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「唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成26年(ワ)第30135号」の版間の差分

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原告 Z1<br>
同訴訟代理人弁護士 [[唐澤貴洋]]<br>
同訴訟復代理人弁護士 原田學植
被告 KDDI株式会社<br>
同代表者代表取締役 Z2<br>
同訴訟代理人弁護士 今井和男<br>
同 正田賢司<br>
同 小倉慎一<br>
同 鈴木隆弘<br>
同 山本一生<br>
同 山根航太<br>
同訴訟復代理人弁護士 横室直樹
 
== 主文 ==
1 原告の請求を棄却する。
 
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
== 事実及び理由 ==
=== 第1 請求 ===
 
 被告は,原告に対し,【別紙】「発信者情報目録」記載の各情報を開示せよ。
 
=== 第2 事案の概要 ===
 
 本件は,原告がインターネット上の電子掲示板に投稿された【別紙】「情報目録」記載の[1]ないし[3]の各投稿(以下,それぞれ「本件投稿1」ないし「本件投稿3」といい,併せて「本件各投稿」という。)が原告の名誉権を侵害するものであり,本件各投稿をした者(以下「本件各発信者」という。)に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行うために本件各発信者に係る【別紙】「発信者情報目録」記載の情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示が必要であると主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任法」という。)4条1項に基づき,同法2条3号所定の特定電気通信役務提供者である被告に対し,本件各発信者情報の開示を求めた事案である。
 
1 前提事実(末尾に証拠等を掲記したもの以外は,当事者間に争いがない。)
 
 (1) 当事者等
 
 ア 原告は,株式会社東芝の従業員であったところ,同社を被告としてその地位にあることの確認等を求める別件訴訟を提起していた者である。
 
 イ 被告は,いわゆる経由プロバイダであり,プロバイダ責任法2条3号所定の特定電気通信役務提供者である。
 
 (2) 本件各投稿
 
 本件各発信者は,【別紙】「情報目録」の[1]ないし[3]の「投稿日時」欄記載の各日時に,インターネットに接続された被告の電気通信設備を経由して,Race Queen Inc.が管理,運営し,掲載された記事が不特定の者によって閲覧されることを目的とするインターネット上のウェブサイト「インターネット掲示板2ちゃんねる」(以下「本件サイト」という。)に宛てて,同目録の[1]ないし[3]の「投稿内容」欄に記載の文面の本件各投稿をした(甲1,2,弁論の全趣旨)。
 
 (3) 被告による本件発信者情報の保有
 
 被告は,本件各発信者情報を保有している。
 
 (4) 原告による本件各投稿に係る発信者情報開示請求の目的
 
 原告は,本件各発信者に対して本件各投稿による原告の名誉権の侵害を理由として不法行為に基づく損害賠償請求を行うために,被告に対し,本件各発信者情報の開示を求めている。
 
 2 争点及び争点に関する当事者の主張
 
 本件の争点は,本件各投稿によって原告の権利が侵害されたことが明らかかどうかであり,この点についての当事者の主張は,次のとおりである。
 
【原告の主張】
 
 (1) 本件各投稿の投稿内容は,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準としてこれを読んだ場合,次のとおり,原告の社会的評価を低下させることが明らかである。
 
ア 本件投稿1は,原告について,「ブラック企業の手先」と記載し,原告が違法な企業によって利用されていると誤信させるものである。
 
イ 本件投稿2は,原告について,「ブラックを暴露している人をZ1が会社に通報する」と記載し,原告が違法な企業によって利用されていると誤信させるものである。
 
ウ 本件投稿3は,原告について,「Z1がここで他のブラック被害者」と記載し,原告が違法な企業によって利用されていると誤信させるものである。
 
 (2) 本件投稿は,その内容が,真実でなく,一私人に関する情報であって公共の利害に関するものではなく,原告を誹謗中傷するものであるから,原告に対する加害意思によるものであって公益目的に出たものでもない。
 
 (3) 以上のとおり,本件投稿によって原告の権利(名誉権)が侵害されたことが明らかといえる。
 
【被告の主張】
 
 原告の主張は,否認し,争う。
 
 (1) 本件投稿には,原告の氏名の記載はあるものの,住所等それ以外の原告を特定する情報は一切記載されておらず,同姓同名の者は世の中に多数存在する可能性があることを踏まえると,一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とした場合,本件投稿が原告を対象とするものかは明らかではない。
 
 (2) 仮に本件投稿が原告に関するものであるとしても,本件各投稿の内容は,一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とした場合,いずれも,その趣旨が不明である上,投稿内容中の「ブラック企業」ないし「ブラック」の文言は,単なる揶揄として使用されており,「違法な企業」を意味しないし,本件各投稿には,原告が「ブラック企業」に利用されていることについて,何ら具体的な事情や根拠の記載がないから,原告が違法な企業によって利用されているとの印象を与えることが明らかであるとはいえない。したがって,本件各投稿が原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえない。
 
 また,本件投稿は,仮にそれが原告の社会的評価を低下させるとしても,その内容が会社への就職や転職を考える一般の人々がその就職・転職をする際の判断に役立てるものであるから,公共の利害に関するものであること,対象とする会社及びそれに関わる人に対する評価を人々に伝えるという公益目的をもって投稿されたから,公益目的がないことが明らかとはいえないこと,本件各投稿者は,相当な根拠をもって本件各投稿をしたものであり,本件投稿の内容が真実と信じたことに相当の理由がある可能性があることからすると,本件投稿に違法性阻却事由が存在しないことが明白であるとはいえない。
 
 (3) 以上のとおり,本件投稿によって原告の権利が侵害されたことが明らかとはいえない。
 
===第3 当裁判所の判断===
 1 プロバイダ責任法の規定の趣旨
 
 プロバイダ責任法は,4条1項において,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,侵害情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明らかであるなど同項各号所定の要件のいずれにも該当するときに限り,特定電気通信役務提供者に対し,その発信者情報の開示を請求することができる旨を規定しているところ,これは,発信者情報が,発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘密にかかわる情報であり,正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく,また,これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから,発信者情報の開示請求につき,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなどの厳格な要件を定めたものと解される。
 
 これを別の観点から説明すると,プロバイダ責任法4条1項1号が「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたとき。」と定めずに「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。」と定めているのは,特定電気通信役務提供者は,情報の発信者とは異なり,情報の真の意味内容,発信者の意図や情報発信に至る背景・経緯などを知らないのが通常であることから,侵害情報が開示請求者の権利を侵害しないことについての主張立証を情報の発信者と同程度に行う能力を有しないこと,したがって,開示請求者に通常よりも高度の立証責任を負わせるのでなければ,プライバシーなどの情報の発信者の正当な利益を保護することができないことを考慮し,社会的評価の低下などの権利侵害の発生の要件事実について通常よりも高度の確実性を有する立証の負担(単なる証拠の優越では足りない。)を開示請求者に課するとともに,違法性阻却事由が存在する可能性が乏しいことの証明も開示請求者に課する趣旨であると解される。
 
 2 争点についての判断
 
 仮に本件各投稿が原告に関するものであるとしても,一般の閲覧者の通常の注意と読み方を基準とした場合,本件各投稿の内容は,そもそもその趣旨が不明である上,投稿内容中の「ブラック企業」ないし「ブラック」の文言は,それが特定の会社や企業を指して批判ないし誹謗するものと解することはできず,単なる揶揄ないし罵詈雑言の類にすぎないというべきであって,それが違法な行為を行っている会社や企業を意味するものと解することはできない。
 
 また,本件各投稿は,原告が「ブラック企業」に利用されていることについて,何ら具体的な事情や根拠の記載がないから,原告が違法な行為を行っている企業によって利用されているとの印象を与えるものであることが明らかであるとはいえない。
 
 したがって,本件各投稿は,原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえず,それによって原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえないから,争点についての原告の主張は採用できない。
 
 3 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 
東京地方裁判所民事第25部
 
裁判官 矢尾渉
 
(別紙)情報目録
 
(別紙)発信者情報目録
 
 別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する次の情報
 
1 氏名又は名称<br>
2 住所<br>
3 電子メールアドレス<br>
(以上)
 
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