恒心文庫:北風と太陽

2021年8月4日 (水) 09:30時点における>チー二ョによる版 (→‎リンク)
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本文

緩やかな風が青々とした原っぱをさらっていく。しなやかな草々が静かに波打ち、葉ずれの音が穏やかに広がっていく。
その広大な地平に、一本の道がのびている。土の踏み固められた真っ直ぐの道である。遥か地平へと続くその道を、一人の旅人がゆっくりと歩いていく。
厚子である。白い装束に身を包み、頭には三角巾をつけて歩いている。死出の旅路である。道連れのいない孤独な旅である。一人厚子は後ろを振り返らずにひたすら前へ前へと進んでいく。
その様子を、上空で見下ろす三つの影があった。それは、ひっくり返って尻を上へと掲げた女、そして、お互いに絡まり合いながら火に包まれているスーツ姿の男とチンコ顔の男である。女はその肛門とおぼしきすぼまりから猛烈な突風を唐突に噴き出す。女は北風であった。男達は取っ組み合いの喧嘩をしながら上へ下へと入れ替わり立ち代りお互いの炎を相手へとなすりつけ合う。男性は太陽であった。三人は何やら下方を行く旅人、厚子に目をやりつつ話をしている様だった。どうやら、賭け事をしようという話らしい。その内容は、どちらが先にあの白装束を脱がせるかとの事である。
早速、北風は地上に狙いを定め、下っ腹へと力を込めた。途端、褐色のすぼまりは疾風を放った。嵐である。暗褐色の割れ目はその奥深くより断続的に雨水を噴射し、旅人の身を容赦無く打ち付けていく。方向性を持った自然の暴力は荒々しく、もはや生身の人間が太刀打ちできるものでは無い。当然、厚子の白装束は一瞬で吹き飛ぶ。
途端風が止んだ。草原の揺れは一斉に止まり、静寂が辺りを覆っていく。まるで取り残された様に伸びる一本の道。
その一点で、厚子はその裸体を晒していた。弛んだ腹、垂れたシワシワの乳房、萎びたレーズンみたいな乳首。そして息をする様に開閉を繰り返す秘部。
沈黙が渦を巻いている。重苦しい雰囲気の中、匂いだけが広がっていく。厚子は、露出してしまった自分のマンコ、その大きくはみ出した大陰唇の内側をおもむろに掻いた。長年の積もり積もった厚子のマンカスは天より降り注ぎし潮と尿によりふやけ、流石に痒くなったのだろう。指先に付着した恥垢がポロポロと地面へと落ち、その匂いを土壌へと染み込ませていく。草原はまるで恐怖におののく様に不規則に身をふるわせ、枯れた。
遥かな地平、その広大な地を覆う青々とした草原が見る見る内に色を失っていく。匂いが瞬く間に地を覆っていく。ガイジかな、あれ。怖い。北風は絡まり合って燃え続ける男達に向かって尻を向け、発射。勢いづいた暴風は炎を伴い地へと降り注ぎ、厚子の立つ場所へと直撃する。
天の火である。屁に引火したのである。北風と太陽は火に包まれる地上を見下ろしていたが、すぐに驚愕した。燃え盛る大地の真ん中、厚子は汗をかいていたのだ。暑かったのであろう。額から流れ落ちた玉の様な汗は弛みきった顎を伝い首を伝い猫背を伝い、そして腋の下へと入り込む。やがて動きに合わせて水音を立てる腋の下。流石に気持ち悪かったのか、乾かそうと厚子は不意に腕を頭上に向かって伸ばす。
瞬間、世界が軋んだ。地が割れ天が裂け、道は崩れて消えていく。北風と太陽は地へと落ち、地平線で炎が揺らめく。阿鼻叫喚が地平を包み、地上は地獄へと変貌する。その地獄の中でただ一人踊り狂う女が一人。
厚子はワキガなのだ。
顔をしかめずにはいられないえぐみのある匂いだけが残り、そして誰もいなくなった。

リンク

ここでは厚子が化け物のような姿となっている作品のみリンクを掲載する。この他にもメインとして登場している作品、叙述トリック物がある。