恒心文庫:種モミ
本文
雲ひとつ無い遥か天空で太陽が煌々と輝いている。ジリジリと突き刺す視線に、人々はたまらず下を向き、垂れた汗は瞬く間に地面へと染み込んいく。熱意は貪欲に地を這う人々の気力を奪っていく。
その炎天下、広大な耕作地の中心に男が一人伏していた。水分不足だろうか、熱中症だろうか。男は時折身を震わせるばかりでその場から動こうとしない。苦しげに息をあげながら、しかしその顔はだらしなく笑みを浮かべている。瓜田に履を納れず、李下に冠を正さずと言うが、男は何にも手を出さずにいた。そもそもその耕作地には何も実るものがなかった。ただ萎びたツルが幾つか這うのみである。荒れ果てた耕作地に、男は何故か何時間も伏しているのだ。
しかし何事にも終わりが来る。真上にあった太陽がその身を傾けいつしか山の向こうに消えた頃、突如として男の野太い声が夜の静寂をつんざいた。
「でりゅ!でりゅよ!」
男は一際大きく体を震わせた。男の体の震えに合わせる様に、乾ききった耕作地が膨らみ、徐々にその色を濃い暗色へと変えていく。明らかに水分を含んだ土の色である。まるで波が広がる様に、男を中心にして広大な大地に水分が行き渡っていく。
実を言うと、男は射精していたのだ。大地は時として母に例えられるが、男は父であった。伴侶を亡くしてはやうん十年、男の性欲は風俗嬢ではもはや収まらない。今では妻が返った母なる大地が男のセックス相手である。雨の日も雷の日も初期微動の日も腰を振り上げては地面に向かって振り下ろす毎日。たまには気分を変えたかったのか、今日は包まれる喜びを感じられるポリネシアンセックスである。男は大いなる安心感の中でとろける様にして射精したのだ。
長い射精であった。とくん・・・とくん・・・と体の奥底を叩くような静かな鼓動は止むこと無く、永遠かと思われる程なだらかに男の射精を促した。男は母なる大地に促されるがまま、その地に天の川を垂れたのだ。
すると何という事だろう。地面に張り付いていた萎びたツルは見る見るうちにその青々とした色を取り戻し、その表面を水々しく輝かせながら広大な地を覆っていく。柔らかな月の光の中、至る所でツルを伸ばし、白い花を咲かせては散っていく。そして無数の丸々とした実をつけるのだ。
それは西瓜であった。しかしまだまだ小さい西瓜であった。だというのに西瓜は次々とツルから落ち、手足の様にツルをうねらせて何処かに向かって転がっていく。男はその小さい西瓜にそのまま"小西瓜"と
名付けた。数え切れないほどの小西瓜が次々と熟しては離れ何処かへと転がっていく。男はその様子を見て大いに喜んだ。地面から自らのそれを引き抜き天高く掲げる。それは枯れ木の様に萎びていたが、それは確かに男のペニスであった。男はそれに手を添えているのである。男はそれを上下にしごいているのである。男はその身を突き動かす衝動のまま、花咲かジジイの如く枯れ木の先から盛大に花火を打ち上げる。ドピュ!!ドピュドピュドピュドピュ!!!!門出を祝うかの様に撒き散らされる精子をバックに無数の小西瓜が音を立てて転がっている。それを横目にして男の顔は快感に歪む。ただ
その目は、何処か暗い感情に濁りつつあった。
男はかつて、五反ある田んぼに射精したことがある。そして驚愕したのだ。出来た獅子唐が男の実子に襲いかかったのである。当然我が子を守ろうとした男だったが二連続で射精してしまったのがまずかった。続いて出来た芋が太刀を片手に暴れ始めたのだ。男の実子は暴れ回る悪い芋に囲まれ、獅子唐にアナルを出たり入ったりされ、その若い命を散らした。
男は許せなかった。芋を、獅子唐を、そして何よりも不甲斐ない自分自身を。男は五反はある田んぼを出ると、虎穴に入らずんば虎子を得ず、遥か道程を越え中年女の顔をした化け物牛を何と囲うと、その大便を原料に肥やしを作る機械、肥やし機を開発、それを世からはなれた田のある谷で稼働する。
そして出来たのが小西瓜なのだ。その命尽きるまで闘う様にプログラミングされた小西瓜は、生まれた地を離れてターゲットを狙い続ける。
「ボギー1 遂に港区から世田谷区へ」
「法人化にともない世田谷区事務所開設決定 65期の弁護士支店長に! 」
「本当の弁護士同士の喧嘩をみたいかい? 」
オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!
小西瓜達の闘いはまだまだ続く。