東京地方裁判所令和3年(ワ)第12332号

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全文

令和3年10月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第12332号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和3年9月17日

判 決

原 告
同訴訟代理人弁護士 井 上 拓
山 岡 裕 明
町 田 力
千 葉 哲 也
被 告
株 式 会 社 N T T ド コ モ
同訴訟代理人弁護士 横 山 経 通
上 田 雅 大
南 谷 健 太
渡 邉 峻
平 田 憲 人
二 神 拓 也
藏 田 彩 香

主 文

被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理 由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

本件は,別紙著作物目録記載の画像(以下「本件イラスト画像」という。)の著作権者であると主張する原告が,ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに別紙投稿記事目録記載の各投稿(以下,当該各投稿を「本件投稿1」ないし「本件投稿6」といい,併せて「本件各投稿」という。)をされた行為(以下,本件各投稿をした者を「本件投稿者」という。)により,本件イラスト画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権),名誉権及び名誉感情を侵害されたとして,被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。

前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。なお,証拠を摘示する場合には,特に記載のない限り,枝番を含むものとする。)

(1) 当事者
 
原告イラスト画像(甲2)

原告は,「X1X´(X)」というアカウント名のツイッターのアカウントを有する医師であり,本件イラスト画像の著作権者である。当該アカウントのプロフィール画像には,本件イラスト画像が使用されている。(甲2)

被告は,電気通信事業を目的とする株式会社であり,プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。

(2) 本件各投稿
 
(本件投稿1)

本件投稿者は,ツイッター上に,「尻穴まで洗う救急医Baka(魚拓)」というアカウント名のアカウント(以下「本件アカウント」という。)を開設し,原告イラスト画像をそのプロフィール画像に設定した上で(本件投稿1),令和2年12月28日から令和3年1月16日までの間,別紙投稿記事目録記載のとおり,令和3年1月16日までの間,本件投稿2ないし6をした(甲3ないし8)。

(3) ツイッター社からのIPアドレスの開示

原告は,ツイッターインク社(以下「ツイッター社」という。)を相手方として,令和2年12月1日正午(日本標準時)以降仮処分決定が相手方に送達された日の正午時点までに本件アカウントにログインがあった際のIPアドレス及びタイムスタンプ(ただし,ツイッター社が保有するものに限る。)の開示を求めて,仮の開示を求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てた。
これに対し,同裁判所は,令和3年2月15日,原告の申立てを認容する旨の仮処分決定をした。(甲9)

ツイッター社は,令和3年3月8日頃,上記仮処分決定に基づき,原告に対し,令和2年12月23日から令和3年1月27日までの間に本件アカウントへのログインがあった際のIPアドレス及びタイムスタンプを開示した。
なお,別紙IPアドレス目録記載の接続元IPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン日時)は,ツイッター社から開示されたIPアドレス及びタイムスタンプの一部である(以下,上記IPアドレスを「本件IPアドレス」といい,上記タイムスタンプと併せて「本件IPアドレス等」という。)。(甲10,18)

本件IPアドレスは,被告が保有するものである。(甲11)。

(4) ツイッターの仕組み

ツイッターを利用するには,まず,氏名,電話番号又はメールアドレスの登録及びパスワードを設定してアカウントを作成する必要があり,また,自己のアカウントで投稿するためには,当該アカウントにログインする必要がある。(弁論の全趣旨)

争点

(1) プロバイダ責任制限法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」該当性(争点1)
(2) 権利侵害の明白性(争点2)

本件各投稿による著作権侵害の明白性(争点2-1)
本件投稿2ないし6による名誉感情侵害の明白性(争点2-2)
本件投稿4による名誉権侵害の明白性(争点2-3)

(3) 正当な理由の有無(争点3)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(プロバイダ責任制限法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)

(原告の主張)

プロバイダ責任制限法4条1項は,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し,権利侵害と発信者情報の関係につき,やや幅のある表現ぶりを採用していることからすると,「権利の侵害に係る発信者情報」とは,侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されることなく,権利侵害との結びつきがあり又は権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報を含むものと解すべきである。
そして,同項の趣旨は,特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバシーや表現の自由等に配慮した厳格な要件の下で,特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される。そうすると,侵害情報そのものの送信時点ではなく,その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても,それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には,当該発信者のプライバシー,通信の秘密等の保護の必要性の程度に比べ,被害者の権利の救済を図るため,開示される必要性がより高いというべきである。
のみならず,ツイッターは,アカウント及びパスワードを入力してログインをしなければ利用できないサービスであること,本件アカウントは本件イラスト画像をプロフィール画像に使用して原告に対する誹謗中傷を繰り返すものであり,原告に悪意のある特定の個人によって開設・投稿されたものであること,ツイッター社から開示された期間においても毎日本件アカウントへのログインがされていること,現に令和2年12月26日から令和3年1月17日までの間に合計97回,本件アカウントへのログインが行われているところ,そのうち96回は被告が保有するIPアドレスによるものであること,以上の事実によれば,別紙 IPアドレス目録記載の各IPアドレス及び各タイムスタンプにより特定されるツイッターへのログイン(以下,これらのログインを「本件各ログイン」という。)をした者と本件投稿者とは,同一人物である。
以上によれば,侵害情報の送信の前後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても,それが侵害情報の発信者のものと認められる場合には,「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するというべきであるから,本件発信者情報は,「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。

(被告の主張)

原告は,本件各投稿そのものが行われた際の通信ではなく,本件各ログインが行われた際の通信に係る発信者情報の開示を求めている。しかしながら,そのような通信記録は権利侵害情報を投稿した通信そのものではなく,「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものではない。
仮に,一般論として,ログイン情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に含まれる余地があるとしても,本件各ログインは,いずれも本件各投稿が行わた日時から数時間,場合によっては数日離れたものが大半を占めており,特に,本件投稿1に関しては,投稿日時が「2020年12月」と年月の記載しかなく,日時が全く明らかではない。
そうすると,これらの情報が侵害情報に「係る」情報に該当するとはいい難く,本件発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものとはいえない。

2 争点2-1(本件各投稿による著作権侵害の明白性)

註釈

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