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「インターネット上における権利侵害の問題/本文」の版間の差分

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>スイーツマフィア
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唐澤:誹診中傷の問題は,当初は2ちゃんねるが圧倒的に多かったという認識ですが,個別具体的なサイトの種類として今現在変化というのはありますか?<BR><BR>
唐澤:誹診中傷の問題は,当初は2ちゃんねるが圧倒的に多かったという認識ですが,個別具体的なサイトの種類として今現在変化というのはありますか?<BR><BR>
神田:インターネットのサービスが多様化し,端末も多様化しています。そのためインターネットを使う人の裾野が広がっており,リテラシーのない人が書き込んでいるために,2ちゃんねるだけではなく色々なサイトに権利侵害性のある書き込みをされるようになったというのが流れではないかと思います。<BR><BR>
神田:インターネットのサービスが多様化し,端末も多様化しています。そのためインターネットを使う人の裾野が広がっており,リテラシーのない人が書き込んでいるために,2ちゃんねるだけではなく色々なサイトに権利侵害性のある書き込みをされるようになったというのが流れではないかと思います。<BR><BR>
清水:我々が2ちゃんねるの削除を始めたのが2009年なんですが,2009年というのはスマホがまだそこまでメジャーではなかったので,書き込みをする人はPC経由なのがほとんどでした。そして,TwitterなどのSNSもまだそこまでメジャーではなく,2ちゃんねるに悪口を書くというのがその当時の主流でした。特に,匿名掲示板では「特定」されないという認識もありました。,そのため2ちゃんねるで誹謗中傷されたから対処したいという依頼は非常に多かった。スマホが増えてからは,私の感覚としてはTwitterがすごく増えたという印象があります。今も2ちゃんねるは当然それなりの量があるのですけども。<BR><BR>
清水:我々が2ちゃんねるの削除を始めたのが2009年なんですが,2009年というのはスマホがまだそこまでメジャーではなかったので,書き込みをする人はPC経由なのがほとんどでした。そして,TwitterなどのSNSもまだそこまでメジャーではなく,2ちゃんねるに悪口を書くというのがその当時の主流でした。特に,匿名掲示板では「特定」されないという認識もありました。,そのため2ちゃんねるで誹謗中傷されたから対処したいという依頼は非常に多かった。スマホが増えてからは,私の感覚としてはTwitterがすごく増えたという印象があります。今も2ちゃんねるは当然それなりの量があるのですけども。<BR><BR>
神田:サイトの種類が増えているから,いろいろな掲示板,ロコミサイトに書かれるようになっています。 Yahoo!知恵袋の依頼が私はすごく多いですね。<BR><BR>
神田:サイトの種類が増えているから,いろいろな掲示板,ロコミサイトに書かれるようになっています。 Yahoo!知恵袋の依頼が私はすごく多いですね。<BR><BR>
清水:確かに,知恵袋は以前から多い印象ですね。当初から2ちゃんねると知恵袋が多かった印象があります。<BR><BR>
清水:確かに,知恵袋は以前から多い印象ですね。当初から2ちゃんねると知恵袋が多かった印象があります。<BR><BR>
神田:したらば掲示板とか。<BR><BR>
神田:したらば掲示板とか。<BR><BR>
清水:したらば掲示板はどちらかというとPCからの書込みが多いですね・最近はスマホから直接書き込みしやすいサイトが増えた結果,開示してみるとスマホだったということは増えてきているかもしれません。<BR><BR>
清水:したらば掲示板はどちらかというとPCからの書込みが多いですね・最近はスマホから直接書き込みしやすいサイトが増えた結果,開示してみるとスマホだったということは増えてきているかもしれません。<BR><BR>
唐澤:Googleのサジェスト<ref>5)検索エンジンの入力フオームに,自動的に検索エンジン側で関連していると判断したキーワードが,表示される機能。</ref>機能,関連検索キーワードは当初から問題になっていなかったんでしょうか?<BR><BR>
唐澤:Googleのサジェスト<ref>5)検索エンジンの入力フオームに,自動的に検索エンジン側で関連していると判断したキーワードが,表示される機能。</ref>機能,関連検索キーワードは当初から問題になっていなかったんでしょうか?<BR><BR>
神田:Yahoo!の関連キーワードで企業の名前と一緒に「悪徳」と出るのを消したいという依頼などがありました。サジェストという機能自体は新しいと思います。<BR><BR>
神田:Yahoo!の関連キーワードで企業の名前と一緒に「悪徳」と出るのを消したいという依頼などがありました。サジェストという機能自体は新しいと思います。<BR><BR>
清水:サジェスト自体が出てきたのが2010年くらいじゃないでしょうか?<BR><BR>
清水:サジェスト自体が出てきたのが2010年くらいじゃないでしょうか?<BR><BR>
神田:サジェスト機能は,始めた当初は問題になっていなかったと思います。当初は関連キーワード削除の依頼はありましたが,それはただのキーワードだということで裁判所では認められなかったと思います。関連ワードは,ただのキーワードにすぎないからそれで何らかの権利侵害があるわけじゃないというような結論になっていたと思います。<BR><BR>
神田:サジェスト機能は,始めた当初は問題になっていなかったと思います。当初は関連キーワード削除の依頼はありましたが,それはただのキーワードだということで裁判所では認められなかったと思います。関連ワードは,ただのキーワードにすぎないからそれで何らかの権利侵害があるわけじゃないというような結論になっていたと思います。<BR><BR>
中澤:その具体的なワードつていうのは何だったんですか?<BR><BR>
中澤:その具体的なワードつていうのは何だったんですか?<BR><BR>
神田:「悪徳」です。<BR><BR>
神田:「悪徳」です。<BR><BR>
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==== (2)管轄 ====
==== (2)管轄 ====


清水:何の話をしているかというと裁判管轄の問題で,どうやって日本で管轄をとるかということです。理論的には,別に日本でサービスを提供していればいいというだけで,米ドルで払おうがなんだろうが関係ないはずなのですよね。<BR><BR>
清水:何の話をしているかというと裁判管轄の問題で,どうやって日本で管轄をとるかということです。理論的には,別に日本でサービスを提供していればいいというだけで,米ドルで払おうがなんだろうが関係ないはずなのですよね。<BR><BR>
中澤:削除に関する管轄は日本でとれるということで問題ないですよね。清水:削除請求については,不法行為と同じ理由で権利侵害が起こった場所を管轄にすることができます。日本人が日本で権利侵害を受ける,それは画面を見た場所と一般的に考えられていますが,そこを権利侵害の結果発生地とみて,その場所を不法行為地とみることができるのですね。だから日本で管轄がとれるのですけど,開示請求は,プロバイダ<ref>7)何らかのサービスを提供する事業者。</ref>側の所在地が普通裁判籍となります。ですので,海外法人の場合は原則としては日本で管轄が取れないのではないか?というのが,ここでの議論です。<BR><BR>
中澤:削除に関する管轄は日本でとれるということで問題ないですよね。清水:削除請求については,不法行為と同じ理由で権利侵害が起こった場所を管轄にすることができます。日本人が日本で権利侵害を受ける,それは画面を見た場所と一般的に考えられていますが,そこを権利侵害の結果発生地とみて,その場所を不法行為地とみることができるのですね。だから日本で管轄がとれるのですけど,開示請求は,プロバイダ<ref>7)何らかのサービスを提供する事業者。</ref>側の所在地が普通裁判籍となります。ですので,海外法人の場合は原則としては日本で管轄が取れないのではないか?というのが,ここでの議論です。<BR><BR>
神田:民訴法の改正があり,日本で事業を営んでいる場合には,日本に拠点がなくても,千代田区を管轄とするという民訴規則があり,東京地裁でできるようになっています。ただ,海外のサーバ会社の情報が,全部英語で書いてあって日本語がない場合に,はたして日本で事業を営んでいると言えるのだろうかという問題があります。この点について,事業をしてないと裁判官が思うと,発信者情報開示が日本の裁判所ではできないという結論になります。他方で,裁判ができるとしても,日本向けに事業をしていない者を東京地裁に呼び出しても,双方審尋期日に来るわけがないと思います。そうすると,裁判ができるとしても事実上意味がないのではないかという危惧はあります。<BR><BR>
神田:民訴法の改正があり,日本で事業を営んでいる場合には,日本に拠点がなくても,千代田区を管轄とするという民訴規則があり,東京地裁でできるようになっています。ただ,海外のサーバ会社の情報が,全部英語で書いてあって日本語がない場合に,はたして日本で事業を営んでいると言えるのだろうかという問題があります。この点について,事業をしてないと裁判官が思うと,発信者情報開示が日本の裁判所ではできないという結論になります。他方で,裁判ができるとしても,日本向けに事業をしていない者を東京地裁に呼び出しても,双方審尋期日に来るわけがないと思います。そうすると,裁判ができるとしても事実上意味がないのではないかという危惧はあります。<BR><BR>
清水:決定を日本で取得した後に,海外の裁判所に持って行って,現地に通用するものにしてもらい,それを提示することによって応じてもらう,ということはできるかもしれない。<BR><BR>
清水:決定を日本で取得した後に,海外の裁判所に持って行って,現地に通用するものにしてもらい,それを提示することによって応じてもらう,ということはできるかもしれない。<BR><BR>
神田:承認手続ですね。現地の弁護士と提携しつつ,日本で仮処分をとって海外で承認してもらい,執行してもらうという手続ももちろんありますし,発信者情報開示をアメリカでやるなら,ディスカバリー制度もあります。日本の弁護士が絡む余地はあまりなくなりますが,IPアドレスさえ開示してもらえば,誰が書いたか分かる可能性があります。<BR><BR>
神田:承認手続ですね。現地の弁護士と提携しつつ,日本で仮処分をとって海外で承認してもらい,執行してもらうという手続ももちろんありますし,発信者情報開示をアメリカでやるなら,ディスカバリー制度もあります。日本の弁護士が絡む余地はあまりなくなりますが,IPアドレスさえ開示してもらえば,誰が書いたか分かる可能性があります。<BR><BR>
清水:承認手続については一度やったことがあります。管轄の話に戻るのですが,ネットはグローバルなので,本当に日本語でサイトが書いてないと日本で対処できないのか,ということは議論の余地が大いにあると思うのです。<BR><BR>
清水:承認手続については一度やったことがあります。管轄の話に戻るのですが,ネットはグローバルなので,本当に日本語でサイトが書いてないと日本で対処できないのか,ということは議論の余地が大いにあると思うのです。<BR><BR>
神田:クレジットカード決済だけですよね。無料のサイトも結構あります。何MBまでは無料という海外のサービスも最近見ました。<BR><BR>
神田:クレジットカード決済だけですよね。無料のサイトも結構あります。何MBまでは無料という海外のサービスも最近見ました。<BR><BR>
唐澤:清水先生がおっしゃっているのは,アクセスできるということは,日本国内で事業を営んでいるということを意味するということですか。<BR><BR>
唐澤:清水先生がおっしゃっているのは,アクセスできるということは,日本国内で事業を営んでいるということを意味するということですか。<BR><BR>
清水:理論的にはそのように言えると思います。あとは裁判所が認定するかどうかという問題はありますが。<BR><BR>
清水:理論的にはそのように言えると思います。あとは裁判所が認定するかどうかという問題はありますが。<BR><BR>
中澤:今の裁判所の空気だと,1年後くらいにはいける気がしますけどね。そもそも日本語で日本人にサービス提供していたら日本の管轄なのかっていうところかなり議論あるじゃないですか,実は。でも普通に認められるというか。<BR><BR>
中澤:今の裁判所の空気だと,1年後くらいにはいける気がしますけどね。そもそも日本語で日本人にサービス提供していたら日本の管轄なのかっていうところかなり議論あるじゃないですか,実は。でも普通に認められるというか。<BR><BR>


