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平成28年2月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成27年(ネ)第10119号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成26年(ワ)第31864号)
口頭弁論終結日 平成27年12月22日
判決
東京都千代田区内幸町二丁目2番1号 日本プレスセンタービル6階
小笠原六川国際総合法律事務所
控訴人(原告) 神田知宏
東京都港区虎ノ門三丁目16番7号 ピュア虎ノ門4階
法律事務所クロス
控訴人(原告) 唐澤貴洋
(住所略)
被控訴人(被告) 株式会社WEB広報
代表者代表取締役 (略)
訴訟代理人弁護士 海川直毅 鍬竹昌利
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
以下,控訴人らを「原告ら」と,被控訴人を「被告」と呼称し,用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従う。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被告は,原告らに対し,各80万円を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,弁護士である原告らが,被告に対し,被告が被告ウェブサイトにおいて,「弁護士は,料金が高い」,「法律のプロの力を借りなければ削除が難しいサイトだけに限って弁護士に依頼すれば,全体の費用を大幅に減らすことができます」等と表示し,「ネット削除に詳しい弁護士」として原告らの氏名を表示したことが,(1)原告らよりも契約条件において有利であるかのような表示をしている点において品質等誤認表示(平成27年7月10日法律第54号による改正前の不正競争防止法〔以下「不競法」という。〕2条1項13号)に,(2)原告らと被告とは競争関係にあるところ,原告らの料金が不相当に高額であり,被告に比べて「コストパフォーマンスが悪い」との営業上の信用を害する虚偽の事実の告知(不競法2条1項14号)にそれぞれ当たり,これにより原告らの営業権が侵害され,原告らの名誉,信用に対する損害を被ったと主張して,慰謝料各80万円の支払を求めた事案である。
原判決は,原告らの請求をいずれも棄却した。これに対し,原告らは,控訴をした。
2 前提事実
原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」,「1 前提事実」記載のとおりである。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
争点は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」,「2 争点」記載のとおりであり,争点についての当事者の主張は,以下において当審における当事者の主張を付加するほかは,「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりである。
(原告らの主張)
(1) 不競法2条1項13号該当性について
ア 原判決の事実誤認及び理由不備
原判決は,「需要者として想定されるインターネットによる誹謗中傷の対策を検討する者の通常の注意と理解力を基準とすれば,」「弁護士が提供する役務の内容と」「被告が提供する役務の内容とは異なるものであることを前提とした上で」,被告ウェブサイトの記載内容は,被告の方が原告らよりも契約の条件である契約内容等において有利であるとの記載とは解されないとした。すなわち,原判決は,被告ウェブサイトによれば,弁護士は「削除仮処分」だけを行い,事業者は「任意削除請求」を実施すると読めることを前提に,弁護士の削除業務と被告サイト記載の削除業務が異なると認識されると判断したものである。
しかし,弁護士は,削除仮処分や削除訴訟といった削除請求だけでなく,メール,連絡フォーム,送信防止措置依頼書といった,任意請求による削除請求も受任しているのであるから,原判決の認定には,重大な事実誤認がある。
この点,原判決は,インターネットで誹謗中傷されている者の「通常の注意と理解力を基準にすれば」と指摘するが,弁護士が「削除仮処分」しか受任していないと認識する方が,むしろ不自然・不合理な読み方である。弁護士は,どんな法律事件でも,裁判所の手続だけでなく,訴外の任意交渉も受任しているものである。
