恒心文庫:泥酔状態で素面の人に時間教えてもらうと泥酔してると自覚するよね
本文
ガツンと殴られるような頭痛は紛れもなく二日酔いだ。俺はどういうわけかスーツのまま浴槽に浸かっている。年甲斐もなく、とんでもなく酷い酔い方をしたんだなと分かった。すっかり冷え切った水から身を震わせながら出て、びしょびしょになった衣類をその辺に投げ捨て、バスタオルで身体を拭いた。
「さっみ」
全裸で浴室から出るとゴミ袋を抱えた山岡さんがいた。
「わっ、なんでいるんですか」
彼は呆れた顔でクッソでかいため息をついた。
「なんでじゃないよ。ここ事務所だよ。お前こそ裸のまま職場うろつくな」
「いや……え?」
きょろきょろ辺りを見回すと確かにここは事務所だ。俺の家じゃない。
「きみたちのせいで忘れたいことが増えた。とりあえず服着なよ。替えが無いなら貸してやるから」
「あ、はい」
そういや昨日、事務所で忘年会をやったんだった。オフィスとして使用している部屋は空き瓶やら汚れた皿やらで何もかもカオスだ。
全裸のKさんとKNSさんが絡み合ったまま死んでいる。痴情のもつれかな、あれ。
親切にもコーヒーを淹れてくれた山岡さんは俺に昨日の苦労を切々と語った。
「最初は良かったけど、Kさんはいつも通り事務所を汚すし、しかも酔ったKNSさんに煽られて乱闘始めるし。
僕はきみだけが頼りだったのに、いいぞいいぞ~とか言って振ったシャンパンそこらじゅうにぶちまけるし……終いにはゲーゲー吐いて、今何時ですか!? って僕に超しつこく聞くんだよ。意味わかんない……あと、殺してくれ殺してくれってなんかブツブツ言い始めるし。だからお風呂で水につけといた」
「なんで!?」
「死ぬかと思って……」
「怖っ」
「とにかく、もう僕は帰るから。きみたちと違って寝てないの」
人を永眠させようとしたやつがよく言うぜ。
山岡さんは、良いお年を、と言って颯爽と帰っていく。
残された俺は、惨状を目の前にして、一人肩を落とした。