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唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成25年(ワ)第1332号

提供:唐澤貴洋Wiki
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全文

原告 有限会社山本道場

代表者代表取締役 V1

訴訟代理人弁護士 〇〇〇〇(唐澤貴洋

被告 中部テレコミュニケーション株式会社

代表者代表取締役 V2

訴訟代理人弁護士 星川勇二 同 星川信行

同 渡部英人

同 竹本英世

主文

1 被告は、原告に対し、別紙投稿記事目録記載の番号1ないし19、21ないし32及び34ないし51の各投稿記事の投稿に用いられた同目録記載のIPアドレスを同目録記載の投稿日時頃に使用して同目録記載のURLに接続した者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は原告と被告が各2分の1の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。

第2 事案の概要

1 請求及び争点

 原告は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、インターネット掲示板「2ちゃんねる」への投稿について、経由プロバイダである被告に対し、発信者情報の開示を求めた。

 請求の根拠である法4条1項は、特定電気通信(インターネット)による情報の流通によって自己の権利が侵害されたとする者は、次の〔1〕、〔2〕のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者(インターネットサービスプロバイダ)に対し、当該プロバイダが保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所等)の開示を請求することができると定める。

〔1〕当該権利を侵害したとする情報(侵害情報)の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。

〔2〕当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 本件の争点は、上記〔1〕の要件、すなわち「権利侵害の明白性」の有無である。

2 前提事実

 以下の事実は、当事者間に争いのない事実又は証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実である。

 原告は、愛知県において、NPO法人全世界空手道連盟新極真会に所属する空手道場「愛知山本道場」を経営している(甲5、甲7)。原告の代表取締役であるV1(以下「V1」という。)は、愛知山本道場の唯一の師範として、V3(以下「V3」という。甲8)は、指導員の1人として、道場生の指導にあたっている。

 インターネット掲示板「2ちゃんねる」の「q」という表題のスレッドに、別紙投稿記事目録記載の記事(甲1)が、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して発信された。以下、投稿記事を目録の番号により「投稿1」ないし「投稿51」という。

 投稿1ないし19、21ないし32及び34ないし51の投稿者は、同一人であり、投稿20及び33の投稿者は、これとは別の同一人である(被告の証拠説明書、乙1、乙2の1・2)。

3 請求の原因(原告の主張)

 原告が、投稿1ないし51の投稿記事(以下「本件投稿」という。)によって名誉権の侵害を受けていることは、以下のとおり明白であって、権利侵害の明白性の要件を満たす。原告は、上記名誉毀損による不法行為に基づき、発信者に対して、損害賠償を求めるため、被告に対し、発信者の氏名又は名称、住所、電子メールアドレスの開示を求めるものであるから、正当理由の要件も充足している。

 本件投稿は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、別紙記事別主張一覧のとおり、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。

 V1やV3は、暴力団員ではなく、原告においても一切暴力団関係がない。V1は、道場における選手クラスの指導を行っており、躁欝病に罹患しているということもない。原告は、倒産していない。したがって、本件投稿に摘示された事実は、いずれも真実ではない。さらに、本件投稿で描写の対象となっているのは、私人の精神状況や一空手道場での指導の在り方であって、公益目的は観念し得ず、また、公共の利害に関するものでもない。よって、本件投稿については、違法性阻却事由の要件を満たすものではない。

4 被告の主張(争点)

(1)骨子

 以下に主張するとおり、本件投稿は、原告の名誉権を侵害することが明らかであるとは言えず、「当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(法4条1項1号)に該当しない。

 仮に本件投稿が原告の名誉権を侵害するものであるとしても、本件投稿は、原告が暴力団と関係があること等を指摘することにより、原告の反社会性を公衆の批判に晒し、指導者としての原告の資質について世に訴えるものであるから、公共の利益にかなうものであるし、投稿者は、これを認識して投稿しているのであるから、公益を図る目的でされたものである。また、本件投稿が原告と暴力団との関係性等原告の内部事情を晒すものであることからして、本件投稿は、原告の内部事情をよく知る者によってされたと思われるため、事実は真実であるか、事実が真実ではない場合でも、投稿者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があると思われるから、故意又は過失がなく、不法行為の成立が否定されるものである。

