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恒心文庫:鬼

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

鬼の原義は死者の魂であり、
オニの語源は一説によると、この世ならざるもの、邪悪なものであるという。


ここは虎ノ門。とあるビルの一室。
時刻はまもなく午前二時。草木も眠る丑三つ時。
小太りの男性が全裸で立っていた。
まるで耳なし芳一のように、その全身にはありがたいお経が書きこまれている。
股間のポークビッツは寒さと恐怖でさらに小さくなり、もはや大豆の大きさと同程度であった。

男が三回目の失禁を始めた頃、扉を開けて部屋に入って来た者たちがいた。

鬼である。

その手には恐ろしげな凶器を持っているように見える。
角が生えているように見える。
男のようでもあり、女のようでもある。
人のようでもあり、駝鳥のようでもある。

死してなお小太りの一般男性を恨む魂たちが、今宵、鬼となって黄泉返ったのだ。

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)」

小太りの男性は四方八方に便を撒き散らしながら、必死に豆を撒いた。柊の葉やメザシを投げた。
降り注ぐ豆や便(もちろんたっぷりと豆が混じっている)を受け、鬼たちは混乱する。
何より、お経の効果により、小太りの男性の姿は鬼たちに見えていない。鬼たちは仇敵の姿を探して部屋の中を右往左往するばかりである。

なんとかなるかもしれない――。男が安堵した時、突然駝鳥のような鬼が男に向かって走り出した。その眼は明らかに男の姿を捉えている。
あっという間に肉薄したその鬼は首を伸ばし、男の股間で縮み上がるポークビッツを噛みちぎった。

ああ! なんということだろう。
寺生まれのTさんが男性にお経を書いたとき、肌の上をうねる毛筆の感触に興奮した男性は、股間のポークビッツをパンパンに膨らませていたのだ。
それが縮んでしまうとどうなるか。お経の文字は潰れ重なり、隠形の用をなさなくなってしまうのだ!!

「オニイサンノ、エホウマキ、オイシイナア」

駝鳥鬼はそうつぶやくと満足そうに消えていった。
いつの間にか、他の鬼たちもいない。
あとに残ったのは、股間から血を流し、下痢便の中で泣きじゃくるひとりの人間だけであった。


――だが。これで終わりではない。
男が人の恨みを買い続ける限り、鬼との戦いは続くのだ。

挿絵 

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

リンク

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