恒心文庫:仕事から帰宅した長谷川満孝は少し変だなと感じた。
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家の灯りは煌々としているのにいつも返ってくるおかえりの返事が無いからだ。
リビングに着いても誰も居ない。
家中に聞こえるように数度妻の名を呼んでみるもまた返事はない。
適当にどこか行ってるんだろうと推測し特に何も思わずビールを取るため冷蔵庫へ向かう。
そんな時満孝がキッチンで見たものは血みどろで横たわる妻の姿だった。
そしてその横には首の無い遺体があった。
おそらく冷静でなかったんだろう。
その惨憺たる光景を目の当たりにしても怯まず妻の状態を確認することができた。
生死を確認するためいや生きていてほしいという一縷の望みをかけたかったのかもしれない。
妻は腹部を特に出血していて何故かかび臭いマタニティ服を着ていた。
急いで首の脈を確認する。脈がなかった、愕然とした。
出血部分を確認するため服をめくると腹が引き裂かれており何か塊が詰め込まれ、おぞましい雰囲気を醸している。
ぞっとしたがそれを引き抜いてみることにした。
血の嫌な臭いが鼻をつき、吐き気を催す。必死の思いで取り出すと出てきたのは人間の生首だった。
血で汚れていたが父だからすぐに分かる。これは息子の亮太だ。
妻と息子をこんなふうにした殺人犯に対し怒りが込み上げてくると同時に家族が死んだという実感が湧き絶望した。
その時ふとメモ用紙が目についた。なんだろうと手に取る。
そこには、
「わたしは亮太を生んでません生む前に自殺しますごめんなさい」とだけ記されていた。
訳がわからない。自殺?そんな馬鹿な。なぜそんなことを。
しかし数分後、理解することができた。妻は殺されたんじゃない。亮太のことで懺悔し自害したのだと。
様々な感情が交錯する中長谷川満孝はただ呆然とすることしかできなかった。
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