恒心文庫:1A「唐澤洋とかいう優秀なやつがいるらしい」
本文
1A「こいつとワシの血掛け合わせたら強いのできるゾ〜これ」
洋「ふんっふんっふんっ」ギシギシ
↓ 12ヶ月後
貴洋「オギャア」
なぜなのか
「わが遺伝子と,お前の遺伝子を組み合わせて,会計士の血を後世に広げよ。」
それが,岳父が洋に常々言ってきたことであり,洋が妻と結婚した理由であった。
会計士の泰斗と呼ばれる岳父は,会計の透明性確保に全力を尽くしたのだが,
それとともに,自らの血を残し,偉大な会計士が後世に生まれることを願った。
優秀な会計士であった洋に自分の娘を嫁がせたのも,その子,そして孫…と
会計士になり,自らの能力と洋の能力を受け継がせることが目的であった。
そして生まれた子には,長男には自らの名を継承させ,次男には妻の名を継承させた。彼らが育つにつれ,いわゆる「賢弟愚兄」がはっきりしてきたのだが,賢弟は悪いもの
らの影響で自殺してしまった。「愚兄」を会計士にさせようとしたが,それは
叶わなかった。彼は中高一貫校を中退し,定時制高校に通うなど,勉学に苦労した
からであった。それでも彼は弁護士になった。世間からすればもちろん会計士と
違わぬ資格である。いや,弁護士の方がイメージは上なのか。
残念なことに,愚兄貴洋は弁護士になった後に会計士資格を取ろうとはしなかった
ので,洋は岳父の願いを叶えるべく,貴洋に会計士の娘を娶らせることを考えた。
貴洋の子に,会計士になってもらおう。
しかし,縁談はうまくいかなかった。黒い力が働いたようで,有力な会計士は娘を
貴洋に差し出さなかった。洋の中高時代の伝手で得た娘は,世間的には結婚適齢期で
あったのだが,……
貴洋は,興味を示さなかったのである。
貴洋はが興味を抱いた女性は,いや女子は,ローティーンであったからだ。
洋がそれを知ったのは,貴洋のPC―まさしくそれは,発信者情報開示の起点となるPC―のハードディスクの中身を見たからであった。貴洋が「ネットに強い弁護士」を
自称しながら,大してセキュリティー対策をしていなかったことにも驚かされたが,
ハードディスクの中身―年端も行かぬ少女らがあられもない姿で…―に強烈な
ダメージを受けた。
そこで洋は,15-18歳で,実年齢よりも下に見える少女を探した。黒い力の
妨害を受けたものの,何人かの候補を見つけた。洋は彼女らを貴洋の妻とした。
一夫多妻はおかしい? かつての各国の皇室・王室では,側室は当たり前だった
ではないかと洋は自らを納得させ,少女らには金で納得させた。
そして生まれたのは,全身性唐澤貴洋の子供であった。貴洋は「種付け」を
行ってくれたが,残念なことに岳父や自らの「会計の血」というべきものは
伝えられなかった。貴洋の一身性の能力が,「会計の血」を上回ったのだろうか。
洋に取ることのできる手段は,もうなかった。偉大なる岳父の「会計の血」は
途絶えることになるのだろうか。洋は深い絶望感を味わった。
そしてしばらくたち,洋は失意のうちに没した。
そのころから,会計士の名前に「公」や「高」が増えていった。岳父の願いは,岳父ではない
血で達成されたのであった。