(2)投稿1ないし7、12及び14について

 本件投稿がされたインターネット掲示板「2ちゃんねる」は、誰しもが匿名で自由に投稿をなし得るとの性質上、投稿内容に虚偽が含まれることが多々あり、本件掲示板においてされた投稿内容の信用性は、社会一般的に、そう高くはないと認識されているものである。かかる本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、上記各投稿が、およそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「そううつ病」、「精神病」、「精神安定剤や、抗うつ剤などの薬の副作用でしょうか」、「V1師範の「そう状態」や「うつ状態」は、誰の目にも明らかだったし」、「この人、完全に頭おかしいな!」などと指摘したものにすぎないことからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「V1が精神的に不安定な人間であり、かかる精神的に不安定な人物によって、原告が経営されている」などといった印象を抱くことはないのであり、たかだか同投稿の指摘がされたことのみによって、原告の社会的評価が低下することなどあり得ない。同投稿によって、一般の閲覧者が抱く印象は、精々が、同投稿の投稿者が原告に対して批判的な立場にあるといった程度のものであろう。したがって、同投稿は、原告の社会的評価を低下させるものではないから、原告の名誉権を侵害することが明らかとは言えない。

(3)投稿6、9、12、23、26、28ないし36、38ないし43、45、46及び48ないし51について

 本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、上記各投稿は、およそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「職員の、V4さんって、「指定暴力団 山口組」の幹部みたいですね」、「V1は、極道とも、深い付き合いがあって、裏の社会でも、かなりの顔が効くらしい」、「極道育成」、「「愛知山本道場」は、V5のコネで、「指定暴力団 山口組・傘下」に収まり」、「ヤクザ」などと抽象的に指摘したにすぎないものであり、さらには、同投稿は、「みたいですね」(投稿6)、「らしい」(投稿9)、「みたいだね」(投稿23)、「考えられないだろうか」(投稿30及び31)などと不確定な事実として指摘したにすぎないものであることなどを併せ考えるならば、一般の閲覧者が、上記各投稿から直ちに、「原告が暴力団と関係がある」などといった印象を抱くことはない。

(4)投稿8、10、11、13、16及び17について

 投稿13は、「V1師範も、レイプ事件や強盗事件を起こして、支部長辞めさせられて逮捕さらた「V6」みたいになるのが、オチかもね…」との指摘から明らかなとおり、一般の閲覧者においては、逮捕されるようなことをしたのは「V6」なる人物であることが容易に読み取れるのであって、「V1が「逮捕」されるようなことをしている」などと読み取れるものではないから、同投稿は、原告の社会的評価を低下させるものではない。

 投稿16は、「指導員は、タダ同然でこき使い」などと指摘するものであるが、一般に、「タダ同然」とは、賃金が法律の定める基準を下回るものではないものの、賃金が安いことを皮肉を込めて表現する時に用いられることが間々あるものであるから、一般の閲覧者において、かかる指摘から直ちに、「原告が違法な労働環境にある、原告が違法な経営をしている」などと読み取れるものではない。

 投稿17は、「山本道場なんて…「マルチ商法」と大差無いだろう?」などと指摘するところ、一般に、「マルチ商法」とは、特定商取引に関する法律の定める「連鎖販売取引」を指すものであり、かかる「連鎖販売取引」は、書面の交付義務等同法の定める規制(同法37条等)を遵守しさえすれば、何ら違法性のない取引形態であるから、一般の閲覧者において、かかる指摘から直ちに、「原告が違法な経営をしている」などと読み取れるものではない。

 仮に、前記投稿が、原告の主張するとおり読み取れるものであったとしても、本件掲示板上においてされた投稿の信用性の問題に加え、上記各投稿がおよそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「V1は、…脱税したり、職員の給料ごまかして、横領しているって話だぞ」、「V1のやってる事は、ほとんど「違法」だと思う」、「V1は、自分のやってる事がばれても、自分だけは捕まらないように」などと指摘したにすぎないものであることからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「犯罪者によって原告が経営されている、道場生への指導がされている」、「原告が違法な経営をしている」などといった印象を抱くことはない。

(5)投稿15について

 本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、投稿15がおよそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「指導一切やらず」、「遊びまくってたら誰だって怒るぞ」などと指摘したにすぎないものであることからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「経営のことを一切考えない人間に原告が経営されている」などといった印象を抱くことはない。

(6)投稿18ないし20、22及び24について

 本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、上記各投稿は、およそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「「倒産」したくさいな」、「何で…「有限会社 山本道場」が倒産してしまったのか説明してみろよ!」、「計画倒産じゃないの?」、「会社が潰れると、ここまで無残?」、「山本道場が潰れてないなら、根拠を示してみろよ」などと抽象的に指摘したにすぎないものであり、さらには、同投稿は、「「倒産」したくさいな」(投稿18)などと不確定な事実として指摘したにすぎないものであることなどを併せ考えるならば、一般の閲覧者が、上記各投稿から直ちに、「原告が経営破綻におちいっている」などといった印象を抱くことはない。

