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恒心文庫:ダチョウの夢

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

兄さん、と呼ぶ声で目が覚めた。
暗闇の中から浮かび上がってきた顔。
忘れるはずもない、大事な弟。

「アツシ…どうしたナリ…」

寂しげな笑みを浮かべたアツシを見ると辛くなる。
16歳にして命を落とした弟は昔のままで、自分は昔のように何もできないままなのだ。

分かっている。

アツシが姿を見せる。
夢に出てくるということは。

「兄さん、お願いがあるんだ」

「…」

「墓を、僕のお墓を…」

そんなこといっても。

「アツシ、聞いてくれナリ。もうアツシのお墓は無いナリよ。アツシのお墓は…ダチョウのATSUSHIのお墓は…ごんたにとられてしまったナリ…」

それは知ってるよ、とアツシ。
前に現れたときに確かに話した気がする。
その時は、お墓を作ってくれてありがとうと言っていたような…。

「兄さん、聞いて欲しい」

アツシが神妙な顔で切り出す。

「兄さんにお墓を作って貰った後…それは確かにペット用のお墓だったけど…とても嬉しかった。沢山の人がお墓参りに来てくれたから…」

寂しげな笑顔。

「死んでから、いや生まれてからずっと。孤独だった僕にはたまらないほどの幸せだった」

「アツシ…」

「だからね、兄さん。頼みがあるんだ」

数日後。
アツシと夢で別れてから考え続け、結論を出した。

アツシの言うとおりにしてやろう。

父にも母にも内緒で、当職は出掛けた。
手入れの行き届いたそれの写真を撮る。

そして、アツシにお供えを。

アツシは言ったのだ。
沢山の人に会いたい、墓参りして欲しい、と。
そうなればもう、当職にできるのはこれだけ。

墓開示。

どうなるかは分からない。
嫌がらせの炎に油を注ぐ結果になるかもしれない。

それでも。

それでも当職は、アツシの願いを叶えてやりたい。
アツシの命を奪った当職には、その責任がある。

震える身を律し、モニターに向き合う。
そして、当職は書き込んだ。


 28 名前:がん患者さん投稿日:2016/06/11(土) 19:31:17.65 ID:qg0j4/PU0

 1A駝鳥の墓開示


飛べない鳥であるダチョウは、コンプレックスや置かれた状況に対する苛立ちや焦りを象徴するものなのだという。
あの日、何の気なしに選んだ「ダチョウ」という動物は、当職が弟に対して持っていた、コンプレックスの現れだったのかもしれない。


おわり

挿絵

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