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恒心文庫:何故唐澤貴洋はおかしな日本語で話すのか

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

弁護士唐澤貴洋。
貴洋の日本語ははっきり言って異常である。

「あなたに会って話がしたいですを」
「先生達は、私は貴学の生徒に苦しめられました。」
「道端にしか熱量は存在しない。」
「君が有能になることを草葉の陰から祈っています。」

日本語としておかしかったり、誤用の目立つこれらの文は全て貴洋が書いた物だ。

弁護士の文章力がこれだけ低いというのはあり得ない、と思うのが普通の人の反応だろう。しかしこれには理由がある。唐澤貴洋、いや唐澤家には悲しき事情というべきか宿命があったのだ。

時は江戸時代に遡る。飛脚という職をご存知だろうか。日本中をその足で駆け巡り貨物や金銭を運ぶ、今で言えば宅配便に当たる職の事だ。唐澤家は飛脚として活躍しており、飛脚業としては最後の代に当たる唐澤隆雄は顔は猪のようであり、足も猪が突進するかの如き速さで、大坂〜江戸間をわずか1日で行き来出来てしまう程であった。庶民や大名からは「いのしし屋」の名で重宝され親しまれていた。そんな獣らしさとは異なり頭の出来は良く、子どもの頃は尊師として村の人間から奉られていたのだ。

ある日隆雄は薩摩国に呼び出される。相手は、名前は伏せるがある政治家だった。
「いのしし屋や、おいどんに協力してもらえぬかモリ。」
話を聞くとこのような事だった。薩摩藩は他藩とともに江戸の倒幕を計画している。しかし互いに忍んで会うのも立場上難しい。そこで白羽の矢が立ったのが隆雄。密か事を他藩の人間に伝える役職、所謂現代の諜報部員になって貰えないかという頼みであった。
隆雄は人から愛されるのは嬉しかったのだが、内心飛脚の仕事そのものには飽きていた。その為これは良い機会と思い快諾した。
「助かるモリ。しかしひっそりととは言え、話して伝える以上は盗み聞きされる可能性もあるモリ。そこで…」
懐から取り出したのは一冊の本。そこには理解出来るようで全く意味不明な日本語が書かれていた。これは何かと尋ねると、
「暗号モリよ。一般庶民からは意味不明でも、分かる人には分かるように作られているモリ。対訳を書いておいたから職に就く前にしっかり覚えるモリ。」
元々頭が良く神がかった記憶力を持つ隆雄は、僅か40298秒で暗記を完了。これには周囲の人間も驚きであった。それからというものの隆雄は薩摩藩の為に働いた。しかし落とし穴もあった。この仕事に没頭するが余り普段会話する際も暗号で話すようになってしまった。暗号を知らぬ者とはギリギリ意思疎通が出来るような、支離滅裂な会話しか行えなかった。
ある日江戸幕府の仕向けた殺し屋に追われ、うっかり足元にいたカメムシを踏み付け音を出してしまい、刀で一斬。その生涯を終えた。

さて、これが貴洋の日本語とどう結びつくのか、勘の良い方はお気付きかもしれない。そう、唐澤貴洋は唐澤隆雄の生まれ変わりなのだ。
唐澤家には代々言い伝えられてきた話がある。それは「敢え無く散った隆雄の無念はいつの日か魂となって現世へ蘇る」という物であった。
しかしながら産まれる者はいずれも隆雄のような素質や特徴を持っておらず、私自身もアヒルのような顔であり、言い伝えは迷信だったのだろうと、もはや信じる事は一族誰もがしていなかった。
しかし息子、つまり貴洋は違った。まるで猪のような顔であり、幼い頃から突進が好きだった。私と妻は生まれ変わりに違いないと確信した。無念を晴らすべく、いつか息子には隆雄のような職、つまり諜報部員になって欲しいと考えるようになっていた。
しかし親戚からの目は冷ややかであった。「今の時代そんな能力があっても仕方がない」「そんな不細工で結婚出来るのか」といった誹謗中傷発言が飛び出した。
ある親戚がこうも言った。
「身体が臭い」
そう、私達も我慢してきたが貴洋は産まれた時から異臭体質であった。
鼻を劈き、催吐中枢へ直接訴えかけてくる臭い。まるで隆雄が殺したカメムシのような…。これは呪いだ。そう思い、日本中からありとあらゆる住職や霊媒師を呼んだ。しかしカメムシの呪いは強く、解呪出来る者は誰一人いなかった。これでは貴洋が諜報部員として務める事は到底不可能であった。
すくすくと傲慢に育つ貴洋と違って、私と妻は病むようになった。溜まるストレス。私達は性行為でその解消をした。そうして産まれたのがダチョウのように可愛らしい弟の厚史なのだが、貴洋の悪臭に耐えかね悪い者達と関わりを持つようになり、最後には自殺してしまった。

そんな貴洋だがある長所があった。それは隆雄から受け継いた神がかり的な記憶力であった。これをなんとか将来に活かせないかと考え思い当たったのが弁護士だった。幸い東京のある事務所にコネがある。そこに就職させ、独り立ちさせればこのストレスの毎日から開放される。私はそう考え貴洋に猛勉強をさせた。
しかしこれが後に仇となった。勉強のストレスか、貴洋が支離滅裂、しかしどこかで見聞きしたような日本語を使うようになってしまった。

そう、これが唐澤貴洋の文章力が低い理由なのだ。
つまり私が無理に勉強をさせた結果、隆雄の「暗号で会話をする」という短所をも呼び覚ましてしまったのだ。
貴洋の日本語に既視感を感じたのは当然であった、唐澤家に代々伝わる暗号書に書かれている物と酷似していたのだ。

国会議員の売春疑惑をもみ消す代わりに、貴洋のおかしな日本語に目を瞑って欲しいという願いが聞き入れられ、数年後貴洋は弁護士試験に合格し、ある事務所へコネを使って入所する事が出来た。
しかし現実は厳しいものだった。貴洋は記憶力を生かそうと努力したが、彼の日本語は依然として奇妙で理解に苦しむものであった。法廷での試練では、証拠を誤解し、論理的な説明を行うのが難しく、結局、彼の弁護士としての評判は低く、同僚からも嫌われ結局事務所を僅か半年で辞めてしまった。

人々は依然として貴洋の日本語に驚き、彼を忌み嫌った。家族の運命や特異な特質は彼を苦しめ続けた。私は、家族の歴史を変えることが出来ず、隆雄の無念を晴らすことも出来なかった。

これが唐澤貴洋の宿命であり、彼は無能な弁護士として、今も人々から忌み嫌われ続けている。

本作品について

本作品は、弁護士マップ唐澤貴洋のレビューに掲載されていた小説である。

リンク・註釈

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