==== (3)権利侵害の態様 ====
==== (3)権利侵害の態様 ====


唐澤:管轄の話に入ってきましたけれど…,権利侵害の態様のところで,名誉毀損が多いというのは分かりますが,それ以外にも例えば,最近のニュースのリベンジポルノのような,プライバシー権の侵害なのか名誉毀損なのかという話もあります。表現方法,表現形態は何か変わったりはしていますかね。<BR><BR>
唐澤:管轄の話に入ってきましたけれど…,権利侵害の態様のところで,名誉毀損が多いというのは分かりますが,それ以外にも例えば,最近のニュースのリベンジポルノのような,プライバシー権の侵害なのか名誉毀損なのかという話もあります。表現方法,表現形態は何か変わったりはしていますかね。<BR><BR>
神田:基本は名誉権侵害が多いという印象です。<BR><BR>
神田:基本は名誉権侵害が多いという印象です。<BR><BR>
清水:態様というと,画像とか動画とかという意味でしょうか。<BR><BR>
清水:態様というと,画像とか動画とかという意味でしょうか。<BR><BR>
110行目: 110行目:
神田:最近リベンジポルノの案件は多いのですか。<BR><BR>
神田:最近リベンジポルノの案件は多いのですか。<BR><BR>
中澤:いや,そんな多くないですね。でも,画像貼られたとか,そういうのはすごくありますけど。増えてもいないし,減ってもいないですね,確かに。<BR><BR>
中澤:いや,そんな多くないですね。でも,画像貼られたとか,そういうのはすごくありますけど。増えてもいないし,減ってもいないですね,確かに。<BR><BR>
清水:あの三鷹の件<ref>8)2013年に起きた女子高生殺人事件において,犯人が女子高生の写真をインターネットに投稿した。この事件をきっかけにして,リベンジポルノ防止法が制定された。</ref>
清水:あの三鷹の件<ref>8)2013年に起きた女子高生殺人事件において,犯人が女子高生の写真をインターネットに投稿した。この事件をきっかけにして,リベンジポルノ防止法が制定された。</ref>
以降,そういう質問はよく受けるんですけど,あんまり変わらないかなというのが個人的な印象です。<BR><BR>
以降,そういう質問はよく受けるんですけど,あんまり変わらないかなというのが個人的な印象です。<BR><BR>
==== (4)サジェスト汚染 ====
==== (4)サジェスト汚染 ====
116行目: 116行目:
唐澤:僕自身が受けた誹謗中傷として驚いたのは,検索エンジンのサジェストキーワードに否定的なキーワードを表示させることを目的とした誹謗中傷記事を投稿するものです。<BR><BR>
唐澤:僕自身が受けた誹謗中傷として驚いたのは,検索エンジンのサジェストキーワードに否定的なキーワードを表示させることを目的とした誹謗中傷記事を投稿するものです。<BR><BR>
中澤:[[サジェスト汚染]]。あれキーワード羅列ですよね。あれは確かに新しい類型の。<BR><BR>
中澤:[[サジェスト汚染]]。あれキーワード羅列ですよね。あれは確かに新しい類型の。<BR><BR>
唐澤:例えば,早稲田大学というキーワードを検索エンジンで検索しようとします。そうすると,早稲田大学で何か不祥事を起こした人が直近にいたりすると,その人の名前とかが表示されます。別の例では,ある企業の名前で検索すると,「ブラック」とか,「悪徳」とか否定的な表示がされます。キーワード同士の関連性を検索エンジンの方で把握して,ユーザーが利用しやすくするサービスなんですが,ここに意図的に悪いキーワードを載せようとする人がいる問題です。このように,ただネット上のブログやSNSに誹謗中傷記事を書くというわけではなくGoogleないしYahoo!で提供されているウェブサービスでどう誹謗中傷文言を表示させるかということで,権利侵害を行おうという人がネット上にはいるというところにどう対応していったらいいのでしょうか。<BR><BR>
唐澤:例えば,早稲田大学というキーワードを検索エンジンで検索しようとします。そうすると,早稲田大学で何か不祥事を起こした人が直近にいたりすると,その人の名前とかが表示されます。別の例では,ある企業の名前で検索すると,「ブラック」とか,「悪徳」とか否定的な表示がされます。キーワード同士の関連性を検索エンジンの方で把握して,ユーザーが利用しやすくするサービスなんですが,ここに意図的に悪いキーワードを載せようとする人がいる問題です。このように,ただネット上のブログやSNSに誹謗中傷記事を書くというわけではなくGoogleないしYahoo!で提供されているウェブサービスでどう誹謗中傷文言を表示させるかということで,権利侵害を行おうという人がネット上にはいるというところにどう対応していったらいいのでしょうか。<BR><BR>
神田:サジェスト汚染は権利侵害性がないと言われていませんか。<BR><BR>
神田:サジェスト汚染は権利侵害性がないと言われていませんか。<BR><BR>
中澤:出す文章だと思うんですよね。普通に文章を出すこともできるんですよ。なので,単語の羅列だけだとわからないのですけど,普通に文章みたいなもので出ていたら対処できるのでは。<BR><BR>
中澤:出す文章だと思うんですよね。普通に文章を出すこともできるんですよ。なので,単語の羅列だけだとわからないのですけど,普通に文章みたいなもので出ていたら対処できるのでは。<BR><BR>
清水:対処療法はできることもあるのですが,根本的対処はしにくいです。<BR><BR>
清水:対処療法はできることもあるのですが,根本的対処はしにくいです。<BR><BR>
中澤:情報開示ができないですからね,そもそも。<BR><BR>
中澤:情報開示ができないですからね,そもそも。<BR><BR>
唐澤:サジェストについてIPアドレスをとろうというところ自体は現在の法律的なところでは,明確な根拠がないわけですよね。<BR><BR>
唐澤:サジェストについてIPアドレスをとろうというところ自体は現在の法律的なところでは,明確な根拠がないわけですよね。<BR><BR>
151行目: 151行目:


神田:Twitterもそうですね。中傷サイトへのリンクがツイートされているという相談があります。ツイートはリンクだけなので,対処が難しいと思います。<BR><BR>
神田:Twitterもそうですね。中傷サイトへのリンクがツイートされているという相談があります。ツイートはリンクだけなので,対処が難しいと思います。<BR><BR>
清水:リンクによる名誉毀損は認められるのかという議論があって,仲田先生が東京高判平成24年4月18日でそれは認められるんだというのをとっているので,それを活用していくっていうことになるとは思うんですけど。<BR><BR>
清水:リンクによる名誉毀損は認められるのかという議論があって,仲田先生が東京高判平成24年4月18日でそれは認められるんだというのをとっているので,それを活用していくっていうことになるとは思うんですけど。<BR><BR>
神田:それでも,なかなか難しいと思います。その案件ではツイートにはリンクしか書いていないので。<BR><BR>
神田:それでも,なかなか難しいと思います。その案件ではツイートにはリンクしか書いていないので。<BR><BR>
唐澤:投稿者は,何を考えてTwitterにリンクを貼るんですかね。<BR><BR>
唐澤:投稿者は,何を考えてTwitterにリンクを貼るんですかね。<BR><BR>
神田:Twitterはツイートbotがあるから,誹誘中傷の拡散が楽なのだと思います。ツイートbotでリンクの入った記事をーつ仕込んでおけば,定期的にそれをツイートできるので,誹誘中傷サイトヘのリンクを定期的にたくさん増産できるというメリットがあるからではないでしょうか。リンクがたくさんあると,Googleは被リンク数で検索上位に上げてしまうという問題があります。<BR><BR>
神田:Twitterはツイートbotがあるから,誹誘中傷の拡散が楽なのだと思います。ツイートbotでリンクの入った記事をーつ仕込んでおけば,定期的にそれをツイートできるので,誹誘中傷サイトヘのリンクを定期的にたくさん増産できるというメリットがあるからではないでしょうか。リンクがたくさんあると,Googleは被リンク数で検索上位に上げてしまうという問題があります。<BR><BR>
清水:被リンクあまり関係なくしてっていう話ですけどね。最近のGoogleの検索エンジンのアップデートから。<BR><BR>
清水:被リンクあまり関係なくしてっていう話ですけどね。最近のGoogleの検索エンジンのアップデートから。<BR><BR>
唐澤:ツイートbotつていうのは,自動投稿システムですね。<BR><BR>
唐澤:ツイートbotつていうのは,自動投稿システムですね。<BR><BR>
163行目: 163行目:
がすごく多いんですよ。携帯でバッて書けるので。<BR><BR>
がすごく多いんですよ。携帯でバッて書けるので。<BR><BR>
清水:自分はTwitterが多いですね。<BR><BR>
清水:自分はTwitterが多いですね。<BR><BR>
中澤:清水先生にTwitterが多いのは,Twitterといえば清水だからですよ。<BR><BR>
中澤:清水先生にTwitterが多いのは,Twitterといえば清水だからですよ。<BR><BR>
神田:ネット選挙と言われて数年ですが,そういった相談は無いですか?<BR><BR>
神田:ネット選挙と言われて数年ですが,そういった相談は無いですか?<BR><BR>
清水:案件全くないですね。誹誇中傷には当たらないようなネガティブサイトみたいなものを作るのは構わないわけですよね。党内で結構いろいろ検討と対応をしているようですが。<BR><BR>
清水:案件全くないですね。誹誇中傷には当たらないようなネガティブサイトみたいなものを作るのは構わないわけですよね。党内で結構いろいろ検討と対応をしているようですが。<BR><BR>
189行目: 189行目:
唐澤:他の業者については悪く書いてるということでしょうか。<BR><BR>
唐澤:他の業者については悪く書いてるということでしょうか。<BR><BR>
神田:下位の企業に対する名誉毀損だという判決です。<BR><BR>
神田:下位の企業に対する名誉毀損だという判決です。<BR><BR>
清水:なかなか難しいと思いますよ。大体書いてるコメントの内容はそれほど悪いことを書いていないのに,星5つ中で星。2個半とか3個とか微妙なところなんですよ。そういう書き方なんですよね。あとは感想っぼいことが書いてあって検証しようがないとかです。<BR><BR>
清水:なかなか難しいと思いますよ。大体書いてるコメントの内容はそれほど悪いことを書いていないのに,星5つ中で星。2個半とか3個とか微妙なところなんですよ。そういう書き方なんですよね。あとは感想っぼいことが書いてあって検証しようがないとかです。<BR><BR>
中澤:神田先生は主観的評価だっていう問題はどう乗り越えたんですか。<BR><BR>
中澤:神田先生は主観的評価だっていう問題はどう乗り越えたんですか。<BR><BR>
神田:このランキングに根拠がないから反真実だという主張立証をしたものもあります。<BR><BR>
神田:このランキングに根拠がないから反真実だという主張立証をしたものもあります。<BR><BR>
195行目: 195行目:
神田:ああいったサイトは需要が多いと思います。アフィリェイター<ref>11)成果報酬型広告の広告報酬を得ることを目的として、コンテンツプロバイダを営む事業者。</ref>
神田:ああいったサイトは需要が多いと思います。アフィリェイター<ref>11)成果報酬型広告の広告報酬を得ることを目的として、コンテンツプロバイダを営む事業者。</ref>
が,そういったサイトを作っているケースも多いと思います。アフィリエイターが自分の報酬稼ぎのために,「ここがお勧め」というアフィリエイト<ref>12)成功報酬型広告。</ref>リンクを作り,自分がお勧めしていない方のメジャーな企業については悪口を書く,という手法がありますね。<BR><BR>
が,そういったサイトを作っているケースも多いと思います。アフィリエイターが自分の報酬稼ぎのために,「ここがお勧め」というアフィリエイト<ref>12)成功報酬型広告。</ref>リンクを作り,自分がお勧めしていない方のメジャーな企業については悪口を書く,という手法がありますね。<BR><BR>
清水:アフィリエイトリンクといえば,NAVERまとめですよね。たとえば2ちゃんねるとか,Twitterなどで書かれたものをまとめられて,それがさらに拡敗していく。2ちゃんねるのミラーサイト,コピーサイトもここ数年爆発的に増えている印象です。転皺をベースにした権利侵害が非常に増えている気がしますね。<BR><BR>
清水:アフィリエイトリンクといえば,NAVERまとめですよね。たとえば2ちゃんねるとか,Twitterなどで書かれたものをまとめられて,それがさらに拡敗していく。2ちゃんねるのミラーサイト,コピーサイトもここ数年爆発的に増えている印象です。転皺をベースにした権利侵害が非常に増えている気がしますね。<BR><BR>


