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唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成27年(ワ)第33589号

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発信者情報開示請求事件
東京地方裁判所平成27年(ワ)第33589号
平成28年3月25日民事第15部判決
口頭弁論終結日 平成28年1月22日

判決

東京都(以下略)
原告 特定非営利活動法人サイモントン療法協会
同代表者理事 (略)
同訴訟代理人弁護士 山岡裕明
同 唐澤貴洋
東京都(以下略)
被告 アマゾンジャパン株式会社
同代表者代表取締役 (略)
同訴訟代理人弁護士 青井裕美子
同 田中秀幸
同 渋谷洋平

主文

1 被告は,原告に対し,別紙発信者目録情報記載の各情報を開示せよ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1 当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨

主文同旨

2 請求の趣旨に対する答弁

(1) 原告の請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

第2 当事者の主張

1 請求原因

(1) 当事者

ア 原告は,A療法に基づくプログラムを主宰及び実施する団体である。原告は,活動の中心として,がん患者に向けたA療法のベーシックプログラム(以下「本件セミナー」という。)を,年2回行っている。

甲野花子(以下「甲野」という。)は,原告の副理事長であり,「A療法――治癒に導くがんのイメージ療法」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)を執筆し,出版した。

イ 被告は,インターネット等による通信販売に関するサポート業務等を目的とする株式会社であり,Amazon.co.jpというウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を運営している。

(2) インターネット上への投稿記事の掲載

 氏名不詳者らは,別紙投稿情報目録の投稿日時欄各記載の日に,本件ウェブサイトにおける,本件書籍の商品ページのレビュー欄において,同目録の投稿情報内容欄各記載の記事(以下,同目録記載1の記事を「本件記事1」と,その投稿者を「本件発信者1」と,同目録記載2の記事を「本件記事2」と,その投稿者を「本件発信者2」といい,本件記事1と本件記事2とを併せて「本件各記事」と,本件発信者1と本件発信者2を併せて「本件発信者ら」という。)をそれぞれ投稿した。

(3) 被告の「開示関係役務提供者」該当性

 被告は,本件各記事の投稿との関係で,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に定める開示関係役務提供者に該当し,別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。

(4) 権利侵害の明白性

ア 社会的評価の低下 

 本件各記事にいう「セミナー」とは,本件書籍の題名と原告の名称の双方に「A療法」との語が用いられていることからすれば,本件セミナーを指すものである。そして,本件各記事は,かかる「セミナー」の主催者について言及するものであるから,いずれも原告に向けられたものであるといえる。

 本件記事1のうち,特に,「主催者に苦言を云いました」,「患者がこんな高額を払わなければいけないのは,患者の立場や,心情をわかっていない」とする部分は,原告が苦言を受けるようなセミナーを実施し,患者の立場や心情を理解せず,がん患者の弱みに付け込んで患者に高額を支払わせる悪徳かつ詐欺的な活動を行っている法人であると一般の読者をして誤信させるものであり,原告の社会的評価を低下させる。

 また,本件記事2は,原告が,高額の参加費を取っているにもかかわらず患者の健康を顧みない悪徳かつ詐欺的な法人であり,又は,病気を抱えた患者や家族の不安な気持ちに付け込んで不当に高額なセミナー参加料を取る悪徳かつ詐欺的な法人であると一般の読者をして誤信させるものであり,原告の社会的評価を低下させる。

イ 違法性阻却事由の不存在

 本件参加者1は,本件セミナーに参加していないにもかかわらず,参加者になりすまして本件記事1を投稿したものであり,公益を図る目的があったとはいえない。本件発信者2は,被告からの意見照会に対して一切回答していないのであるから,原告を貶めるという悪質な意図があったと解するのが自然であり,公益目的があるとはいえない。

 また,本件各記事において摘示された事実はいずれも真実ではないし,本件記事2のうち「病気を抱えた患者や,患者の家族の気持ちに漬け込んだ」(ママ)との記載は,意見表明や論評の域を逸脱したものである。

(5) 開示を受けるべき正当な事由

 原告は,本件発信者らに対し,名誉毀損による不法行為に基づく損害賠償を求めるために,本件発信者らの発信者情報の開示を求めるものであるから,その開示を求める正当な理由がある。

(6) よって,原告は被告に対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める。

2 被告の認否・反論

(1) 請求原因(1)アは知らず,同イは認める。

(2) 請求原因(2)及び同(3)は認める。

(3) 請求原因(4)の事実は否認し,評価は争う。

ア 社会的評価の低下

 A療法に係るセミナーを開催しているのは原告だけではないことなどからすれば,一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準として,本件各記事が原告に向けられたものであると読み取ることはできない。

 また,原告が問題とする本件記事1の記載のうち,事実摘示に関する部分は,主催者にセミナーの価格について苦言を呈したというだけである。セミナーの価格の妥当性についての受け止め方は参加者によって異なるから,これを高いと感じた参加者がいたとしても,原告の社会的評価は低下しない。仮に本件記事1を意見表明又は論評と解したとしても,病気の治療方法に賛否両論があり得ることは一般に認知されているから,これについて否定的な見解が示されたからといって,社会的評価を低下させることにはならない。

イ 違法性阻却事由の不存在

 本件各記事は,いずれも,本件書籍の購入を検討している本件ウェブサイトの閲覧者一般に向けて,有益な情報を提供するという公益に関係づけられた目的により投稿されたものであるから,専ら公益を図る目的がなかったとはいえない。

