マヨケーがポアされたため、現在はロシケーがメインとなっています。

恒心文庫:バロットの殻

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

午後八時。
買い物を済ませ、シャワーを浴びても、あの男がやってくるまでまだ一時間近くある。裕明はひきだしからクリームを取り出し、爪先から丁寧に塗った。これは以前伊勢丹で買ってもらったもので、自分が来るとき必ず塗っておくようにと裕明は男に命じられている。ミルクの甘い香りが輪郭を描き、乳呑み子のようになるのが男にとってたまらなくいいのだという。
その作業が終わると裕明は猫のようにベッドで丸くなったが、ふとLPを出しておくのを忘れたと気付いてぱっと起き上がった。
LPは、あのひとのためにある。前回使用されたのが約一ヶ月前だから、もう随分と埃を被っていて咳が出た。専用のクリーナーで綺麗にみがき、LPの棚を整理し、シガー用の灰皿を出し、換気をしても、まだ時間があった。
読書をして過ごそうかと考えたが集中できず、ベッドの上に逆戻りした裕明は、あのひとが早く来てくれないことに腹立たしさを覚えていた。そして、自分が腹を立てていることに、ひどく困惑していた。
三十分が過ぎた。チャイムが鳴る。
驚くほどの俊敏さで裕明は起き上がり、玄関に向かった。ドアを開けると、彼がいた。
「やあ、こんばんは」
「……こんばんは」
男を部屋に招き入れ、コートを預かりハンガーに掛けた。
「何か飲まれますか」
「いつもと同じでいい。レコードも、きみの好きなものをかけたまえ」
男はそう言ってソファに腰掛けた。裕明は冷蔵庫を開け、彼専用のグラスに氷を三個入れる。先程買ってきたばかりの、ラフロイグというウイスキーを半分まで注ぎ、彼に教わったとおり、グラスのふちを這わせるようにして炭酸を注ぎ入れた。
……いいかい、ソーダを氷に当ててはいけないんだ、余計な泡が立つからね……
男が裕明にはじめて酒の作り方を教えたとき、彼は裕明の後ろに立ち、両手と両手を重ね合わせた。あのときの囁き声、ぬくもりが必ず蘇ってきて、酒を作るとき裕明の手はいつも震えてしまう。スプーンで氷を二、三度持ち上げ、完成したグラスを彼の前に置いた。
「ありがとう」
裕明は軽く頷き、LPの棚でしばし逡巡した。ゲッツ&エヴァンス──ナイトアンドデイが聞きたかった──と迷ったが、ケルンコンサートを指先ですくいとった。慎重に、ケルンのB面をセットした。後半の、泣いているかのようなピアノが室内に切なさをもたらす。
マーラー、ベルリオーズ、ショパン、ドビュッシー……男の好きなクラシックは感傷的になりすぎる。神経過敏ともいえる青年の繊細なたましいには、ジャズがちょうどよかった。
裕明は男の隣に座った。男はシガーをふかしながら言う。
「最近、どうだね。勉強の方は」
「まあまあです」
「サッカーはまだ続けているのか」
「……はい」
「あんなもの、早く辞めてしまいなさい。何度も言っているはずだが」
「来年は院試があるので、僕もそろそろ引退しなければと考えています」
「私が言いたいのはそういうことじゃない。怪我でもして、痕になったらどうする」
……女じゃあるまいし。僕はあなたの人形なんですか、と衝動的に尋ねてしまわないかと、裕明は自分を恐れている。
無駄な質問をしてはいけない。彼の機嫌を損ねてはいけない。
東京に出てきてすぐ働き始めた店を辞めてから、僕の学費や生活費を出しているのはこのひとで、いま、僕のいのちも、身体も、全部このひとのものだ……。
「まあいい。早速で悪いが、これを飲みなさい」
手渡されたのはいつもの睡眠導入剤だ。裕明は男に従った。水色の錠剤を舌の裏に入れて、ベッドに横たわる。
意識が朦朧としてきた頃、男の体重を感じる。服を脱がされているのが分かる。だが、裕明は眠ってしまう。自分が眠っているあいだに何をされているのか、裕明は実感として知ることができない。知っているのは、夢の中で、男が裕明の両手を後ろから掴んで乱暴に腰を叩きつけたことだけだ。
眠っていて、動かないきみが好きなんだ──と男は言う。だから裕明は日曜の朝が嫌いだった。男が訪ねてくるのは必ず土曜の夜で、眠剤の効果が切れ目覚めた朝、部屋にはもう誰もいない。
レコードは止まって、ウイスキーとシガーの残り香だけがぼんやり漂っている。
裕明はゆっくり身体を起こし、窓の外を見つめた。よく晴れている。ベランダに出て風を浴びながら、のしかかる孤独をやり過ごした。
一度でいい。たった一度でいいから僕が起きている間に抱き締めてくれたなら、僕は一生の思い出にする──裕明は目を閉じ、うずくまった。