さらに,原判決は,何が「弁護士の提供する役務」で,何が「被告の提供する役務」なのかを一切示すことなく,「内容が異なる」との結論だけを示しており,判決理由の欠缺がある。
イ 弁論主義違反
被告ウェブサイトには,「削除代行サービス」「誹謗中傷サイトを削除してきました」「専門スタッフが最速で誹謗中傷を完全消去いたします」「一括して削除代行を承ります」(甲1の1),「削除代行」「ネット削除の費用」「掲示板の削除の料金」「スレッド(板)またはレス(書き込み)単位で削除いたします」「格安で掲示板を削除」「掲示板のスレッドまたはレスの削除の費用」「管理者を特定します。そのうえで,削除依頼の手続きを行います」(甲1の2)との記載があるところ,被告は,原審の準備書面(1)3頁において,かかる被告の業務広告は,被告が削除請求を代行しているかのような「誤解を招きかねない表現」であると自白している。
したがって,被告のウェブサイト(広告)が,削除請求を代行しているように読める事実は,当事者間に争いのない事実であり,判決の基礎とすべき事実である。
かかる事実を前提としない原判決には,弁論主義(民訴法179条)違反の違法がある。
控訴審では,「被告の広告が削除請求を代行しているように読める」との事実を前提に判断すべきである。
ウ 違法な事業と品質等惹起表示
仮に,A事業者の業務とB事業者の業務がどちらも適法なら,AがBより安い,Aが業界最安値との広告は,単なる比較広告であり,実際にAがBより安いのか,Aが業界最安値なのか,という事実認定により広告が真実か否かを判断できる。しかし,A事業者の業務が違法であれば,そもそも事業を行うこと自体ができないのであって,値段設定も無効であり,B事業者より安い,Aは業界最安値であるとの広告は,無と比較していることに帰着するから,「適法に事業を営んでいる」との印象を与える広告,「適法に事業を営んでいる者の中でも業界最安値」との印象を与える広告は,いずれも虚偽広告であり,品質等誤認惹起表示である。
本件で,前記イにおいて摘記した被告ウェブサイトの記載のとおり,被告の業務広告では,まさしく削除請求を代行するとうたっている。特に,「管理者を特定します。そのうえで,削除依頼の手続きを行います」との広告は,「管理者を特定」した後,「削除依頼の手続」をするとあるのだから,一般の需要者としても,技術的に管理者を特定した後,削除請求の手続をしてもらえると読むのが自然である。
また,被告は,被告ウェブサイト(広告)において,「根拠のある要請文書」「削除を要請する理由や根拠を明確に示す必要があります。『名誉毀損』『業務妨害』『著作権侵害』など,理由は案件ごとに異なりますが,しっかりと根拠のある削除要請文を提出しなければなりません」(甲1の2)と指摘しており,「案件ごとに異なる」法的主張について顧客に法的助言をしており,この点でも,非弁行為を記載している。
このように,被告は,自ら適法に任意削除請求ができないにもかかわらず,これが適法に可能であるように表示し,非弁行為の広告をしており,「役務の質,内容」について消費者を誤認させる表示をしている。これは,単なる行政法規上の違法にとどまらず,公益目的のために規定された弁護士法72条に違反する公序良俗違反の違法であるから,品質等誤認惹起表示は顕著である。
なお,これに加えて,被告ウェブサイトにおいて被告が広告する「削除と逆SEO」という提案(甲1の1)にも問題がある。逆SEOは,検索結果を削除するものではないため,何か月も続けて実施しないと,最終的には,違法な検索結果が表示される結果となる。そのため,例えば,逆SEOを6か月実施すると,それだけで30万円となり,1年実施すれば60万円となる。これでは,被告が「弁護士は高い」と記載している「30万円以上」と同額又はそれ以上になるから,被告ウェブサイトの「業界最安値」は虚偽広告であり,役務の質,内容において,消費者を誤認させる表示に当たる。
(2) 不競法2条1項14号該当性について
ア 原判決は,「被告が削除料金として表示する内容は被告との契約内容を前提とし,これは弁護士に依頼した場合とは異なることが前提」であるから,被告の方が有利である旨の記載とは解されないとした。
しかし,上記(1)に述べたとおり,弁護士は被告ウェブサイト(広告)と同様に,任意削除請求業務もしており,原判決は事実を誤認している。
また,被告ウェブサイトの<WEB広報の削除サービスの対象サイト>の表(甲1の2)では,被告による削除対象となる守備範囲は,ブログ,掲示板,ニュースサイト,クチコミサイト,転職サイト,医療機関のクチコミサイト,まとめサイト等であり,「2ch-sc,阿修羅,二階堂」についてのみ「削除の対象外(弁護士案件)」として記載されており,弁護士が対応するのは「2ch-sc,阿修羅,二階堂」の3サイトだけであるとミスリードしている。
