恒心文庫:オメガケバブ
本文
チェベキンメツデシュルックオアダイ。荒れ果てた町並みを、オレンジのマーチと青のヴィッツが爆走する。
【エンジン】うおおおおおおおおおおおおおおおおお
唸りを上げるモーター!付かず離れずの位置を、二台の車が並走している。それはお互いに合わせようとしているのではない。お互いを追い越そうとした結果、実力が均衡しているのだ。
まるでお互いを押し上げるような猛々しい走りを見せる二台。
その二台の間を、不思議なことに一本の棒が繋いでいた。
橋渡しをするかの様に間にかけられたそれは、ただの鉄の棒であった。ただ、その鉄の棒には何かが貫かれて風にはためいている。
それは体格の良いメガネの少年であった。肛門から口腔まで鉄の棒に固定された少年の手足が、風に煽られてめちゃくちゃに振られているのだった。
兎にも角にも、そうして走り続ける二台の前に突如現れた断崖絶壁!断崖絶壁の前には兎にも角にも、一台のジャンプ台!今まで並走していた二台の窓が開き、片方からチンコフェイスが、片方からパワー系ガイジが顔を出す。
ジャンプ台の横幅は一台しかない。しかし並走しなければ、車間にかけられている棒が落ち、今日の獲物が無駄になってしまうだろう。
パワー系ガイジが苦虫を噛み潰したような顔でうめく。チンコフェイスが縦に首を振るう。もうジャンプ台は、断崖絶壁は目前に迫っている。
決断しなければ。
「ギア、弄るぞ。」
パワー系ガイジが左手をしこしこと動かして叫ぶ!速度を上げて、片輪ずつジャンプ台に乗りあげれば勢いで突っ切れる!チンコフェイスも答える様に叫ぶが、左手の動きがぎこちない。
父親のことをあまり好いていない息子の本心が、今この時に影響してしまったのだ。心の通じ合っていない二台の車間は、途端に不安定になる。ンゴンゴンゴ!エンストである!しかし車は止まらない!お互いの尻を追いかけ回す様に大きくスピンしながらジャンプ台から放たれた2台は空中でばらばらの方向に向いて断崖絶壁に飛び込んでいく。
そして爆発。壁面に飛び込んだ二台の車は無惨にもひしゃげ、肉片のついたバラバラの鉄くずとなって落ちていく。
「—————————!!!(奇声)」
車間から投げ出された鉄の棒が崖の壁面と並行して落ちる。棒に貫かれたメガネの少年がほとんど塞がった口をぱくつかせ、その隙間から声なき声を漏らす。時折突き出した壁面に掠めそうになる体を必死に縮こませながら、しかし速度を上げて落ちていく。
正直避けるのも限界が近づいている。ふと、少年の脳裏にその言葉をよぎった瞬間、ついに体が壁面に掠めた!少年の右手が弾けて肉片になる。
「—————————!!!(奇声)」
猛烈な勢いで体が回転しはじめる!ンゴッンゴッンゴッ!時折触れる壁面で体が削れていく!肩が、足が、脇腹が!
「唖(ア)唖(ァ)唖(ア)唖(ア)、‥(マーマ)————!!」
そして着弾。バラバラの肉片となって崖を転がり落ちてさらに崖の底に叩きつけられた少年は広範囲に飛び散り、一口サイズで散らかる。
そうして静寂に包まれた崖の底。ヒカリの届かない空間に、人影が一つ、二つと増えていく。
それはチンコフェイスとパワー系ガイジ親子の近隣住民であった。能面のような表情を浮かべ、四つ足で這い回る彼らは、時折足元に散らばる肉片を口元へパクリ。そしてまた這い回る。
彼らは狙っていたのだ。親子をいつも見つめ、近づくものを追い払い、狙っていたのだ。
道を挟んで向かいに住むババアが、車の部品にこびりつく肉片を丹念にしゃぶる。その目にヒカリはない。ただ崖の底の暗闇を映していた。
リンク
- 初出 - デリュケー オメガケバブ(魚拓)