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恒心文庫:プライベートルーム

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」
「でりゅ!でりゅよ!!!!!!!!!うまれりゅよ!!!!!!!!!!!(裏声で)(ブリブリブリドバドビュパッブブブブゥ!!!!!
ジョボボボボジョボボボ!!!!!!!ブバッババブッチッパッパッパパ!!!!!!)」

いつものように二人の肥満全裸男が絶叫と謎の宣誓を交えつつ、肛門が裂け千切れんばかりの勢いで大量の糞尿をコーラン目掛けて投下した。
その様相がもはやいっその事清々しいと半ば投げやりに見ていたのは山岡弁護士。
僕は…正直こんなことになるなんて思ってもみなかった。
思えば大学時代、彼の語る優しい世界の理想に感服し、彼となら立派な弁護士として人を助ける仕事ができると期待していたものの臥薪嘗胆を経て再会し共に事務所を
立ち上げた唐さん……唐澤貴洋弁護士はどこにでもいるようで、しかし凡百とは片付け難い前代未聞のクッソ無能悪徳詐欺弁護士に成り下がっていた。
ネットに強いという噂を聞いて来た依頼人の切実な願いや弁護士としての仕事などどこ吹く風に上の空。
仕事にも趣味にも金を湧いて出てくる湯水を冷ますがごき無駄遣いをし、仕事の杜撰さに対する苦情も悪評も実務を知らないからで一蹴してまともに取り合おうともせず、彼と彼の父親の洋さんは毎日のようにこの事務所で贅沢脱糞モリモリ三昧の日々を貪っていた。

「山岡くん」
「…はい、分かってます」

ひとしきりに出し終え、先ほどまでの悪魔の形相とは一変して羞恥だとか恍惚すらも一切感じられない、非現実的なまでに機械的な唐さんが僕の名前を呼んだ。
僕も呼ばれるがままそうプログラムされた機械のように掃除道具を持ち出す。
そしていつものようにコーンやニラが混じった液状とも固形とも言い難い二人分(とは思えない程におぞましい量)のそれを雑巾やホウキを使って掃除した。

「山岡くん、捨てちゃだめナリよ」
「…分かってますよ」

何度やっても慣れない悪臭に顔をしかめていても、いつもは言わない悪態をついても唐さんは何の反応も示さない。
無論、労いの言葉など始めから無かった。
僕に対しての信頼は無いのだろうか。
彼らの糞尿とその他諸々をまとめたゴミ袋を手渡すと何事も無かったように二人は奥の部屋に引っ込んでいった。

「まったく、何があの人たちを駆り立てるんだろうね山本君」
「はい」

呆れ気味に皮肉を言ってみせると食い気味に返答された。
最近は山本君も嫌に反応が淡泊だ。
僕の同僚の山本君はいつものように足を組んで机の上に放り出し、椅子にもたれかかっている。
彼のそんな態度にもいつしか慣れてしまっていたが、最初の頃の目つきの悪さは今となっては見る影もなく光を失い無気力な人形のようになってしまっていた。
しばらく別の案件を担当していた僕は最近の唐さんの仕事の尻拭いを彼一人にまかせっきりにしてしまい、深夜まで薄らと事務所の明かりがついている日が続いているらしいことをここの管理人さんから聞かされていた。
まぁ、こんな事務所で働いていれば嫌にもなるよな。
僕たちは事務所の奥の部屋に入った事が無い。
最初に立ち上げたクロスの頃から唐さんの希望で個人の空間が欲しいとのことだったので構わないと承諾したはいいものの、それ以前から既に始まっていたこの習慣の後は必ず自分たちの糞尿が詰まったゴミ袋を抱えて二人で部屋に引きこもってしまう。
そして定時になると部屋から出てきて

「まだ入っちゃだめナリよ」

と僕らに釘を刺し帰宅する。
何度事務所を移転してもそこには奥の部屋があり、二人の無音のプライベートルームとして利用されていた。
二人が何をしていようと文句は言えないし、言うつもりもない。
無能とは言え事務所の顔として矢面に立って仕事をする唐さん、そして事務所の資金面の援助や仕事の紹介をしてくれる洋さんに対して僕は頭を上げられずにいた。
だがなぜか今日の僕はそれだけでは気が済まなかった。

