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2020年9月25日 (金) 21:35時点における最新版

唐澤貴洋の発言一覧 > チラシの裏/法改正関連発言

「法改正関連発言」とは、2020年に入って尊師が唱え始めた「プロバイダ責任制限法」と「刑法」の改正に関する発言ならびに主張である。本項は事実追求路線の一環として、尊師の法改正関連発言に関する問題点を追求する。

概要

2020年3月、尊師は約6年にわたり休眠状態だった恒心法律綜合事務所のTwitterを突然再開し、自らの主張の発信を始めた。その中で尊師がネットにおける炎上対策の「目玉」として掲げているのが「プロバイダ責任制限法」と「刑法」の改正である。

フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー木村花がSNS上の中傷を苦にして自殺した2020年5月以降、尊師はこの事件に便乗する形で各種メディアへの露出を積極的に増やしており、Twitterと同様の主張を行っている。

2020年7月時点で判明している主な発言は、下記の通りである。既に当Wikiの各項目に全文が転載されているため、本項では必要部分のみ抜粋したものを折りたたみ表示とする。

尊師の法改正主張に関連する発言

2020年5月15日のTwitter
プロバイダ責任制限法の省令が改正される可能性が出てきましたが、法案そのものの抜本的解決を総務省は考えていません。

被害の事実を直視して、抜本的な改正、ないし、新法を作るべきときです。
2020年5月24日のTwitter
尊い命が失われた。
誹謗中傷によって。
このような事態はもう許されない。

プロバイダ責任制限法、刑法を改正し、ツィッター社がきちんとした対応をして、発信者が被害者負担なく特定され、損害賠償責任を相応の金額負担して、重い刑事罰を受けるようにしなければ、この事態は無くならない。

法律を変えるしかないんだ。 
弁護士ドットコムニュース 2020年6月8日
問題解決に向けて、法律を変える必要があります。それとともに、ネットの誹謗中傷の問題を簡単・低額で相談できる第三者機関を設置するべきです。
木村さんに誹謗中傷した人の侮辱行為は、1日以上30日未満の拘留または1万円未満の科料を科されるのみです。しかも、ほとんどは不起訴になるでしょう。
(略)
ネット上の名誉毀損行為、執拗な侮辱行為について、傷害罪と同程度の罰則にすることを提案します。15年以下の懲役または50万円以下の罰金にするのです。
(略)
現状、匿名の投稿者の特定には時間もお金もかかります。被害者は裁判所で手続きをする必要があって、半年~1年の時間と弁護士費用などのお金のかかることが被害者のためになるか。ならないでしょう。
そこで、被害者の相談を受け付けて、判断を行う第三者機関の設置を提案します。発信者情報開示の申立てを受け付け、裁判所に頼らず、権利侵害について判断します。第三者機関の判断で侵害が認められたら、プロバイダは基本的に速やかに発信者情報を開示します。
すべての権利侵害情報について、第三者機関の利用はされるべきではなく、公務員に関する情報、犯罪情報、企業における労働環境などの情報は、従来通り、裁判所で慎重に判断されていく必要があると思います。
中日新聞 2020年7月12日付記事
これほどの損害を受けても、日本の裁判では費用を回収できません。発信者特定に必要な弁護士費用は五十万~八十万。損害賠償を求める民事裁判を起こしてもわずかなお金しか受け取れません。発信者が刑事責任を問われることも、ほぼありません。「プロバイダー責任制限法」は被害者のためになっていない。法改正で被害者が使いやすく、犯罪行為が抑止されるようにしなくてはいけません。

しかし、尊師は現行の「プロバイダ責任制限法」をどのように改正すべきなのか、何ら具体的な主張を行っていない。刑法については「名誉毀損の法定刑上限の引き上げ」を主張しているが、尊師の主張はいずれもインターネット上の誹謗中傷対策として実効性に乏しい内容である

