恒心文庫:サーカスがやって来る
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その朝目覚めると勃起していた。
朝勃ちというやつだ。
寝間着代わりのスウェットがもっこりと持ちあがり、俗にいうテントを張った状態になっている。
寝相が悪いせいで布団を蹴りとばしているのでよく見えた。
別にそれは大した問題ではない。いつものことである。
いつものことではないことをひとつ挙げるとすれば、そこには親指大の人間らしきものがたくさんいたことであろうか。
「さあさあみんな、朝勃ちテントでサーカスの始まりナリよ~!」
座長らしき肥えた男が陽気な声を出し、横に立つ長身で細身の男がドンドンと小太鼓を叩く。
「ンゴンゴwwwww俺のファイアーダンスを是非見るンゴwwwwwww」
道化師のような衣装を身にまとった、陰茎顔の男が言う。
「ATSUSHIくんの火の輪くぐり! けんまくんとの触れ合いコーナー! 今日は特別にワシの出産も見れるぞ!」
裸の初老男性が楽しそうに両手で腹太鼓を打ち、側にいるダチョウと兎のような生物が鳴き声をあげる。
「王道以外の出し物も見逃せないナリ!」
座長が勢いよく叫び、後ろに固まっている一団を指さす。
「兆海道からの大作家によるSS朗読! 神奈川の不具者による人形劇! 美人弁護士によるセクシー路線! 是非是非見るナリ!」
声に応じてパワー系の青年、ラブドールを小脇に抱えたビッコマン、頭髪の薄いオッサンがそれぞれ手を上げる。
そのとき、周囲から賑やかな声が上がっていることに気づく。
寝ぼけ眼で部屋を見回す。
親指大の人間がいつのまにかそこら中にいた。
一体どうしたことか。体を動かそうとするが動かない。手足を見ると何人もの小人がまとわりついている。
「逃がすんやないで!」「魚拓はとったか!」「垢を乗っ取れ!」
恵体で鳥のような顔をした男、ニコニコした表情の丸っこい男、白いまんじゅうのような生物。
まとわりついた小人たちが叫び、げらげらと笑い始める。邪魔だ。
「サーカスはまだまだ終わらないナリ! 当職とリャマ君の空中ブランコ! 参加者全員によるMEMEMEダンス! そしてぇー……」
座長が溜めを作り、こちらを見る。
目が完全に合った。
何か嫌な予感が走る。身を動かそうと必死にもがくが、体が言うことをきいてくれない。
座長がニヤリと笑うと、威勢よく叫ぶ。
「そして、最後には! バッドポテト君たちによる、テントを燃やす盛大なキャンプファイヤーナリ!」
黒い男たちがぞろぞろと現れた。みな手にナイフと松明を持っている。
なるほど、これでキャンプファイヤーを開催するらしい。勘弁してくれ。
「さあ~それではサーカスの開幕ナリ! 今日は思いっきり楽しんでくれナリよ!」
座長が俺を押さえつけている男たちへぱちりとウィンクを飛ばす。
なぜ連中へ言うのだ?
一瞬考えたがすぐに見当はついた。
俺は観客じゃない。
見世物の一部なんだ。
リンク
- 初出 - デリュケー サーカスがやって来る(魚拓)
- 恒心文庫:出産ショー - 同じく見世物を題材にした小説
- 恒心文庫:デリュ澤ピロシのデリュデリュサーカスの復活 - 同じくサーカスを題材にした作品