(7)投稿21、25及び47について

 原告は、「ハイパーリンクを設定表示することにより、原告が経営破綻に陥っている、暴力団と関係がある、精神的に不安定な者によって経営されていると誤信させ」などと主張し、あたかも上記各投稿が、同投稿が指摘するリンク先(http://<以下略>)に記載されている記述内容(「V1師範は、精神病(そううつ病)をわずらってから、大分まいっていたみたいだけど」などといった記述内容)まで指摘するものであるかの如き主張をしている。しかし、リンク先は、本件掲示板とは全く別のサイトであって、同投稿とリンク先の記述内容は、全く別の場所に存在しているものであり、同投稿を閲覧しただけでは、リンク先の記述内容など閲覧し得ないものであるし、加えて、同投稿を閲覧した者がリンク先の記述内容まで閲覧するとは限らないのであるから、同投稿が指摘する内容は、あくまで「http://<以下略>」にすぎないと言うべきである。

 仮に同投稿が、指摘するリンク先の記述内容まで指摘するものであると言うことができたとしても、本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に鑑みるならば、何らの客観的根拠を指摘することなく、単に、「V1師範は、精神病(そううつ病)をわずらってから、大分まいっていたみたいだけど」などといった抽象的な指摘がされたことのみによって、直ちに、一般の閲覧者が、原告が「経営破綻に陥っている、暴力団と関係がある、精神的に不安定な者によって経営されている」などといった印象を抱くことはない。

(8)投稿27について

 投稿27は、「極道チックに仕事をする事で有名」などと指摘するところ、原告に多数在籍する指導員の中の一人に、「極道チックに仕事をする」者が存在することから直ちに、原告の労働環境が「極道チック」になるわけでは必ずしもないことからすれば(ある指導員の指導状況と職場の労働環境とは、さほど関係するものではないと思われる。)、一般の閲覧者において、かかる指摘から直ちに、「原告における労働環境が劣悪なものにある」などと読み取れるものではない。

 仮に同投稿が、原告が主張するとおり読み取れるものであったとしても、本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、同投稿がおよそ客観的な事実を何ら指摘することなく、単に、「極道チックに仕事をする事で有名」などと指摘したにすぎないものであることからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「暴力団組員のように仕事をする人物がいて原告における労働環境が劣悪なものにある」などといった印象を抱くことはない。

(9)投稿37について

 本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、同投稿がおよそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、ただ一言、「指導員として不適切な人を使った」などと抽象的に指摘したにすぎないものであることからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「原告において問題のある人物が指導員になっている」などといった印象を抱くことはない。

(10)投稿44について

 投稿44は、「山本道場も、オカルト宗教の仲間入りをしてるのかな??」などと指摘するところ、「オカルト」とは、超自然の現象を意味する表現であり、「反社会的」との意味合いを有するものではないから、一般の閲覧者において、かかる指摘から直ちに、「原告が空手団体として反社会的な集団である」などと読み取れるものではない。仮に同投稿が、原告が主張するとおり読み取れるものであったとしても、本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、同投稿は、客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「山本道場も、オカルト宗教の仲間入りをしてるのかな??」などと不確定な事実として指摘したにすぎないものであることなどを併せ考えるならば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「原告が空手団体として反社会的な集団である」などといった印象を抱くことはない。

第3 裁判所の判断

1 投稿1ないし19、21ないし32及び34ないし51について(主文1項)

(1)投稿1~7、12及び14について

〔1〕原告の主張

 原告は、投稿1、3ないし5は、V1が「躁欝病」であると記載することで、投稿2、6は、V1が「精神病」であると記載することで、投稿7は、V1が「精神安定剤」や「抗うつ剤」を飲んでいると記載することで、投稿12は、V1が「そう状態」や「うつ状態」にあると記載することで、投稿14は、V1が「頭おかしい」と記載することで、V1が精神的に不安定な人間である、かかる精神的に不安定な人物によって原告が経営されている、道場生への指導がされていると読者に誤信させ、原告の社会的評価を低下させるものであると主張する。

〔2〕投稿内容

投稿1「V1師範も、指導してないって事は、持病の精神病(そううつ病)が余り、良くないんだな」

投稿2「V1師範の、精神病を、影で治療していたV7さんも、詐欺で逃げ回ってるって話しだもんな」

投稿3「V1師範が精神病、病んでる事も、V8さんが詐欺で逃げ回ってるのも、全部本当の事だよ。単なる噂では無く、きちんとした所からの情報だから間違いない。V1師範が、そううつ病なのは、昔から有名な話だよ。」

