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恒心文庫:回らなければ!

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

 オレの名前は山岡、T大卒のエリート弁護士だ。
そんなオレは虎ノ門のとある雑居ビルの前でネクタイを締め直していた。
今日からここの法律事務所に入所するのだ。
インターホンを通して事務的で単調なやりとりを済ませたオレの目の前に小太りの男が現れる。
彼に奥へ通され、簡単な世間話を済ませたオレは早速業務について話そうするものの彼はそれを許さない。
面倒なので適当に相槌を打っているとそれに気づいたのかオレに質問を投げかけてきた。
「山岡くん、君はまじないというものを信じているかね?」
唐突な質問に驚いたオレは聞き返す。
「まじないというのは呪術的なアレですか?」
「そんな堅苦しいものではないナリ。受験前とかにするような願掛けに近いものの類ナリね。」
受験のときの願掛けなど不毛だ、実力のみが受験において価値を示す。オレはそうしてT大に行った。
しかし自分の上司になり得る人物にそんなつまらない事は言えない。
「ははぁ…まぁ神に縋りたい時というのはありますよね」
彼はおもむろに立ち上がりながら問いかけてくる。
「本気で、本気で願ったことはあるナリか?」
何を言っているんだ彼は。見通しの効かない一連の会話に苛立ちと不気味さを覚えてオレは黙った。
そんなオレをおかまいなしに彼は壁の機器を弄っている。空調かなにかを操作しているのかと思っていたオレは彼の行動の結果に呆然とした。
なんということだろう、オレの真正面にある本棚が横に平行移動したのだ。フリーズしたオレの思考回路を彼の声が再起動させる。
「山岡くん、こっちへ来るナリ」
言われるがままに向かう。
彼が扉を開くとそこには腕を後ろに縛られて猿ぐつわをつけられて回り続ける初老の男が居た。
「ほら、山岡くんナリ、挨拶しなさい。」
「こんにちは」
「えぇ…どうも」
男はつぶやく。
「彼は一体…?」
「当職の父ナリ」
謎が謎を呼ぶ、彼は一体なにをしてどうして息子は奇行を止めないのか。
なぜこんな部屋があるのか。オレの脳内はパンク寸前であった。
「不思議、という顔をしているナリね。父は今『自分が回り続けなければ世界が滅びる』と信じ込んでいるナリ。」
「それは…なにかしらの病気ということですか?」
「試してみるナリか?」
彼はそうつぶやくように言うとオレのは返答も待たずに回り続ける男を両手で止めた。
とたんにビルが揺れ始めた、すぐさま彼は手を離す。
男が回り始めると共に揺れは収まった。
「いつから回っているのですか…?」
「弟が自殺した30年弱前からナリ」
彼はなつかしむように語りはじめた。
「これは我が家が字をかえようが受け継がれてきた伝統儀式ナリ
祖父の子が役目を果たし、父の子がそれを受け継ぎと代々子供におしつけるナリ」
「しかし弟さんは自殺を図った」
閃いたようにオレが口を挟む。
「そうナリ、しかしこれは想定内の事
万が一のことを含めて毎朝父は子から受け継ぐ一歩手前まで儀式を行うナリ」
なるほどだから彼は使命を全うできる。しかしその儀式とは何なのだろうか。
オレの思考を見透かしたように彼は言った。
「挨拶をさせるナリよ」
はっと思い返したオレは出口目指して走り始める。まずい、このままではオレが回ることになる。
しかし遅かった、後ろで男のうめき声が聞こえると共にオレの体は完全に停止した。
「父の体はもう限界だったナリ」ナイフでめった刺しにでもしたのだろうか。返り血に染まる彼が近づく。
「しかし子供はそう簡単に生まれない、だから発想の転換ナリ」自分の体に彼が拘束器具をつけ始める。
不思議なことに今自分がされていることにまったく疑問がわかない。それどころかどこからか使命感に燃え始めていた。
「使命感と正義の心を宿す我が家には前例のないことだったナリから成功して安心しているナリよ」
思考が曖昧になる。なぜ自分がここにいるのか、自分は誰だったのか、T大とはなにか、目の前の小太りの男はいったい誰であったか。
「はっきり言って当家の罪のない人間に使命を押し付ける今は異常だ。今の君に当職がなっていたことを思うと身が震える。」
そうだ!回るんだ!回り続けなければいけない!そうして世界を救うんだ!
「おっとここでは回らないでくれナリ、運ぶナリよ」
回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!
回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!
回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!回らなければ!
「貴職との出会いに感謝」
そう彼はつぶやくと彼は二組の人事書類を片手に重い扉を閉じた。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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