==== (8)コピー&ペーストヘのコメント ====
==== (8)コピー&ペーストヘのコメント ====
217行目: 217行目:
清水:たまにあります。メルマガを勝手にブログに貼られてしまっているとか。<BR><BR>
清水:たまにあります。メルマガを勝手にブログに貼られてしまっているとか。<BR><BR>
神田:海賊版の販売サイトについて,著作権侵害を理由として削除および発信者情報開示訪求といった事案を扱いました。<BR><BR>
神田:海賊版の販売サイトについて,著作権侵害を理由として削除および発信者情報開示訪求といった事案を扱いました。<BR><BR>
中澤:ウチでは,ネットショップをやっているお客さんがいるのですけど・中国人が,全く同じデザイン,商品のキャプション<ref>13)商品の説明文。</ref>とかも全てコピーしたサイトを作るのです。<BR><BR>
中澤:ウチでは,ネットショップをやっているお客さんがいるのですけど・中国人が,全く同じデザイン,商品のキャプション<ref>13)商品の説明文。</ref>とかも全てコピーしたサイトを作るのです。<BR><BR>
清水:架空販売のサイトを作るわけですね。入金だけさせて発送しないという。<BR><BR>
清水:架空販売のサイトを作るわけですね。入金だけさせて発送しないという。<BR><BR>
中澤:おそらくそうです。そのようなサイトについては,商標権侵害という構成があり得ると思います。<BR><BR>
中澤:おそらくそうです。そのようなサイトについては,商標権侵害という構成があり得ると思います。<BR><BR>
242行目: 242行目:
清水:何に基づいてなのか,その話から始めたほうが良いのではないでしょうか。<BR><BR>
清水:何に基づいてなのか,その話から始めたほうが良いのではないでしょうか。<BR><BR>
神田:更生を妨げられない利益ですね。<BR><BR>
神田:更生を妨げられない利益ですね。<BR><BR>
清水:ノンフィクション逆転判決のことですね。この判決で問題となったのは,不法行為に基づく損害賠償請求だったので,判例としては削除請求できるとは謳われてないんですよね。なんですけども,更生を妨げられない利益というのが人格権の一部にあたると一般的には考えられていて,それに基づいて削除請求ができるというのが,今現在の法的構成ということになっています。<BR><BR>
清水:ノンフィクション逆転判決のことですね。この判決で問題となったのは,不法行為に基づく損害賠償請求だったので,判例としては削除請求できるとは謳われてないんですよね。なんですけども,更生を妨げられない利益というのが人格権の一部にあたると一般的には考えられていて,それに基づいて削除請求ができるというのが,今現在の法的構成ということになっています。<BR><BR>
神田:ただ,なんでもかんでも削除できるわけではなく,犯罪から1年半くらいだと,まだ公益性のほうが強いため消せないと,裁判所には言われますよね。何年ぐらいで消せるのかというと,感覚的には軽微な犯罪で3年くらいでしょうか。<BR><BR>
神田:ただ,なんでもかんでも削除できるわけではなく,犯罪から1年半くらいだと,まだ公益性のほうが強いため消せないと,裁判所には言われますよね。何年ぐらいで消せるのかというと,感覚的には軽微な犯罪で3年くらいでしょうか。<BR><BR>
清水:基本的には刑法で,刑の消滅という規定があり,その期間満了が一番わかりやすい基準です。<BR><BR>
清水:基本的には刑法で,刑の消滅という規定があり,その期間満了が一番わかりやすい基準です。<BR><BR>
262行目: 262行目:
清水:猶予であれば,あります。<BR><BR>
清水:猶予であれば,あります。<BR><BR>
神田:嫌疑なし,なら削除できて,嫌疑不十分,起訴猶予だと起訴される可能性があるから難しいということになりますよね。<BR><BR>
神田:嫌疑なし,なら削除できて,嫌疑不十分,起訴猶予だと起訴される可能性があるから難しいということになりますよね。<BR><BR>
神田:ただ,不起訴の理由は,不起訴処分告知書には書いてないですよね?<BR><BR>
神田:ただ,不起訴の理由は,不起訴処分告知書には書いてないですよね?<BR><BR>
清水:検察官に不起訴理由書の発行を請求すれば嫌疑不十分で不起訴なのかとか,その辺りのことはわかりますよ。ただ,検察官によって対応してくれないこともあるようです。事件直後くらいであれば,電話で問い合わせれば教えてくれることもそれなりにあります。<BR><BR>
清水:検察官に不起訴理由書の発行を請求すれば嫌疑不十分で不起訴なのかとか,その辺りのことはわかりますよ。ただ,検察官によって対応してくれないこともあるようです。事件直後くらいであれば,電話で問い合わせれば教えてくれることもそれなりにあります。<BR><BR>


=== 2 削除請求の法的構成 ===
=== 2 削除請求の法的構成 ===


唐澤:それでは,次に,各論的なところに入っていきます。削除請求をするときに,そもそもなぜ削除が認められるのかというところをお話しいただけますか。<BR><BR>
唐澤:それでは,次に,各論的なところに入っていきます。削除請求をするときに,そもそもなぜ削除が認められるのかというところをお話しいただけますか。<BR><BR>
中澤:今の実務だと,人格権に基づく削除というのが一番一般的な削除の方法です。なぜ認められるかというと,人格権は物権に類似する排他的な権利なので,それに対する侵害行為については妨害排除だったり妨害予防だったり,差止請求権も人格権の効果としてあるのでできます。<BR><BR>
中澤:今の実務だと,人格権に基づく削除というのが一番一般的な削除の方法です。なぜ認められるかというと,人格権は物権に類似する排他的な権利なので,それに対する侵害行為については妨害排除だったり妨害予防だったり,差止請求権も人格権の効果としてあるのでできます。<BR><BR>
神田:物権でさえ認められるのだから,人格権だったら認められないわけがない,という議論ですね。知財には条文があるので,条文に基づいて削除請求できるけれども,条文のない分野の削除請求については人格権に基づいてやっていくということですね。ただし,その人格権というものの中に色々なものが入っているから,なかなか腕の見せどころです。<BR><BR>
神田:物権でさえ認められるのだから,人格権だったら認められないわけがない,という議論ですね。知財には条文があるので,条文に基づいて削除請求できるけれども,条文のない分野の削除請求については人格権に基づいてやっていくということですね。ただし,その人格権というものの中に色々なものが入っているから,なかなか腕の見せどころです。<BR><BR>
中澤:そうですね,プライバシーやら名誉やら。<BR><BR>
中澤:そうですね,プライバシーやら名誉やら。<BR><BR>
341行目: 341行目:
唐澤:同定可能性の問題はいかがですか。<BR><BR>
唐澤:同定可能性の問題はいかがですか。<BR><BR>
神田:プロバイダがよく反論してきますよね。一般読者を基準として,誰のことを書いているのか分からないという主張。<BR><BR>
神田:プロバイダがよく反論してきますよね。一般読者を基準として,誰のことを書いているのか分からないという主張。<BR><BR>
清水:まず権利侵害があるといえるためには,自分の権利がインターネット上の記載で侵害されているんだと言える必要があるわけですけど,匿名で誰々がこういうことをしていたということを名誉権侵害だと言いたいと思っても,その匿名誰々が現実の誰々と結びついていないと,現実のこの人の権利が俊害されていないということになってしまうのが。ネットで顕著に出てくる問題です。雑誌などでももちろん問題になりますが,雑誌に取りにげられるのは芸能人などの有名人で,その読者が大体分かるように書いてあったりすることも多いので,それほど顕著に問題になることはありません。ネットの場合は一般人も書かれるわけで,全然分からないということが結構あります。<BR><BR>
清水:まず権利侵害があるといえるためには,自分の権利がインターネット上の記載で侵害されているんだと言える必要があるわけですけど,匿名で誰々がこういうことをしていたということを名誉権侵害だと言いたいと思っても,その匿名誰々が現実の誰々と結びついていないと,現実のこの人の権利が俊害されていないということになってしまうのが。ネットで顕著に出てくる問題です。雑誌などでももちろん問題になりますが,雑誌に取りにげられるのは芸能人などの有名人で,その読者が大体分かるように書いてあったりすることも多いので,それほど顕著に問題になることはありません。ネットの場合は一般人も書かれるわけで,全然分からないということが結構あります。<BR><BR>
神田:フルネームが書かれていても,同姓同名の別人を排除できない場合には,権利侵害が認められないケースもありますね。<BR><BR>
神田:フルネームが書かれていても,同姓同名の別人を排除できない場合には,権利侵害が認められないケースもありますね。<BR><BR>
清水:例えば私,清水陽平ってどこにでもありそうな名前ですけど,これに「弁護士」つて入れば自分だけなんで,同定可能性ありますけど,「清水陽平が」と書いてあるだけだと,別の清水さんかもしれないですよね。<BR><BR>
清水:例えば私,清水陽平ってどこにでもありそうな名前ですけど,これに「弁護士」つて入れば自分だけなんで,同定可能性ありますけど,「清水陽平が」と書いてあるだけだと,別の清水さんかもしれないですよね。<BR><BR>
348行目: 348行目:
中澤:新しい人が登録したため,どちらのことか分からないと相手のプロバイダより反論されていました。<BR><BR>
中澤:新しい人が登録したため,どちらのことか分からないと相手のプロバイダより反論されていました。<BR><BR>
神田:プロバイダに反論されたそうですね。その氏名の弁護士は1名ではないから同定可能性がないと。<BR><BR>
神田:プロバイダに反論されたそうですね。その氏名の弁護士は1名ではないから同定可能性がないと。<BR><BR>
中澤:結構最近は裁判所もいろいろ他の周辺事情を踏まえての同定可能性というのを認めるようになってきて,その田中弁護士事件で同定可能性を認定した理由は,債権者の田中弁護士は実働も長くそれなりに知名度があるのに比べ,もう一人は登録したばかりで,まだほとんど活動がないのであるから,合理的に考えたら債権者のことを指しているというものでした。この理屈でいくと,2,3年後はどうなるか。業務分野の類型とか,そういうのでやるんでしょうけど,同じ分野をやり出したら分からないですよね。<BR><BR>
中澤:結構最近は裁判所もいろいろ他の周辺事情を踏まえての同定可能性というのを認めるようになってきて,その田中弁護士事件で同定可能性を認定した理由は,債権者の田中弁護士は実働も長くそれなりに知名度があるのに比べ,もう一人は登録したばかりで,まだほとんど活動がないのであるから,合理的に考えたら債権者のことを指しているというものでした。この理屈でいくと,2,3年後はどうなるか。業務分野の類型とか,そういうのでやるんでしょうけど,同じ分野をやり出したら分からないですよね。<BR><BR>