投稿4「V8さん、いなくなってから、V1師範、そううつ病を抑える薬、きちんと飲んでるのかな?」

投稿5「V1師範が、薬辞めて、また前みたいに、そううつ病を繰り返し、「そう状態」で、道場出しまくったり、「うつ状態」で、家に引きこもったりされると回りが迷惑するから、きちんと「精神科」に通って下さい。「そう状態」で浪費を繰り返し、全財産を失ったり、「性的逸脱行為」を繰り返し、女性に手を出しまくったりされると迷惑です。過去に、何度も同じ過ちを繰り返してきたでしょう?その結果、師範はどうなりましたか?」

投稿6「V1師範は、「精神病」だ」

投稿7「V1師範、あの「剛毛でチリ毛」が、かなり薄くなって来ましたね…。やはり、精神安定剤や、抗うつ剤などの薬の副作用でしょうか…」

投稿12「V1師範の「そう状態」や「うつ状態」は、誰の目にも明らかだった」

投稿14「以前、師範に、夜中にファミレスに呼び出され、「愛知県を制覇してやる!」みたいな、妄想がかった事を、延々聞かされ、意味不明な事ばかりで、「この人、完全に頭おかしいな!」と思い、非常に迷惑した」

〔3〕判断

 上記投稿がインターネット掲示板「2ちゃんねる」の「q」との表題のスレッドに同一の投稿者によって投稿された一連のものであること、及び、上記投稿の内容からすれば、投稿先が「2ちゃんねる」という投稿内容の信用性がそう高くはないと社会一般的に認識されているインターネット掲示板であることを考慮しても、上記投稿は、一般の閲覧者にとって、原告が経営する空手道場である愛知山本道場が、躁欝病という精神病に罹患したV1を師範として運営されている空手道場であることを摘示し、原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。

 そして、上記投稿内容が、「V1師範、そううつ病を抑える薬、きちんと飲んでるのかな?」(投稿4)とか、「「剛毛でチリ毛」が、かなり薄くなって来ましたね」(投稿7)など、憶測を交え、身体の特徴を揶揄する表現まで用いていることから、上記各投稿は、その目的が専ら公益を図る目的であるといえないことが明らかである。

 よって、上記各投稿については、これによって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであり、当該侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき(法4条1項1号)にあたる。

(2)同一投稿者の他の投稿について

 投稿8ないし11、13、15ないし19、21ないし32及び34ないし51も、前記(1)の投稿と同一の投稿者により、同一のインターネット掲示板のスレッドにされた一連の投稿である。そして、その内容(記載されたリンク先の記事も含む。甲6)によれば、原告の師範のV1が、脱税や横領などの違法な行為をしていると摘示し(投稿8、10、11)、V1が極道とも深い付き合いがあることを摘示し(投稿9)、原告が倒産したことを摘示し(投稿18、19)、指導員の一人であるV3が暴力団山口組の組員であると摘示するなど(投稿26ないし32)、全体として原告の社会的評価を低下させることは明らかである。

 この投稿者は,被告に対し,発信者情報開示に同意しない理由として,「V1が昔自分の給料から300万以上だましとっていって数々の脱税を手伝わせた為」などと回答したことが認められ,この事実からすれば,脱税の事実を摘示する投稿(投稿8)及びそれに関連する投稿(投稿10,11)については,公益を図る目的ももって書き込まれたことが窺えないではない。

 しかし,根拠のない憶測や揶揄を交えた(1)の投稿と同一投稿者による一連の投稿であること、上記投稿の中でも「V1師範も、レイプ事件や強盗事件を起こして、支部長辞めさせられて逮捕さらた「V6」みたいになるのが,オチかもね」(投稿13)など根拠のない予測に基づく揶揄を加えていることからすれば、上記回答内容をふまえても,上記各投稿は、その目的が専ら公益を図る目的であるといえないことが明らかである。

 よって、上記各投稿も、これによって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであり、当該侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき(法4条1項1号)にあたる。 

(3)まとめ

 上記各投稿については、その投稿記事(侵害情報)の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであり、名誉毀損の不法行為による損害賠償請求権の行使のために必要であるから、原告には、発信者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの情報の開示を受けるべき正当な理由がある。

 よって、被告は、法4条1項に基づき、原告に対し、上記各投稿の発信者に係る前記の発信者情報を開示すべき義務がある(主文1項)。

2 投稿20、33について(主文2項)

