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恒心文庫:夏休みのしゅくだい

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

初めは「〇〇動物園の動物全てを見てこい」だった。

当職にそんな暇はなかった。学生の頃は受験勉強・課題に1日の殆どを費やし、しかしそれを『将来楽をするために』と思い苦にしなかった。
が、1度だけ家族全員で動物園を訪れる機会があり、当職は気が向いたので動物をできるだけ見て回った。
しかしダチョウだけを、そのままの意味で見損なってしまった。途中で雨が降り、帰ることになったのだ。


その年 弟は殺された
腕には血で固められた羽毛がビッシリ付けられ、首は脊椎を残して切断、そのまま頭をろくろ首のように長く伸ばされていた。
足も膝の関節が逆方向に曲げられていて、後にその写真を見た時は生理的嫌悪感で胃から昼食がこんにちわした。

どうして、誰がこんなことを

警察は猟奇殺人事件として世間には公開せずかなりの捜査をしたが、犯人は今でも見つかっていない。手がかりすらも。



二回目は「花火をあげろ」だった。
しかし、司法試験を前に臥薪嘗胆していた当職は一回目の時とは提灯に釣鐘、本当に暇なんてなかった。
1度だけ、親戚に海で遊ぼうと誘いを受けたが当然断った。


それから数年して当職はネットでの大炎上にまきこまれた。本当に運が無かった。これから弁護士として経験を積んでいこうと事務所を構え怠慢していた時に。
確かに当職にも非はある。だが殺害予告や事務所の爆破予告なんて犯罪、それらが許され無法地帯と化している今のネットは異常だ。


三回目、つい今しがたの事である。
例の手紙が届いた。
折り目のひとつもないキレイな封筒に入っている。が、一般的な封筒とは違い文字は白、封筒は黒というモノクロ仕様で不気味さをどことなく醸し出していた。
差出人不明の手紙をなぜセキュリティが通したのか謎だが。

鈍い当職の頭にも、ある推測が頭を過ぎる。
《この手紙、つまり『夏休みの宿題』をこなさないと今までのような残酷な罰があるのではないか?》
弟の死に様は明らかにダチョウを模したものだった。
二回目の花火も当職があの少年によりネット花火として打上げられたと考えれば多少納得する。
やらなかった事に対応した罰。
かなりSFめいた妄想かもしれないが、現実に起こっている事は確かなのだ。

今回こそ手紙の『夏休みの宿題』をこなして不幸を避けよう、弟の無念の仇をには討とう。

意気込んで手紙の封を破ると、見覚えのある1枚の紙が現れた。無機質に1文だけ載せられているがその冷酷さには似つかわしくない内容に身が震える。

【バーベキューパーティをしろ】

バーベキュー。下々の民が行う肉焼き祭り。
実際にやったことはないが、当職にかかれば朝飯前だろう。

幸か不幸か、炎上のせいで仕事も勉強もなく、暇は持て余すほどにある。
過去の例を思えばおそらく『夏休みの宿題』を達成するチャンスはどこからかやってくるだろう。
これまでのように失敗する要素は少ない。


なぜ私がこの手紙の標的になってしまったか、誰が手紙を出しているのか、どうやって当職や当職の身の周りの人物に罰を与えているのか等疑問は積もっているが、誰も答えてくれないだろう。

手紙を読んでから三日後、唐突に
「バーベキューしに行きませんか?」
と誘われた。

それも外は危険だから出ないでくださいと釘を刺してきたYOから、である。
やはり手紙には何か、陰謀論やファンタジーめいた何かがある。
パズルのピースが埋まっていく。

やっと達成するチャンスがきたか、という内心を悟られぬよう
「いいナリよ」
と素っ気なく応えた。

バーベキュー。
動物園の時のように何か邪魔がなければいいが。

そんな不安は外れ、バーベキューパーティ当日。
YOが親戚から借りたという別荘でそれは執り行われた。
参加者は当職、YO、YM、Hの四人。

YMは休みを潰されたというショックと男だけという華の無さにふてくされ、ずっと携帯を弄りつつバーベキューを行う予定の庭の清掃をしている。
HとYOは肉焼き機の準備をしているようで、当職は別荘内の掃除を任せられた。
数ヶ月ほど使われていなかったらしいが、さほど埃はなく、掃除する必要は無いと感じたので設置してあったソファでくつろぐことにした。

