恒心文庫:40298 B.C.
本文
カーラスゥーワ家は今のトーラヌモン王国にあたる地に存在した王族である。
トーラヌモン王国といえば民族衣装の装飾に使われる細工が有名だ。
それはカーラスゥーワ家時代の文化で今でも残っているもの。
カーラスゥーワ家は非常に商才に富んだ家系であり、トーラヌモン王国の全盛期は彼らの時代とも言える。
しかし、歴史上から突如としてカーラスゥーワ家は消える事になる。
カーラスゥーワ家が滅んだ理由。
それは、"悪魔の子"と言われる15世タークウァヒルが巻き起こした権力争いだった。
タークウァヒルには弟が居た。
名前はアートゥス、非常に頭の良い人物で軍、商、芸、どれも高い才を持っていた。
元々、カーラスゥーワ家は能力のあるものに王権を渡すしきたりだったため、アートゥスは誰の目から見ても次期王になるのは間違いなかった。
タークウァヒルが17、アートゥスが16、
タークウァヒルは一ヶ月後に18になる時期の話。
タークウァヒルは王宮内が音沙汰もないのを気を揉んでいた。
カーラスゥーワ家での王位継承は齢18の時に約束されることになっている。
そろそろ王位継承の話を父親、ヒールォス王にされる筈なのに一方に来ない。
タークウァヒルは自身が権力を握ることを信じて疑っていなかった。
(彼は何も才がなかったが自信家だった。)
不審に思い、父親に問い詰めるたのだった。
だが望んだ返事はなかった。
父の答えはタークウァヒルの弟へ継承させると言うものだった。
父への失望感に襲われるタークウァヒルだったが彼は諦めなかった。
タークウァヒルは、王の座を奪うための行動を開始した。
まずタークウァヒルは密かにシルクロードを通じて天上薬と呼ばれる今で言う麻薬を買い占めた。
それを両親を夜な夜な酒に誘い服用させて、二人を姦淫させた。
ただの鬼畜な所業のように見えるがタークウァヒルの卑劣さはあくまで目的のための手段だった。
生真面目だった両親がすっかり中毒になり、快楽に溺れ始めたところでタークウァヒルは彼らに薬を渡すのをやめた。
既に正気でモノを考えられなくなったヒールォスは息子に泣きつき薬を懇願した。
タークウァヒルは間隔を開け渡し、焦らしに焦らし彼らがせびるために自分に淫らな奉仕をするまでに堕ちたところで言った。
「王位を渡せば、薬を一生分渡そうと。」
色狂いで変わり果てた両親はこれを呑み、あっけなく成功した。
タークウァヒルはトーラヌモンの王になった。
しかし弟のアートゥスがこれを黙っているわけがなかった。
しかし彼がヒールォス王に問い詰めようとした時には既にヒ両親は病床に伏していた。口もきけない状態で。
自分が他国を制圧に国をあけてた僅かな期間で何が起こったのか。
アートゥスはタークウァヒルに問うた。
だがやはり両親がタークウァヒルに譲渡を明記した文書を渡すだけ渡し、体調をいきなり崩したとだけしか言わなかった。
兄を不審に思ったアートゥスは自分の手で調査した。
まず、あれだけ元気だった両親が何故急に倒れたか。
王宮に運ばれた、毒物を想像したアートゥスは食物などの記録を調べた。
するとあるではないか。兄が何か分からないものを運び込んだ謎の香辛料という記録が。
アートゥスは物を売った商人を捕まえ、白状させた。
そして、売られたモノが頭を溶かす猛毒だと知り、激怒した。
アートゥスはすぐさま兄に真実を突きつけた。
すると兄はなんと簡単に自分の仕業を認めるではないか。
それどころか自分に王の地位はやれないが指揮を取らないかとまで言ってきた。
タークウァヒルは頭の良い弟の能力を認めてはいたのだ。
アートゥスはこれをはねのけ、国民の前での決闘を申し渡した。
なにからナニまで汚い兄のことだ、これも断るだろう、ならば民衆に問えばいいだけと考えていた。
しかし、タークウァヒルは意外にもまたこれも呑んだのだ。
二人の衝突のその日の3日後が決闘日になった。
約束の日までアートゥスは両親の名誉の為、己の誇りのため剣を振り続けた。
約束の日の朝、アートゥスは天へ己の勝利を祈った。
決闘日は夕刻、兄の血で夕日を染めん。
街は朝から大騒ぎだった。無理もない、突如として朝に決闘の噂を聞いたのだろう。
アートゥスも落ち着かないので、ヘルムを被り城下に降りていた。
民衆をかき分け、軍人に扮したアートゥスは歩く。
だが、また思いもよらない知らせを、聞くことになる。
街の一人である男がただ事ならぬ様子ですっとんできて叫んだ。
ヒールォス王アトゥクール女王が殺された。
アートゥスは耳を疑った。
"死んだ"のではなく"殺された"、確かにそう聞こえた。
犯人は兄だ。決闘日に私の心を折る気なのか。
大声で両親の急逝を告げた男はまともや叫んだ。
犯人はアートゥスだ!王宮を今逃げ出して街に潜んでいるらしい。
タークウァヒル様が我々民にも手伝えと仰った、褒美も出すと。
もうアートゥスはその場にいられなくなった。
何故この国に生まれこの国のために見を上げ、これからという時に罪を着せられ捕らえられなければならないのか。
たちまち着の身のまま走り出した、町外れまで馬を取りに行き一度私は身を隠さねば。
アートゥスは賑やかな市場を走って通り急ぎに急いだ。
馬小屋に駆け込む、しかしそこにいるのは馬主でなかった。
タークウァヒルとその腹心共だった。
すぐさまアートゥスは捕らえ決闘場に連れて行かれ、自分を罵る民衆に囲まれ首をはねられた。
アートゥスの最後の言葉はこう伝わっている
「無能の末路は自滅」
トーラヌモン王国はタークウァヒルの手に落ちた。
しかし、そのタークウァヒル王政は一年も満たず滅んだ。
アートゥスの言葉通りになるのである。
一説では裸の王様はタークウァヒルが由来なのではないのかと言われている。
タークウァヒルは王になった途端、いい気になりかつての弟を真似、街を歩き民に接するようになった。
タークウァヒルは親しみやすい王としてのイメージを図りたかったのだろう。
しかし身の程知らず。民も馬鹿ではない、タークウァヒルが知性の欠片もない品のない男だと瞬く間に知れ渡った。
反タークウァヒルの勢力がすぐさま出来上がり、そのリーダー、モーリ=キミトゥクが暴君タークウァヒルを討った。
こうしてカーラスゥーワ家は滅んだ。
挿絵
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- 初出 - デリュケー 40298 B.C.(魚拓)