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恒心文庫:エゴロジー

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

M4

俺に来た最初の依頼は死体の回収だった。
「~~~に行ってそこにある死体を~~~のトラックに載せろ。報酬は前金として30万、成功すればさらに30万上乗せでくれてやる。」失敗したらどうなるかは言わない。依頼者は大体そういうものだ。
俺はその時はまだ未成年でバイト気分だったが、喜んでその奇妙な依頼を引き受けた。

指定された場所に行くと黒モミアゲの男の言っていたとおり何かしらが死んでいた。深夜2時を回っていてほとんど何も見えない状態だったが死臭が漂っているのがわかる。
俺は汚れないように清掃員のような格好でこの仕事をしていた。
まず足のつま先から頭までしっかりあることを確認しようとしたが、頭を引っ張ると胴体からズルズル何かが伸びた。人間の首はここまで伸びるのか、と感心する。
次に担ぐため手の状態を確認する。手はグニョグニョに膨らんでおり、本当に人間なのかどうか怪しかった。
最後に足を確認すると、頭の時のように足もズルグチュッというような不快な音を立てながら伸びた。俺はそれでこの死体は人間ではなく動物か何かのモノだと確信した。
驚いたのは死体の事だけであって他には特に何のトラブルもなく依頼を達成した。
報酬を貰った後、親に昔言われていたことを思い出した。
「自分がやられて嫌なことは人にやってはいけない」
俺は俺みたいなやつに死んだあとトラックに載せられるなんて嫌だ。あの死体には悪いことをしてしまったな、と思った。報酬を貰い終わった後にあの死体の名前を黒モミアゲの男に聞くと素直に答えてくれた(普通依頼の事情を訊くのは御法度だ)。
いつものメモ帳にその名前を書き留めておいた。いつか謝罪の機会が来るだろうと願いながら。あ、もう死んでるんだっけ。

次の黒モミアゲの男からの依頼はある家のマットを盗んで来いというものだった。最初は家の玄関のマットという意味が分からなかったが、言われた通りに盗まないと報酬はもらえない。
さっそくその家の偵察に行く。その家は一般住宅にしか見えず、玄関前に置いてあったマットもボロ雑巾のような至って普通のモノだ。とても30万もの価値があるようには思えない。
様子見してから一か月くらいは張り込んだり情報収集をしようと思っていたが、これなら今すぐにでも盗めそうだ。
丸めて持っていく。途中高校生らしき男がこっちを見たような気がしたが気のせいだろう。
こんなマットが俺の家にあったとして、それが盗まれたところで嫌な思いはしない。拠点に持ち帰ったときそう考え正当化しようと思ったが、勝手に家のモノが盗まれるのはやはり怖いことだ。
八咫烏のポーズをとりつつマットと自分を写真で写す。ダークネットにこの写真を流した。このマットの持ち主ががんばってこの写真をみつけたら俺に盗まれてたんだ、と心からホッとするだろう。
ついでにあの死体の一件のこともメモしておいた。数年間放置していたが、今でもあの異様な死体は覚えている。例えるなら・・・ダチョウ、ダチョウのようだった。
ワードで ダチョウ****の冥福を心から祈ります という文章を書き、マットの写真と同じように流した。ダチョウの****くんが天国から俺の行いを見てくれているならきっと俺に感謝するだろう。

黒モミアゲの男からの最後の依頼は@@@@という男を殺せ、というものだった。報酬は300万が前金、3000万が成功報酬になっている、いわゆる大仕事だ。
自慢のM4A1サイレントカスタムのメンテナンスを始める。明日が本番だ。狙撃には自信がある。今までこいつで何人もの依頼をこなしてきた。そしてまた一人の依頼を達成するであろう。

「唐澤貴洋殺す」

山本 祥平

結局は金で動く安い男、いや、安い駒としてしか俺は見られていないのだろう。社会の大きな流れの前では人ひとりの行動や思念なんて何の影響もない。結局はパラダイムに支配され、民主主義の名のもとにパラドックスを孕んだ道を人々は歩むしかない。
話がまとまらないのは私が非常に、いや、非常事態に動揺しているからであろう。いきなり「@@@@を守れ」と言われてもどうすることもできない。何の脅威から@@@@を守るのかさえ伝えられずにただ大金を渡され命令された。
目も眩むような大金だった。いや、実際に眩んだ。俺はただの歯車として舞わされ、自分が何をどうしたのかも知らずに生きていくのか。そんなことは嫌だ。
俺が弁護士になった理由は、法で真実を暴くためだ。決して同僚のデブを守るためではない。なかった。

