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唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成26年(ワ)第20852号

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東京地方裁判所平成26年(ワ)第20852号
平成27年3月6日民事第49部判決
口頭弁論の終結の日 平成27年1月30日
       判   決
原告 株式会社フジテックス
同代表者代表取締役 Z1
同訴訟代理人弁護士 ○○○○
被告 KDDI株式会社
同代表者代表取締役 Z2
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 正田賢司
同 小倉慎一
同 山本一生
同 山根航太
同訴訟復代理人弁護士 森謙司
同 横室直樹

主 文

1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 主文と同旨

第2 事案の概要

 本件は,インターネット上の掲示板サイトにされた匿名の投稿によって名誉権を侵害されたとする原告が,その投稿をした者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求権の行使等のために,本件発信者にインターネット接続サービスを提供した被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,本件発信者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスの開示を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)

(1)原告は,環境事業,販促事業,教育事業,健康事業を営む株式会社である。被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社である。
(2)本件発信者は,インターネット上の掲示板サイト「2ちゃんねる」(http://www.2ch.net,以下「本件サイト」という。)の「□□□□□□□□□□」というスレッド(以下「本件スレッド」という。)に,被告が提供するインターネット接続サービスを経由して,原告に関する別紙情報目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)を発信し,本件投稿は掲載された(甲1)。

2 争点及び争点に関する当事者の主張

 本件の争点は,〔1〕本件投稿によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるか否か,〔2〕原告に本件発信者の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか否かである。
(1)争点1(権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
 本件投稿の内容は,別紙情報目録記載のとおりであって,原告について,〔1〕「汚泥船」,〔2〕原告に雇われると「知識のない人間」になる,「全社員が会社に勤める上で必要な知識を知らない上に,全く学べない環境,会社」,〔3〕原告が「商社」を名乗ることで「騙」している,〔4〕「クレームとかすごい」,〔5〕クレームについて「社員に擦り付ける」と記載されており,本件投稿の一般の閲覧者をして,原告が,〔1〕すぐ沈む船,潰れる会社,〔2〕原告で働いても全く学ぶことがない,原告従業員が会社で仕事をする上で何ら必要な知識を有してない,〔3〕原告が事業内容を偽り,外部の人間を騙している,〔4〕原告の事業でクレームが多い,〔5〕クレームについて適切な対応をせず,ただ社員に擦り付けているだけであると誤信させるものであるといえ,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
 また,本件投稿の内容は,真実ではないし,一企業の労働環境や事業報告の在り方に関するもので,公共の利害に関するものとはいえず,その表現方法も何ら根拠を示すことなく原告を誹謗中傷するものであり,公益目的のために掲載されたものではない。本件において違法性を阻却する事由の存在をうかがわせる事由はない。
 以上からすれば,本件投稿によって原告の名誉権が侵害されたことは明らかである。
(被告の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。本件投稿の内容には,原告を特定することができる情報はなく,また,具体的なものではなく根拠も記載されていないから,一般の閲覧者が通常の読み方をしても,原告が主張するような印象を持つとはいえない。すなわち,
〔1〕「汚泥船」はその趣旨が不明であり,〔2〕「全社員が会社に勤める上で必要な知識を知らない上に,全く学べない環境,会社」との記載も,具体的なものではなく,原告の職場環境について具体的な印象を抱くことはできない,〔3〕「商社という名前に騙されないで下さい。この会社は,ただ商品を販売している会社。あくまでも卸売業です。」との記載も,一般の閲覧者は本件投稿者が原告を卸売業と考えているということの印象を受けるのみであり,卸売業であるからといって社会的評価が低下するものではない,〔4〕「クレームとかすごいんだろーな」,〔5〕クレームについて「社員に擦り付けるんだろーなー」との記載も,記載自体からして本件発信者の推測にすぎないことが明らかであるし,その内容も抽象的なものにすぎない。
 また,本件投稿は,就職や転職を考える一般の人々がその判断に役立てるためのものであり,公共の利害に関するものであるといえるし,そのような人々に原告の評価を伝えるという公益目的のためのものであるといえる。加えて,本件投稿者がホームページやブログを見て本件投稿をしていることがうかがえるから,本件投稿者が本件投稿の内容が真実であると信じたことにつき相当な理由がある可能性を否定することはできない。
 以上からすれば,本件投稿には違法性阻却事由の存在がないとはいえず,本件投稿によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。

(2)争点2(正当な理由の有無)について

(原告の主張)
 原告は,本件投稿によって明らかに名誉権を侵害されていて,本件発信者に対して名誉権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求を求めるためには,本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の各情報を得る必要がある。なお,電子メールアドレスは,通常同居家族においても共有して利用するものではないため,実際の発信者を特定するために必要な情報である。よって,原告には別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。原告が,本件発信者に対して名誉権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起するのであれば,発信者の住所及び氏名を取得すれば十分であり,電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるとはいえない。