ミーンミーンミーンミーン
セミの規則的な声
炎上で疲れ果てた体を柔らかいソファが優しく包んでくれる。
嗚呼、心地良い


ーーーーー

「Kさん、起きてください」

YOの声が遠くで聞こえたような気がしたが、実際には目の前にいた。
目を擦り重い瞼を開くと、窓から夕焼けが瞳を刺激してきたので慌てて手でそれを遮る。
「もう終わっちゃいましたよ。」
YOが呆れ声で呟く。
終わった?何が?機器の準備が?
「まぁKさんの分も残してあるので明日の朝ご飯にでもしてください。」

焼けた肉と野菜、そして油と火の匂いが鼻を掠める。

まさか
当職の急な反応に驚くYOをよそに庭へ走る。

空はすっかりバーベキュー色に染め上がっていた。
なんということか。兎と亀の童話が脳裏をよぎる。
「バーベキューパーティは…?」
「ああ、さっき終えたよ。Tの寝顔があんまりにも気持ち良さそうでな、起こすのが心苦しかったんじゃ。一緒に食べれなかったのは残念じゃったが、まぁ皆楽しかったろうし、来年もまたやりたいのぅ。」

「来年じゃダメナリ!」
「? ど、どうした?T、いきなり大声出して」
駆けつけたYOと片付けをしていたYMも同時にこちらに視線を移す。

「また明日、ここでバーベキューパーティするですを」

「それは無理ですよ、Kさん。この別荘は明日から持ち主に使われるのでそ
「うるさいナリ!言う通りにするナリ!」
側に置いてあった、Hが使っていたのであろうアイスピックを手に取りYOに向ける。
最終的に出会ったのが武力だった。


全員が黙り込む。YMの携帯からゲームオーバーの愉快なBGMが流れたがそれも数秒のうちに消えた。

「Kさん、どうしてそこまで…?」
「YOは自分がどうなってもいいナリか!?三人はお互いに大事な仲間なのではなかったのですか。」
「どういうことなんじゃ、T、説明してくれ」
「とにかく、ここでもう一度バーベキューを、今すぐやるナリ!そうすれば全員助かるナリ!それを切に望む。」


またもや沈黙の空間が広がると思われたが、YMが手にしていた携帯を耳元に静かに当てた。
「……もしもし、警察ですか」

ドッ
肉に針が吸い込まれる鈍い音がした。
ドッドッドッ…
続けて何度も刺す。
「…なんで言う通りにしないナリか…」
アイスピックをつかいバーベキューというものを三人の心の中にきざみ恐怖心を植え付ければ 三人はバーベキューにもっと協力的になるのではないかと思いました。

二人とも動けなかった。目の前の出来事が現実なのか、自分を疑っている。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
奇声!
次はHに突き立てられた。
何度も、何度も、

YOは来る時に使ったレンタカーに向かって一目散に走っていった。
二人の返り血を浴び、夕陽の光彩で一層黒い影をおとすようになったそいつもそれを全速力で追う。

ガチャガチャ
車にたどり着くもドアが開かない。
残念でした、鍵はHのポケットに
もう1度バーベキューを

ドッ
背後から一撃。
YOは窓に血で手型をズルズルと遺し倒れた。

「……みんなで………また……バーベキュー…するナリ……」
荒れた息でYOを抱えあげる
はやくパーティーを始めなければ。『夏休みの宿題』は待ってくれない。

日も暮れセミも既に地を這っていた。夏休みの終わりが明瞭に近づいている。

ジュゥウウ…
肉と野菜の焼ける心地いい音。正午の眩しい太陽。潮風とバーベキューの香り。
「こっちは食べごろですね」
YOが見極める。
「じゃあTさんからどうぞ」
YMが譲る。
「うん、うまいなぁ」
先に食べはじめていたHが感想を漏らす。
「やっぱりみんなでバーベキューをするのは楽しいね、兄さん」

「バーベキュー、楽しいナリ!」


ーーーーー


第一発見者が目にしたのは3人の死体とそれを切り分け、焼き、貪るもう1匹。
酸化してグズグズになった血は黒い闇を纏っているかのようだったという。


例えば二つ、A or Bの選択肢があるとして、Aを選んだ事で~~が起きた。ならBを選んでいたらどうなったのだろうか?
人類がx軸、y軸、z軸、そして時間という四次元の中でしか存在しえない時点でこの問いへの答えとよべる答えはない。

占いや予言もただの詭弁。
そこにあるのは選択と結果だけ。
水を求め未来という砂漠の蜃気楼に向かい走ろうとも、泉には一生たどり着かない。
泉に向かって走ろうとしない限り。

挿絵

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