恒心文庫:37
本文
「アンノゥ…」
ここはかの有名な虎ノ門。声の主はかのデブ。俺は丸腰である。流れる冷や汗。
もう終わりだーーーーー
隙あらば、自分語り
俺には好きな女性が居た。だが、僕の前からいなくなってしまった。
自暴自棄になりネットに浸る日々。その時出会ったのがあの高校生だった。自身の発言が元となり、炎上し、翻弄される少年。
むしゃくしゃしてた俺にとってはそんな不謹慎な笑いが、心地よかった。
なのにあいつが現れたんだ。
「をには」「 声なき声に力を。 」「 UNDER CONSTRUCTION 」
精神が中学生のまま止まっているような恥ずかしい文章の数々。くだらない悪口のIP開示。あいつを見た時は呆れたね、あんなのが弁護士なんて(笑)
●の流出の時も、呑気に更新してたよな。
「クレジットカード情報流出してますよ…っと」
苦笑しながら書き込む。
まったく、抜けてるヤツだな。
嘲笑をしつつもこいつの動向に目が離せなくなり…
「アンノゥ…」
聞いてないのかと不明瞭な問いかけを繰り返すデブの顔は赤らんで体をもじもじとさせていた。
愛宕警察は…まだこない。防犯カメラは、今も目を光らせている。
ツイてないな、本当にーーーーー
殺した女の婚約者が同僚になるなんて、ツイてないな、先輩。
追っかけてきた努力が身を結び、怪しまれないほどに近しい関係になれた。
これでとどめをさせば復讐も、ハセカラコンテンツも、すべてが終わる。そう考えるといろんな感情が混ざり顔じゅうの筋肉がヒクつく。今の僕は般若のような顔をしてるのだろう。
「山岡が、唐澤の最期をお知らせします…リャマァァァ!!!!!!」
奇声とともに放つ正拳突きは豊満な肉がついた胸部を抉り、豚のようなうめき声を出させた。
苦しそうに倒れる隙を逃がさんとつかみかかりーーーマウンティングを取るとーーー張り詰めたテントの苦しさに気づいた。
そう勃起だ。
いや、生死がかかる場面だからただの生理現象だ。…そうは言いきれない理由があった。
常に世話をするという行動が意思を変えてしまったのか、愛おしい人を失ってからあまりにも時間が立ちすぎてしまったのか。いつしか憎しみは愛情に、蔑みは愛着に変わっていた。
美奈、ごめん、殺れなかったよ。
倒れ込むからさんと、一物を固くした俺。遠くから聞こえるパトカーのサイレン。
復讐という唯一の目標を失くし途方に暮れる俺を、下半身のチンフェが笑っていた。
この作品について
なぜ山岡裕明が尊師と法律事務所を立ち上げたのか、
教徒の想像の中に「恋人だった川崎美奈の仇討ち」という説があり、本作品はそれを題材にしたものである。
この説を題材にした作品は小説やMMDなど多数あり、名作と呼ばれるものも多い。
挿絵
リンク
- 初出 - デリュケー 37(魚拓)
- 恒心文庫:二度あることは三度ある - 発端