「唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第19073号」の版間の差分
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2019年9月6日 (金) 22:49時点における最新版
全文
原告 X1
原告 X2
原告両名訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同代表者代表取締役 X3
同訴訟代理人弁護士 五島丈裕
主文
1 被告は,原告らに対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原告らが,氏名不詳者がインターネット上の電子掲示板にした記事の投稿により名誉を毀損されたとして,当該投稿についてインターネット接続サービスを提供したいわゆる経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,当該氏名不詳者に係る発信者情報の開示を求める事案である。
1 前提となる事実
以下の各事実については,証拠等を掲記した事実は当該証拠等によりこれを認め,その余の事実は当事者間に争いがない。
(1)当事者
ア 原告X2(以下「原告X2」という。)は,平成19年に東京藝術大学(以下「東京芸大」という。)音楽学部邦楽科教授に就任し,平成24年3月末に定年退官するまで同教授の地位にあり,退官以後は邦楽囃子の演奏家をしている(甲6)。
イ 原告X1(以下「原告X1」という。)は,在日韓国人であり,平成10年4月に東京芸大音楽学部邦楽別科邦楽囃子(小鼓)専攻に入学し,邦楽囃子を専攻して平成19年3月に博士課程を修了し,平成22年4月から平成24年3月末まで東京芸大音楽学部邦楽科で非常勤講師を務めていたが、原告X2の退官に伴い,選考を経て東京芸大の准教授に就任した(甲5,甲8)。
ウ 被告は,電気通信事業を目的とする株式会社である。
(2)インターネット上のウェブサイトである電子掲示板(http://www.2ch.net)(以下「本件ウェブサイト」という。)に,いわゆるスレッドが作成され,氏名不詳者により別紙投稿記事目録記載の投稿記事(以下「本件記事」という。)が投稿されて掲載され,不特定多数の人の閲覧に供された(以下,本件記事を投稿した氏名不詳者を「本件発信者」という。)。
(3)原告X1は,本件ウェブサイトの管理者であるパケットモンスターインク ピーティーイー エルティーディ(PACKET MONSTER INC.PTE.LTD.)を債務者として,本件記事の投稿に係る発信者情報開示の仮処分を申し立て,平成○○年○月○○日付けの仮処分命令に基づき,本件記事の投稿に使用された別紙投稿記事目録記載のIPアドレス等の開示を受けた(甲2,弁論の全趣旨)。
(4)被告は,本件記事の投稿についてインターネット接続サービスを提供したいわゆる経由プロバイダであり,上記IPアドレスの使用者である本件発信者の住所,氏名,メールアドレス等の情報を保有している。
(5)原告らは,本件発信者に対し,名誉毀損による権利侵害を理由として,不法行為に基づく損害賠償請求等を準備している(弁論の全趣旨)。
2 原告らの主張
(1)本件記事における記載の対象
本件記事において記載の対象となっているのは原告らである。本件記事には「芸大の邦楽科のMという教授」,「在日の女性R」との記載があるが,これはそれぞれ原告X2,原告X1を指すものである。
(2)本件記事による原告らの名誉毀損
本件記事は,原告X2が原告X1といわゆる不倫関係にあるとの真実に反する事実を摘示し,原告らの社会的評価を低下させ,その名誉を毀損するものである。また,本件記事は,読者に対し,原告X2が大学の人事を私物化しており,原告X1がこのような私物化がなければ准教授に就任することができない人物であるとの印象を与え,原告らの名誉を毀損するものである。
本件記事に記載されているのは男女の私的関係であり,公益目的は観念し得ず,公共の利害に関するものでもない。
3 被告の主張
(1)本件記事における記載の対象について
原告らの主張は,争う。本件記事の読者は,本件記事の「M」及び「R」がそれぞれ原告X2,原告X1を指すと理解することはできない。
(2)本件記事による原告らの名誉毀損について
原告らの主張は,争う。本件記事の読者は,単なる発信者の意見や憶測が記載されていると解釈するにとどまるから,本件記事が原告らの社会的評価を低下させることはない。
第3 当裁判所の判断
1 本件記事の記載の対象について
