「唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第21038号」の版間の差分
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イ 被告は,インターネット接続サービスを提供する,いわゆる経由プロバイダであって,法2条3号に規定する特定電気通信役務提供者に当たる。 | イ 被告は,インターネット接続サービスを提供する,いわゆる経由プロバイダであって,法2条3号に規定する特定電気通信役務提供者に当たる。 |
2022年9月13日 (火) 17:27時点における最新版
全文
原告 a(長谷川亮太)
同法定代理人親権者父 b(長谷川満孝)
同法定代理人親権者母 c(長谷川幸恵)
同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
被告 株式会社ジェイコム湘南
同代表者代表取締役 d
同訴訟代理人弁護士 萬幸男
主文
1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,原告が,インターネット上の電子掲示板において氏名不詳の発信者(以下「本件発信者」という。)の書き込みにより名誉を毀損されたと主張して,本件発信者にインターネット接続サービスを提供した,
いわゆる経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,本件発信者の氏名,住所等の発信者情報の開示を求める訴訟である。
2 前提事実(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は,平成5年○月○○日生まれで,現在,国士舘大学法学部現代ビジネス法学科に在籍する大学1年生の男性である(甲5)。
イ 被告は,インターネット接続サービスを提供する,いわゆる経由プロバイダであって,法2条3号に規定する特定電気通信役務提供者に当たる。
(2)事実経過等
ア 本件発信者は,インターネット上の匿名掲示板である「2ちゃんねる」(以下「本件ウェブサイト」という。)内の「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○」と題するスレッドにおいて,
別紙情報目録記載のとおり,平成○○年○月○日午後×時××分××秒に,
「犯罪者チンコフェイスaくんを許すな」との書き込み(以下「本件書き込み」という。)を行い,不特定多数の者の閲覧に供した(甲1)。
イ 原告は,本件ウェブサイトの管理者であるPACKET MONSTER INC.PTE.LTD.(パケットモンスター インク ピーティーイー エルティーディー)に対し,本件書き込み等に係る発信者情報の開示等を求める仮処分の申立てを行い,
平成24年3月28日に同仮処分命令を得て,これに基づいて,本件書き込みに係るIPアドレス等の情報の開示を受け,この情報により,本件発信者が被告を経由プロバイダとして本件書き込みをしたことが判明した(甲2ないし4)。
ウ 被告は,本件発信者に係る氏名,住所等の別紙発信者情報目録記載の情報を保有している。
エ 被告が,本件発信者に対し,平成24年8月31日付けで発信者情報の開示について意見照会を行ったところ,
本件発信者から被告に対し発信者情報開示に同意しない旨の回答書(以下「本件回答書」という。)が送付された(乙1,2)。
本件回答書には,「本件開示請求者(a氏)は,インターネット上の掲示板,ツイッター等において,自ら未成年飲酒・公然わいせつという犯罪行為に至った事実を公表しております
(しかも,たとえば飲酒については,酒の種類ごとの特徴なども述べており,極めて具体的な記述となっております。)。」との記載がある。
3 争点
(1)原告の主張
ア 権利侵害の明白性(本件書き込みがされたことにより、原告の権利が侵害されたことが明らかであるか否か)
(ア)名誉毀損の構成要件該当性(社会的評価の低下)について
本件書き込みは,原告を「犯罪者」と記載し,一般の読者をもって原告が犯罪者であると誤信させるものであるから,原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
(イ)違法性阻却事由について
原告は,高校生時代に飲酒をしたことも無免許運転をしたこともなく,犯罪者と言われるような問題行為を行ったことはない。よって,本件情報は真実ではない。
また,少年法61条は,少年が侵害に弱くかつ可塑性に富んでいること,そのため少年の健全に成長する権利を保護する必要があることから,少年の名前等を内容とする記事の掲載を禁止しているところ,
本件書き込みのなされた当時,同法上の「少年」であった原告の名前を含む本件書き込みには,上記権利を犠牲にするほどの公益目的は認められず,むしろ,何ら具体的な記述なく,原告を犯罪者と断定した記事を複製し連続して投稿していることからすれば,
原告を害する目的があったとしか認められない。
さらに,犯罪事実は,一般に公共の利害に関する事柄ではあるが,少年の実名を周知徹底させることは何ら公益が増進されるものではなく,本件書き込みが公共に利害に関するものであるということはできない。
イ 正当な理由(原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか否か)
原告は,本件発信者に対して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起するために,
本件発信者の氏名等の発信者情報の開示を求めるものであるから原告には開示を受けるべき正当な理由がある。
(2)被告の主張
いずれも争う。本件発信者が理由を示して,発信者情報の開示を拒絶している以上,裁判所の判断を求めたい。
第3 当裁判所の判断
1 権利侵害の明白性の存否について
(1)権利侵害要件に関する立証責任の分配について
法4条1項1号は,発信者が有するプライバシー及び表現の自由という発信者の利益と権利回復を図る必要性という被害者の利益との調和という観点から,
権利侵害がされたことが明らかであることを必要としたものであるから,権利が侵害されたことに加え,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在しないことまで,原告において主張,立証する必要がある。
(2)名誉毀損の構成要件該当性(社会的評価の低下)について
ア 本件書き込みは,具体的な事実の摘示を伴うものではないが,原告が犯罪者であるとの記載は単なる意見や感想を記載したとみることはできず,
原告の社会的評価を低下させるものであることが明らかであるということができる。
イ 違法性阻却事由の不存在について
(ア)原告は,未成年飲酒や無免許運転をするなどの犯罪者と言われるような行為をしたことがないと主張する。
一方,この点について,本件発信者は,本件回答書において,前記第2の2(2)エ記載の主張をしている。
しかしながら,上記記載には裏付けがなく,本件書き込みに係る事実が真実であることがうかがわれるということはできない。
(イ)また,本件書き込みには具体的な犯罪事実が記載されておらず,「チンコフェイス」といった品性を欠く表現も用いられていることからすれば,本件書き込みに公益目的があるとは認められないことも明らかである。
(3)以上によれば,本件書き込みによって,原告の権利が侵害されたことが明らかであると認められる。
2 正当な理由の存否について
原告は,本件発信者に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行うために,被告に対して発信者情報の開示を求めていると認められるところ,
損害賠償請求権行使のためには,本件発信者を特定する必要があることが明らかであるから,原告には,被告から本件書き込みに係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
第4 結論
よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第30部
裁判長裁判官 菅野雅之 裁判官 今岡健 裁判官 樺山倫尚
別紙 発信者情報目録
別紙情報目録記載の「投稿日時」欄記載の日時に,同目録「投稿記事内容」欄記載の内容の書き込みを行った者に関する下記情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
別紙 情報目録
外部リンク
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