このように,あたかも,弁護士が削除仮処分しか受任しておらず,しかも,一部のサイトしか対応していないかのように広告で表示し,さらに,その削除仮処分の価格だけを示して「弁護士は高い」などと記載することは,営業誹謗に当たる。
イ 前記(1)ウに述べたのと同様,A事業者の業務が違法であれば,そもそも事業を適法に行うこと自体ができないのであって,その事業を適法に実施しているB事業者の料金が自分より高い,と指摘することや,自分に依頼すればB事業者など不要であると指摘することは,虚偽の事実の摘示であり,B事業者にとって営業誹謗となるのであるから,原告らに対する営業誹謗に当たる。
(被告の主張)
(1) 原告らの主張(1)に対し
ア 原告らの主張(1)アに対し
原告らは,原判決が弁護士について「削除仮処分」だけを行う旨認定したと主張するが,原判決のどこを読んでもそのような判示は見当たらない。むしろ,原判決は,被告ウェブサイト上の記載を丁寧に引用した上で,「需要者として想定されるインターネットによる誹謗中傷の対策を検討する者の通常の注意と理解力を基準とすれば,需要者は,被告ウェブサイトにおいて『法律のプロ』であるとされている弁護士が提供する役務の内容と,削除ページに『当社では,これまでの数千件以上の削除実績と経験をふまえ,最も効果的な削除要請ができるよう,技術面からサポートいたします』等の記載から理解される被告が提供する役務の内容とは異なるものと理解するものと認められる」と的確に判示しており,事実誤認は認められない。
イ 原告らの主張(1)イに対し
原告らの主張は,被告の主張を意図的に歪曲し,自白に該当するとするものであり,失当である。
被告は,「誹謗中傷を完全消去いたします」「削除いたします」「削除依頼の手続きを行います」といった被告ウェブサイト上の記載について,被告の業務である技術的サポートによって,こうした結果を得るための手助けをするという趣旨を示したものであり,直ちに何らかの法律効果の変動や確保を直接企図する行為,すなわち,法律事務を指すと読み取ることはできないことを述べたものである。
ウ 原告らの主張(1)ウに対し
そもそも,インターネット上の書込みを削除したい需要者が,被告ウェブサイト(広告)を見て,被告が弁護士しかなし得ない法律事務を行っていると誤解することなどあり得ない。また,前記イに述べたとおり,被告が触れたホームページ上の記載は,被告の業務である技術的サポートによってこうした結果を得るための手助けをするという趣旨を示したものにすぎず,法律事務を指すと読み取ることはできない。実際に誤解をして被告に依頼をした顧客も存在せず,需要者にそのような読み方をさせるような内容でないことは明らかである。
また,原告らは,「非弁行為」の議論に関し,被告ウェブサイトに「根拠のある要請文書」「削除を要請する理由や根拠を明確に示す必要があります」「しっかりと根拠のある削除要請文を提出しなければなりません」と表記していることを捉えて「法的主張について顧客に法的助言をしている」などとするが,かかるウェブサイト上の記載は一般的な事項についての論評にすぎず,何ら個別具体的な案件について論じたものではなく,法的助言などと評することができないことは明らかである。
(2) 原告らの主張(2)に対し
前記のとおり,需要者が被告ウェブサイトを見て,被告が弁護士しかなし得ない 法律事務を行っていると誤解することなどあり得ない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も,被告ウェブサイトの記載内容は,原告らの主張するような,被告の役務の品質等を誤認させる表示には当たらず,原告らに対する営業誹謗にも当たらないから,原告らの請求は理由がないとして,原告らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であると判断する。その理由は,原判決13頁3行目「平成27年」を「平成26年」と改めるほかは,原判決「第4 当裁判所の判断」に示すとおりであり,当審における当事者の主張に対する判断は,以下のとおりである。
1 原告らと被告との競業関係について
不競法2条1項13号及び14号に基づく損害賠償請求の前提として,原告らと被告との間に競業関係の存在が必要である。
この点,原告ら及び被告は,共に,ウェブサイトにおける情報の削除要請を希望する顧客の要請を受けて,これに関わる各種のサービスの提供をすることをその業務の一部とするものであるところ,顧客に対する法律的助言や相手方との法律的交渉などの法律事務を措いて,少なくとも,例えば,相手方の特定方法やネット情報削除における手順の教示などの一般的なネット削除に関する情報提供の限度で,競業関係にあるものと認められる。
