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唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第18974号

提供:唐澤貴洋Wiki
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唐澤貴洋の裁判一覧 > 唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第18974号

全文

原告 X1
同法定代理人親権者 X2
同 X3
同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
被告 X4
同法定代理人親権者 X5
同 X6
同訴訟代理人弁護士 佐藤昌樹

主文

1 被告は,原告に対し,77万円及びこれに対する平成23年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

 被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成23年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 本件は,被告が,インターネット上の掲示板2ちゃんねる(http://www.2ch.net)(以下「2ちゃんねる」という。)に別紙投稿記事目録記載のとおりの投稿記事(以下「本件記事」という。)を投稿したところ,
原告において,本件記事は原告の社会的評価を低下させるものであるとして,
被告に対して,不法行為による損害賠償請求権に基づいて,330万円及びこれに対する平成23年8月7日(本件記事投稿の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(以下の事実は当事者間に争いがないか、掲記の証拠により容易に認められる事実である。)

(1)当事者

ア 原告は,本件記事の投稿当時,東京都千代田区にあるX7中学校に通っている中学3年生であった。 
イ 被告は,当時,東京都千代田区にあるX8中学校に通っている中学3年生であった。
ウ 原告及び被告は,当時,X9塾という英語の学習塾に通っていた。

(2)事実経過

ア 被告は,平成○○年○月○日午前×時××分,2ちゃんねるの「○○○○○○○○○」と題するスレッドにおいて,本件記事(甲1)を投稿した。

イ 本件記事の投稿に先だって,2ちゃんねるの別のスレッドにおいて,同日午前×時××分に,「こいつ,2ちゃんに晒されたいらしくてw 調子に乗ってて,これがとてもむかつきます。頼む,荒らしてやってくれ(ブログ)」
との投稿(甲11)が,同時××分に,「こいつのブログを荒らして」との投稿(甲12)がされた(以下,これらの投稿を併せて「本件同種投稿」という。)。

ウ 原告は,本件記事投稿の調査のために,原告代理人を選任し,同人は,2ちゃんねるを運営するパケットモンスターインクピィーティーイーエルティーディー(以下「パケットモンスター」という。)への発信者情報開示の仮処分を申し立てた。
原告代理人は,平成23年12月14日に仮処分決定が出された後,2ちゃんねるとの交渉により本件投稿のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)を取得した。

エ 本件IPアドレスは,株式会社JCN関東(以下「JCN関東」という。)が管理するIPアドレスであることが判明し,原告代理人は,平成23年12月25日,同社に対して,発信者情報開示請求を行ったが,当初,拒絶されたことから,発信者情報開示訴訟を提起すべく,
その前提として,本件IPアドレスの契約者情報を保存してもらうため発信者情報消去禁止の仮処分を申し立てた。
同事件は,JCN関東が契約者情報を保管することで和解が成立した。その後,JCN関東から,被告の父であるX5が本件IPアドレスについての契約者情報であると伝えられた。

オ その後,被告や上記X5は,原告及び原告の父母に対し,本件記事は,被告が投稿したものであることを認めた。

2 争点

(1)争点1(社会的評価の低下の有無)

(原告の主張)

 本件記事は,当時,原告が通っていたX7中学校及び所属学年を示し,原告の氏名を明示した上で,一般の読者に,原告が誰とでも性交渉する性的道徳観念の希薄な人物であると誤信させるものであり,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。

(被告の主張)  争う。

(2)争点2(損害)

(原告の主張)

 名誉毀損による精神的苦痛に対する慰謝料等300万円(本件記事の発信者を特定するために必要であった調査費用74万8054円を含む)及び弁護士費用30万円(上記慰謝料の1割相当額)の合計330万円の損害が発生している。

(被告の主張)

 損害の発生は不知,被告に支払義務があることは争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(社会的評価の低下の有無)について

 本件記事は,不特定かつ多数の者が閲覧可能であるインターネット掲示板である2ちゃんねるにおいて,原告の氏名,所属を特定した上で,
原告の性的道徳観念が希薄な人物であることをうかがわせる内容を記載したものであるから,本件投稿が原告の社会的評価を低下させることは明らかである。

 したがって,被告が本件記事を投稿したことは,原告に対する不法行為に当たり,被告は,これに基づき原告に生じた損害を賠償する責めを負う。

2 争点2(損害)について

(1)本件記事投稿の悪質性に関する事情

 被告は,原告とは直接会話したことはないものの,同じX9塾に通っていたところ,原告が通学するX7の生徒から「今度来たX1という子がブログやってるから見てみて」と言われ,原告が公開していたブログ(以下「原告ブログ」という。)を見たもののよい印象を持たず,
また,原告の知人からも原告の悪い噂を聞くなどして,今度みんなで原告ブログにコメントを入れたり投稿したりしようという話になったこともあり,
平成○○年○月に入り,原告ブログに「○○高(ある男子校の名前)の奴ら,早く2ちゃんにさらさないかな」という内容の記事を発見した際に,
「暇だから書いてあげようか」とコメントを入れると,同月○日午前×時ころ,原告ブログに「本人がやらないと意味ない」という旨のコメントが返されていたことから,自分で原告をさらしてしまおうと考え,本件記事を投稿したと主張する。

