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恒心文庫:頭唐澤(2017年)

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

貴洋は柔らかなベッドぬくぬくと眠っていた。
キラキラした光が差し込んできた。
「・・・」

「おぎゃーおぎゃー」
貴洋がついにこの世に誕生したのだ。
痛みから解放され涙ぐむ洋。
厚子はそれを優しく見守る。
しかし助産婦はすぐに異変に気付いた。
「ししししし死んでる!?」

そう彼は"頭部だけ"で生まれてきた。
息はしており、輝く目はしっかりと動いている。
「う、うそ・・・」
崩れ落ちる厚子。
洋は何もできずおろおろする。
「おぎゃー」
どうして彼が肺も持たずに生きていられるのか分からなかった。
助産婦は医師を呼んできた。

「どうやらこの子の首の裏には大腸が通っているようです。
きちんと肛門も付いてますよ。だから問題ありません」
厚子は言った。
「問題はありますよ。どうやってこの子がこの先生きていくか」
「他の赤ちゃんと同じように育てればいい」

厚子は母乳を与えた。
10分後に貴洋は首の後ろの大腸から排泄した。
厚子の身は震えた。

貴洋の名前は妊娠する以前から決められていたそうだ。
しかし貴洋は幼稚園児時代にはもう貴洋と呼ばれなくなっていた。
「頭唐澤」
バケモノだから。親しみやすい貴洋という名前では皆呼ばない。

頭唐澤は電動車椅子で移動した。
同年代にも先生にも馬鹿にされた。
「おーい頭唐澤」
「手や足を使って歩いてみろ」

頭唐澤の近所には優しいお兄さんがいる。
車椅子を押してくれたり、トイレに連れて行ってくれたり・・・。
別に車椅子は全自動だから押す必要は無かった。
しかし彼が付いていると誰も頭唐澤をからかわなくなる。
「山岡くんなんでお世話をしてくれるナリ?」
「困っている人を助けたいからだよ」
「僕は山岡くんに恩返しするナリ」
「そんなことしなくていいよ。困ってないから。
そのかわり周りのみんなを助けるんだよ」
「分かったナリ」

厚史は真面目な頭唐澤とは対照的にユーモアに満ち溢れた人だった。
ダチョウの着ぐるみを着て頭唐澤を笑わせる。
ある日悲劇が起きた。

厚子が深刻な顔をしてマンションへ帰宅した。
「厚史が死んだって」
頭唐澤の頭は真っ白になる。
「ど、どこで」
「遊具に挟まれて死んだんだって」

遊具のあった公園の管理人は語った。
「ダチョウの着ぐるみを着てそんなことしているからだろ」
着ぐるみは遊具から2メートルも離れたベンチの上にあり、
着たまま遊んでいたわけではなさそうだ。

それから公園の管理人は一日も経たずに逃走。行方不明になった。
「くそ!みんなを助けたいと思っていたのに。弟すら助けられないなんて」
そのとき電柱貼られた広告が目に入った。
「離婚の相談ならアヅールまで。アヅール法律事務所」

夕食中頭唐澤は洋に質問した。
「アヅールって何?」
「いろいろなことを解決してくれる法律事務所じゃ」
「そんなすごいところなんだ」
「弁護士が働いていて…まあ、この歳じゃわからんやろう」
「人を助けるんでしょ?」
「必ず助けられるわけじゃないぞ。裁判に負けることもある。」
「じゃあ、負けなけりゃいいんでしょ。僕は弁護士になる。みんなのために生きるって約束したもん」
「お、お前…」

司法試験に合格し、ついに頭唐澤は弁護士になった。
山岡くんも頭唐澤に影響され同じ職業に就いた。
立地条件のいいビルで事務所を開けるなんて最高だ。

――プルルルル
「はははバーカ」
「頭唐澤?頭唐澤?」
「ブリュリュリュ~♪」
いたずら電話何回目だろう。
法律事務所プラスには法律相談が来ることはなかった。

「僕もう弁護士やめたいナリ」
山岡くんの前では心を許しているのかなぜかナリ口調になってしまう。
「駄目です」
「依頼人もいないのにナリか…」
「いつかは来ますよ」
山岡くんがせっかく持ってきた二つのミントアイスはすっかり溶けていた。
それから20分ほどして彼は口を開いた。
「じゃあ、僕が依頼人になります」

知的障害者の生活するやまゆり園には頭部が無い人間が存在するという。
その人は男で脳みそがないのに生きている理由は不明だそうだ。
目は無いので全盲。力は強く凶暴。
「で、それが何のナリか」
「接合手術を受けるんだよ」
「ええ?」
「アメリカにドクターカネコという元接骨院長の医者がいる。どんな病気も治せる。人気があって現在は100人も予約が入っているという」
「じゃあ、だいぶ待たないといけないナリね」
「違うんだ。8時間にも及ぶ大手術が10分で終えられるんだ。だからすぐ診察を受けられる」
「それなら行く!絶対行くナリ!!」

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