 また,本件記事1において摘示されている事実や,本件記事2における意見表明又は論評の前提事実の各重要な部分について,真実に反しているとまではいえない。

(4) 請求原因(5)の事実は否認し,評価は争う。

理由

1 請求原因(1)アは甲2により認められ,同イは当事者間に争いがない。

2 請求原因(2)及び同(3)は当事者間に争いがない。

3 請求原因(4)について

 以下のとおり,請求原因(4)はいずれも認められる。

(1) 請求原因(4)アについて

ア 同定可能性

 前記2のとおり当事者間に争いのない本件各記事の内容によれば,本件各記事はいずれも,「セミナー」について,その内容と価格との均衡等について批判的な評価を下した上,「本で充分」とするものである。

 本件ウェブサイト内の本件書籍の「内容」と題する欄には,本件書籍の内容として,がん治療法としてもA療法について肯定的な立場から,同療法の実践的方法について詳説するものである旨記載されている。また,同「著者について」と題する欄には,本件書籍の著者である甲野が「NPO法人Aジャパン」の副理事長であり,A療法認定トレーナーであることのほか,平成14年に「NPO法人Aジャパン」を設立し,A療法の主な活動として,年2回開催される合宿研修プログラムにおける指導等を行っていること等が記載されている(甲1)。

 この記載からすれば,一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とすると,上記著者欄における「NPO法人Aジャパン」と原告とは同一であると読み取ることができるから,本件各記事にある「セミナー」とは,原告の行う,A療法に関する研修を指すものと読み取ることができる。

 したがって,本件各記事は,いずれも,「セミナー」の主催者である原告をその話題の対象とするものであると認められる。

イ 社会的評価の低下

(ア) 本件記事1

 前記2のとおり当事者間に争いのない本件記事1の内容は,原告の主催するセミナーについて,宿泊施設の豪華さやスタッフの人数が過剰であり,そのために,価格が過度に高額になっていると論評した上で,原告がそのような高額の代金を徴収している点をもて,がん患者の立場や心情に対する原告の理解が十分でないと論評するものである。

 したがって,このような論評は,原告の主催するセミナーがその価格に見合うだけの内容に乏しいものであり,さらに,原告の患者の立場等に対する理解が不十分であるとの印象を与える点で,原告の社会的評価を低下させると認めることができる。

(イ) 本件記事2

 前記2のとおり当事者間に争いのない本件記事2の内容は,原告の主催するセミナーについて,途中で体調の悪くなった参加者についての,スタッフとして医師が多数いるにもかかわらず,タクシーで病院に搬送するのみで,対応が不十分であったという事実等を摘示した上で,その価格が過度に高額になっていると論評するものである。

 したがって,このような事実の摘示及び論評は,原告のセミナーにおける体調を崩した参加者への対応が不十分であり,セミナー自体も,その価格に見合うだけの内容に乏しいものであるとの印象を与える点で,原告の社会的評価を低下させると認めることができる。

(2) 請求原因(4)イについて

ア 本件記事1

 甲2及び8によると,甲野は,原告の行うセミナーの価格が過度に高額ではない旨を相応の根拠に基づいて陳述していると認められるところ,本件記事1に関する本件発信者1の回答書(甲7,乙4)によっても,前記(1)イ(ア)の論評の前提としている事実が明らかではないからこれが真実であるとはうかがえない。したがって,本件の証拠関係においては,上記甲野の陳述には信用性が認められるから,その余の点につき判断するまでもなく,本件記事1の投稿について違法性阻却事由はないと認めることができる。

イ 本件記事2

 甲2及び8によると,甲野は,前記(1)イ(イ)のとおり本件記事2において摘示された事実は真実ではない旨を陳述し,また,原告の行うセミナーの価格が過度に高額であるという論評は誤りである旨を相応の根拠に基づいて陳述していると認められるところ,上記摘示事実が真実であることをうかがわせる証拠はないし,上記論評の前提としている事実も明らかではなく,これが真実であることもうかがえない。したがって,本件の証拠関係においては,上記甲野の陳述には信用性が認められるから,その余の点につき判断するまでもなく,本件記事2の投稿について違法性阻却事由はないと認めることができる。

4 請求原因(5)は,弁論の全趣旨から認められる。

5 以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第15部

裁判長裁判官 青木晋

裁判官 澤井真一

裁判官 佐藤貴大

(別紙)発信者情報目録

別紙投稿情報目録1及び2記載の各投稿情報に係る発信者の使用するアカウントに関する情報のうち次の情報

1 氏名又は名称

2 住所

3 電子メールアドレス

4 上記アカウントにログインした際のIPアドレスのうち被告が保有するものすべて

5 前記のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に本件情報が送信された年月日及び時刻(日本標準時)

(別紙)投稿情報目録

閲覧用URL (省略)

投稿日時 2013/8/15

投稿情報内容

投稿者:B

タイトル:本で充分

本文:セミナーに参加した患者です。はっきり云ってセミナーはお薦めしません。こんなにお金をかけて学ぶに値しません。私が参加をしたときにも、主催者に苦言を 云いましたが、こんな価格では患者は到底参加できません。いかにもゴージャスなリゾートホテルで行われますが、宿泊費も別で、こんな贅沢なところにたくさんのスタッフがやってくるために、患者がこんな高額を払わなければいけないのは、患者の立場や、心情をわかっていない証拠です。本で充分。

投稿日時 2013/7/25

投稿情報内容

投稿者:C

タイトル:ひどい

本文:妻ががんになって本を読み、事務所に問い合わせて勧誘されたセミナーに参加した。
はっきり言って、本と同じ事を6日間かけてやるだけ。
途中で体調が悪くなったが、医者がスタッフでたくさん来ているにもかかわらず、タクシーで病院に行かされるだけで、その間のフォローもなし。
創始者も来ないのに(亡くなっているので)、同じ高額な値段のまま開催し続けている。
病気を抱えた患者や、患者の家族の気持ちに漬け込んだ高額セミナー。

本で充分。
怒りと落胆しかない。