唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第21492号

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全文

原告 X1
同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
被告 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
同代表者代表取締役 X2
同訴訟代理人弁護士 上村哲史
同 上田雅大
同 横山経通

主文

1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。

2 訴訟費用は,被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要等

1 本件は,原告が,被告に対し,氏名不詳の者(以下「本件発信者」という。)が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上の電子掲示板にした書き込みによって名誉を毀損されたとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき,本件発信者の氏名及び住所等の開示を求めた事案である。

2 前提事実(各事実末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)

(1)被告は,電気通信事業を営む株式会社であり,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律2条3号に規定する特定電気通信役務提供者に該当する(弁論の全趣旨)。

(2)本件発信者は、不特定の者が閲覧可能なインターネット掲示板「2ちゃんねる」に,別紙情報目録記載のとおりの情報(以下「本件投稿」という。)を発信した(甲1)。 

(3)原告は,2ちゃんねる掲示板管理者であるシンガポール法人を債務者として,発信者情報の仮開示等の仮処分を申立て,平成25年5月2日,発信者情報の仮開示仮処分等の決定を得て,同掲示板管理者からIPアドレスの開示を受けたところ,本件投稿は,被告を経由して,発信されたことが判明した(甲2から3)。

(4)原告は,本件発信者に対し,不法行為に基づく損害賠償請求をする準備として,本件発信者の発信者情報の開示を求めている(弁論の全趣旨)。

3 争点

(1)権利侵害の明白性

(原告)
ア 原告は,X3のペンネームを用いて,同人誌を作成していた者である。原告が当該ペンネームを用いて活動していること及び原告の勤務先は,平成23年に既に明らかになっていた。

イ 本件投稿は,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合,原告が女性に対して殺害予告をした旨の書き込みは,原告が脅迫行為を行っていると誤信させ,原告が未成年者を部屋に連れ込み,未成年者略取で捕まりそうである旨の書き込みは,原告が犯罪行為に及ぶ人物であると誤信させ,いずれも原告の社会的評価を低下させる。

ウ 本件投稿は,真実でない。また,公共の利害に関する事項でなく,原告を誹謗中傷するものであって,積極的な加害意思しか見て取ることができないから,公益目的も認められない。

(被告)
 本件投稿が原告に関するものか不明であり,本件投稿の内容も意味不明なところが多く,殺害予告を行ったとの事実が真実でないかも不明であるため,原告の名誉が毀損されていること及び違法性阻却事由の存在を伺わせるような事情が存在しないことが明白であるとはいえない。

(2)電子メールアドレス開示の必要性

(原告)
 契約者が世帯主であり,携帯電話の使用者が他の家族である可能性がある。その場合,電子メールアドレスは,実際の発信者を推知するために必要である。

(被告)
 損害賠償請求には,氏名又は名称及び住所の開示があれば足り,電子メールアドレスの開示まで不要であり,電子メールアドレスの開示を必要とする事情が具体的になっていない。

第3 当裁判所の判断

1 本件投稿が原告についてのものであるか否かについて

(1)各事実末尾記載の証拠によれば,次の事実が認められる。
ア 原告は,「○○○○○」という名称のサークルに属し,平成20年4月及び平成23年8月,「X3」というペンネームで,同人誌を発行した。(甲6,7,8)

イ 原告は,平成21年6月頃,出版社の編集者との間で,「X3」名義で発表した作品をアンソロジーに再録する件に関し,本名を明らかにした上で,やりとりを行っていた(甲8)。

ウ 本件投稿が書き込まれた掲示板のスレッドは,「△△△△△△△△△△△△△」という名称であるところ,その中に,平成25年4月18日付けで「X3」を指す趣旨で,「X1」という原告の本名を記載した書き込みがあった(甲5)。

(2)以上の事実によれば,原告のペンネームが「X3」であることは,少なくともサークル関係者及び原告とやりとりをした出版関係者には周知されていたと認められる。
 そして,本件投稿がされたスレッドに原告の本名が書き込まれていたことから,本件投稿を読んだ他の者にとっても,「X3」が原告を指すものと認識することができ,当該スレッドにされた書き込みが原告に向けられたものであると認識できたと認められる。

2 本件投稿によって,原告の権利が侵害されたことが明らかであるか否かについて

 別紙情報目録〔1〕の投稿は,「女性に対して勘違い逆恨みから殺害予告や品性下劣で心無い言葉を投げつけておきながら」との部分から,原告が女性に勘違いや逆恨みから殺害予告をしたという事実が摘示されていることが容易に読み取れる。

 また,同目録〔2〕の投稿は,「やったことが殺害予告や病人なりすましなど悪質すぎて反省して罪を償っても許されない」との部分から,原告が殺害予告などの犯罪行為をしたという事実が摘示されていることが容易に読み取れる。

 さらに,同目録〔3〕の投稿は,「そのうち未成年を部屋に連れ込んだりしそうで怖いよ・・・未成年者略取で捕まらないといいなあ」というもので,原告が未成年者を部屋に連れ込むような性癖があり,未成年者略取という犯罪行為をしかねない人物である旨指摘していることが容易に読み取れる。

 そうすると,本件投稿は,いずれも原告が犯罪行為を行ったこと,または,原告が犯罪行為をしかねない人物であるとの事実を摘示するものであるから,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を毀損していることが明らかである。

 なお,本件投稿の記載内容に照らせば,本件発信者が公共の利益を図る目的で本件投稿を行ったとは認め難く,本件投稿につき違法性阻却事由があるとは認められない。

 よって,本件投稿に係る情報の流通によって,原告の権利が侵害されたことが明らかであるということができる。

3 そうすると,本件発信者の発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であるいうことができる。

そして,本件発信者は,本件投稿をする際,被告を経由して情報を発信したから,被告は,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に規定する開示関係役務提供者に該当する。

 なお,携帯電話の契約者が使用者以外の家族であることはしばしば見られるから,発信者の特定のために,電子メールアドレスの開示も必要であると認められる。

 よって,原告の請求に理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第1部

裁判官 綿貫義昌

(別紙)発信者情報目録

 別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のiモードIDで特定される携帯電話番号の契約者についての以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス