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恒心文庫:パッチンガム

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

都内某所の法律事務所、業務中の静けさを破ったのは後輩の一言だった。
「ひろさん、はいガム」
「ん?あぁ、ありがとう」

パチッ

「痛っ!」
「ははは、引っ掛かった」
「パッチンガムなんて、子供じゃないんだから」
「いやー懐かしくなってつい買っちゃったんすよ、はいこっちは本物」
「まったく・・・」
苦笑いしつつ、ひろさんと呼ばれた男はガムを受けとる、今度は本物のようだ。
ある事務所の午後のひととき、業務の合間の束の間の休息、イタズラ好きな後輩とのありふれた日常、男はいつまでも続くと思っていた。
「しょーへー」
「はい?」
「それ、からさんには、絶対に、やっちゃダメだからね」
「へいへい」
その注意をするまでは・・・

トイレに行くと席を外した後輩、事務所内は静けさを取り戻す。
しかし、中々戻って来ない後輩に男は嫌な予感を感じ始める、そしてその予感は最悪の形で的中してしまうのであった。

静まり返った室内、時計が時を刻む音だけが響いている。
そんな中、あの音が、確かに聞こえた。


パチッ



「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」
先ほどまでの静けさは一転、耳を覆いたくなるほどの奇声、建物を揺らすほどの轟音、後輩の悲痛な叫び声が響き渡る。
そうか、彼はやってしまったのだ、あれほどーーーやるなと言ったのにーーーッ!
ドアがミシミシと悲鳴を上げ隙間から茶色い液体が染み出してくる、後輩の悲鳴はもう聞こえない、否、もう助けを呼ぶ声すら発する事が出来ないのだ、あれに飲まれてしまったのだから。
茶色の濁流がドアを突き破ると同時に男は走り出す、あれに飲まれてはならない、その一心で。
男はそのまま非常階段へ、そして、階段を駆け・・・上がる!
消火器、警備員、元アイドル達、あらゆるものを飲み込みながら迫る茶色い濁流を背に走る姿美しい。
そして屋上に到達、もう逃げ場は無い、だが男は迷わずそのまま手すりを踏み台に跳躍!
綺麗な弧を描きながら隣のグラウンドへ着地した。
振り返った男が見た物はかつての面影などない、ありとあらゆる場所から汚物を垂れ流すビルであった・・・

その後男は弁護士バッジを捨てた、無用心な一言で全てを失ってしまった自分にもう弁護士をやる資格はないと思ったからだ。
そして男は店を持った、自分が壊したあの光景を忘れないために・・・
ここは都内某所のスイーツ店、目玉はモリモリタワーチョコフォンデュ。
ビル型のタワーからチョコが溢れるという斬新なアイディアが話題となり、テレビ、雑誌、ネットで引っ張りだこの今話題の人気店である。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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