「まったく、何があの人たちを駆り立てるんだろうね山本君」
「はい」

呆れ気味に皮肉を言ってみせると食い気味に返答された。
最近は山本君も嫌に反応が淡泊だ。
僕の同僚の山本君はいつものように足を組んで机の上に放り出し、椅子にもたれかかっている。
彼のそんな態度にもいつしか慣れてしまっていたが、最初の頃の目つきの悪さは今となっては見る影もなく光を失い無気力な人形のようになってしまっていた。
しばらく別の案件を担当していた僕は最近の唐さんの仕事の尻拭いを彼一人にまかせっきりにしてしまい、深夜まで薄らと事務所の明かりがついている日が続いているらしいことをここの管理人さんから聞かされていた。
まぁ、こんな事務所で働いていれば嫌にもなるよな。
僕たちは事務所の奥の部屋に入った事が無い。
最初に立ち上げたクロスの頃から唐さんの希望で個人の空間が欲しいとのことだったので構わないと承諾したはいいものの、それ以前から既に始まっていたこの習慣の後は必ず自分たちの糞尿が詰まったゴミ袋を抱えて二人で部屋に引きこもってしまう。
そして定時になると部屋から出てきて

「まだ入っちゃだめナリよ」

と僕らに釘を刺し帰宅する。
何度事務所を移転してもそこには奥の部屋があり、二人の無音のプライベートルームとして利用されていた。
二人が何をしていようと文句は言えないし、言うつもりもない。
無能とは言え事務所の顔として矢面に立って仕事をする唐さん、そして事務所の資金面の援助や仕事の紹介をしてくれる洋さんに対して僕は頭を上げられずにいた。
だがなぜか今日の僕はそれだけでは気が済まなかった。

「…唐澤、ATSUSHI」

思いがけずにその名を呟いた。
彼らの強い共依存の原因が親子以上に存在するとすればそれは、数十年前に自殺した唐さんの弟であり洋さんの次男のATSUSHI君以外には在り得ない。
ATSUSHI君の事は…よく知らない。
唐さんが当時の事をあまり話したがらなかったからだ。
当然、洋さんにも自殺した息子さんの事なんて聞ける訳が無い。
青春時代に弟を失って、弟のような犠牲者を作らないために弁護士を目指したとだけ大学時代の酒の席で唐さん本人の口から聞いたことがあった。
だが彼は、口を固くキツキツにして閉ざしていた筈の辛い過去の詳細を最近になってあろうことか雑誌やSNSでガバガバに開示し始めていた。
僕は焦点を天井から目の前のパソコンに移し、カタカタカチカチとマウスやキーボードを忙しなくさわさわして唐澤ATSUSHIの自殺事件について調べた、が

「ATSUSHI君の事件は、存在しない…?」

調べてもATSUSHI君に関する記事はなく、出てくるのはいつもの取り留めがなくくだらない情報やデマばかり。
けどその中で目を引いたのは、無人島に漂着した唐さんとATSUSHI君が、飢えに困窮した唐さんが生きる為に仕方なくATSUSHI君を食べたという唐さんのアイデンティティを否定する言説だった。
いつもならこんな妄言など歯牙にもかけない。
だが、思い出してしまった。

『そういえば山岡君知ってるナリか?巷では人のお肉は酸っぱいとか言われているらしいナリよ。でも本当は』
『もう、冗談でもやめてくださいよ唐さん。お酒が不味くなっちゃいますってば』
『ははは、すまんすまんナリですを』

もしこの事がほんの一部分でも本当だとしたら
それはつまり、唐さんの体内に……

『私の中にはいつも弟がいます』

そして洋さんはATSUSHI君の父親であり………血を分ける生産者
唐さんは………血を分けた兄弟
じゃあ彼らは、彼らの脱糞とは……出産とはつまり………

僕はいつのまにかその扉の前に立っていた。
無意識の勇気と好奇心、そして恐怖が僕をここへと導いた。
僕はずっと大きな勘違いをしていた。
ここはもとから普通の法律事務所なんかじゃない。
僕の現実を蝕むそれはずっとこの中にあって、今もここにあり続けていることに!
ドアノブに手をかけたとき、全身に鳥肌が立ち手が震えだした
蛮勇と畏れでは未知の恐怖を克服できるはずも無かった
無知でいる恐怖と知ってしまう事の恐怖で八方塞がりでもこのまま確かめないままなんていられるはずがないだろ
胸が締め付けられ苦しさに自分の意識が遠のき平衡感覚が失われていく
歯がガチガチと音を立てて鼻腔にあの悪臭がまとわりつきだした
そうだ
大声出してかき消せばいいんだ

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

ガチャリと扉が開かれる
開いたのはぼくじゃない
ドアノブを握ったまま震えの止まった僕の手を、クリームパンのように肥大した手が握っていた

「山岡くん、紹介するナリ」

籠ったような熱、湿気、あの悪臭だ
それが何であるかを理解した時、僕の現実となり、僕はかんがえることをやめた。

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