眠剤が完全に抜け、まともに動けるようになったのは午後だった。
どこかへ行きたいと感じた。財布と煙草だけ持って神田から山手線に乗り、渋谷に向かった。裕明は渋谷が好きだった。あまりにも人がいるから、自分が消えていくような感覚に陥る。電車に揺られながら、あの男に出会ったときのことを考えていた。

あの男は、真性のサディストや、もはや男でなくなった老人がメインの客層だった裕明の、一番の太客だった。
二度目のとき男は裕明の一ヶ月の出勤分をまるまる買い上げた。しかし殆ど毎日彼に会わなければならないというわけではなく、連絡先を教えられ、一度帝劇に芝居を見に行っただけで、基本的には放って置かれた。
要は、出勤するな、つまり他の男に抱かれるな、という意思表示だと、裕明は捉えた。
一ヶ月を過ぎるとまた一ヶ月、さらに一ヶ月が過ぎるとまた一ヶ月。男と裕明の契約はそのたび更新された。
裕明は結局、店を辞めた。ボーイに大金を持ち逃げされないよう、毎日事務所へ足を運ぶのが面倒になったからだ。
逃げるように飛び出した実家からも、口座に毎月入金されているが、一度も手をつけていない。男に寄生していることにかわりはなくとも、親を頼るよりずっとましだと裕明は考えている。

ハチ公口から出て坂道を登り、シネマライズで適当に映画のチケットを買った。あの男が帰ったあとは、自分を見つめなくていい時間も、裕明には必要だった。
上映開始までまだ時間がある。パルコに通じる坂道を更に登り、入った喫茶店でトーストとコーヒーを注文した。
ピークタイムを過ぎたからか、店内は閑散としている。マッチを擦り、煙草に火をつけようとした瞬間、若いウエイターが裕明を見て「あ!」と大声をあげた。裕明は驚いてそちらを見た。ウエイターが早足で近づいてくるので更に驚いた。
「なあ!お前山岡だろ?山岡裕明!」
「はい、そうですが……」
目の前のウエイターは、まるで知己に再会したかのような喜びを露わにしている。だが裕明はその青年を知らない。呆気に取られ、目の前の青年をまじまじと見るほかなかった。
かたそうな髪は短く切られており、筋肉のついた身体は日焼けして小麦色だ。ぱりっとしたワイシャツと黒いサロンエプロン──おそらく制服だろう──は、お世辞にも似合っているとは言い難い。けれど活発で、とても魅力的な男の子だというのが裕明の第一印象だった。

