表明する際には、その根底には結論に至った思考のプロセスがあるはずです。これを併せて表現することで、他の人の理解を得やすくなっていきます。結論だけを書くのは簡単です。しかし、自分の投稿について他社の賛同をより得るためには、その結論を支える理由が論理的であるのか、結論を出すにあたって参考にした資料が確かなものであるのかを精査する必要があります。
 インターネットでよく陥りがちな情報発信のあり方としては、「他の人たちがそう言っているから」「サーチエンジンの検索結果で上位に表示されるから」という状態を根拠とすることです。
 誤った情報は、どれだけ信頼している人が発信(ツイート)していようが誤った情報であり、また、いかに多くの人が発信(リツイート)していたとしても、誤った情報であることには変わりはありません。

情報の正確性を常に疑う

 検索結果であっても、一定のアルゴリズムに則り検索キーワードに関連性があるウェブサイトの情報を示しただけであり、ウェブサイトの情報が正しいことを保証するものではないということを常に念頭においてください。
 一つの例としてまとめサイトを挙げます。
 犯罪が起きたときにすぐに更新されるまとめサイトには、「被疑者に関する情報」が公開されることがあります。これらのウェブサイトは、アフィリエイト広告やアドセンスを貼って、広告収益を得ることを目的としています。大きな収益を得るためにはPV数を増やす必要があります。
 そのためには、被疑者の名前をキーワードに検索エンジンで検索された場合に、検索上位にまとめサイトが来る必要があるのです。
 そこで、早期に情報を収集し、他のサイトに先んじてまとめサイトを作る必要があります。こういった事情から、情報の真偽が確かめられる前に誤った情報が公開されやすいともいえます。
 過去、私自身もインターネット上で間違った情報を流され、その情報を鵜呑みにした一部マスコミが取材に来るということもあり、取材もなく誤報を流されたことがありました。
 マスコミは情報の精査を何よりも大事にしていると考えていましたが、ときに急いで出そうとするあまり、誤った情報を入手してしまうこともあるという現実に驚きました。
 誰が言っているから、どこが言っているからではなく、その情報がなぜ正しいと思うのか考えること。それが情報を受け取ったときにもっとも大事なことなのです。

3 誰が受け取るのかを意識する

 自分のフォロワーに向けて投稿していたつもりの仲間内のふざけ合いが公開されてしまって炎上した、という事例が多くあります。
「バカッター」と呼ばれるように、ツイッター上にバイト先の動画や写真を上げた結果炎上してしまう現象がまさにそれです。最近では、インスタグラムのストーリー機能(24時間限定で公開される仕様の投稿機能)において、バイト先での社会的に逸脱した行為を投稿される行為が増えました。バイトテロではこれらの機能が使われる傾向があります。[原文ママ]
 そもそも仲間内であっても他者が迷惑と思う行為をすること自体が問題ではありますが、そういう若気の至りは誰にでもある話だと思います。しかし、そこからさらに、迷惑行為を写真や動画で投稿することは許されるものではありません。
 心配になるのは、インターネット上に投稿することの意味と本質をよくわかっていないのではないかと思えることです。
 インターネット上に投稿するということは、ツイッターであろうが、インスタグラムであろうが、世間に自分とは何者であるかを家の外に出て拡声器を使って公表するに等しい行為です。
 たとえアカウントに鍵をかけていようが、インスタグラムのストーリーにあげようが、知り合いから拡散する可能性だって否定できませんし、一旦出してしまった情報がさらに世界へ向けて拡散しない保証はありません。
 自分が投稿したストーリーは24時間で消えるかもしれませんが、いちど流出した情報は簡単に消すことはできないのです。

 「匿名アカウントでやっているから、自分がどんな投稿をしているかは知られることはない」と過信している人がいるかもしれませんが、インターネット上の断片的な情報をかき集め、そこからさらに情報収集を行い、情報を統合・分析して、情報発信者が誰であるかを特定するのを得意とする人もたくさんいます。匿名アカウントであるから羽目を外してもいいということにはならないのです。
 自分が何者であるかを知ってほしいという欲求は誰にでもあります。しかし、自分の恥ずかしいところを外に拡散しようと思う人はごくわずかでしょう。
 インターネットで投稿を行うことの容易さから、情報発信をする人は多くなってきました。ツイッターは現在4000万人以上、インスタグラムも3000万人程度のアクティブユーザーがいるそうです。
 SNSが身近になった今だからこそ、情報発信するということの意味をあらためて理解する必要があります。

4 投稿するまでに間を開ける

 インターネット上、とくにツイッターなどで投稿する際に、「あ。これツイートしようかな」と思いついてから、実際に投稿まで[原文ママ]どれくらいの時間を空けていますか。
 もしかすると、すぐ投稿を行っていませんか。
 インターネット上に投稿するということは、玄関から家の外に出て、車や歩行者がたくさん行き交う大通りで「自分はこういう人間です」と表現する行為と同義であることは、すでに前で触れた通りです。
 そして、インターネット上のたった一瞬の判断ミスが、現実世界で大きな痛手を与える可能性があるとしたら……。  そんなリスクがある行為を簡単に行う人はいるのでしょうか。

 インターネット上での投稿は、下手をしたら会社を辞めなければならない、損害賠償請求をされるかもしれない、刑事事件になるかもといったリスクを内包します。
 ツイッターなどのSNSは、ユーザービリティが研究されつくしているため、とても利用しやすくなっています。この利用しやすさが危険なのです。
 ツイートすることによって何かを失う可能性があるというのに、それを即断できる人はよっぽど経験値があるか、リスクを許容できる人なのでしょう。
 ツイッターは特にそうですが、短文での投稿が求められていることもあり、感情が揺れ動いたその瞬間に、反射的・動物的に表現してしまったような投稿がそこかしこで見受けられます。これは危険と隣り合わせということです。
 利用しやすいという点では、サービスとしては優秀ですが、利用するユーザーにとっては、それがゆえに思慮が足りない表現であっても流通させてしまう危険性があるということです。
 ではどうしたらいいか。
 お酒に酔っているなど正常な判断が難しいときはもちろん、平常時でも、書いたものを一度下書きとして保存するクセをつけましょう。
 翌日ないし時間をおいてあらためて見て、その発信が自分の評価につながる表現としてふさわしいかをじっくり考えて、投稿するかどうかを決めてください。

5 実際に周りの人に見せてみる

以下執筆中

対談 ブロガー・作家 はあちゅう

コラム「広告代理店の責任とコンプライアンス」

炎上してしまったらどうすればいい

炎上で被害を受けた、さあどう戦う

対談 ジャーナリスト 渋井哲也

おわりに