恒心文庫:オメガくん
本文
「あっオメガくん(本名小関○哉無職28歳)ってオメ○に似てるナリ!」
唐突にそう叫んだのは唐澤貴洋(本名唐澤貴洋弁護士39歳弁護士)であった。なるほど、と思った。
唐澤貴洋とは僕の事務所に所属する弁護士である。いや、所属する、という表現も、弁護士である、という記述も、どちらも不適切であるかもしれないのだが、とりあえず取り急ぎその話は置いておこう。ともかく彼、唐澤貴洋は、僕の事務所の、一応共同代表を努める、一応弁護士である。肩書きの上では。
「オメガくん(本名小○直哉無職28歳)ってオ○コに似てるナリ!」
その弁護士一応弁護士が先ほどと同じ台詞を叫ぶ。なるほど、彼は大分精神をやられているらしい。いや、彼が心を病んでいるのは、おそらく父親の肛門から産み落とされて以来ずっとなのだろうが、しかしここ最近は特に病んでいるのだ。
ここで彼、唐澤貴洋弁護士唐澤貴洋の事情について説明しなければならないだろう。彼は弁護士である。しかし数年前に、とある依頼を請け負ったことがきっかけで、ネット上の、まあ何と言うか、多数の熱烈なファン、から慕われることとなってしまった。それ以来、まるで皇族と婚約した一般男性のごとく、一挙手一頭足が注目され衆目に晒される存在となってしまったのだ。
さて、そんな動物園の人寄せ脱糞パンダのような境遇にも慣れつつあった彼、唐澤貴洋であったのだが、ここ最近、特にショッキングな出来事が起きたのだ。これについて僕の口から語るのはあまりに残酷なので、大変申し訳ないのだけれど、ただ一言『鞠遊事件』とだけ口にするに止めさせていただきたい。
ともかく彼、唐澤貴洋は、その想い人を、この上なく残酷な形で失った。それは壊れかけのレディオアクティビティ並みにどうしようもない彼のハートを更に用水路の底に突き落とすのに充分であったことは言うまでもない。
そのような形で愛、すなわち統制された性的欲求を失った男が走る先は、すなわち統制されていない性的欲求発散である。それはしばしば、心ある方々から、性犯罪と呼ばれる類いのものかもしれない。
「○岡さん、あいつ、明日北海道に行くらしいですよ」
航空便のチケットを右手でヒラヒラと弄びながら、後輩の弁護士が言う。何が、らしいですよ、だ。そのチケット取得の手続きを実行したのは他ならぬお前なのに。だが僕は、そんなお前に同調して思わずニヤリと口を歪めてしまうのだ。
「○メコに似てるナリ! オメ○したいナリ!」
壊れた人間を見るのは楽しい。いわゆるエリート街道を進みながら、僕が見つけたたった一つの真実がそれだった。大変不幸なことに、どうやら後輩も僕と同じ宝ものを見つけていたらしい。明日のことを考えると実に残念である。全く。
リンク
- 初出 - デリュケー オメガくん(魚拓)