「今日俺ランチ終わったら上がりなんだ!あと五分くらいだから!待ってて!」
ウエイターの勢いに気圧された裕明は「はあ」とぼんやり返事をするほかなかった。嵐のような青年がテーブルを去ったあとも、裕明はぽかんとし続け、煙草の灰をテーブルに落とした。
五分経つと、先ほどの嵐は私服に着替えて裕明の目の前に座った。ラフなグレーのパーカーにジーンズだ。この方がずっと似合っている。彼は馬鹿でかい声で「アイココありで!あと伝票一緒にして!」とカウンターに向かって叫んだ。
「なんで僕と伝票を一緒にするんですか。奢りませんよ」
「ちげーよ、俺と一緒だと社割きいてお前も安くなんの。なあ、それよりさあ、俺のこと分かる?」
記憶をどうにか手繰り寄せたけれど分からなかったので、裕明はそれを正直に伝えた。青年は「なんだよー」と唇を尖らせたが、すぐ「俺、山本祥平!お前と同じ法学部!」と歯を見せて笑った。
「お前と結構講義被ってんのになあ」
「でも、話したことありませんよね」
「だってお前いっつも大学では殺気放ってんじゃん。話しかけづれーよー、でも今日はなんかぼーっとしてるから話しかけてみた」
「はあ、そうなんだ……」
話す気分ではなかった。殺気なんか放っていない、と弁解する気にもなれない。どうにか立ち去ってくれないか、と裕明は思案を巡らせている。ただ、適当に受け流しても、全く気に留めず勝手に話をしてくれるところは裕明にとって有難かった。
「ねえ、俺ずっと気になってたんだけどさ、お前すげーモテんじゃん」
「どうやら」
「俺の女友達もお前のこと好きらしいよ。でも全員振ってる、なんで?なんかの新記録狙ってるとか?」
肘をつき、前のめりになっている祥平に対し、裕明はなるべく素っ気ない言葉を選んだ。
「だって、好きじゃないから。思わせぶりなことして、期待させるほうが可哀想」
「そうかなあ、でもさあ一回くらいヤレ──」
「僕、ゲイなんだ」
すると祥平は、目をまんまるにした。長い沈黙の最中、祥平のオーダーしたアイココが運ばれてきた。アイスココアだった。
裕明は、……大丈夫だよ、きみのことを取って食ったりしないから。と付け加えるべきか迷い、俯いた。立ち去ってほしいから吐いた言葉にも関わらず。
目の前の青年は非常に喋り好きでやかましくはあったが、善人だ。少なくとも裕明の秘密を知って、それを言い訳に笑いものにするタイプではなかった。無闇に男の人を怯えさせるものじゃない──裕明は内省した。

ゲイというだけで避けられる。少なくとも裕明の周囲は、彼に対してそのような態度をとった。
自らの抱える違和感に耐え切れず両親に告白したあの日、母は泣いた。父はお前の育て方が悪かったと言って母をなじり、どこで間違ったのか、と悔しげに拳を握りしめた。
何か間違いがあるとすれば、僕が生まれたことだ、と裕明は思っている。あの日以来、父と母の関係は冷え切った。自分のせいだ。そう考えた彼にとって、自宅はもはや、裕明の居場所ではなかった。
それからは勉強とテストの点数だけが、彼の理解者になった。期待通りの成績が出せず裕明を落胆させることはあっても、父親やかつての友人のように、彼に悪罵を浴びせかけるようなことは、けしてしない。勉強は裕明を否定しない。裏切らない。そして、見捨てない。
それと同時に、裕明の心は牢獄のように頑なになった。心を檻に閉じこめ、ときに毒の矢を放つ。他人を遠ざけることが、彼の処世術になった。
「あ、あのさ」
「……何?」
「お前が言ってくれたから、俺も言うけど、あの……俺も、そう」
「きみもゲイなの?」
「ばっか、声でけーんだよ」
声の大きさについて彼に何か言われる筋合いはない。

「場所、変える?」
「ううん、僕これから映画見るから、いい」
「何見るの?」
「秘密」
本当は分からなかっただけだ。
「当ててやるよ。それは日本兵の幽霊が見える男の子と、ガンの女の子の映画だ。結局死んじゃった女の子のお葬式で、男の子は彼女との楽しかった出来事しか思い出せなくて笑っちゃうの」
「なにそれ。そんな映画あるの?」
「いま考えたから知らない」
裕明は呆れて笑ってしまった。
「話考えるのが上手いんだね」
「うん。俺昔は絵本作家になりたかったの。でも今度また話すよ。急いでるんだろ?」
腕時計を見ると確かにもうすぐ上映時間だ。そろそろ行くよ、と声をかけて伝票を取った。
「待てよ。携帯教えて」
「今持ってない。番号も覚えてない」
「ええ……携帯を携帯しないって、どうよ」
「ごめん」
「ま、いいや」
脇に置いてあるナプキンに祥平はペンで番号を書き入れ、裕明に差し出した。
「俺の番号。あとでかけて」
「ああ……ありがと」
レジに立つと、会計は既に済まされていた。おそらく店長だと思われる紳士が、「あの子にツケておきました。いきなり話しかけたりなどして、迷惑だったのではないですか」と申し訳無さそうに首を傾げた。裕明はかぶりを振った。
「そうですか。よく言えば人懐こい、悪く言えば馴れなれしい子です。やかましいと思ったら拳骨で構いませんよ。遠慮はいりません」
紳士は瞳を弓のように細めて笑った。愛されている。山本くんは、愛される人だ。裕明はそう感じた。

映画が終わって、帰ってきたあとポケットを探った。くしゃくしゃになってしまった紙をきれいに広げ、机の上に置いた。今日、初めて友達ができた。ただの数列なのに裕明は嬉しくなって、その番号をじっと見つめていた。
そして、裕明の携帯に初めて人間の番号が登録された。あの男以外で。

月曜、講義室に向かうと、確かに山本祥平は、いた。裕明を見つけると教科書とノート一式を持って隣に腰掛け、ふくれっつらを見せた。
「すぐ電話くれると思ったのに」
「何を話したらいいのか分からなくて……友達って、毎日電話したりするの?」
裕明は長く一人でいたせいで、友人との付き合い方というものが全く分からなくなっていた。
「そうじゃなくて、お前がかけてくれなかったら俺も番号登録できないじゃん。お前携帯持ち歩かないしよ」
「あ、そっか。でも今日は持ってるよ。休み時間に着信入れとく」
「おー、サンキュー」
祥平が白い歯を見せて笑うのを見て、裕明はなんとなく落ち着かない気持ちになり指をいじくった。
「僕と仲良くして大丈夫なの」
「どういう意味?」
「僕が男の子たちにユーレイって呼ばれてるの、知ってる。あまり話さないし、顔色が悪くて、ふらふらしてるから。誰かの彼女を取ったとか言われたこともあるし。取るわけないのに」
「ふーん?でもそんなのカンケーないよ。俺が誰と仲良くしようと勝手じゃん」

変な人。小さな呟きは講義室のざわめきにかき消された。
祥平はそれから、裕明と行動を共にしたがった。どうしても一人にしておけないとでも言うように。裕明の方も初めこそ戸惑ったが二週間もすると、隣に人がいることに慣れてしまった。

恋愛や、お互いの性癖に触れないことが、暗黙のルールだった。友人として。
共通点があることは喜ばしい。けれど、“そういう”気持ちで一緒にいるのだと、お互いに思われたくなかった。裕明は二周り近く離れたあの男のことをある意味で愛していたし、祥平も一年前に別れたパートナーへの感情を断ち切れていない。だからこそ、全く別の部分で新たな友人と分かり合いたかった。
彼らはよく趣味や自分の好きなものの話をした。

……俺、前に絵本作家になりたかったって話したろ、小学生のときクリスマスプレゼントで貰った本にすごく感動してさ、俺もこのひとみたいに、絵とか物語を作るのが上手かったらきっと、自分の秘密を、分かってくれる人だけに、こっそり打ち明けられると思った、でも俺は絵が下手で、ヘビの絵もゾウの絵も、帽子の絵も描けない、話なんて考えるのはもっと難しかった、それに、作者の気持ちはどうとか、変に誤解されるのも嫌だ、だから諦めた、今は、人の役に立つ仕事がしたい……