=== 6 ハンドルネームと誹謗中傷 ===
=== 6 ハンドルネームと誹謗中傷 ===


清水:例えばネットゲームとかで,匿名のアカウント,ハンドルネーム<ref>17)インターネット上コミュニティで本名を名乗らない場合に用いる通称。</ref>だけでやり取りができるわけです。ゲーム内で,何か気に食わないことがあると,あのアカウントのやつがどうのこうのみたいな誹謗中傷が結構されることがあるみたいで,それをなんとかしたいという依頼が結構多いですね。<BR><BR>
清水:例えばネットゲームとかで,匿名のアカウント,ハンドルネーム<ref>17)インターネット上コミュニティで本名を名乗らない場合に用いる通称。</ref>だけでやり取りができるわけです。ゲーム内で,何か気に食わないことがあると,あのアカウントのやつがどうのこうのみたいな誹謗中傷が結構されることがあるみたいで,それをなんとかしたいという依頼が結構多いですね。<BR><BR>
神田:ハンドルネームと誹誘中傷,ハンドルネームと名誉毀損という論点ですね。<BR><BR>
神田:ハンドルネームと誹誘中傷,ハンドルネームと名誉毀損という論点ですね。<BR><BR>
清水:そうですね。それはね,基本的にできないと断っていますね。現実のどなたですかという話になっちやうので。<BR><BR>
清水:そうですね。それはね,基本的にできないと断っていますね。現実のどなたですかという話になっちやうので。<BR><BR>
359行目: 359行目:
神田:そうです。オフ会をやっていれば,ハンドルネームと実社会の人間が結びついて,同定可能性が生じるのだと思います。<BR><BR>
神田:そうです。オフ会をやっていれば,ハンドルネームと実社会の人間が結びついて,同定可能性が生じるのだと思います。<BR><BR>
清水:ただ,そこを立証するのは結構大変です。<BR><BR>
清水:ただ,そこを立証するのは結構大変です。<BR><BR>
神田:最近では,Twitterのアカウント名だけで中傷されているという相談がありますよね。<BR><BR>
神田:最近では,Twitterのアカウント名だけで中傷されているという相談がありますよね。<BR><BR>
清水:基本的にアカウントだけだと厳しいですね。裁判所は認めてくれません。<BR><BR>
清水:基本的にアカウントだけだと厳しいですね。裁判所は認めてくれません。<BR><BR>