以下、尊師の主張の問題点を追求する。

【問題点1】不法行為の成立について

尊師は弁護士ドットコムニュースにおいて「ネット上の名誉毀損行為、執拗な侮辱行為について、傷害罪と同程度の罰則にすることを提案します。」と主張している。

現行の刑法204条で定められている傷害罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金である。一方、刑法230条で定められている名誉毀損の法定刑は3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金である。

よって、尊師の主張を言い換えると「刑法を改正して名誉毀損罪の法定刑の上限を懲役15年まで引き上げろ」ということになる。

しかし、インターネット上の書き込みによって裁判所が発信者情報の開示を認めるのは刑事・民事を問わず、不法行為が成立している、もしくは成立している蓋然性が高い場合に限られるのである。(プロバイダ側のIP自主開示については問題点2~3を参照)

尊師はなぜか刑法改正による名誉毀損の重罰化のみに固執しているが、名誉毀損以外にも侮辱、脅迫、威力業務妨害、著作権侵害などの様々な不法行為が存在する。また、不法行為は刑事だけでなく民事でも同様に成立する。

仮に、尊師が主張するように特定の不法行為における刑事罰の上限を引き上げたところで、該当の事件を起訴するかどうかは検察の判断に委ねられるし[1]、裁判所が認定する不法行為の程度により量刑は変動する[2]。すなわち、尊師が主張するような「名誉毀損の法定刑上限引き上げ」は「名誉毀損の重罰化」と同義ではないので、ネット上の誹謗中傷行為のブレーキになる可能性は低い。

不法行為の成立要件は、民事事件でも基本的に刑事事件と概ね同一である。川上量生山本一郎を相手取って起こした民事裁判(平成30年(ワ)第38265号)では、尊師が川上の代理人を務めており、法廷において名誉毀損や侮辱を主張したが、東京地裁は2020年3月、原告(川上)全面敗訴の判決を言い渡した。この裁判は名誉毀損ならびに侮辱の不法行為成立における尊師の法的知見の乏しさが露呈しており、本項における教材としてきわめて有用なので、該当の判決内容を引用する。

山本の書き込みのうち、尊師が不法行為を指摘したのは以下の3件である。(太字強調は引用者による)

1 「川上量生さんの発言が支離滅裂になってきた」という話、まず「川上量生は自分の頭が良い」大前提のもと「自分に対する批判に堪えられない」ことと「自分の考えや説明は正しく、誰もが賛同するはずと思い込んでいる」ことが狂ってる原因なんだと思うなあ。
2 カワンゴ某にとっての真の敵は、私に「川上量生にお灸を据えてやってくれ」と言った口でカワンゴ某に「川上量生さんは正しい。一度仕切り直しになったら応援したい」とか平然と言う企業人や太鼓持ち。で、カワンゴ某は馬鹿だから二枚舌にまったく気づかない。
3 貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ

これらの山本一郎の書き込みを見ると「狂ってる」「馬鹿」に加えて、「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ」という、一見すると神聖六文字にも似た内容の文章があるため、外形的には不法行為が成立するように見える。しかし、東京地裁は下記の理由で、尊師の主張を全て却下した。(以下は判決の要点を要約したものである。判決文全文は山本一郎のブログ[3]を参照されたい)


・川上自身が「日本のネットのガン」「総論として屑」「下劣な品性の持ち主」「山本一郎が発狂しているな」などという侮辱的な表現を用いて山本を先制攻撃しているので、投稿中の山本の表現は川上の侮辱に対抗する趣旨で記載されたものと考えられ、1~3の山本の表現は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為とは認められない

・「カワンゴ某は馬鹿だから」という記載も、川上の知的能力の低さを意味するものではなく、川上の認識不足または注意不足の程度が著しいことを意味するものとして用いられたと理解できるので、慰謝を要するほどの社会的評価の低下をもたらすものではない。また、山本が川上との直近のやり取りの中で川上から「ちゃんと読め。バカ」という侮辱的な表現を用いた批判を受けたことも考慮すると、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評のしての域を逸脱したものとはいえないし、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとも認められない