 他方で,原告は,被告がよい印象を持たないような記事を原告ブログには掲載していない旨主張し,陳述(甲10)しており,
また,本人が自分のブログを2ちゃんねるにさらしてほしいとする記事を掲載することは不自然であって,第三者が原告ブログに不正アクセスした可能性があると主張している。

 原告,被告ともに,当時,中学生ということもあり,当時の状況や心情を正確に把握することは困難というほかなく,また,原告ブログの記載内容についても,当時のブログ記事はもはや残っておらず(弁論の全趣旨),詳細については定かではないが,
本件記事には「調子に乗ってる」,「ナルシな」,「自分で2chに晒されたい~暇だから。的なブログwあいたたた」といった記載があることからすると,
少なくとも,被告は,原告ブログの存在を知って,その内容について反感を持ち,嫌がらせの目的で本件記事の投稿に至ったものと認めるのが相当である。

 次に,原告は本件事案の悪質性を裏付ける事情として,本件同種投稿の存在を主張し,これらも,被告が行ったものと考えられる旨主張する。
確かに,午前×時という深夜の時間帯にもかかわらず,非常に近接して,同じような内容の記事が投稿されており,同一人による投稿であるかもしくは意思を通じた者らによる投稿であることが強く推認されるが,
3つの投稿は,投稿毎のIDが異なっており,まったく無関係に行われたという可能性もないわけではないし,その内容は,原告の名誉を毀損するようなものとは言い難い。
そうすると,いずれにしても,本件同種投稿により本件記事投稿の悪質性が高まるものと認めることはできない。

(2)慰謝料等の額

ア 以上を前提にして,本件における慰謝料額を検討すると,当時,中学3年生の女子であった原告にとって,性的道徳観念が希薄であって,誰とでも性交渉をする人物であるかのように,
自己を特定できる形で,不特定かつ多数の人物が閲覧可能なインターネット掲示板に投稿されることが,精神的苦痛を受けるものであることは,想像に難くない。

 しかし,他方で,本件記事の投稿は,原告ブログに対する同年代の中学生による反感がその原因になっているものと考えられ,
若年時にネット社会に身を乗り出す危険性が具現化したものと評価することも可能であり,心身ともに未成熟な被告が一時の感情の赴くがままに行ったものとも見て取れる。
また,一般的には,2ちゃんねるのようなインターネット掲示板上における情報の信用性は高いものとは認識されておらず,本件記事についてもこれを裏付けるような特段の事情がなければ,これを直ちに真実と信用する者は乏しいと考えることができる。
以上からすると,その他本件事案における一切の事情を勘案すれば,本件における慰謝料額としては50万円を認めるのが相当であると考える。

イ 次に,原告は,本件記事の発信者を特定するために必要であった調査費用として74万8054円の損害を被った旨主張する。

 確かに,前記第2の1(2)ウ及びエ記載の活動に際して,原告は,原告代理人に対して,パケットモンスターに対する投稿記事削除及び発信者情報開示仮処分命令申立事件の報酬として42万2222円,
JCN関東に対する発信者情報消去禁止の仮処分命令申立事件の報酬として26万2500円,
さらに,2ちゃんねる上の誹謗中傷記事がコピーサイトに拡散した記事を削除するための報酬として6万3332円を支払ったことは認められる(甲13の1ないし3)。

 そこで,検討するに,インターネット掲示版での投稿による名誉棄損では,発信者情報の開示を求めることで投稿した人物を特定しなければ,損害賠償を請求することはできず,
弁護士に依頼して仮処分や訴訟を起こすなどして調査をすることも,社会通念上合理性を有するものと考えられる(なお,原告の主張する調査費用には,投稿記事削除に関わる費用も含まれているが,
弁護士による投稿記事削除のための活動も社会通念上合理性を有するものであるから,同様に考えることができる。
以下,併せて「調査費用等」という。)。

 したがって,弁護士による調査費用等についても,相当な活動及び相当な金額の範囲で,相当因果関係ある損害として賠償されるべきであると考えられる。
そして,相当な活動及び相当な金額の範囲を検討するに際しては,不法行為訴訟における弁護士費用相当の賠償額は,他の損害額合計の1割相当額を認めることが通常の取扱となっていることも念頭に置く必要があると考えられる。

 以上を前提に,上記活動の内容及び成果(相手方を別にする2度の仮処分に加え,コピーサイトに拡散した記事の削除も実施していること等), 本件訴訟における損害の認定内容等,一切の事情を総合考慮すれば,本件における調査費用等相当の賠償額としては,20万円を認めるのが相当であると考える。

(3)弁護士費用

 弁護士費用として,上記(2)ア及びイの損害額合計70万円の1割相当額である7万円を認めるのが相当である。

3 結論

 そうすると,原告の請求は,77万円及びこれに対する不法行為発生後の日である平成23年8月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で理由があるからこれを認容し,
その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第30部

裁判長裁判官 菅野雅之 裁判官 今岡健 裁判官 原彰一