恒心文庫:無知
本文
法ガイジと呼ばれるのは精神的にはよろしくない。
そもそも、ガイジということは障害児から成っている訳であるので
法ガイジと呼ばれるのはうれしくないのである。
そんな自分のことを指すのであろう法ガイジという言葉を見て少々腹が立った。
だが、そんな連中にも馬鹿な奴らはいる。
目の前の液晶画面に表示されている文字を見れば
それはアサケー、要するに麻原彰晃掲示板の雑談スレが荒れているのを憂う書き込みであった。
「ざまぁ見やがれ」
たまらない。
そんな書き込みを見てふとほくそ笑む。
この俺様を差し置いてウキウキ気分で書き込みをしている連中を苛立たせる為に始めた行為であったが、
それはこの俺様の中で日頃のストレスを拡散させる為に充分だった。
しかし、そんな連中にもどういう対応をすればよいのかという頭はあるようで、次第に俺の書き込みを無視するようになった。
そこでこの俺様が気づいた最高の荒らし方法は、自作自演ということである。 要は反応する側も作り出せばよかった。
運よく使っていないコンピュータがあったのでそれも利用して自転車操業の様に自作自演するようにした。
効果は覿面であった。機能しなくなっていく雑談スレを見ていると心なしか興奮してしまっていた。
ところがだ。 そんな連中が俺を差し置いて新たな避難所を作り出したという書き込みを見た。
――許せなかった。
掲示板に張られたリンクをしばし見る。 こう見ても昔はグロ画像へのリンクを踏まされてご飯が喉を通らなかった日もあった。
だからこそ俺はリンクを見て、それが怪しいページなのか警戒する癖が付いた。
大丈夫だ。 普通のしたらば掲示板へのリンクだ。
リダイレクタを経由して開いた掲示板の名前は――暴れん坊会計士掲示板であった。
その掲示板のローカルルール欄を見るとそこには気持ち悪いおっさんのAAが貼られていた。
何が『出りゅ!出りゅよ!(ビュルル』だ。気持ち悪い。死ね。
暗い部屋の中で俺自身の表情が大きく歪んでいた。 それを自らが自覚できるほどに。
まぁ、いい。どのスレを荒らしてやろうかとブラウザ上からページをスクロールした時である。
スクロールして最初に現れたのは全知というスレッドだった。
その一番最初のレスを見て、驚愕する。
『気がつけば勃起していた。 』
ふざけるな――。 内容も確認しないまま反論を書き込む。
>25 :名前が出りゅ!出りゅよ!:2015/11/22(日) 22:13:27 ID:GyeFIetM
>ねえねえこの作者は低学歴?
>
>
>全知全能だからといって知ってる感覚を全て追体験するわけねーんだよWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW
>
>
>やっぱ中卒低学歴は殺処分が必要だなWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW
これでこの作者も何かしらのダメージを追うはずだろうと考えていた。
書き込んで数分間ずっと再読み込みを繰り返していると、『おすすめの小説教えて』というどうみても挑発している節の書き込みが出来た。
どう返したものかと考えていたが、適当に返すことにした。
>31 :名前が出りゅ!出りゅよ!:2015/11/22(日) 22:24:13 ID:GyeFIetM
>>>27
>お前さー
>そんなのわざわざ俺が教えると思う?
>
>
>自分で探せよ低学歴WWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW
ちょろい。これならアサケーと同じように簡単に崩壊するだろう。
必死に笑いを押し殺しつつも次はここの住民を相手にしてやることにした。
それからレスの動向を監視していたが、とある書き込みが目に入った。
>41 :名前が出りゅ!出りゅよ!:2015/11/22(日) 22:48:05 ID:QGMIol8U
>法ガイジくん一生のお願いやチンポかアナル見せてくれんか?
>全知全能なら容易いやろ
何を言ってやがるこいつは……。
まぁ、この小説のノリになった不届きな輩だろうと考えた。
俺のフォルダになぜかあったエロ画像をImgurにアップロードした。
そしてすかさず気持ち悪いハセカラ民の為に素早くレスを返した。
>44 :名前が出りゅ!出りゅよ!:2015/11/22(日) 22:59:00 ID:GyeFIetM
>>>41
>くれてやるわ邪淫しとけ低学歴WWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW
>
>ハセカラ民低脳すぎんだろWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW
>
>[1]
これで満足するだろう。まさかこの俺に本気で興奮することなぞあるまい。
しかし今日も様々な所で対応して疲れてしまった。
先ほどまではなかった妙な疲れにイライラしながらもコンピュータの前から離れることにした。
◆
少々席をはずしていたせいか、先ほどまでの目の疲れが取れていたのでもう一度書き込みをチェックする。
宇都宮の連中は後回しでいい。とりあえず、先ほどまで不快係数マックスだった掲示板を再度確認する。
新着書き込みレスを確認していると
>49 :名前が出りゅ!出りゅよ!:2015/11/22(日) 23:42:12 ID:8jlmMQKU
>法ガイジのナプキン欲しいンゴォオオオ!!!!!!!!!!!!!!
>
>50 :名前が出りゅ!出りゅよ!:2015/11/23(月) 00:00:12 ID:98searxY
>照れてる法ガちゃんもかわいい!
>
>51 :名前が出りゅ!出りゅよ!:2015/11/23(月) 00:03:14 ID:..P2ktZw
>こんなんのためにアナルで画像検索するとか健気でかわいい
>
>52 :名前が出りゅ!出りゅよ!:2015/11/23(月) 00:42:22 ID:uuJptSPQ
>法ガイジ…法ガイジ…うっ…!
はぁ?!
なぜ俺をオカズにされなければならないんだ!
ふざけるな。 誰がお前らの為に反応したと思ってやがる……。
俺の純粋無垢な姿が汚されると思うと至極怒りが沸いてきた――筈なのに
俺自身に宇都宮の連中を相手にしていた時よりもなぜか怒りが静かであることに気づいた。
むしろ、この怒りは無理やり作ったものではないかと――
――何を馬鹿な事を考えているんだ俺は。
ふと反論しようとキーボードを打とうとしたが、指を動かしてもキーボードの感触がない。
押しても硬いものに触れるだけ――
手の位置を確認すると右手が自らの陰茎を刺激させていた。無意識のうちに。
驚愕する。何をしているんだ俺は……。
なぜ自分の男根がここまでそそり立っているのか。
先ほどまでの事象を思い出す。
『純粋無垢な姿を汚されると思うと』
自分の男根が再びそり立つ。先ほどよりも遥か彼方の地平線を指すような形でそそり立っていた。
そんな馬鹿な――! 馬鹿な――!
再び自分の陰茎に手が伸びる。 やめろ やめろ
右手が自分の意思を無視して自分の陰茎を強く刺激する。理性以上に自らの性的欲求に歯止めが利かなくなっていた。
この俺が自らを汚されることなど望むはずがない――!
必死に自分に言い聞かせるが、それは無意味だった。
俺はそのまま俺の下着の中で精液を発射した。熱いドロリとした精液が俺の下着を汚していくのが分かる。
かつてないほどの熱い、すごい量の射精が発生したのを確認した。
嗚呼――。 自らの意識しない部分で嗚咽が漏れた。
俺は他人に汚されることに悦を感じる人間だったのか――。
仮初であったはずの全知という道の最初の一歩を、人類にとっては無意味な一歩を踏み出せた気がした。
法ガイジが自らの汚名を返上する日は近い。