第3 争点に対する判断

1 争点1(権利侵害の明白性)について

(1)原告の社会的評価の低下
 証拠(甲1~6)及び弁論の全趣旨によれば,本件投稿は,インターネット上の本件サイトの「□□□□□□□□□□」と題する本件スレッドに投稿されたもので,その具体的内容は,別紙情報目録の投稿内容欄記載のとおりのコメントを付したものであることが認められる。
 本件スレッドにおける本件投稿を,一般の閲覧者が通常の読み方をすれば,「□□□□□□□□□□」という本件スレッドのタイトルからして原告の評判に関するものであると理解され,また,本件投稿の具体的内容については,上記別紙情報目録の投稿内容欄記載のとおりであり,原告は「ヒドい」,「汚泥船」,「顔色ばっかり伺う会社」であり,原告に就職すると「知識のない人間」になり,「全社員が会社に勤める上で必要な知識を知らない上に,全く学べない環境,会社」であるから「自分の知識の無さに愕然とする日が必ずくる…。」,原告はただ商品を販売している卸売業であるのに「商社」を名乗り関係者を「騙」している,原告に対する「クレームとかすごいんだろーな。」と,そのクレームに対する対応等は「社員に擦り付けるんだろーなー。」と思われるとの指摘をしていると理解される。
 そして,その結果,一般の閲覧者は,原告について,〔1〕原告は否定的な評価しかできない会社であり,〔2〕原告の従業員は主体的に働いていない人物ばかりであるから,原告に就職しても、職業人として持つべき知識を得ることができず,〔3〕原告は自社の事業内容を偽り,外部の関係者等を騙していて,〔4〕原告は,原告に対する関係者からのクレームについて,その対応等を社員に押し付けて会社として適切な対応をしていない,そのような会社であるとの認識を有するに至ると認めることができる。
 これに対し,被告は,本件投稿には原告を特定することができる情報はなく,その内容は具体的なものではなく根拠も記載されていないから,一般の閲覧者が通常の読み方をしても,原告が主張するような印象を持つとはいえない旨主張するが,本件投稿がされた本件スレッドの題名には原告の商号が明記されているのであるから,原告を特定することができるし,本件投稿の内容からすれば,一般閲覧者は原告に関して上記のとおりの印象を有するに至ると認められるから,被告の主張は失当であり採用しない。 
 以上からすれば,本件投稿は,原告に対する社会的評価を低下させるものであるということができる。
(2)違法性阻却事由の存否等
 上記の本件投稿の具体的内容はいずれも原告の組織的属性を指摘するものであるところ,本件スレッドはその題名からして原告の評判を気にする不特定多数の人に対して原告に関する情報を提供することを目的としているものであると見ることができるが,それだけで直ちに,本件投稿が公共の利害に関する事実に関してもっぱら公益を図る目的のために投稿されたものと認めることはできないというべきであるし,証拠(甲5,6)及び弁論の全趣旨によれば,原告は環境事業,販促事業,教育事業,健康事業を中心として事業を展開している会社であるところ,原告の従業員はすべて主体的に働いていない人物ばかりであって,原告に就職しても,職業人として持つべき知識を得ることができないとか,原告に対する関係者からのクレームへの対応等を社員に押し付けて会社として適切な対応をしていないという事実はないことが認められる。また,本件において,その他本件投稿の違法性を阻却する事由の存在をうかがわせる事由を認めるに足りる証拠もない。
(3)小括  以上からすれば,本件投稿によって原告の名誉権が侵害されたことは明らかである。

2 争点2(正当な理由の有無)について

 上記1で認定判断したとおり,本件投稿によって原告の名誉権が侵害されていることが明らかであると認められるところ,原告は,本件発信者に対して損害賠償請求するために,被告に対して本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求めているのであるから,原告には,本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受けるべき正当な理由がある。なお,被告は発信者の電子メールアドレスは発信者情報には該当しない旨主張するが,法4条1項柱書にいう「発信者情報」は同かっこ書の総務省令(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)は発信者の電子メールアドレスを発信者情報として定めているし,本件投稿をすることができ得る電子端末機の一般的使用状況に鑑みれば,電子メールアドレスも実際の発信者を特定するために必要な情報であるということができる。よって,原告には別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受けるべき正当な理由がある。

3 結論

 以上の次第で,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第49部
裁判官 佐久間健吉

(別紙)発信者情報目録
 別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する次の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
(別紙)情報目録

関連項目