恒心文庫:駝鳥
本文
僕の名前はヤマオカ、司法修習生だ。
僕は司法試験が終わり「司法修習生」
という見習いになって1年もの研修を受ける。
研修で出会い話すようになったのは
マイペースなタカヒロ、活発的だが純朴なショウヘイだった。
僕は研修が終わるとすぐ家に帰って休みをとるが
タカヒロとショウヘイは研修が終わる度に喫茶店や食堂に行き遊んでいた。
タカヒロはショウヘイの気持ちに気付いていないようだが
ショウヘイはタカヒロに会う度
満面の笑みで、度々頬を染めて本当に楽しそうに会話していた。
研修の最後の日、僕はショウヘイから相談を受けた。
「実は俺、司法研修所終了式の日に石川の実家にどうしても帰らなくちゃいけない用事があるんです。
だから今日、タカヒロに告白したいっす。上手く・・・いきますかね・・・?」
「上手くいくよ、君たちいつも楽しそうに過ごしてるし。きっと上手くいく。」
僕はそう言って彼を励ました。
ショウヘイは純朴で連絡先もタカヒロと交換していないため
彼の住んでいる寮で彼を待ち告白するそうだ。
だけど一つ心に引っ掛かることがあった。
タカヒロは、ほうれん草のピーナッツ和えが大嫌いで
その料理が寮で振舞われる時だけは
大田区にある行きつけの定食屋で食事を済ませついでに夜遅くまで遊んでいた。
まさか、今日寮でピーナッツ和えが出るわけがない
そんなの神様の悪戯でしか有得ない。僕はそう考えて思考を停止させた。
ショウヘイは夕方になるとタカヒロを待つためずっと寮の前に立っていた。
連日の勉強のおかげで体はクタクタだ。もう日も暮れてきた。
それでもショウヘイは待ち続けた。まるで初恋の人を待つ少年かのように。
もう石川行の夜行バスの時間だ。
寮を離れるショウヘイの目には大粒の涙がおぼろげにあふれ出ていた。
今朝タカヒロは寮でほうれん草のピーナッツ和えが出ると聞き
「ピーナッツ和えは大嫌いナリ!いつもの定食屋に行くナリよ~。」
そういって大田区まで行ってしまった。
食事を終えたタカヒロは多摩川を散歩していた時
ふと川に落ちていた手の平に収まる手頃な石を見つけた。
タカヒロは石を投げた。
すると河川敷を歩いていた駝鳥に”コツン”と石が当たった。
まるで神様の悪戯のように。