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恒心文庫:修行の先に

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

洋は変な宗教に影響されて我が家で毎日意味不明な修行に明け暮れていた
不眠不休でよくわからないお経を唱えたりだとか
逆さ吊りになり当職や弟に命令して尻の肉が張り裂けるほど木刀で滅多打ちにさせるだとか
なんか変なヘッドギアみたいな器具を被って身体に電気を流すだとか
土中のコンテナで何日間も瞑想するだとか
熱湯風呂に長く浸かるだとか
それは到底常人に理解できない内容であり当職は心底呆れ果てていた
そんなある日当職は見てしまった
風呂の浴槽に水を張りその中に沈んでいる弟の姿を
父がやったのだ
父が弟を殺したのだ
弟は父の行いを咎め否定していた
父はもうまともな頭では無い
自分の所業を邪魔する奴ならたとえ息子だろうが容赦しない筈だ
「たったかひろ」
後ろで声がした
見るとずぶ濡れの父が頭から水を垂らしながらそこに居た
「厚史は出来損ないだ、水中クンバカを15分耐えられないなんて」
その目は血走っていた
「何を怖がってんだよ」
洋が当職ににじり寄る

そんなときだった
空間が歪んだと思ったらどこからとも無く智津夫っちが登場したのだ
智津夫っちは洋に超越人力を放つと
洋は憑き物が落ちたかのようにその表情は穏やかになった
そして浴槽に沈む厚史に手をかざす──
なんと、死んだはずの厚史が生き返ったではないか
ついでに智津夫っちは世界平和を実現し
ありとあらゆる社会問題を解決し
豊かな泰平の世を作り出したのだ
ありがとう智津夫っち ありがとうオウム真理教

─────夢か

薄暗い牢獄の中で智津夫は目を覚ました

辺り一面悪臭を漂わせているその部屋で智津夫は長らくガイジのフリをして刑執行を逃れている
・・・俺は世の中の奴らが妬ましかっただけなんだ
メクラでも貧しい生まれでもブサイクでもない輝いて毎日を充実させて生きている連中が羨ましかっただけなんだ
偶然にも、奇跡的にもカルト組織がデカくなって
俺は社会へ暴力を実行する力を得てしまった
俺がやりたかったのはテロによる国家転覆だったのだろうか
いや…俺が本当に目指したのはさっきの夢のような…優しい世界─────

「智津夫っち、出ろ」

看守の声が聞こえた

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

解説

この作品が発表された2018年は、次年度の改元や再来年のオリンピックが予定されており、かつオウム真理教の指名手配犯を被告とする刑事裁判が全て終結したことから、死刑囚の執行が近いのではないかと予想されていた。作品発表半月後の7月6日、旧尊師らは死刑執行されることとなる[1]

リンク・注釈

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