以下,このことを前提として,被告の行為に関する不正競争行為該当性について検討する。
2 原告らの主張(1)(不競法2条1項13号該当性)について
(1) 原告らの主張(1)ア(事実誤認及び理由不備)について
原告らは,原判決が,被告ウェブサイトによれば,弁護士は「削除仮処分」だけを行い,事業者は「任意削除請求」を実施すると読めることを前提に,弁護士の削除業務と被告ウェブサイト記載の削除業務が異なると認識されると判断したが,弁護士の業務は,「削除仮処分」に限られるものでないから,事実を誤認したものであると主張する。
しかし,原判決は,弁護士の業務が「削除仮処分」に限られるなどと認定したものではなく,原告らの主張は,原判決を正解しないものである。すなわち,原告らが,被告の行為について,弁護士に比して,あたかも自らの削除料金が低廉で有利であるかのように表示し,被告の役務が原告らよりも「契約条件」において有利であるかのように示した点において,役務の品質等を誤認させる表示に当たると主張したのに対して,原判決は,被告ウェブサイトの記載を引用した上で,被告が被告ウェブサイト上において示した料金の対象となる役務が異なることから,「それぞれ必要な費用について記載したものと理解する」旨を述べたものであり,また,「弁護士は料金が高い」とする記載についても,その対象となる役務が異なることから,これらの契約を対比してその条件において有利であると記載したものとは解されないと判断したものにすぎず,およそ,一般的に,弁護士の業務が「削除仮処分」に限られ,被告の業務が「任意削除請求」であると認定したものではない。
また,原告らは,原判決が,何が「弁護士の提供する役務」で,何が「被告の提供する役務」なのかを一切示すことなく,「内容が異なる」との結論だけを示しており,判決理由の欠缺がある旨主張する。
しかし,原判決の判断は,上記に述べた原告らの主張に対応したものである。すなわち,被告ウェブサイトにおける契約条件の一つである料金について,上記のとおり,対象となる役務が異なることを述べれば,契約条件としての有利不利を対比して同サイト上で示したものでないことが明らかとなるから,対象役務が異なることを判断の理由として判示したものであり,さらに,それぞれの業務内容を特定しなければ結論が導かれないというものではない。
したがって,原告らの主張は採用できない。
(2) 原告らの主張(1)イ(弁論主義違反)について
原告らは,被告ウェブサイトには,「削除代行サービス」「誹謗中傷サイトを削除してきました」等の記載について,被告が原審段階において,かかる広告は,被告が削除請求を代行しているかのような「誤解を招きかねない表現」であると自白していたことから,原判決は,この自白に拘束されなかった点で,弁論主義違反である旨主張する。
しかし,原審における被告準備書面(1)の3頁には,「なお,原告らが指摘する『誹謗中傷を完全消去いたします』『削除いたします』『削除依頼の手続きを行います』といったホームページ上の文言については,些か誤解を招きかねない表現ではあるが,何らかの法律効果の変動や確保を直接企図する行為そのものを指すものではなく,被告が提供する技術的サポートによってそうした結果を得るための手助けができるという趣旨を示そうとしたものである。」と記載されているのであり,原告らの主張する品質の誤認に関する評価根拠事実たる主要事実について自白が成立したものとは到底解することはできない。また,被告が,「些か誤解を招きかねない表現」としたのは,原告らの指摘する被告ウェブサイトの記載のうちの一部にとどまっており,被告ウェブサイト上の記載が品質誤認行為であると認めたものではない。
したがって,原告らの主張は失当であって,採用できない。
(3) 原告らの主張(1)ウ(違法な事業と品質等惹起表示)について
原告らは,被告ウェブサイト(広告)では,まさしく削除請求を代行するとうたっており,非弁活動の広告がなされているものであるから,適法に任意削除請求ができないにもかかわらず,これが適法に可能であるように表示しており,「役務の質,内容」について消費者を誤認させる表示に当たる旨主張する。