・「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ」という表現は、川上が山本に対して裁判を起こすことを通告してきたため、ゲーム「Civillization IV」において開戦を意味するセリフ「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ」を引用して、山本が自らの高揚した心境をツイッター上で表現しようとしたものである。これを川上自身の「山本に対して訴訟を起こす」とのネット上の投稿と切り離して、「川上が死刑に値する犯罪行為を行った」と解釈する余地はない。よって、そもそも川上の名誉感情を侵害するものとはいえないし、仮にそうでないとしてもこれが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとは認められない

したがって、1~3のいずれも不法行為は成立しないというべきである。以上と異なる尊師(川上)の主張は、いずれも採用することができない


尊師の渾身の主張は、東京地裁によって法的観点からあっさりと全否定されるに至ったのである

この判決において、「社会通念上許される限度を超える」「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評のしての域を逸脱したもの」という点は名誉毀損裁判における不法行為の重要な判断ポイントである。

このように、名誉毀損については不法行為の認定がきわめて難しい。よって、尊師が主張するように、仮に刑法を改正して名誉毀損などの罪を重罰化したところで、不法行為が成り立たない場合は発信者情報の開示自体が認められないのである

名誉毀損とは異なり、「殺す」「爆破する」などのわかりやすい犯罪予告は脅迫や威力業務妨害に該当するので、刑事事件として処理しやすい。しかし、単純に神聖六文字を書き込めば脅迫になりうるが、例えば「「唐澤貴洋殺す」とネット上で大量に書き込まれているかわいそうな弁護士がいる」といった表現であれば、文脈にもよるが同じ神聖六文字でも違法性が阻却され、名誉毀損や脅迫にはならない可能性が高い。また、「殺す」と類似した内容で、書き込まれた対象者に精神的苦痛を与えかねない「死んでくれ」については脅迫に該当しないとされるため、警察も全く動かないという[4]

【問題点2】現在のプロバイダ責任制限法のどこに問題があるのか?

尊師はTwitter上で「プロバイダ責任制限法改正」というフレーズを念仏のように唱えているが、これまでの発言から確認できる範囲では、現行法のどこに問題がありどう改正すればよいのかを一切述べていない。

現在のプロバイダ責任制限法の下で、違法な動画をアップロードした投稿者の発信者情報開示に成功した例として、一連のエア本動画に対する某宗教団体の対応がある。

同団体はきわめて有能な弁護士と連携し、同団体が著作権を保有する動画の著作権侵害を理由としてニコニコ動画[5]に投稿者のIPを任意開示させた上で各プロバイダに訴訟を起こし、エア本動画の投稿者の発信者情報を開示させた。その結果、開示を恐れた他のエア本動画投稿者が自主削除するなどしたため、エア本動画は急速な勢いで衰退した[6]

これは決して依頼者が巨大組織であったから開示されたということではなく、有能な弁護士がニコニコ動画における不法行為を的確に指摘して、ニコニコ動画側に動画投稿者のIPを任意開示させ、プロバイダに対してプロバイダ責任制限法と不法行為を根拠として発信者情報開示を求める裁判を起こしたからこそ、なし得たことである。逆に、尊師のような無能弁護士に同様の内容を頼むと、着手金だけ取られて全面敗訴した川上量生のような結末となる。

総務省では現在、プロバイダ責任制限法の改正を検討しているが、不法行為の類型のうち、特に名誉毀損については、上述の川上vs山本裁判からも分かるように、文脈によって不法行為の認定が変わりうることもあり、専門家でも判断が難しい[7]

総務省の研究会で構成員を務める北澤一樹弁護士は、2020年4月30日に開催された第一回研究会[8]で以下のように述べている。

私も普段の業務でプロバイダから、訴訟外で開示請求を受けたんだけれども任意開示してもいいのかという相談はよく受けます。権利侵害の明白性ありと判断できるのかということとか、あとは開示した場合の、ご紹介いただいたようにリスクですね。例えば、発信者からどうして開示したのかと言われた場合にどう説明できるのかと。あとは開示しなかった場合に生じるコストですが、訴訟になるかどうかというところも踏まえて判断します。
(略)
任意開示が少ない理由としては、例えば企業への批判というような記事とか口コミとかで内容の真実性を判断できないというときは任意開示が難しくて、これは裁判所に判断してもらおうということになることは多いです。