結局言われるがままになった。「わからないままなんて そんなのはいやだ」 アンパンマンという作品にはキャラクターが比較的多く登場する。が、それらのキャラクターのどれにも似ていない人物が現実には多くいる。特に@@@@は、カビルンルンという悪役キャラクターにも劣る人間の屑だ。
元同僚兼現同僚であるが、@@@@が大袈裟に言って死んだところで俺は嫌な思いをしない。
そんな@@@@をある日俺を呼び出してきた大物会長が守れと言ってきた。困惑・唖然とする俺に対しその人物は「事情は訊くな、とにかく守れ」そうピシャリと言うとそのまま俺を帰した。

ここで突然の告白だが、俺は超能力が使える。物を自由自在に変形させることができるのだ。例えば固い鉄の棒を簡単に曲げたり、ガラスを割らずに変形させたり。
昔はスプーン曲げで友達に自慢したりしていたが、だんだん自分の力が怖くなってこの能力を次第に使わなくなっていった。
代わりに、13の時から法律を熱心に勉強し始めた。特殊な力ではなく法の力を身につけたい。これも弁護士を目指した理由の一つだ。
もしかすると、俺に命令してきた会長は俺に超能力があることを知っているのかもしれない。
成人してからはほとんどこの能力を使ったことはなかったが、何度かこの能力を使いこなすため公園で練習したことがあった。これを誰かが見て、その情報を会長が知ったのかもしれない。
単なる憶測で、可能性に過ぎないが。

守れという言葉が 物理的に危険なこと(例えばトラックに轢かれるだとか)からなのか、社会的に・精神的に危険なこと(裁判で負けたり)からなのかが肝だろう。
普通に考えれば後者だが、会長は様々な権力者や情報網と関わりを持っていると聞く。
これでもし@@@@を俺が守れなかったら会長から何をされるかわからない。が、守れば会ったときに貰った大金をそのまま貰えるだろう。
どちらを選ばなければならないのかは明白だ。が、歯車として動かされる抵抗感が俺の心にある言葉を囁く。

「唐澤貴洋殺せ」

松本 智津夫

地下の息苦しい牢獄に俺はいつから閉じ込められていただろうか。
俺には超越神力がある。それは本当だ。だが、この能力は空中浮遊やテレパシー、ましてや他人を容易にポアできるようなものではない。
私の超越神力、つまり超能力は金属を装備している人間に対し幻覚を見せることができるというものだ。
今までこの能力を使い教徒を束ねてきた。が、この能力を知ったヤツらは金属を持たずに本部を強襲してきた。あっけなく捕まって今じゃプラスチック製の牢屋の中だが、ある日番人がこう命令してきた。
「出ろ、面会の時間だ」 政治や軍事の上位者と何度か面会したことはあったが、俺の能力に関する話ばかりだった。
今回の面会も同じような内容のものだったが、違う内容と言えば違う話だ。
「ある人物を殺してくれないか?」 
~~会幹部と書かれたネームカードを首に下げた男が頼んでくる。こいつも金属は身につけていない。
「なんで俺が」 「お前じゃないと殺せないからだ。」
俺じゃないと殺せない?そいつは人間なんだろうな?
「殺してくれれば事情聴取中という名目で無期懲役くらいの刑にできる。このままいけばお前は電気イスにも座れず、銃で撃たれることもなく、その能力の研究のために麻酔をせずに解剖されるぞ。」
「・・・。」
痛いのは嫌だ。暴力はNG。やるしかないだろう。
「わかった。引き受けよう。」
「極秘釈放の条件として爆発する首輪と小型無線機をつけてもらう。この首輪の爆発条件は強い衝撃をうけたとき、見張りの者が持つスイッチが押された時、つまり指示以外の行動をとった時 の二つだ。」
「殺人対象の詳細情報はまた来た時に伝える。釈放期間は一週間、その間に対象を殺せ。できるか?」
「・・・、わかった。」
「よし、それとその汚い紫のポンチョも着替えさせておけ」「わかりました」
番人が敬礼し応える。やはり社会的地位は高いらしい。まぁ俺に会いに来れただけでもそれは確定していたのだが。
この服も最初は意地を張って脱がなかったが今じゃ服なんてどうでもよかった。どうせ死ぬならもう一度だけ太陽を拝んでおきたい。
「一つ質問してもいいか?」 「なんだ?」
「対象人物の名前は?」 「・・・、@@@@だ。」「わかった。」

