恒心文庫:遭難
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その夜はとても吹雪いていた。
横殴りに降る雪のつぶてに、目も開けられず、降り積もった雪で足も進まない。
彼ら兄弟が山の中腹に、一晩明かせそうな洞穴を見つけたのはとても幸運なことだった。
二人は岩肌を伝い穴の奥、ごつごつとした岩肌にしかし抱き合って温め合いながら眠った。
しかし次の日も、そのまた次の日も吹雪はやまなかった。食料はとうに底をついている。岩肌に力なく横たわった弟、厚史は天井の岩肌を見つめながらつぶやいた。
もう青空は見えないのかな。
それを聞いて兄、貴洋は叫ぶ。
諦めちゃダメなり!諦めちゃダメなり!
貴洋は唾を飛ばしながら勢いよく局部をモロだしにした。そして柔らかく跳ねる筆先を厚史の力なく開いた唇の端、こけた頬に擦りつけた。
これでも飲むなり!これを飲んで早く元気になるなり!
しかし厚史はかすかに開いていた唇を閉め、そればかりか顔を背けてしまった。貴洋はチンポをふり回しながら厚史に問いかけた。なぜ。なぜ。
厚史はポツリと呟いた。
兄さんは、なんでそんなに、元気なの。
指摘され貴洋は思わず口元を手の甲で拭った。その手の甲には誰のものとも知れぬ白濁した汁が付着していたと言う。
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