369行目: 369行目:
神田:源氏名は,お店のお客さんであれば,誰のことか分かるわけですから。<BR><BR>
神田:源氏名は,お店のお客さんであれば,誰のことか分かるわけですから。<BR><BR>
清水:それが世間に通用している名前なわけだから大丈夫ということになります。<BR><BR>
清水:それが世間に通用している名前なわけだから大丈夫ということになります。<BR><BR>
中澤:源氏名だと大体年齢が違うんですよね。「年齢違うじゃないですか」とよく言われます。また,お店の写真などを出したりしますが,後ろを向いていて顔がぼやけていたりするのです。しかも,写真はぼけているし,修正も入っているので,同定可能性の証拠としては使いにくいと思います。<BR><BR>
中澤:源氏名だと大体年齢が違うんですよね。「年齢違うじゃないですか」とよく言われます。また,お店の写真などを出したりしますが,後ろを向いていて顔がぼやけていたりするのです。しかも,写真はぼけているし,修正も入っているので,同定可能性の証拠としては使いにくいと思います。<BR><BR>
神田:でもお店行けばその人しかいないわけだから。<BR><BR>
神田:でもお店行けばその人しかいないわけだから。<BR><BR>
中澤:そうですね。店の名前と源氏名で同定できるはずですが,それで一回負けたことあります。源氏名じゃ同定できないとして。個人事業主の屋号と同じだと言ったのですが…。<BR><BR>
中澤:そうですね。店の名前と源氏名で同定できるはずですが,それで一回負けたことあります。源氏名じゃ同定できないとして。個人事業主の屋号と同じだと言ったのですが…。<BR><BR>
381行目: 381行目:
中澤:開示請求において,書いた後に付加された情報を一緒に読んで判断をしてよいかという論点がありますね。<BR><BR>
中澤:開示請求において,書いた後に付加された情報を一緒に読んで判断をしてよいかという論点がありますね。<BR><BR>
神田:最高裁はスレッドの前後の記事とは書いていませんが,下級審では「前後」と明示しているものが複数あります。<BR><BR>
神田:最高裁はスレッドの前後の記事とは書いていませんが,下級審では「前後」と明示しているものが複数あります。<BR><BR>
中滞:今のところ一緒に読むことになっていますが,もう少しこの点は議論されるべきだと思っています。書いたときには違法性がない投稿でも,後に情報が付加されて全体を見た場合には名誉毀損等になった場合,最初の投稿行為は違法ではないはずなのです。<BR><BR>
中滞:今のところ一緒に読むことになっていますが,もう少しこの点は議論されるべきだと思っています。書いたときには違法性がない投稿でも,後に情報が付加されて全体を見た場合には名誉毀損等になった場合,最初の投稿行為は違法ではないはずなのです。<BR><BR>
神田:そうだと思います。<BR><BR>
神田:そうだと思います。<BR><BR>
中澤:その場合に開示請求が認められるのかは,大きな問題です。例えば,「あそこで誰か不倫しているよ」という投稿がなされ,次のレスに実名が書かれる場合などに,当初の投稿行為をいかにに評価するかという問題です。<BR><BR>
中澤:その場合に開示請求が認められるのかは,大きな問題です。例えば,「あそこで誰か不倫しているよ」という投稿がなされ,次のレスに実名が書かれる場合などに,当初の投稿行為をいかにに評価するかという問題です。<BR><BR>
神田:意味を補充するのですね。<BR><BR>
神田:意味を補充するのですね。<BR><BR>
清水:それは多分,人格権侵害の話と不法行為の話を混同しているから起きる話ではないでしょうか。人格権侵害というのは表示されている状態が問題とされるので。<BR><BR>
清水:それは多分,人格権侵害の話と不法行為の話を混同しているから起きる話ではないでしょうか。人格権侵害というのは表示されている状態が問題とされるので。<BR><BR>
389行目: 389行目:
神田:一人目も開示できますね,その理屈であれば。<BR><BR>
神田:一人目も開示できますね,その理屈であれば。<BR><BR>
中澤:今の裁判実務では,認めてもらえますよね。<BR><BR>
中澤:今の裁判実務では,認めてもらえますよね。<BR><BR>
神田:しかし,最後の損害賠償請求段階で,その人に損害賠償請求しても, 「自分は名前を書いていない」という反論が当然予想されますよね。<BR><BR>
神田:しかし,最後の損害賠償請求段階で,その人に損害賠償請求しても, 「自分は名前を書いていない」という反論が当然予想されますよね。<BR><BR>
清水:そこは故意過失の問題ですね。開示請求は権利侵害があればいいから,人格権侵害があれば認められるはずです。損害賠償請求については神田先生がおっしゃるとおりですね。<BR><BR>
清水:そこは故意過失の問題ですね。開示請求は権利侵害があればいいから,人格権侵害があれば認められるはずです。損害賠償請求については神田先生がおっしゃるとおりですね。<BR><BR>
中澤:その人格権侵害の判断基準時が,開示請求においては投稿時となるのではないかと私は思っています。削除は事実審の口頭弁論終結時ですが,開示は投稿時とすべきでしょう。<BR><BR>
中澤:その人格権侵害の判断基準時が,開示請求においては投稿時となるのではないかと私は思っています。削除は事実審の口頭弁論終結時ですが,開示は投稿時とすべきでしょう。<BR><BR>
398行目: 398行目:
清水:確かに,普通はそれほど問題になりませんね。ただ,社会的評価の低下すら認めない,よく分かっていない裁判官がいますね。つまり,社会的評価の低下があって,次に違法性阻却事由の判断をしないといけないはずなのに,その判断構造を理解しておらず,違法性の評価を社会的評価の低下の判断の中に取り込んでしまう裁判官がたまにいます。<BR><BR>
清水:確かに,普通はそれほど問題になりませんね。ただ,社会的評価の低下すら認めない,よく分かっていない裁判官がいますね。つまり,社会的評価の低下があって,次に違法性阻却事由の判断をしないといけないはずなのに,その判断構造を理解しておらず,違法性の評価を社会的評価の低下の判断の中に取り込んでしまう裁判官がたまにいます。<BR><BR>
中澤:違法性阻却事由があるから社会的評価が低下していないという理屈ですね。<BR><BR>
中澤:違法性阻却事由があるから社会的評価が低下していないという理屈ですね。<BR><BR>
清水:そうですね。判断構造とかを全く考えていないということですね。社会的評価の低下の判断は実質的な判断じやないにもかかわらず,実質的判断に落とし込んでしまっている裁判官がたまにいます。<BR><BR>
清水:そうですね。判断構造とかを全く考えていないということですね。社会的評価の低下の判断は実質的な判断じやないにもかかわらず,実質的判断に落とし込んでしまっている裁判官がたまにいます。<BR><BR>
神田:あとは,こんな記事は読んですぐウソだと分かるから社会的評価は低下しない,と言われることもありますね。<BR><BR>
神田:あとは,こんな記事は読んですぐウソだと分かるから社会的評価は低下しない,と言われることもありますね。<BR><BR>
清水:そういうのも多いですね。高裁の裁判官でも言いますね。<BR><BR>
清水:そういうのも多いですね。高裁の裁判官でも言いますね。<BR><BR>
406行目: 406行目:
神田:「ブラック企業」という言葉も,このテーマですね。ブラック企業は事実摘示なのか意見論評型なのかという論点で。<BR><BR>
神田:「ブラック企業」という言葉も,このテーマですね。ブラック企業は事実摘示なのか意見論評型なのかという論点で。<BR><BR>
清水:この点の説明は結構難しいですね。まず,事実と真実は別だというのが,この議論の前に認識しておかないといけない点です。これこれがあったという記載が事実の記載であって,それが本当かどうかというのが真実かどうかという問題です。これを前提に,「事実」を言っているものなのか,それとも「事実を前提にした評価」を言っているのかというのがここでの議論です。例えば「ブラック企業」というのが事実をいうものなのかどうかです。8時間以上労働させているのに残業代を払わない場合は労働基準法違反になるわけですが,「ブラック企業である」と言われたときにこれを評価であると捉えるのか,それとも「8時間以上労働させているのに残業代を払わない」という事実を指摘するものなのか,というのが今の話です。<BR><BR>
清水:この点の説明は結構難しいですね。まず,事実と真実は別だというのが,この議論の前に認識しておかないといけない点です。これこれがあったという記載が事実の記載であって,それが本当かどうかというのが真実かどうかという問題です。これを前提に,「事実」を言っているものなのか,それとも「事実を前提にした評価」を言っているのかというのがここでの議論です。例えば「ブラック企業」というのが事実をいうものなのかどうかです。8時間以上労働させているのに残業代を払わない場合は労働基準法違反になるわけですが,「ブラック企業である」と言われたときにこれを評価であると捉えるのか,それとも「8時間以上労働させているのに残業代を払わない」という事実を指摘するものなのか,というのが今の話です。<BR><BR>
神田:ブラック企業という事実なのか,それともブラック企業というのは何かの,残業代未払いといった背景事情を前提にした評価なのかという話です。<BR><BR>
神田:ブラック企業という事実なのか,それともブラック企業というのは何かの,残業代未払いといった背景事情を前提にした評価なのかという話です。<BR><BR>
唐澤:一般的には証拠で存否が判断できるかどうかという話ですよね。<BR><BR>
唐澤:一般的には証拠で存否が判断できるかどうかという話ですよね。<BR><BR>
神田:最判平成9年9月9日<ref>19)最判平成9年9月9ロ民集51巻8号3804頁</ref>が,証拠等をもってその存否を決することができる事実かという基準を立てていて,証拠等をもって存否が認定できるのであれば事実摘示であって,証拠等をもって存否を認定できないのが意見論評であるという風な基準を最判が立てているわけです。<BR><BR>
神田:最判平成9年9月9日<ref>19)最判平成9年9月9ロ民集51巻8号3804頁</ref>が,証拠等をもってその存否を決することができる事実かという基準を立てていて,証拠等をもって存否が認定できるのであれば事実摘示であって,証拠等をもって存否を認定できないのが意見論評であるという風な基準を最判が立てているわけです。<BR><BR>
清水:その基準によるとほとんど事実摘示に持っていけるんですよ。一見,意見論評に見えても,その前提としている事実があることがほとんどなので,暗にその事実を摘示しているといえるからです。<BR><BR>
清水:その基準によるとほとんど事実摘示に持っていけるんですよ。一見,意見論評に見えても,その前提としている事実があることがほとんどなので,暗にその事実を摘示しているといえるからです。<BR><BR>
神田:最判平成16年7月15日<ref>20)最判平成16年7月15日民集58巻5号1615頁。</ref>ですね。この基準も使えます。一見,意見論評のように見えていても,明示または黙示的に特定の事実を摘示している場合には事実摘示であると言っている最高萩があって,意見論評のように見える記載を事実摘示だと主張しています。<BR><BR>
神田:最判平成16年7月15日<ref>20)最判平成16年7月15日民集58巻5号1615頁。</ref>ですね。この基準も使えます。一見,意見論評のように見えていても,明示または黙示的に特定の事実を摘示している場合には事実摘示であると言っている最高萩があって,意見論評のように見える記載を事実摘示だと主張しています。<BR><BR>
清水:何か違うかというと,違法性阻却事由が変わってくるんですよ。違法性阻却事由は,事実摘示型の場合,公共性,公益目的,真実性の全部を満たす場合に認められますが,意見論評型だと,真実性について,意見論評が前提としている事実が真実かどうかに置き換わるんですね,そうすると,どういうことを前提にしてるかがよく分からない上に,書いている人間も分からないのに,あらゆるものを立証していかなきゃいけないとなってくるんですよ。だから大変なんです。<BR><BR>
清水:何か違うかというと,違法性阻却事由が変わってくるんですよ。違法性阻却事由は,事実摘示型の場合,公共性,公益目的,真実性の全部を満たす場合に認められますが,意見論評型だと,真実性について,意見論評が前提としている事実が真実かどうかに置き換わるんですね,そうすると,どういうことを前提にしてるかがよく分からない上に,書いている人間も分からないのに,あらゆるものを立証していかなきゃいけないとなってくるんですよ。だから大変なんです。<BR><BR>
神田:ブラック企業が意見論評だということになると,ブラック企業と一言だけ占いてあると,残業代未払いもないし,あれもないし,これもないしと,全部主張立証しなければならなくなります。立証がとても難しくなる。だから,事実摘示にするとよいのです。当社はブラック企業じゃありません,という主張立証になります。<BR><BR>
神田:ブラック企業が意見論評だということになると,ブラック企業と一言だけ占いてあると,残業代未払いもないし,あれもないし,これもないしと,全部主張立証しなければならなくなります。立証がとても難しくなる。だから,事実摘示にするとよいのです。当社はブラック企業じゃありません,という主張立証になります。<BR><BR>
中澤:ところで,詐欺師というのは事突なのか意見なのか。詐欺師は意見だという理由で棄却された地裁判決があります。詐欺師は事実摘示だと思うのですが。<BR><BR>
中澤:ところで,詐欺師というのは事突なのか意見なのか。詐欺師は意見だという理由で棄却された地裁判決があります。詐欺師は事実摘示だと思うのですが。<BR><BR>
神田:詐欺師は事実摘示ですよね。詐欺師という職業の人,という意味で。<BR><BR>
神田:詐欺師は事実摘示ですよね。詐欺師という職業の人,という意味で。<BR><BR>
清水:名誉感情侵害すら認められなかった事例があります。極めて不当だと思いますが。<BR><BR>
清水:名誉感情侵害すら認められなかった事例があります。極めて不当だと思いますが。<BR><BR>
中澤:詐欺を働いてる旨の事実摘示があるんじやないですかね。<BR><BR>
中澤:詐欺を働いてる旨の事実摘示があるんじやないですかね。<BR><BR>
433行目: 433行目:
清水:本当は影響しないはずなんですけどね。<BR><BR>
清水:本当は影響しないはずなんですけどね。<BR><BR>
中澤:閲覧数が少ないとか関係がないはずなのです。抽象的危険でいいはずですから。しかし,実際にはいろいろ再反論を受けます。<BR><BR>
中澤:閲覧数が少ないとか関係がないはずなのです。抽象的危険でいいはずですから。しかし,実際にはいろいろ再反論を受けます。<BR><BR>
清水:今中澤先生が言った抽象的危険って,刑法でも名誉棄損罪は抽象的危険があれば成立するという風になってるわけですよね。社会的評価の低下の有無というのは,当然何かで計れるわけではないので,抽象的危険があると擬制してるんだと思うんですよね。そうであれば,インターネット上にあるという時点で誰でもいつでも見れる以上,常に抽象的危険が発生しているという構成になるはずなんですよ。だから本来的には閲覧数の多寡は関係がないはずだと思っています。<BR><BR>
清水:今中澤先生が言った抽象的危険って,刑法でも名誉棄損罪は抽象的危険があれば成立するという風になってるわけですよね。社会的評価の低下の有無というのは,当然何かで計れるわけではないので,抽象的危険があると擬制してるんだと思うんですよね。そうであれば,インターネット上にあるという時点で誰でもいつでも見れる以上,常に抽象的危険が発生しているという構成になるはずなんですよ。だから本来的には閲覧数の多寡は関係がないはずだと思っています。<BR><BR>
唐澤:ブログで誹謗中傷にあったケースですが,その人物を特定して損害賠償を請求したところ,相手方が証拠としてその人の過去のブログを出してきて,被害者は書かれてしかるべき人間だという主張をされたことがあります。この点はいかがですか。<BR><BR>
唐澤:ブログで誹謗中傷にあったケースですが,その人物を特定して損害賠償を請求したところ,相手方が証拠としてその人の過去のブログを出してきて,被害者は書かれてしかるべき人間だという主張をされたことがあります。この点はいかがですか。<BR><BR>
神田:書かれてしかるべきというのは被害者側の過失的な話なのでしょうか?<BR><BR>
神田:書かれてしかるべきというのは被害者側の過失的な話なのでしょうか?<BR><BR>
中澤:損害論においては影響は何かしらあるんでしょうけども,加害行為をされてしかるべき人間というのは日本の法制度上存在し得ないはずです。<BR><BR>
中澤:損害論においては影響は何かしらあるんでしょうけども,加害行為をされてしかるべき人間というのは日本の法制度上存在し得ないはずです。<BR><BR>
清水:書かれてしかるべきとかという話だと,意見論評型になってくることが結構あると思うんですよね。だから,書かれてしかるべきというか,そういう反論をされやすい人というのは,書かれている内容が概ね意見論評になっていると思うんですよ。そうすると,実際上難しいことが大いにあります。相談時にこの説明をいちいちするのが大変なので,F書かれているような内容が実際にされているようなので,依頼を受けるのは実際上難しいんじやないか」という説明をすることは結構あります。<BR><BR>
清水:書かれてしかるべきとかという話だと,意見論評型になってくることが結構あると思うんですよね。だから,書かれてしかるべきというか,そういう反論をされやすい人というのは,書かれている内容が概ね意見論評になっていると思うんですよ。そうすると,実際上難しいことが大いにあります。相談時にこの説明をいちいちするのが大変なので,F書かれているような内容が実際にされているようなので,依頼を受けるのは実際上難しいんじやないか」という説明をすることは結構あります。<BR><BR>
中澤:そうですね。確かに,自業自得型で炎上している人については受任が難しいケ-スも多いです。<BR><BR>
中澤:そうですね。確かに,自業自得型で炎上している人については受任が難しいケ-スも多いです。<BR><BR>
神田:私は,自分が原因で炎上した人の相談も受けています。<BR><BR>
神田:私は,自分が原因で炎上した人の相談も受けています。<BR><BR>
中澤:まあただ,その人に加害行為をしていいことにはならないはずですけど。<BR><BR>
中澤:まあただ,その人に加害行為をしていいことにはならないはずですけど。<BR><BR>
神田:加害されてしかるべき人間なんていないという人権論ですよね,ただ,損害賠償請求したときに被害者側の過失みたいなことを言われるのかもしれませんが。<BR><BR>
神田:加害されてしかるべき人間なんていないという人権論ですよね,ただ,損害賠償請求したときに被害者側の過失みたいなことを言われるのかもしれませんが。<BR><BR>