本件記事が掲載されたスレッドには,本件記事の直前に,「東京芸大音楽学部邦楽科邦楽囃子の教授は本年定年退官。後任人事を巡って様々な憶測が芸界内で飛び交っている。」との記事が掲載されており(甲11),また,本件記事が投稿された平成23年11月25日当時,東京芸大音楽学部邦楽科の講座においては,姓の頭文字のアルファベットが「M」である教授は原告X2の他におらず,姓の頭文字のアルファベットが「R」である非常勤講師又は助手は原告X1のほかにいなかったこと(甲7)によれば,本件記事の対象は原告らであることが認められる。そして,原告X2が東京芸大音楽学部邦楽科第4講座の指導教員であることは同大学のウェブサイトに公表されており(甲12),原告X1が在日韓国人であって,東京芸大音楽学部邦楽科に在籍していることも公表されていること(甲5)に照らせば,本件記事の対象が原告らであることは,その読者においても認識し得たと認めることができる。
2 本件記事による原告らの名誉毀損について
法4条1項1号に定める「開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」というには,開示請求者において,権利が侵害されたことに加え,当該侵害について,違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことを主張,立証する必要があると解するのが相当である。
そこで,本件について,上記のような観点から検討する。
(1)社会的評価の低下について
本件記事には,「芸大の邦楽科のMという教授が,私生活で懇意にしていた在日の女性Rを自分の次の准教授に推し,それが確定したようです。」,「邦楽界からかなりクレームが出ています。どうやら,憶測ですが,学長もグルのようです。」,「彼女は,古典の世界では何の知名度も無く,一人の師について修行もつんでいません。芸名もありません。」との記載があるが,これらは事実を摘示するものであるということができる。そして,これらの摘示事実(以下「本件摘示事実」という。)は,本件記事の一般の読者にとって,東京芸大の邦楽科の教授である原告X2が,原告X1といわゆる不倫関係にあり,そのために原告X1を准教授に推薦し,学長と通謀して,本来であれば准教授に就任することができるほどの実績のない原告X1を准教授に就任させたと理解されるものであり,このような読者に対し,原告X2が東京芸大の教授人事を情実により左右し,原告X1は准教授に就任することができるほどの実績がないにもかかわらず,准教授に就任させようとしているとの印象を与えるものであるということができるから,原告らの社会的評価を低下させるものであると認められる。
(2)真実性の欠如について
原告X2は,原告X1を邦楽の演奏家として指導したことはあるが,原告X1といわゆる不倫関係にあったことはなく,東京芸大においては,退任する教授の後任は公募され,後任人事委員会が選考にあたり,推薦者を一人に絞った後に,音楽学部教授会において投票により候補者として決定することとされているところ,退任する教授である原告X2は上記委員会の構成員となることができず,教授として出席した上記教授会においては賛成多数で原告X1を後任候補者とすることが可決されたものである(甲5,甲6)。
また,原告X1は,東京芸大音楽学部邦楽別科邦楽囃子専攻に入学し,博士課程を修了しており(前記第2の1(1)イ),平成15年から演奏家として様々な演奏会に出演している(甲5,甲9)。
これらの事実に照らせば,本件摘示事実は真実ではないと認められる。
(3)以上によれば,本件記事中の本件摘示事実は,原告らの名誉を毀損するものであって,本件記事の投稿の違法性を阻却する事由はないことが認められる(原告らが,本件発信者において本件摘示の事実を真実であると信ずるに足りる相当な事由がないことまでを主張立証する必要はないと解する。)から,本件記事の投稿によって原告らの権利が侵害されたことが明らかであると認めることができる。
3 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
原告らは,本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求等を準備しており(前記第2の1(5)),原告らがこれを行うためには,本件発信者の氏名,住所等によりこれを特定する必要があることは明らかであるから,本件発信者に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
4 結論
以上によれば,原告らは,被告に対し,法4条1項に基づき,本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求めることができる。
よって,原告らの請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部
裁判官 白井幸夫
(別紙)発信者情報目録
別紙投稿記事目録記載のIPアドレスを使用して同目録記載の投稿用URLに接続し,同目録記載の投稿日時ころに同目録記載の投稿記事を投稿した者に関する次の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
(別紙)投稿記事目録
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