(1)投稿20について

 投稿20は、「税金がヤバイので計画倒産じゃないの?」というものであり、それに先立つ投稿18に、「「有限会社山本道場」も職員(従業員)が全部辞めちゃって、師範も「社長」もへったくれも無くって、「倒産」したくさいな。会社にしてると、法人税なんかが、かなりかかるから、会社潰したんだな」との投稿内容があることを受けて投稿されたものである。

 原告は、投稿20は、原告が倒産したと記載することで、原告が経営破綻に陥っていると読者に誤信させ、原告の社会的評価を低下させると主張する。

 しかし、一般の閲覧者がこの投稿を読めば、投稿20の投稿者は、先にされた投稿18における原告が倒産したとの事実摘示を前提として、投稿者自身は、原告が倒産したか否かもよく知らないのに、倒産の目的について、税金支払回避のための計画倒産ではないか、という根拠のない憶測を付け加えたにすぎない内容であることが、疑問符も付けられたその投稿内容自体から明らかに読みとることができる。

 すなわち、投稿20は、原告が倒産したという事実は、既にされた投稿に基づき仮定した上で、そうであるとすれば倒産の実態が計画倒産ではないかという憶測ないし意見を付け加えたにすぎない。その投稿内容や、「2ちゃんねる」という信用性の乏しい掲示板への一投稿にすぎないという社会的評価を前提とすれば、投稿20の内容は、それ自体によって一般の閲覧者が、「原告が倒産した」との事実を摘示していると読みとることができるものとはいえない。

 したがって、投稿20は、原告が倒産したという事実を摘示するものではないし、閲覧者に対し、原告が経営破綻に陥っているとの印象を与えるものでもない。投稿20は、原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえない。

(2)投稿33について

 投稿33は、「V1の友達が『V9ちゃん(V10?)めっちゃ面白い~良い人やん』って言っていたよ。カジュアルな極道?」というものであり、先立つ投稿に、「山本道場の指導員で、今も師範の右腕として働いている「V11」に和彫りの刺青が入っているのは、まぎれも事実 自分の目でしっかりと確認した。全身、刺青だらけで、元か現役か知らないけど、極道なのは誰の目にも明らか」(投稿26)、「指定暴力団山口組・幹部「V3」1、極道だから、おそらく、全身に和彫りの刺青が入っていると思われる」(投稿28)などの投稿がされたことを受けて投稿されたものである。

 原告は、投稿33は、指導員の一人であるV3が「極道」すなわち現役の暴力団員であると記載することで、原告が暴力団と関係があると読者に誤信させ、原告の社会的評価を低下させると主張する。

 しかし、投稿33は、事実摘示としては単に、「V1(V1師範)の友達が、『V9ちゃん(投稿者は、これを道場の指導員の一人であるV3であると推測している。)は、とても面白い良い人だ』と言っていた」という事実を摘示しているにすぎず、その後の「カジュアルな極道?」との記述は、疑問符を付けていることからも、先にされた投稿におけるV3が極道であるとの事実摘示を前提として、投稿者自身は、V3が極道であるか否かもよく知らないのに、先の投稿に摘示されたようにV3が本当に極道であればと仮定し、投稿者がV3について聞いていたことと合わせると、V3は、「カジュアルな極道」と評価できるのではないかという推測的な意見を付け加えたにすぎない内容であることが、その投稿内容自体から明らかに読みとることができる。

 投稿33は、上記の投稿内容や、「2ちゃんねる」という信用性の乏しい掲示板への一投稿にすぎないという社会的評価を前提とすれば、それ自体によって一般の閲覧者が、「V3が極道である」との事実を摘示していると読みとることができるものとはいえない。投稿33は、V3が「極道」すなわち現役の暴力団組員であるという事実を摘示するものではないし、一般の閲覧者に対し、原告が暴力団と関係があるとの印象を与えるものでもないから、原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえない。

(3)まとめ

 以上によれば、投稿20及び投稿33については、これによって原告が名誉権の侵害を受けていることが明らかであるとはいえないから、その情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。

 法4条1項1号の要件が満たされないから、原告の請求のうち、これらの投稿についての発信者情報の開示を求める部分は,理由がない(主文2項)。 

東京地方裁判所民事第33部

裁判長裁判官 小林久起 裁判官 外山勝浩 裁判官 藤田直規

(別紙)発信者情報目録

別紙投稿記事目録記載の各投稿記事の投稿に用いられた同目録記載のIPアドレスを同目録記載の投稿日時ころに使用して同目録記載のURLに接続した者に関する情報であって,次に掲げるもの

1 氏名又は名称

2 住所

3 電子メールアドレス

(別紙)投稿記事目録

(別紙)記事別主張一覧

外部リンク