マヨケーがポアされたため、現在はロシケーがメインとなっています。

「唐澤貴洋/新聞記事」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
>黒水力
(中日新聞 2020年7月12日付の記事を追加。Web版には未掲載。)
>ジ・M
編集の要約なし
462行目: 462行目:
   匿名の誹謗中傷の投稿者を特定しやすくすべきではないか。そんな議論が政府内で高まる。「表現の自由」を脅かす、との指摘もあるが、'''唐澤さんは「公益性が強い表現ほど匿名を担保する必要性がある。表現の対象と内容に留意して、公益情報は(特定しやすくする)対象外にするべきだ」。私人に対するプライバシー侵害については、「開示請求を受けたプロバイダーが、開示するかどうかを判断しやすくする仕組みを作るべきだ」とも訴える。'''
   匿名の誹謗中傷の投稿者を特定しやすくすべきではないか。そんな議論が政府内で高まる。「表現の自由」を脅かす、との指摘もあるが、'''唐澤さんは「公益性が強い表現ほど匿名を担保する必要性がある。表現の対象と内容に留意して、公益情報は(特定しやすくする)対象外にするべきだ」。私人に対するプライバシー侵害については、「開示請求を受けたプロバイダーが、開示するかどうかを判断しやすくする仕組みを作るべきだ」とも訴える。'''


==SNSでの誹謗中傷(後編) 抑止になる法整備を(中日新聞、2020年7月12日)==
== SNSでの誹謗中傷(後編) 抑止になる法整備を(中日新聞、2020年7月12日) ==
[[ファイル:Chunichi20200712.jpg|300px]]
  '''抑止になる法整備を''' 弁護士 唐沢<ref>「澤」の字が新字体になっているのは、尊師の誤記ではなく、中日新聞社の表記規定に基づくものである。</ref>貴洋さん
  '''抑止になる法整備を''' 弁護士 唐沢<ref>「澤」の字が新字体になっているのは、尊師の誤記ではなく、中日新聞社の表記規定に基づくものである。</ref>貴洋さん
   