=== 9 忘れられる権利 ===
=== 9 忘れられる権利 ===


唐澤:削除請求の話で,EU司法裁判所の判決で認められた「忘れられる権利」については何かありますか。<BR><BR>
唐澤:削除請求の話で,EU司法裁判所の判決で認められた「忘れられる権利」については何かありますか。<BR><BR>
神田:日本には「忘れられる権利」という権利はありません。ただ,非常に,「忘れられる権利」というものがセンセーショナルに語られているので,なんとなく皆さん使っていますが,結局のところ削除M求権なのです,日本には人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求権がありますので,欧州のように「忘れられる権利」という慨念を使う必要がありません。<BR><BR>
神田:日本には「忘れられる権利」という権利はありません。ただ,非常に,「忘れられる権利」というものがセンセーショナルに語られているので,なんとなく皆さん使っていますが,結局のところ削除M求権なのです,日本には人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求権がありますので,欧州のように「忘れられる権利」という慨念を使う必要がありません。<BR><BR>
中澤:EUはないんですか?逆に言うと。<BR><BR>
中澤:EUはないんですか?逆に言うと。<BR><BR>
神田:5月13日のEU司法裁判所の判決<ref>22)検索エンジンであるグーグルを,コントローラー(管理者)として認めた判決。2014年に判決がなされた。</ref>は,データ保護指令12条Bを根拠にした,個人情報削除請求権が問題になっています。そして,Googleもコントローラーにあたると判断しただけのものです。<BR><BR>
神田:5月13日のEU司法裁判所の判決<ref>22)検索エンジンであるグーグルを,コントローラー(管理者)として認めた判決。2014年に判決がなされた。</ref>は,データ保護指令12条Bを根拠にした,個人情報削除請求権が問題になっています。そして,Googleもコントローラーにあたると判断しただけのものです。<BR><BR>
中澤:そうすると,EUでは,個人情報の削除で名誉毀損的なものも削除できるのでしょうか?<BR><BR>
中澤:そうすると,EUでは,個人情報の削除で名誉毀損的なものも削除できるのでしょうか?<BR><BR>
神田:EU法の専門家によると,各国の法律次第だそうです。今,一般データ保護規則案の審議中で,昨年の秋に議会を通って理事会に行っているけれども理事会の方がまだ議決しないので,データ保護規則がまだ動いていないそうです。このデータ保護規則17条が動いてない段階で,EU司法裁判所が「忘れられる権利」と書いたために,Googleに対して削除請求するのが「忘れられる権利」なのだという風潮になり,日本でも大変話題が盛り上がっているという状況ですよね。<BR><BR>
神田:EU法の専門家によると,各国の法律次第だそうです。今,一般データ保護規則案の審議中で,昨年の秋に議会を通って理事会に行っているけれども理事会の方がまだ議決しないので,データ保護規則がまだ動いていないそうです。このデータ保護規則17条が動いてない段階で,EU司法裁判所が「忘れられる権利」と書いたために,Googleに対して削除請求するのが「忘れられる権利」なのだという風潮になり,日本でも大変話題が盛り上がっているという状況ですよね。<BR><BR>
唐澤:あのEUの裁判の対象になっていた情報は?<BR><BR>
唐澤:あのEUの裁判の対象になっていた情報は?<BR><BR>
神田:過去のプライバシーですよね。 日本法で言えば。<BR><BR>
神田:過去のプライバシーですよね。 日本法で言えば。<BR><BR>
458行目: 458行目:
神田:忘れられる権利というのは別に特殊なものでもなんでもなく,これまで日本になかったものがいきなりセンセーショナルに登場したというものではないのですが,この分野に人の目を向けさせるには良いキーワードだと思います。いい広告塔になっていますね。「忘れられる権利」という言葉は。<BR><BR>
神田:忘れられる権利というのは別に特殊なものでもなんでもなく,これまで日本になかったものがいきなりセンセーショナルに登場したというものではないのですが,この分野に人の目を向けさせるには良いキーワードだと思います。いい広告塔になっていますね。「忘れられる権利」という言葉は。<BR><BR>
清水:EUの「忘れられる権利」よりも,日本の削除請求の方が,おそらく広く適用可能なはずです。<BR><BR>
清水:EUの「忘れられる権利」よりも,日本の削除請求の方が,おそらく広く適用可能なはずです。<BR><BR>
神田:基本的には日本の方が広いと思います。ただ,自己情報コントロール権的なものは消せないので,その点では日本の方が狭いことになります。EUの「忘れられる権利」では,自己情報コントロール権的なものも含めることができます。<BR><BR>
神田:基本的には日本の方が広いと思います。ただ,自己情報コントロール権的なものは消せないので,その点では日本の方が狭いことになります。EUの「忘れられる権利」では,自己情報コントロール権的なものも含めることができます。<BR><BR>


