恒心文庫:ある女神の密かな願望
本文
『もっとみせて』
『乳首みせて』
画面に流れる視聴者のコメントを見ながら幸恵は体をくねらせる。
見えるか見えないか、そのぎりぎりのラインで体を動かす。
両手で決して大きいとは言えない乳房を覆い、乳首が見えないようにつまんでみせる。
幸恵の体の火照りも増していく。
この画面の向こう側、千人に近い視聴者が自分の肉体を欲している。そう考えると、幸恵は幸せな気持ちになった。
二人の子供に乳を与えたせいでもう黒ずんでしまっている乳首が少しずつ、手の中で固く大きくなっていくのを感じる。
視聴者の何人かが生放送の延長のコインを投入する。
『ゆきたん、もうみせちゃおう』
幸恵は乳房から手をどける。誰かに吸ってもらいたいかのように屹立した両の乳首が画面に映る。
乳房をカメラに近づけ、画面の向こう側の視聴者たちを挑発する。
流れるコメントはスピードを増し、その要求はエスカレートする。
『ゆきたん、パンツも脱いじゃおう!』
だがすぐには脱がない。しっかりと焦らすのだ。
コメントは次第に乱暴になっていく。まるで何人もの男たちにレイプされているかのような感覚に、幸恵の興奮はますます強まる。
元からレイプ願望はあった。今の夫も、かつて自分を路上でレイプしてきた男である。
ネットの掲示板に自分の名前を出し、やらせてくれるよと書いて、日本でも治安の悪いことで有名な町へでかけ実際に輪姦されたことだってある。
『パンツぐしょぐしょだよ!』
コメントの指摘通り、幸恵のパンツはぐっしょりと濡れていた。
密林の奥、近頃は侵入者のいなくなった泉からは、甘い蜜が若い頃と相も変わらずこんこんと湧き出ていた。
幸恵はパンツの中に右手を滑り込ませる。
息子を二人も産み落としたので、指が四本も入るほど広がっている。
気持ちの良いところを自分で見つけ出し刺激する。ぐちょぐちょという、粘性の伴った液体が撹拌される音が空気の振動として部屋に響き、マイクに拾われ電気信号となって視聴者の耳元で再現される。
『ぐちょぐちょやんけ!』
手の動きを早める。津波のように快感が押し寄せ頭の中が白くなっていく。
体は自分の手から逃れようと勝手によじれねじれる一方で、右手は未踏の秘宝を探り当てようと奥へ奥へと歩みを進める。
声なき声が吐息としてこぼれる。
『いっちゃいそうなの?』
もうコメントに目をやっている暇もない。
最近、家の周りに不審者が多数出没するようになった。
息子や夫は警察に届けようと言った。しかし、幸恵はそれを固辞した。
不審者たちが自分をレイプしてくれることを願ってのことである。
近所の人たちは、不審者に付け回されて可哀想と言った。
しかしそれは余計なお世話である。
得体の知れない不審者が自分を付け回していると考えると興奮して身が震える。
最近の幸恵のお気に入りのシチュエーションは、その不審者たちに輪姦される妄想である。
画面の向こうの無数の目に視姦されながら、同時に頭の中ではレイプされる。
頭が真っ白になり、あまりの快感に一瞬意識を失う。
コメントは、一人の熟女が絶頂に達した姿に興奮している。
一体、何人の男が自分の姿を見ながら彼ら自身の陰部を弄んだのだろうか。
幸恵は視聴者に丁寧に礼を告げると配信を切った。
快感の余韻に浸りながら、今晩の夕飯は何にしようか考えている。
きゅうり、ズッキーニ、ごぼう、人参、どんなおかずがいいかしら。
女神は、叶わぬ願いを携えた一人の主婦でもあった。
(終了)