   
470行目: 471行目:
   総務省の有識者会議での議論は、開示する発信者情報に電話番号を加えるというもの。新たな裁判手続きを設けようという議論もありますが、結局、裁判的なやり取りが必要になるのなら時間がかかるだけ。それより、ネットの接続業者らが対応部署を充実させ、請求がきたら誠実に対応すればいいのです。
   総務省の有識者会議での議論は、開示する発信者情報に電話番号を加えるというもの。新たな裁判手続きを設けようという議論もありますが、結局、裁判的なやり取りが必要になるのなら時間がかかるだけ。それより、ネットの接続業者らが対応部署を充実させ、請求がきたら誠実に対応すればいいのです。
   それがだめなら、削除や情報開示を迅速かつ公正に判断する第三者機関の設置も視野に入れていい。私個人は「あしたはあなたが被害者になるかもしれない」と注意喚起するしかないと思っています。
   それがだめなら、削除や情報開示を迅速かつ公正に判断する第三者機関の設置も視野に入れていい。私個人は「あしたはあなたが被害者になるかもしれない」と注意喚起するしかないと思っています。
== 匿名の刃~SNS暴力考 100万回殺害予告受けた弁護士が加害者に面会して目にした「意外な素顔」(毎日新聞、2020年7月18日) ==
[[ファイル:Mainichi20200718.png|300px]]
'''インタビューに応じる唐澤貴洋弁護士=東京都港区で2020年6月24日午後0時51分、牧野宏美撮影'''<ref>{{archive|https://mainichi.jp/articles/20200717/k00/00m/040/316000c|http://archive.vn/fmgGN|
匿名の刃~SNS暴力考:100万回殺害予告受けた弁護士が加害者に面会して目にした「意外な素顔」 - 毎日新聞}}</ref>
 「自分を苦しめたのはどんな人物で、何のためにやったのか」。業務上の書き込みをきっかけにインターネット上で「炎上」し、約100万回に及ぶ殺害予告など壮絶な被害を受けた唐澤貴洋(たかひろ)弁護士(第一東京弁護士会)は、複数の加害者を特定し、面会した。見えてきたのは、攻撃的な投稿とは結びつかない、意外な姿だったという。その実像と動機とは――。【牧野宏美/統合デジタル取材センター】
'''掲示板の削除要請がエスカレート'''
 ――炎上のきっかけは2012年3月、ネット掲示板「2ちゃんねる」上で、誹謗(ひぼう)中傷を受けた依頼者のために、自身の名前を出して書き込みの削除要請をしたことでしたね。
 ◆依頼者は少年で、掲示板に学校の成績をさらされるなどの嫌がらせを受け、相談を受けました。当時は削除要請や発信者情報開示の依頼は掲示板上で行うことになっており、内容がすべて公開されている状態でした。そこで名前を出していた私が標的になったようです。要請して数時間後に掲示板を確認すると、既に私をやゆ、中傷するような書き込みが多数あって、何だろうと驚きました。例えば、私がツイッターで今後の仕事のためにとフォローしていた著名人などをチェックして、そこにアイドルがいたから「アイドルオタク」と書いてレッテル貼りをする、というようなものです。当時、まだ「炎上」という言葉も定着していませんでしたが、荒れているなと危機感を覚え、ツイッターを鍵付きにして見えないようにしました。そうすると、掲示板で「本人が見てるぞ」とさらに盛り上がってしまい、投稿が止まらなくなりました。
 内容はどんどんエスカレートし、「犯罪者」などと根も葉もないことを書かれ、私の名前を検索エンジンに入力すると、「詐欺」などのマイナスイメージの言葉が出てくるようになりました。「サジェスト(予測変換)汚染」と呼ばれるものです。法的手段を講じようと発信者情報開示の依頼をするとさらにそれがネタになり、その年の7月ごろには具体的な日時を指定した殺害予告が書き込まれるようになりました。身の危険を感じ、さすがに警察に相談しました。
'''ストレスで眠れず、酒あおるように'''
 ――殺害予告を見た時は、どんな気持ちでしたか。
 ◆ぞっとしましたね。「殺す」という言葉はすごく重いです。その上、匿名なので誰が言っているかも分からない。それは恐怖でしかありません。誹謗中傷もそうですが、誰がそんなことを言うのか、現象として理解できませんでした。既にそれまでの炎上で疲弊し、ストレスでよく眠れない状態が続いていましたが、殺害予告でさらに追い詰められました。不安や恐怖をごまかすため、強くないのに毎晩酒をあおりました。床に入る時、何度も「このまま目覚めなければ楽になるのに」と思いました。
 日常生活も一変しました。自宅に帰るルートを毎日変え、背後に人がいないか、常に気にしていました。エレベーターもなるべく見知らぬ人と一緒に乗らないようにしました。疑心暗鬼が深まり、人の多いところに出かけることも、仕事で人と会うことも負担に感じ、避けるようになりました。
 ――被害はさらに広がり、家族や、現実世界にも及ぶようになったんですね。
 ◆はい。両親の名前や実家の住所が特定されてネット上にさらされ、実家近くの墓にペンキがかけられたこともありました。弁護士事務所にも「実動部隊」が嫌がらせに来るようになり、郵便ポストに生ゴミを入れたり、鍵穴に接着剤を詰められたり、私の後ろ姿が盗撮されてネットに投稿されたりと、ありとあらゆる実害を受けました。事務所は3回も移転を余儀なくされました。さらに私になりすましてある自治体に爆破予告をする者まで現れました。被害は、最初の炎上から5年ほど続きました。
'''うつむき、おどおど…「面白かった」'''
 ――壮絶ですね。一方で、殺害予告をするなどした加害者と面会したそうですが、なぜですか。
 ◆自分に起きていたことが理解できず、得体の知れない不安を抱えていたので、どんな人物が、どんな気持ちで、なぜこんなことをするのか、知っておいた方がいいと思ったからです。もちろん怒りもあり、納得できない気持ちを抱えていたこともあります。
 ――実際に会ってみると、どんな人たちでしたか。
[[ファイル:Mainichi20200718_bible.png|300px]]
'''殺害予告された体験について書かれた著書「炎上弁護士」を持つ唐澤貴洋弁護士=東京港区で2018年12月26日午後6時7分、大村健一撮影'''
 ◆警察に相談して1年半以上過ぎた14年5月に最初の逮捕者が出て、計10人ほどが検挙されました。これまでに会ったのは、殺害予告をしたり、事件化はしなかったが事務所に嫌がらせをしたりした人たち数人です。全員男性で、10~20代中心の学生やひきこもり。全く面識のない人でした。
 最初に会ったのは、20歳ぐらいの大学生。両親も一緒でした。父親はきちんとした会社に勤め、母親は普通の感じの人。大学生はうつむきがちで口数が少なく、理由を聞くと「面白かったのでやっていました。そんなに悪いことだと思っていませんでした」。過激な投稿を称賛する他のユーザーの反応や、度胸試しみたいな雰囲気が面白かったようです。
 30歳過ぎの無職の男性は、年老いた母親と一緒に事務所に来ました。ずっとおどおどして「すみません」と言い続けていました。理由を聞いても、まともに答えなかったです。
 医学部志望の浪人生もいました。2浪中で、父親が医者。両親も一緒に面会しましたが、父親は自分の息子が問題行為に関わったことについて、どこか人ごとのような態度でした。不思議に思った私が「どういう家庭なんですか」と聞くと、浪人生が「父親が怖くて、せきをする音にもおびえて生活している。浪人生で居場所もない。投稿をしているといやなことを忘れられる」と語ったんです。父親から相当のプレッシャーを感じていたのだと思います。
 私の事務所の鍵穴に接着剤を詰めてその場で警察官に取り押さえられた少年と、その母親とも話しました。母親は着古したコートを着て、涙を流して私に謝罪しました。母子家庭で、少年は中学校で勉強についていけなくなり、通信制の高校に通っていました。母親によると、少年は常にインターネットを見ていて、母親がやめさせようとパソコンを取り上げたものの、バス代として渡したお金でネットカフェに行き、掲示板に書き込みを続けていたようです。少年のものとみられる書き込みを見ると、他のユーザーからあおられて、どんどん過激な投稿をしていた様子が分かりました。実家近くの墓を特定して写真を投稿したのもこの少年でした。
 殺害予告で逮捕された20代の元派遣社員からは、「謝罪したい」と手紙をもらいました。怖い気持ちもありましたが、会ってみると、優しそうで繊細な印象の青年で、「投稿に対する反応が面白くてやった。申し訳ない」と言っていました。さらに詳しく聞くと、「友達がいなくて孤独で、掲示板に書き込んでしまった」と明かしました。
 殺害予告を書き込んだ大学生からは、経緯や反省をつづった手紙をもらいました。現実逃避のためにネットに夢中になり、掲示板を利用するように。最初は私への中傷の書き込みを眺めているだけだったのが、人を傷つける凶悪な言葉を繰り返し目にするうちに感覚がまひし、いつしか自分も傷つける側になっていったそうです。殺害予告を「ネットのコミュニケーションの一つ」と表現し、私がどんな気持ちになるかは考えなかったと告白していました。ただ、最後に謝罪とともに「苦しめられる人から目を背けない大人になりたい」と書いてあり、少し救われました。
'''過激なネタで居場所を維持'''
 ――会うことで、納得できましたか?
 ◆正直、拍子抜けしました。相手に何か言い分があれば、こちらも怒鳴り合うぐらいの覚悟はできていましたが、みんなすんなりと謝るんです。私に恨みがあったり、こだわりやドロドロした感情を抱いていたりする人はいませんでした。共通していたのは、総じてコミュニケーション能力が低く、周囲に理解者が少なく孤独、罪悪感が乏しい、という点でした。
 そこで、私は「彼らにとってインターネットは居場所だったんだ」と考えるようになりました。掲示板はある種のコミュニケーション空間で、疑似的な仲間がいる。過激な内容の「ネタ」を随時投稿することによって、会話が盛り上がって円滑になり、居場所が保たれ続ける構造なのです。それが彼らの自己確認、存在証明の場になっているのでしょう。だからテーマや攻撃の対象は何でもいいわけです。私という人間に興味があるわけでなく、みんなが知っている共通の「記号」としてネタにされていただけなのだと思います。その証拠に、私への攻撃が落ち着いた後、今度は攻撃していた側の一人が標的にされ、炎上していました。大義があるわけではないのです。
'''処罰は対症療法、教育・福祉支援を'''
 ――どうすれば、炎上への参加や誹謗中傷の投稿を防ぐことができるのでしょうか。
 ◆政府が法規制の検討を進めていますが、私は以前から、発信者情報の開示をしやすくする、ネット上の権利侵害に対する新たな処罰規定を設ける、ことなどを提案してきました。ただそれは対症療法に過ぎません。加害者のバックグラウンドを知ると、「居場所」をネット空間に求めてしまう社会的、構造的な問題にも目を向けるべきではないか、と思うようになりました。もちろん、私が会った加害者の特徴がすべての炎上にあてはまるわけではありませんが、ネットリテラシーなどの教育や福祉的支援が必要な人は多いと思います。誰もが被害者、加害者になり得ます。法律だけでなく、精神医学などさまざまな専門分野の人が知恵を出し合い、早急に解決していかなければならない問題です。
からさわ・たかひろ
 1978年生まれ。早稲田大法科大学院修了。著書に「[[炎上弁護士]]」、監訳に「サイバーハラスメント―現実へと溢れ出すヘイトクライム」など。


== 註釈 ==
== 註釈 ==
匿名利用者

案内メニュー