== IV 発信者情報開示請求 ==
== IV 発信者情報開示請求 ==
467行目: 467行目:
中澤:どういうときに開示になるのかは法律で,何が開示できるのかは総務省令に規定という立てつけです。<BR><BR>
中澤:どういうときに開示になるのかは法律で,何が開示できるのかは総務省令に規定という立てつけです。<BR><BR>
神田:権利侵害の明白性は,基本的に削除請求の場合と同じです。<BR><BR>
神田:権利侵害の明白性は,基本的に削除請求の場合と同じです。<BR><BR>
清水:これは一応説明しておきますけど,権利侵害が「明白」というのは,不法行為の成立(違法性の存在)と,その阻却する事由がないことまでを含む概念だとされています。名誉権でいうと社会的評価の低下があって違法性阻却自由がないことまで必要とされているというのが一般的な理解です。ただ,ここに1つ問題があり,違法性阻却事由だけで足りるのか,責任阻却事由(故意過失がないこと)まで含むべきじやないのかという議論が一部あります。<BR><BR>
清水:これは一応説明しておきますけど,権利侵害が「明白」というのは,不法行為の成立(違法性の存在)と,その阻却する事由がないことまでを含む概念だとされています。名誉権でいうと社会的評価の低下があって違法性阻却自由がないことまで必要とされているというのが一般的な理解です。ただ,ここに1つ問題があり,違法性阻却事由だけで足りるのか,責任阻却事由(故意過失がないこと)まで含むべきじやないのかという議論が一部あります。<BR><BR>
神田:違法性阻却事由の不存在を,発信者情報開示請求に限っては,原告側で主張立証しなければいけない。通常,不法行為に基づく損害賠償請求だと,原告側が社会的評価の低下まで主張立証すれば,後は被告側が違法性阻却事由を主張立証しなければいけないのですが,発信行情報開示蹟求の場合には,原告側で違法性阻却事山の不存在まで主張立証しなけれぱいけないと。これがなかなか難しいのです。<BR><BR>
神田:違法性阻却事由の不存在を,発信者情報開示請求に限っては,原告側で主張立証しなければいけない。通常,不法行為に基づく損害賠償請求だと,原告側が社会的評価の低下まで主張立証すれば,後は被告側が違法性阻却事由を主張立証しなければいけないのですが,発信行情報開示蹟求の場合には,原告側で違法性阻却事山の不存在まで主張立証しなけれぱいけないと。これがなかなか難しいのです。<BR><BR>
清水:ないことを立証しなきゃいけないということですね。<BR><BR>
清水:ないことを立証しなきゃいけないということですね。<BR><BR>
神田:ないことの立証は非常に難しい。ただ本当は非常に難しいはずなのですが,実際には,長年の蓄積によってそんなに難しくなくなってきており,「ない」と言えば足りるような風潮になっています。<BR><BR>
神田:ないことの立証は非常に難しい。ただ本当は非常に難しいはずなのですが,実際には,長年の蓄積によってそんなに難しくなくなってきており,「ない」と言えば足りるような風潮になっています。<BR><BR>
中澤:陳述書による立証でも認められることは多いです。<BR><BR>
中澤:陳述書による立証でも認められることは多いです。<BR><BR>
神田:ないことの証明は本当は難しいはずなのですが,違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないというところまで持っていけばよいので,陳述書ベースで足りている印象です。<BR><BR>
神田:ないことの証明は本当は難しいはずなのですが,違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないというところまで持っていけばよいので,陳述書ベースで足りている印象です。<BR><BR>
清水:裁判官によって本当に不存在を立証しろと求めてくる方もいますよね。<BR><BR>
清水:裁判官によって本当に不存在を立証しろと求めてくる方もいますよね。<BR><BR>
神田:先日,当事務所の別の弁護士が扱っている案件で裁判官に言われたのが,「不存在を陳述書だけで立証して,立証完了と言っていいのか」という問題でした。陳述書で「そんな事実はありません」と書いているだけで,「それで違法性阻却事由の不存在を認定していいのですか,教えてください」みたいなことを言われたらしいです。そこで,各種裁判例で,陳述書だけで不存在を認定しているものを示したら,「分かりました」と言って弁論終結しました。その後,認容判決が出ています。<BR><BR>
神田:先日,当事務所の別の弁護士が扱っている案件で裁判官に言われたのが,「不存在を陳述書だけで立証して,立証完了と言っていいのか」という問題でした。陳述書で「そんな事実はありません」と書いているだけで,「それで違法性阻却事由の不存在を認定していいのですか,教えてください」みたいなことを言われたらしいです。そこで,各種裁判例で,陳述書だけで不存在を認定しているものを示したら,「分かりました」と言って弁論終結しました。その後,認容判決が出ています。<BR><BR>
494行目: 494行目:
神田:入り口論だからという裁判官もいますね。これは入り口論なんだから少し緩めに考えるという人がいる。<BR><BR>
神田:入り口論だからという裁判官もいますね。これは入り口論なんだから少し緩めに考えるという人がいる。<BR><BR>
清水:なぜ責任阻却事由が不要かという点について,中澤先生,解説お願いします。<BR><BR>
清水:なぜ責任阻却事由が不要かという点について,中澤先生,解説お願いします。<BR><BR>
中澤:私の担当事件の高裁判決で明確不要であると判示したものがあります。そのときは,誰が書いたのかも分からないからそもそも立証ができないという主張と,著作権侵害の差し止めなど条文上故意過失を要件にしない差止請求権があることを考えると,削除するために開示を受けるということも認められる以上,故意過失の要件としない削除請求権行使のために開示段階で,責任阻却事由がその要件に入ってきたらみ盾が生じるという主張をしています。<BR><BR>
中澤:私の担当事件の高裁判決で明確不要であると判示したものがあります。そのときは,誰が書いたのかも分からないからそもそも立証ができないという主張と,著作権侵害の差し止めなど条文上故意過失を要件にしない差止請求権があることを考えると,削除するために開示を受けるということも認められる以上,故意過失の要件としない削除請求権行使のために開示段階で,責任阻却事由がその要件に入ってきたらみ盾が生じるという主張をしています。<BR><BR>
清水:1つ目の誰が書いたか不明というところ。言いた人がわからないのにその人の意識,どういう認識で書いたのかというのは当然分かるわけがない,というのがひとつの理由ですよね。簡単に言うと。<BR><BR>
清水:1つ目の誰が書いたか不明というところ。言いた人がわからないのにその人の意識,どういう認識で書いたのかというのは当然分かるわけがない,というのがひとつの理由ですよね。簡単に言うと。<BR><BR>
唐澤:ところで,ログインIPの話ありますけど,何を開示してもらうのかについて,IPアドレスや契約者情報など開示の対象となる情報にはいくつか種類があります。<BR><BR>
唐澤:ところで,ログインIPの話ありますけど,何を開示してもらうのかについて,IPアドレスや契約者情報など開示の対象となる情報にはいくつか種類があります。<BR><BR>
清水:2段階だって言うことをまず説明しないといけないですね<BR><BR>
清水:2段階だって言うことをまず説明しないといけないですね<BR><BR>
神田:匿名投稿の場合,第一段階はコンテンツプロバイダに対するIPアドレス及びタイムスタンプの開示請求です。コンテンツプロバイダは,投稿者の住所氏名の情報を持っていることが稀です。そして第二段階は開示されたIPアドレスについて経由プロバイダ<ref>24)インターネットサービスプロバイダ(ISP)のこと。インターネット利用者は何らかのISPを利用してインターネットに接続している。</ref>に対する住所氏名の開示請求訴訟です。経由プロバイダは,課金のために契約者の住所氏名を把握しています。ネットの匿名投稿で投稿者を見つけるには,このように必ず2段階になるので,この手続きは面倒です。稀に,コンテンツプロバイダが投稿者の住所氏名を保有していることがありますが,この場合は1段の手続となります。<BR><BR>
神田:匿名投稿の場合,第一段階はコンテンツプロバイダに対するIPアドレス及びタイムスタンプの開示請求です。コンテンツプロバイダは,投稿者の住所氏名の情報を持っていることが稀です。そして第二段階は開示されたIPアドレスについて経由プロバイダ<ref>24)インターネットサービスプロバイダ(ISP)のこと。インターネット利用者は何らかのISPを利用してインターネットに接続している。</ref>に対する住所氏名の開示請求訴訟です。経由プロバイダは,課金のために契約者の住所氏名を把握しています。ネットの匿名投稿で投稿者を見つけるには,このように必ず2段階になるので,この手続きは面倒です。稀に,コンテンツプロバイダが投稿者の住所氏名を保有していることがありますが,この場合は1段の手続となります。<BR><BR>
清水:90%以上は2段階ですね。<BR><BR>
清水:90%以上は2段階ですね。<BR><BR>
唐澤:そういう手続きがあって何の開示を受けるかというというところで,一段階目はIPアドレス,タイムスタンプ,二段階目は発信者が実際使っているプロバイダ相手に裁判を起こすので,IPアドレスを使っている契約者が誰であるのかがわかります。メールアドレスについてはいかがですか。<BR><BR>
唐澤:そういう手続きがあって何の開示を受けるかというというところで,一段階目はIPアドレス,タイムスタンプ,二段階目は発信者が実際使っているプロバイダ相手に裁判を起こすので,IPアドレスを使っている契約者が誰であるのかがわかります。メールアドレスについてはいかがですか。<BR><BR>
清水:役立つことはあるというくらいではないでしょうか。<BR><BR>
清水:役立つことはあるというくらいではないでしょうか。<BR><BR>
中澤:メールアドレスで検索したら普通にウェブで公開されていて相手が判明するケ-スもありますね。<BR><BR>
中澤:メールアドレスで検索したら普通にウェブで公開されていて相手が判明するケ-スもありますね。<BR><BR>
508行目: 508行目:
神田:プロバイダが何佃も入っていると開示の手続が大変ですよね。<BR><BR>
神田:プロバイダが何佃も入っていると開示の手続が大変ですよね。<BR><BR>
中澤:MVNO(仮想移動体通信事業者)もそうですね。<BR><BR>
中澤:MVNO(仮想移動体通信事業者)もそうですね。<BR><BR>
神田:モバイルヴァーチャルネットワークオペレーターですね。通信インフラは自社の物じゃなくて,通信インフラはYモバイルだが,家電瓦販店がプロバイダをやっているといった,そういう感じのものがMVNOです。このケースですと,YモバイルのIPアドレスがコンテンツプロバイダから開示されるので,Yモバイルに対して開示請求訴訟をすると,「当社は契約者情報を持っていません」と言われてしまう。契約者情報を持っているのは家電量販店です。そうすると,もう一回,開示訴訟をしないといけないため,この真ん中の人(MNO)に,「契約者情報を持っているのは誰なのか開示してください」という訴訟なり仮処分なりをして初めて,家電量販店に対して,「契約者情報は誰ですか?」という訴訟をしなければいけないという面倒さがある。一回で終わるならいいのですけれど,間に二個も三個もプロバイダが入っている場合もあるので,面倒ですね。それをもっと簡単にやってできるようになればいいなというのが要望です。<BR><BR>
神田:モバイルヴァーチャルネットワークオペレーターですね。通信インフラは自社の物じゃなくて,通信インフラはYモバイルだが,家電瓦販店がプロバイダをやっているといった,そういう感じのものがMVNOです。このケースですと,YモバイルのIPアドレスがコンテンツプロバイダから開示されるので,Yモバイルに対して開示請求訴訟をすると,「当社は契約者情報を持っていません」と言われてしまう。契約者情報を持っているのは家電量販店です。そうすると,もう一回,開示訴訟をしないといけないため,この真ん中の人(MNO)に,「契約者情報を持っているのは誰なのか開示してください」という訴訟なり仮処分なりをして初めて,家電量販店に対して,「契約者情報は誰ですか?」という訴訟をしなければいけないという面倒さがある。一回で終わるならいいのですけれど,間に二個も三個もプロバイダが入っている場合もあるので,面倒ですね。それをもっと簡単にやってできるようになればいいなというのが要望です。<BR><BR>
唐澤:被害者の負担が増えるだけですよね。<BR><BR>
唐澤:被害者の負担が増えるだけですよね。<BR><BR>
神田:本当です。実際のMVNOがどこの会社なのかというのは,仮処分で開示しているので,あんまり時間的には大変じゃないのかなと。あとJCOMは任意で出すようになりましたね。JCOMは一回開示仮処分決定が出たあとは任意で出すようになってきた。<BR><BR>
神田:本当です。実際のMVNOがどこの会社なのかというのは,仮処分で開示しているので,あんまり時間的には大変じゃないのかなと。あとJCOMは任意で出すようになりましたね。JCOMは一回開示仮処分決定が出たあとは任意で出すようになってきた。<BR><BR>
519行目: 519行目:
清水:大分前にやりましたね。<BR><BR>
清水:大分前にやりましたね。<BR><BR>
神田:あれをやったために,民事保全の実務の第2版から第3版に改訂されるときにMVNOの記載が追加されたのですよ。奥裁判官に色々質問されました。<BR><BR>
神田:あれをやったために,民事保全の実務の第2版から第3版に改訂されるときにMVNOの記載が追加されたのですよ。奥裁判官に色々質問されました。<BR><BR>
唐澤:開示の問題としてログインIPの問題について,清水先生にお話しいただきたいと思うのですが,ログインIPというのはそもそも何ですか?<BR><BR>
唐澤:開示の問題としてログインIPの問題について,清水先生にお話しいただきたいと思うのですが,ログインIPというのはそもそも何ですか?<BR><BR>
清水:普通は書き込みをしたときのその酋き込みをするときに接続した時間とIPアドレスの情報を開示請求するわけですが,TwitterやFacebookみたいなログインが必要なサービスだと,実際に書き込みをしたときの情報は残っていないらしいのですね。じやあ何があるのかというと,ログインした時のIPアドレスとタイムスタンプしか残っていない。そこで,そのIPアドレス等を開示してくださいというのが今の話です。問題は,これが条文に直接当てはまるかという点です。<BR><BR>
清水:普通は書き込みをしたときのその酋き込みをするときに接続した時間とIPアドレスの情報を開示請求するわけですが,TwitterやFacebookみたいなログインが必要なサービスだと,実際に書き込みをしたときの情報は残っていないらしいのですね。じやあ何があるのかというと,ログインした時のIPアドレスとタイムスタンプしか残っていない。そこで,そのIPアドレス等を開示してくださいというのが今の話です。問題は,これが条文に直接当てはまるかという点です。<BR><BR>
