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「唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第4004号」の版間の差分

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2023年12月20日 (水) 15:36時点における最新版

唐澤貴洋の裁判一覧 > 唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第4004号

全文

原告 A1
同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
被告 ソフトバンクBB株式会社
同代表者代表取締役 A2
同訴訟代理人弁護士 高橋聖
同 森安博行
同 寺門峻佑

主文

1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 主文1項同旨

第2 事案の概要

 本件は,原告が,インターネット上の電子掲示板に投稿された記事によって権利を侵害されたとして,上記投稿に係る経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ法」という。)4条1項に基づいて同記事の発信者に係る情報の開示を請求した事案である。

1 争いのない事実等(認定事実は末尾のかっこ内に証拠を掲記する。)

(1)ア 原告は,NPO法人全世界空手道連盟新極真会に属し,愛知県において○○○○道場(以下「本件道場」という。)を運営しており,本件道場において,ただ一人の師範として道場生の指導に当たっている(甲5,6の1・2,弁論の全趣旨)。
イ 被告は,電気通信事業を営む株式会社である。

(2)平成23年12月10日23時05分,インターネット上の電子掲示板(http://www.2ch.net)において,別紙情報目録の「投稿記事内容」欄記載の記事(以下「本件記事」といい,本件記事を投稿した者を「本件投稿者」という。)が投稿された。

(3)本件記事は,被告をいわゆる経由プロバイダとして投稿されており,被告は,本件記事につきプロバイダ法2条3号の特定電気通信役務提供者に当たる(甲3,4,弁論の全趣旨)。

(4)原告は,本件投稿者に対し,本件記事の投稿により不法行為が成立するとして損害賠償を請求することを予定しており,そのために本訴により本件投稿者の特定に資する情報の開示を請求している(弁論の全趣旨)。

2 争点及び争点に関する当事者の主張

(1)本件記事は,原告の社会的評価を低下させるか(争点(1))。

(原告の主張)
 本件道場に師範は原告一人しかいないから,本件記事にいう「師範」が原告を意味することは明らかである。そして,本件記事の内容は,「師範」が躁うつ病である旨を摘示するものであり,「師範」が精神的に不安定であり,本件道場の経営者や空手の指導者として不適格であるとの印象を抱かせるものといえるから,原告の社会的評価を低下させる。

(被告の主張)
 原告の主張は否認する。

 本件記事には師範という段位しか記載されておらず,本件記事の師範が原告を意味するとは判断できない。また,単に躁うつ病である旨摘示したからといって,一般の閲覧者が原告について道場の経営者として,あるいは空手の指導者として不適格であると考えるとまではいえず,原告の社会的評価が低下するとはいえない。

(2)本件記事の内容が真実であること又は本件投稿者がそれを真実と信じたことに相当な理由があることをうかがわせる事情は存在しないか(争点(2))。

(原告の主張)
 原告が躁うつ病であること,又は本件投稿者が原告が躁うつ病であると信じたことに相当な理由があることをうかがわせる事情はない。

(被告の主張)
 原告の主張は否認する。

 本件投稿者は,本件投稿を行う以前から,本件道場の関係者複数人から,原告が躁うつ病であると聞いたことがあり,原告が躁うつ病であることに関する不満又は疑問を指摘する投稿がされているのを確認していた。

 したがって,原告が躁うつ病であることは真実であり,仮にそうでないとしても,本件投稿者がそのように信じたことには相当の理由がある。

(3)本件記事が公共の利害に関し,かつ,本件記事の投稿の目的が専ら公益を図るものであることをうかがわせる事情は存在しないか(争点(3))。

(原告の主張)
 本件記事は,私人の精神状況や道場での指導の在り方についての描写であり,それが公共の利害に関するものであることやその投稿の目的が専ら公益を図るものであることをうかがわせる事情はない。

(被告の主張)
 原告の主張は否認する。

 本件道場は,愛知県下最大級の空手団体であり,NPO法人全世界空手道連盟新極真会に属する愛知県唯一の道場としてその公式ホームページでも紹介されており,原告は,空手競技の全国大会で多数回の優勝経験がある有名選手であり,原告による道場経営又は空手指導の内容に関心を持つ門下生等が多数に及び,その出演するDVDが発表されるなど,準公人的な立場にあるから,本件記事の内容は,公共の利害に関するものである。また,本件記事の投稿は原告の道場経営の改善を希望する意図でされたものであるから,その目的は,専ら公益を図ることにあった。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件記事は原告の社会的評価を低下させるか。)について

 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,本件記事は,スレッドタイトルを「α」とする一連の記事のうちの一つであり,多数の門下生を有する本件道場の運営を話題とするものであることが認められるところ,本件道場には師範は原告一人しかいないのであるから,少なくとも,本件記事を読む本件道場の門下生等の関係者にとっては,本件記事にいう「師範」が原告を指していることが明らかというべきである。

 そして,本件記事では,本件道場の師範が躁うつ病である旨摘示されているところ,単に躁うつ病に罹患しているというだけで直ちにその者の社会的評価が低下するとはいえないとしても、本件記事には,「もはや,師範と話ができるのも極々一部の人間です。師範に話しかけるときは覚悟しましょう。」などとも記載されており,これらの記事を併せて読むと,本件記事は,これを閲覧する者に対し,本件道場の師範が,躁うつ病に罹患していることにより正常に本件道場の経営や空手の指導をすることができなくなっており,経営者又は指導者としての適格性がないとの印象を抱かせるものということができる。

 そうすると,本件記事は,原告の社会的評価を低下させるものということができ,争点(1)についての原告の主張には理由がある。 

2 争点(2)(本件記事の内容が真実であること又は本件投稿者がそれを真実と信じたことに相当な理由があることをうかがわせる事情は存在しないか。)について

 証拠(甲5)によれば,原告は躁うつ病に罹患した事実がないことが認められる。

 また,証拠(乙4)によれば,本件投稿者が本件記事の内容が真実であると信じたとしても,その根拠としては,本件道場の関係者複数人から,原告がうつのため指導も休みがちで早退も度々ある旨,原告が気分に大きくムラがあるので話しかけるのに気を遣う旨,原告がうつのためどの道場に行けば指導を受けられるのかを明らかにしていない旨,本件道場の道場生の多くが原告による直接の指導を望んでいるのにそれがかなわないのは原告の躁うつ病のせいである旨などの発言を聞いたこと,インターネット上の電子掲示板で上記各発言と同様の原告に対する不満又は疑問を指摘する投稿がされていたことがあるに過ぎないことが認められるところ,それらの事実があるのみでは,原告が躁うつ病に罹患しているとか,そのために原告が本件道場の経営や空手の指導をすることができなくなっていると信じることについて,医師の診断等の客観的な裏付けがあることにはならず,相当の理由があったということはできない。

 そうすると,本件記事の内容が真実であることをうかがわせる事情も,本件投稿者が本件記事の内容が真実であると信じたことに相当な理由があることをうかがわせる事情もないものというべきであり,争点(2)についての原告の主張には理由がある。

3 結論

 以上によれば,本件記事の投稿によって原告の権利が侵害されたことが明らかというべきである。

 よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第16部

裁判長裁判官 矢尾渉 裁判官 前澤功 裁判官 仲田憲史

発信者情報目録

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