あとは、難しいと感じるのは不適切な表現と違法な表現の区別です。批判内容は真っ当なんだけれどもちょっと言い過ぎではないかというようなケースで、じゃあ、これが不法行為になるのかと言われると、今度は表現が萎縮するのではないかという話があって、そういった難しい話があります。いずれにしても、任意開示するにしても、プロバイダにとってはノーリスクではないという点は、任意開示が少ない理由として、やはり大きいのかなと思います。

発信者情報開示はプロバイダ側にとって様々なリスクが存在するので、専門家による適切な議論も経ずに、思いつきだけで簡単に制度を変えるわけにはいかないのである。また、脅迫に該当しない「唐澤貴洋死んでくれ」のような書き込みを削除させる場合は、法律とは異なるレベルの対処が必要になる。

しかし、尊師は5月24日付のツイートで驚くべきことに、「ツィッター社は、木村花さんの件で、誹謗中傷したアカウントを自発的に警察に提供し、告発すべきである。」と、プロバイダ側の事情、法的手続き、「表現の自由」、「通信の秘密」などを完全に無視した、法曹関係者としてはありえない支離滅裂な内容を、あたかも感情を発散するかのように主張している

この尊師理論では、各プロバイダ(Twitter社のようなコンテンツプロバイダ、通信会社のようなサービスプロバイダの双方)に誰かがクレームを入れた場合、各プロバイダが法的判断を超越して、自らの判断でリスクを負って警察に発信者情報を開示することになってしまう。木村花に対する「中傷」ではプロバイダ側での判断が難しい書き込みも多いことが確認されているが[9]、尊師のトンデモ理論が仮に法的に認められた場合、「社会通念上許される限度を超えていない」「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評のしての域を逸脱していない」書き込みについても、Twitter社は相手からクレームがあれば、手当たり次第に発信者情報を開示せざるを得なくなってしまう。

このように、感情的かつ非論理的で場当たり的な主張を行う尊師とは冷静な法的議論が行えるわけもなく、尊師とネットの法規制を議論する法曹関係者の存在は、今のところ確認することができない。

【問題点3】プロバイダ責任改正法のスラップ訴訟への悪用の危険性

「プロバイダ責任改正法」についてはTwitter上で謎ポエムなどを書くばかりで、改正を求める具体的な根拠や目的を何ら示さない尊師であるが、これまでの発言を総合すると「日本政府はプロバイダ責任改正法を早急に改正して弁護士が発信者情報を開示しやすくしろ」(=パカビジをやりやすくしろ)ということになる。

しかし、法曹界では「プロバイダ責任改正法」の改正について慎重な意見も根強い。なぜなら、発信者情報の開示をスラップ訴訟目的に悪用する悪徳企業が多数存在するからである。森亮二弁護士が恒心的観点においてきわめて重要な指摘をしているので、該当箇所を引用する。なお、森弁護士は上記の北澤弁護士と同じ法律事務所に所属している。

日経ビジネス:テラスハウス騒動で機運高まるネット中傷対策の危うさ(2020年6月22日)
該当記事へのリンク(要会員登録)(魚拓) )

今回、総務省の研究会では開示する情報に電話番号を新たに加えるなどして、被害者がよりスピーディーに投稿者を特定し、損害賠償を請求できるよう議論している。
この情報開示制度は木村さんのような誹謗中傷の被害者の救済を想定して2002年に設けられた。その一方で、当初から威圧を目的とした「スラップ訴訟」で悪用される懸念が指摘されてきた。