神田:当たらないのです。条文の文理解釈を厳格にやると,ログインIPアドレスは,多分開示対象にならないですね。そしてログインタイムスタンプに至っては一見して条文に反しているので,ログインのタイムスタンプは,開示対象にならないのではないかと,そのように思えるわけです。ただそのようなことを言ってしまうと,TwitterやFacebookで書いた人を特定するのが全滅になってしまうので,何とかそのログインIPアドレスと,ログインタイムスタンプも開示対象なんだということを言ってもらうために,戦いを繰り広げてですね,例えば仮処分をやっている東京民事9部では,ログインタイムスタンプとログインIPアドレスは,開示の対象であると書いた決定が出ています。さらにその一段階上にいって清水先生がTwitterから開示されたログインIPアドレスで住所・氏名の開示請求訴訟をソフトバンクにやったやつは判例時報2233号112ページに書いてあるのですけど,それに関しては,ログインIPアドレスとログインタイムスタンプによって特定される住所・氏名はプロバイダ責任制限法4条1項が開示対象としている住所・氏名である」という風に言ってくれているものがあるわけです。ただ,高裁で棄却された件が一個ありまして「ログインIPアドレスとログインタイムスタンプで特定される住所・氏名は,開示の対象ではない」という高裁判決が一件あり,現在上告中なのです。<BR><BR>
神田:当たらないのです。条文の文理解釈を厳格にやると,ログインIPアドレスは,多分開示対象にならないですね。そしてログインタイムスタンプに至っては一見して条文に反しているので,ログインのタイムスタンプは,開示対象にならないのではないかと,そのように思えるわけです。ただそのようなことを言ってしまうと,TwitterやFacebookで書いた人を特定するのが全滅になってしまうので,何とかそのログインIPアドレスと,ログインタイムスタンプも開示対象なんだということを言ってもらうために,戦いを繰り広げてですね,例えば仮処分をやっている東京民事9部では,ログインタイムスタンプとログインIPアドレスは,開示の対象であると書いた決定が出ています。さらにその一段階上にいって清水先生がTwitterから開示されたログインIPアドレスで住所・氏名の開示請求訴訟をソフトバンクにやったやつは判例時報2233号112ページに書いてあるのですけど,それに関しては,ログインIPアドレスとログインタイムスタンプによって特定される住所・氏名はプロバイダ責任制限法4条1項が開示対象としている住所・氏名である」という風に言ってくれているものがあるわけです。ただ,高裁で棄却された件が一個ありまして「ログインIPアドレスとログインタイムスタンプで特定される住所・氏名は,開示の対象ではない」という高裁判決が一件あり,現在上告中なのです。<BR><BR>
532行目: 532行目:
中澤:「当該」の論点です。条文的にはまずそれが来るのではないですか。<BR><BR>
中澤:「当該」の論点です。条文的にはまずそれが来るのではないですか。<BR><BR>
清水:そうですね。プロバイダ責任制限法4条1項では「当該電気通信による情報の流通によって」と書いてあり,結局,まさにその書き込みによって,という意味になるのですよね。ログインのIPだと,まさにその書込みに関する情報ではないので,争いになるということです。<BR><BR>
清水:そうですね。プロバイダ責任制限法4条1項では「当該電気通信による情報の流通によって」と書いてあり,結局,まさにその書き込みによって,という意味になるのですよね。ログインのIPだと,まさにその書込みに関する情報ではないので,争いになるということです。<BR><BR>
中塚:他にも,ログイン情報を送信したものの,その情報だけからだと,本当にそのプロバイダ経由で悪口が発信されたのかわからないし,現に違うところから発信されるときもあるので,開示関係役務提供者にあたるのかというところも問題になります。<BR><BR>
中塚:他にも,ログイン情報を送信したものの,その情報だけからだと,本当にそのプロバイダ経由で悪口が発信されたのかわからないし,現に違うところから発信されるときもあるので,開示関係役務提供者にあたるのかというところも問題になります。<BR><BR>
神田:ログインして投稿するのですから,高度の蓋然性はありそうです。<BR><BR>
神田:ログインして投稿するのですから,高度の蓋然性はありそうです。<BR><BR>
清水:時間がかなり接着しているのであれば言えるのでしょうが,そうとは限らないので。<BR><BR>
清水:時間がかなり接着しているのであれば言えるのでしょうが,そうとは限らないので。<BR><BR>
539行目: 539行目:
清水:例えば,携帯電話だったら,自分の契約している会社あるじやないですか。後は,例えば家だったらWi-Fiをとばしていたらそれに接続できるかもしれない。コンビニとかに行けば無料Wi-Fiとんでいるからそれに接続して,それを使うかもしれない。大学に来たら大学のパソコンでもできるかもしれない。 ということで,いろんなとこでアクセスできますしいろんな端末からログインをして書きこむことができるわけですよ。ログインした時間が例えば2時20分くらいだとして,ログアウトしなければずっとログインしっばなしじゃないですか。でもそれと実際に書きこんだ時間が開示できるわけじゃないから,書き込みとは直接ひも付かないことがあるわけです。<BR><BR>
清水:例えば,携帯電話だったら,自分の契約している会社あるじやないですか。後は,例えば家だったらWi-Fiをとばしていたらそれに接続できるかもしれない。コンビニとかに行けば無料Wi-Fiとんでいるからそれに接続して,それを使うかもしれない。大学に来たら大学のパソコンでもできるかもしれない。 ということで,いろんなとこでアクセスできますしいろんな端末からログインをして書きこむことができるわけですよ。ログインした時間が例えば2時20分くらいだとして,ログアウトしなければずっとログインしっばなしじゃないですか。でもそれと実際に書きこんだ時間が開示できるわけじゃないから,書き込みとは直接ひも付かないことがあるわけです。<BR><BR>
神田:なるほど。ログインしっぱなしになっている状態で,別の端末から書いたらプロバイダが違うことがあるわけですね。<BR><BR>
神田:なるほど。ログインしっぱなしになっている状態で,別の端末から書いたらプロバイダが違うことがあるわけですね。<BR><BR>
清水:そういうこともあるし,そもそも最近のログインIPが開示されないということもあるわけで,昔これは本当にログインしたのかというところが立証できないということが当然あり得ます。<BR><BR>
清水:そういうこともあるし,そもそも最近のログインIPが開示されないということもあるわけで,昔これは本当にログインしたのかというところが立証できないということが当然あり得ます。<BR><BR>
神田:「資する」情報ということで,解釈で何とかするしかありませんね,<BR><BR>
神田:「資する」情報ということで,解釈で何とかするしかありませんね,<BR><BR>
清水:条文の趣旨から説明するしかないのですよね。<BR><BR>
清水:条文の趣旨から説明するしかないのですよね。<BR><BR>
中澤:条文のたてつけがすごく悪くて,実体にあっていないところが最近多く出てきています。解釈で頑張ってちょっとずつ広げているっていうことですね,まとめると。<BR><BR>
中澤:条文のたてつけがすごく悪くて,実体にあっていないところが最近多く出てきています。解釈で頑張ってちょっとずつ広げているっていうことですね,まとめると。<BR><BR>
550行目: 550行目:
清水:そうです。「気違い」という書き込みが1つされているだけの例で,開示請求を受けたプロバイダがそれを拒否したところ,被害者から損害賠償請求されたものの,「重大な過失」(プロバイダ責任制限法4条3項)がないとして請求が認められなかった事例です。<BR><BR>
清水:そうです。「気違い」という書き込みが1つされているだけの例で,開示請求を受けたプロバイダがそれを拒否したところ,被害者から損害賠償請求されたものの,「重大な過失」(プロバイダ責任制限法4条3項)がないとして請求が認められなかった事例です。<BR><BR>
唐澤:あとドメイン登録業者の問題はいかがですか。<BR><BR>
唐澤:あとドメイン登録業者の問題はいかがですか。<BR><BR>
神田:Whois<ref>27)Whoisで公開される情報が、実際のドメインの保有者の情報ではなく、情報公開代行をしている会社の情報が掲載されること。</ref>プロテクトしている会社は特定電気通信役務提供者じゃないと考えます。ただ事実上,送信防止措置依頼書を送付すると消してくれたりはします。また,管理者に転送してくれたりもします。しかし,法律だけでやろうと思うと,Whoisプロテクトをかけてる会社に対しては法的請求権が立たないと思います。なお,Whoisプロテクトをかけている会社はネームサーバ会社であることがあるので,ネームサーバを開示関係役務提供者と考えて開示請求することがひとつアイディアとして考えられます。些末な論点ですが。<BR><BR>
神田:Whois<ref>27)Whoisで公開される情報が、実際のドメインの保有者の情報ではなく、情報公開代行をしている会社の情報が掲載されること。</ref>プロテクトしている会社は特定電気通信役務提供者じゃないと考えます。ただ事実上,送信防止措置依頼書を送付すると消してくれたりはします。また,管理者に転送してくれたりもします。しかし,法律だけでやろうと思うと,Whoisプロテクトをかけてる会社に対しては法的請求権が立たないと思います。なお,Whoisプロテクトをかけている会社はネームサーバ会社であることがあるので,ネームサーバを開示関係役務提供者と考えて開示請求することがひとつアイディアとして考えられます。些末な論点ですが。<BR><BR>
中澤:ログの保存期間という大きな問題もあります。<BR><BR>
中澤:ログの保存期間という大きな問題もあります。<BR><BR>
神田:3か月とか6か月といったログ保存期間は短すぎると思います。中傷記事に気づいた時にはもう手遅れになっていますよね。<BR><BR>
神田:3か月とか6か月といったログ保存期間は短すぎると思います。中傷記事に気づいた時にはもう手遅れになっていますよね。<BR><BR>
中澤:一般的な国内の大手のプロバイダのアクセスログ,つまりIPアドレスを割り当てる通信記録の保存期間は6か月とか3か月なんですよ。そうすると,書き込みが例えば1月1日になされたとすると,3か月のプロバイダであれば3月中にそのプロバイダを割り出して,プロバイダにその情報を保存させなければならないのですが,仮処分するのも時間が必要ですし,そもそも書き込みを発見するまでの時間もあるので,かなり時間が厳しいという問題はありますね。<BR><BR>
中澤:一般的な国内の大手のプロバイダのアクセスログ,つまりIPアドレスを割り当てる通信記録の保存期間は6か月とか3か月なんですよ。そうすると,書き込みが例えば1月1日になされたとすると,3か月のプロバイダであれば3月中にそのプロバイダを割り出して,プロバイダにその情報を保存させなければならないのですが,仮処分するのも時間が必要ですし,そもそも書き込みを発見するまでの時間もあるので,かなり時間が厳しいという問題はありますね。<BR><BR>
神田:毎日自分の名前を検索している人なら開示請求にうまく乗れますが,そうではなく,友達から悪口書いてあるよと言われ,どれどれと調べてみて,気づいた時にはもう1,2ヵ月経ってたっていうことになったら,もう特定できない,ということも珍しくありません。<BR><BR>
神田:毎日自分の名前を検索している人なら開示請求にうまく乗れますが,そうではなく,友達から悪口書いてあるよと言われ,どれどれと調べてみて,気づいた時にはもう1,2ヵ月経ってたっていうことになったら,もう特定できない,ということも珍しくありません。<BR><BR>
唐澤:ログの保存期間て法律で決まっていないのですか?<BR><BR>
唐澤:ログの保存期間て法律で決まっていないのですか?<BR><BR>
593行目: 593行目:
中澤:共同不法行為で不真正連帯債務だと私は思うのですけれども…。<BR><BR>
中澤:共同不法行為で不真正連帯債務だと私は思うのですけれども…。<BR><BR>
清水:でも認定されたこと一度もないですよね。<BR><BR>
清水:でも認定されたこと一度もないですよね。<BR><BR>
中澤:同じスレッドから2人出てきて,1人から任意で回収した後にもう1人に訴訟したら,その時に裁判所の方から,これ多分共同不法行為になるので,取ってあるものは弁済があったものとして控除するからという話をされたことはありました。<BR><BR>
中澤:同じスレッドから2人出てきて,1人から任意で回収した後にもう1人に訴訟したら,その時に裁判所の方から,これ多分共同不法行為になるので,取ってあるものは弁済があったものとして控除するからという話をされたことはありました。<BR><BR>
清水:主観的関連共同はないかもしれないですが,客観的関連共同があれば良いというのが判例の考え方なので,客観的に見たら関連共同してるんじゃないのかと思うのですけれどもね。<BR><BR>
清水:主観的関連共同はないかもしれないですが,客観的関連共同があれば良いというのが判例の考え方なので,客観的に見たら関連共同してるんじゃないのかと思うのですけれどもね。<BR><BR>
中澤:交通事故の死亡の慰謝料が3000万円で,人格権侵害も理論上死亡の慰謝料を超えることはないですから,どんなに炎上しても全体の慰謝料が3000万円を超えるということは何らかの不都合が生じるのではないかなとも思います。今は100万円ルールで来ているので問題にはなりませんが。<BR><BR>
中澤:交通事故の死亡の慰謝料が3000万円で,人格権侵害も理論上死亡の慰謝料を超えることはないですから,どんなに炎上しても全体の慰謝料が3000万円を超えるということは何らかの不都合が生じるのではないかなとも思います。今は100万円ルールで来ているので問題にはなりませんが。<BR><BR>
清水:その値も別に何の根拠もないはずなんですけどね。なんとなく100万円っていうだけで。<BR><BR>
清水:その値も別に何の根拠もないはずなんですけどね。なんとなく100万円っていうだけで。<BR><BR>
中澤:昭和37年頃に,東京地裁交通部が交通事故の慰謝料算定基準を公表して,その時の死亡慰謝料の基準が100万円。その後,交通事故の算定基準は貨幣価値の上昇と共に改訂され額面も上がってきているんですね。しかし,名誉毀損の100万円という相場は当時からそのまま。最初はバランスが取れていたのかもしれないですが,既にその対応関係が無くなって名誉毀損だけ貨幣価値から置いて行かれているという状睨です。<BR><BR>
中澤:昭和37年頃に,東京地裁交通部が交通事故の慰謝料算定基準を公表して,その時の死亡慰謝料の基準が100万円。その後,交通事故の算定基準は貨幣価値の上昇と共に改訂され額面も上がってきているんですね。しかし,名誉毀損の100万円という相場は当時からそのまま。最初はバランスが取れていたのかもしれないですが,既にその対応関係が無くなって名誉毀損だけ貨幣価値から置いて行かれているという状睨です。<BR><BR>
神田:傷害の慰謝料と同じように考えて良いと思いませんか。多くの依頼者は精神的に病んでいますよね。<BR><BR>
神田:傷害の慰謝料と同じように考えて良いと思いませんか。多くの依頼者は精神的に病んでいますよね。<BR><BR>
中澤:私もそれは思っています。100万円って赤本基準の5か月の通院と同じなんですよ。<BR><BR>
中澤:私もそれは思っています。100万円って赤本基準の5か月の通院と同じなんですよ。<BR><BR>
606行目: 606行目:
清水:でも,診断書を出しても因果関係を認めてくれないんですよ,裁判所が。<BR><BR>
清水:でも,診断書を出しても因果関係を認めてくれないんですよ,裁判所が。<BR><BR>
中澤:因果関係厳しいですよね。<BR><BR>
中澤:因果関係厳しいですよね。<BR><BR>
唐澤:診断書は慰謝料を増やすために,利用できる価値のあるものなのか。<BR><BR>
唐澤:診断書は慰謝料を増やすために,利用できる価値のあるものなのか。<BR><BR>
中澤:私も一応毎回出していますけど,毎回だめです。<BR><BR>
中澤:私も一応毎回出していますけど,毎回だめです。<BR><BR>
神田:実情としては,因果関係ありますよね。<BR><BR>
神田:実情としては,因果関係ありますよね。<BR><BR>

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