「お前は、なんで弁護士になろうと思うの」
裕明は視線を外した。
「儲かるから」
「嘘だろ」
「本当だよ。お金は大事だ」
裕明は嘘をつくとき人の目をまっすぐ見つめ、本当のことを言うとき目をそらす。だから、誰も彼の哀しみに気付かない。
生きていくために身体を換金してしまった彼の哀しみについて。裕明はその哀しみを愛と呼んでいる。自分を買い取った男を愛していると無意識のうちに思い込むことで彼は生きてはいけないのだ。壊れてしまうから。
「お前は愛より金か」
「そういうのやめてよ」
裕明は背後にまとわりつく後ろめたさを隠して笑った。あの男が見張っている気がした。きみは隣人に惹かれているのではないのか。私を裏切る気か、と。
裕明は男を裏切ったりなどしなかった。酔っ払って一度だけ祥平とくちづけを交わしたことがあるが、お互い顔をしかめていた。
「なんか弟とキスしたみたい。きもちわり」
「失礼だな。兄さんの間違いだろ」
二人はすぐに笑った。なんてことなかった。
彼とはずっと友人であり続けると裕明は確信していた。
次の土曜日までは。

「臭い。女の股ぐらのにおいがする」
いつも通り準備を済ませて待っていた裕明に、男は言った。
「それに、ずいぶんと顔色がいい。良いことでもあったのかな。新しい友人が出来たとか」
男の怒りの理由が分からず、戸惑っていた裕明の目が大きく見開かれると、
「ビンゴだ」
と男の口元が歪んだ。笑っているようで、笑っていない。足がすくんで動けなくなった裕明の横を通り過ぎ、男はソファに深く腰掛けた。
「……怒っているんですか」
「いいや。きみの友人に興味が湧いただけだよ」
男がマッチを擦る。火花が散った。
「そうだ、ここにその人間も呼びたまえ。そして私の目の前でまぐわって見せなさい、とびきりいやらしく」
男の言葉が裕明の心臓を焼いた。焼け付いた心臓は血を吐き、今まで一度も口答えしなかった裕明に「嫌です。絶対に嫌だ」と言わせていた。
「僕を好きにしたいなら、ちゃんと僕を理解して」
「理解?」
「愛して。大事にしてよ」
「……私はきみになんでも与えた。この数年きみを自分なりに大事にしてしたつもりだが、まだ不満なのかね」
「僕は何もいらない。だから愛して」
「やれやれ、駄々っ子だな」
「愛して」
「話にならない。愛だと?抗鬱剤でも処方してもらいたいのか?まったく、きみには失望した」
男はため息をついた。シガーの煙が男と裕明のあいだに白い壁を作る。
「以前のきみは神秘的だった」
「……」
「まるで深淵を覗くようだったよ。ゴミ溜めの中で男に股を開いているのに、自分というものを少しも見せない。
しかし、愛されたいなどと口にしたきみは、他の人間と変わらない、ただの俗物に成り下がった。思春期だか反抗期だか知らないがね、ヒステリーを起こすなら他所でやりなさい」
「僕は、あなたのことが、わからない」
裕明は怒りをぐっと堪えて声を絞り出した。
「私も同じだ。選びなさい。ここにいるか、今すぐ出て行くか」
裕明はマンションを飛び出した。
長いあいだ、暗闇の中を一人で走っていた。息が切れ、動けなくなり、道端に座り込んだ。ポケットの中に入れっぱなしだった携帯は、バッテリーが切れかけている。震える手で電話帳を開き、唯一の友達にダイヤルしている途中、バッテリーは完全に無くなった。

……

何時間経ったのか分からない。
よろよろとマンションに戻ると、男が満足げに笑った。
「それでいい」
と言って。

挿絵 

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