訴訟を連発し精神的に参らせる
“被害者”を自称する企業が、正当な辛口批評や告発を書き込んだ人物の身元を情報開示制度で特定し、威圧するために名誉毀損で訴えるなどのケースがスラップ訴訟に相当する。投稿者が一般の個人の場合、裁判のコストが大きな負担となり、提訴自体が威圧として働く。
英知法律事務所の森亮二弁護士は、これまで数多くのスラップ訴訟に対処してきた。
例えばマルチ商法を手掛ける会社の販売方法をSNSで批判したブロガーの代理人となったときのことだ。ブロガーは無断で商品の写真を使っており、マルチ商法を展開する会社から著作権侵害で訴えられていた。「ブロガーを黙らせることが本来の目的だった」というのが森氏の見立てだ。
このほかにも木村さんのような誹謗中傷の被害者にとっては、弁護士を通じてSNS運営会社に投稿の削除を求めることも有効な対抗手段となる。ただやはり情報開示制度と同様に、不当な動機で削除を求めてくる自称“被害者”が少なくないのが実情だ。
森氏はSNS運営会社の代理人として、美容クリニックからの削除要請に抵抗したことがある。
「『医師の説明がよく分からない』『感じが悪かった』など少しでもネガティブな投稿があるとクリニック側は消すよう訴えてきた。それもまとめて提訴するのでなく、あえて1件1件の投稿について個別に訴えることで、最終的に訴訟案件は10件に上った。SNS運営会社は零細だったため、訴訟が大きな負担となり、運営者は精神的に参ってしまった」(森氏)という。これも屈服させることを狙ったスラップ訴訟である。
評価の低い投稿を消し、高い評価の投稿だけを残せば、本来は品質の悪いサービスや商品が高品質であるかのように印象づけることが可能だ。SNS運営会社に対する削除要請は誹謗中傷の被害者を救う半面、印象操作によって消費者をミスリードする手段にもなり得る。

当Wikiの読者であれば、フジテックスロイヤルネットワークサイモントン療法協会立花孝志など、これまで尊師がスラップ訴訟を起こす悪質な関係者の代理人となり続けてきたことを御存知であろう。

森亮二弁護士は、日本のSNS業界団体がSNS上における誹謗中傷などの諸問題を解決するために2020年4月に立ち上げた一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構において、理事を務めている。「ネット炎上の被害をなくしたい」と自称している尊師が、この団体と連携して活動を開始したという情報が未だに入ってこないのは、きわめて不可思議である。

【問題点4】実名で中傷を行う人間への対処は?

根拠や具体性を示さない尊師の「プロバイダ責任制限法改正」という主張は、自らは匿名発信を行っているにもかかわらず、既存のメディアに対する批判が渦巻いているネットを「悪の巣窟」として描きたい大手マスメディアにとっては非常に都合が良い。尊師の売名志向と大手マスコミの既得権益保護・ネット攻撃という双方の利害が完全に一致するためである。そこで、最近は尊師がコメンテーターとして新聞・テレビを中心とした旧メディアに頻繁に登場するようになった。

しかし、現行のプロバイダ責任制限法で対応が可能なのは投稿者の発信者情報(住所・氏名)の開示にすぎない[10]実名でネットにおかしな書き込みを行う人間にどう対処するのか、尊師の主張からはまったく読み取れない。

例えば甘芋は実名で狂った攻撃・中傷を堂々と行う[11]。甘芋ではないが、「テラスハウス問題」では、SNS上において実名で木村花の誹謗中傷を行っていた放送作家が存在する[12]。発信者が匿名であれ実名であれ、誹謗中傷(名誉毀損・侮辱など)の被害は発生しうるのであるが、これまでの尊師の主張を見る限り、実名の投稿者によるネット上の誹謗中傷とその被害についてはなぜか完全に無視している

中日新聞 2020年7月12日付のインタビューにおいて、尊師は「(自らが)これほどの損害を受けても、日本の裁判では費用を回収できません。発信者特定に必要な弁護士費用は五十万~八十万円。損害賠償を求める民事裁判を起こしてもわずかなお金しか受け取れません。」とコメントしている。

しかし、甘芋は一般的に経済力が乏しいため、民事で訴訟を起こしても賠償金を回収できる可能性は低い。さらに、刑事事件では甘芋が「責任能力なし」と判断され、無罪放免となる可能性も高い。