確かに,被告ウェブサイトには,原告らの主張する「削除代行サービス」「誹謗中傷サイトを削除してきました」「専門スタッフが最速で誹謗中傷を完全消去いたします」「一括して削除代行を承ります」(甲1の1),「削除代行」「ネット削除の費用」「掲示板の削除の料金」「スレッド(板)またはレス(書き込み)単位で削除いたします」「格安で掲示板を削除」との記載があり,その部分のみを取り出せば,被告が顧客に代わって削除請求を代理するかのような表現がある。しかし,被告ウェブサイトの表示を正確に理解するためには,原告らも認めるとおり,当該ウェブサイトの特定の文言のみならず,その他前後の文脈等も見る必要があるところ,トップページにおける「ブログの削除」欄には,「当社では,ブログの削除代行も行っています。」との記載に引き続いて,「削除依頼をITの面からサポートし,解決いたします。」との記載(甲1の1),削除ページには,「ネット削除(削除依頼)のITサポート」との見出しや,「ネット削除申請サービス(技術サポート)」,との見出しがあり,「ITやWEBの専門技術を生かし,削除依頼の手続きを最後までお手伝いします。」,「当社では,これまでの数千件以上の削除実績と経験をふまえ,最も効果的な削除要請ができるよう,技術面からサポートいたします。」との記載(甲1の2),相談ページには,「ITの知識も必要」「ネットの削除養成については法律知識だけでなく,ITの知識や技術も必要になります。当社では,ITの面から削除要請をサポートしています。削除の方法が技術的に分からないようなときは,当社にご相談下さい。」との記載(甲1の3)もある。これらによれば,原判決が述べるように,被告が,顧客と顧客が削除を求める相手との関係でどのように関わるのかについて明確でなく,技術的サポートの内容も具体的ではないものの,被告が顧客に代わって削除依頼を直接行ったり,法的助言を行ったりするものと理解することはできない。そうすると,被告ウェブサイトが,本来,被告が適法に行うことができない法律的な業務について,これを行うことが適法に可能であるように表示したとまではいうことができず,したがって,「役務の質,内容」について消費者を誤認させたということはできない。
また,原告らは,被告ウェブサイトの記載について,「案件ごとに異なる」法的主張について顧客に法的助言しており,この点でも,非弁行為を記載している旨主張する。
しかし,原告らの指摘する,「根拠のある要請文書」「削除を要請する理由や根拠を明確に示す必要があります。『名誉毀損』『業務妨害』『著作権侵害』など,理由は案件ごとに異なりますが,しっかりと根拠のある削除要請文を提出しなければなりません」(甲1の2)との記載部分は,削除要請に関する一般的事項を指摘するにとどまっており,この記載をもって,案件ごとに異なる法的主張についての助言であると解することはできず,原告らの上記主張は採用できない。
加えて,原告ららは,逆SEOは,検索結果を削除する業務ではないため,何か月も続けて実施しないと,最終的には,違法な検索結果が表示される結果となるので,長期間継続すれば,被告が「弁護士は高い」と記載している「30万円以上」と同額又はそれ以上になるから,被告ウェブサイトの「業界最安値」は虚偽広告であり,役務の質,内容において,消費者を誤認させる表示に当たる旨主張する。
しかし,誹謗中傷サイトの検索順位を下げるための総合的な取組みである逆SEOについて,被告ウェブサイト上には,その単価が月額であることが明示されている上,このような業務は,弁護士が通常行う法的業務と異なることは明らかであるから,長期間継続した場合に弁護士の仮処分申立費用であるとする30万円以上を上回ることがあったとしても,虚偽広告に当たるとはいえず,消費者を誤認させる表示に当たるものではない。
したがって,原告らの主張する品質誤認があるとはいえない。
3 原告らの主張(2)(不競法2条1項14号該当性)について
まず,原告らが,弁護士の業務には任意削除業務も含まれるから,原判決に事実誤認があるとの点については,前記1に述べたとおりであって,採用できない。
次に,原告らは,あたかも,弁護士が削除仮処分しか受任しておらず,しかも,一部のサイトしか対応していないかのように広告で表示し,さらに,その削除仮処分の価格だけを示して「弁護士は高い」などと記載することは,営業誹謗に当たる旨主張する。
しかし,被告ウェブサイトの全体を見ても,弁護士が削除仮処分しか受任しない旨の記載はなく,一部のサイトについての削除要求にしか対応しないなどとは記載されておらず,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知や流布があったとは認められない。
その他,原告らはるる主張するが,いずれも原判決の認定を左右するものではない。
第4 結論
よって,本件控訴には理由がないから,これをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官 中村 恭
裁判官 中武由紀
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