これは、法的手続きを用いたネット中傷被害対策の限界ともいえる。

【まとめ】尊師の本音

上記の中日新聞のインタビュー記事はわずか500文字弱であるが、大変興味深いことに尊師は全体の20%以上に当たる113文字も使って金銭に執着したコメントを行っている。そのため、尊師が開示対象と考えている相手は甘芋のような経済貧困者ではなく、「裁判費用の回収」が可能な相手であることは明らかである。

ここまで見てくると、尊師の本音は「悪徳企業のスラップ訴訟をどんどん受託して裁判費用を回収したいから、プロバイダ責任制限法を改正せよ」ということなのではないかと推測される。

なぜなら、プロバイダ責任制限法の改正による発信者情報開示の容易化と刑法の厳罰化は、ネット上の誹謗中傷対策としては効果がほとんどない一方で、悪徳企業のスラップ訴訟にとってはきわめて効果的かつ有益な内容だからである

今のところ、ここまで偏った主張を唱えている法曹関係者は尊師だけである。尊師は新聞のように執筆者が匿名で発信する旧メディアには引っ張りだことなりつつあるが、清水陽平のように、総務省のプロバイダ責任制限法改正における外部識者として声がかかることは一切ない。Twitterなどで感情の発散を行っているだけの尊師は、まともな法曹関係者からは全く相手にされていないのである

脚注

  1. 不思議なことに、尊師はこの点を完全に無視している。
  2. これまで判明している限りでは、尊師は刑事裁判の実務経験が全くない。そのため、不法行為の認定や量刑の相場に関する状況などの実際の刑事裁判が抱える難しい課題を考慮せずに、名誉毀損の法定刑引き上げばかりを声高に主張しているのではないかと推測される。
  3. やまもといちろうブログ 川上量生さん、盛大に批評されてムカついても裁判起こしても1円の名誉毀損も勝ち取れず(魚拓)
  4. ネットの中傷地獄で自殺未遂、そして出家…元女性アナ、執念で加害者を特定 「被害者の駆け込み寺つくりたい」弁護士ドットコムニュース、2020年7月11日(魚拓)
  5. 自らに対する名誉毀損に該当するはずの多数のパカソンやMMDを削除せずに放置しているニコニコ動画運営に対して、尊師は不思議なことになぜか怒りを一切示していない。挙句の果てには、ニコニコ動画の運営会社のトップだった川上量生が起こしたスラップ訴訟の弁護まで行っている。
  6. これらの発信者情報開示裁判により、著作権法の専門書や雑誌に掲載される判例に「チキ本さん~呪われしモザイク事件」などいったエア本動画のタイトルが残ることになった。
  7. 某宗教団体は、仮に名誉毀損で開示申請をした場合には不法行為認定が困難になることを踏まえ、客観的に不法行為の認定が容易で、コンテンツプロバイダ側が任意開示を拒むことが困難な著作権侵害を元にエア本動画の発信者情報開示を行ったのではないかと考えられる。
  8. 総務省 発信者情報開示の在り方に関する研究会(第1回)議事録
  9. 木村に対する攻撃的なツイートの例として「命の次に大事な物なくした割にすぐイケメンとデートして笑顔って、呆れるわ」「二度とテレビに出ないで下さい。テラスハウスの大ファンだったのに、あんなに気分が悪くなったのは久しぶりです」「こんな凶暴な子イヤだー。プロレスラーの人って実際もこうなんだって思ってしまった。未公開も含め、とても不愉快でした。」などが存在する。これらの発言が名誉毀損・侮辱に該当するか、公正な批評の範囲かの判断はきわめて難しく、プロバイダ側で発信者情報開示の是非を判断するのは困難である。
  10. 2020年7月現在、総務省の研究会では、Twitter社など海外のサービスプロバイダを念頭に、プロバイダ責任法で開示可能な発信者情報にSMSサービスのアドレス(=携帯電話番号)を追加する方向で検討がなされている。
  11. 詳細は甘芋一覧のリンク先を参照。実名で誹謗中傷を行う甘芋の異常性には身が震える
  12. 該当の放送作家は、木村花の自殺後に自らのTwitterアカウントを削除し、ネット上から逃亡している。

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