「唐澤貴洋殺す」
俺は解脱を果たしたグルとして、最後のニルヴァ―ニングを開始した。

唐澤 貴洋

兄はすごかった。なんでもできた。スポーツと勉強はもちろん、イケメンだったし誰にでも優しい模範的な兄だった。
対して俺はその真逆で、何もできない性格の悪いデブだった。
産まれる前から俺は兄に劣っていた。兄は母と父の3回目の性交の時、中出しで母が孕んだらしい。一方俺は母と父の肛姦プレイの時の垂れた精液で母が偶然――両親からしたら不幸にも、だろうが――孕んで生まれたのが俺らしい。
俺は兄と何度も比べられ、卑下されてきた。兄はその度に俺を庇ったが俺には兄が腹の中ではほくそ笑んでいるようにしか思えなかった。

それはクラスメイトに虐められ、いつもの公園でいつもの缶を口にしていた時のことだった。その日は雨が降っていただろうか
「君、兄に成り代わってみないかい?」男が話しかけてきた。
大人から知らない人に声をかけられても返事をしてはいけないだとかすぐに逃げなさいだとか教わっていたが、どうせ俺は不出来な弟なんだ、とひねくれていた俺はその男に疑怖の念を抱くと同時に興味を持った。
「成り代われるなら」「ああ、成り代われるさ」

それから手術の話を聞いた。人が臓器提供で移植された臓器を使用すると、その臓器の持ち主の個性が被移植者にも伝わるらしい。簡単に言うと胃を移植した場合元の胃の持ち主がりんごが好物だったなら、移植された人間もりんごが好物になるらしい。
それと同じように有能な者の部位を移植し、俺が有能になれる手術をするというのだ。正直言って胡散臭いと思ったし最悪俺の臓器を取って闇市場にでも出す気なんじゃないのかと思ったが別に死んだところで嫌な思いはしないので男の話に乗った。

数日後、兄が行方不明になった。そして俺は手術を受けた。

親は兄が行方不明になってから警察に捜査依頼を出したが見つからなかった。俺は嫌な思いどころか良い気味だとさえ思っていた。が、両親は違った(当たり前だが)。
行方不明になってさらに数日後、母が朝食の時口にした「なんであの子を・・・」という言葉を俺は聞き逃さなかった。いなくなるなら俺の方が良かったと両親までもが思っていたことを俺はこの時初めて知った。
俺は手術を受ける度に賢く、強くなっていった。虐められることはなくなり、周囲からも有能として認められ始めた。
13回目の手術を終えたときには両親だけでなく周囲の人間も俺の事を兄の名前で呼ぶようになった。俺も兄の名を名乗った。皆が俺は兄のような有能だとアイデンティファイしてくれる。いや、俺が兄であると。
私の中にはいつも兄がいます。

30回目の手術を終えると、男は「これで最後だ、君は完成した」と言ってきた。今までの手術費用や臓器代をどうするのか尋ねると、そんなものはいらないと言ってきた。代わりに働いてくれ、とも。

異能に気付いたのは男にアレをさせられてからだ。ビー玉サイズの木製の球と鉄製の球を無理矢理飲み込まさせられた。そして、排便剤を飲まされてそれらを排出すると、なんと米粒ほどの大きさに、しかも一つになってそれらは出てきた。よく見ると鉄のような木でできている、つまり鉄と木が入り混じっていた。質量保存の法則も働いていて、小さいながらに重みはある。
男は思惑通りという笑みを浮かべながら、俺がバケツに向かってそれを排便する姿を見ていた。
それからというもの国内・国外問わずどこかの公施設――それも一般男性じゃ入口にすら入れない場所だ――に連れて行かされ、変な棒を飲み込んで凝縮、排出するという仕事をこなした。仕事を終えた後は体を一時間念入りに洗浄される。変な装置にも何度かかけられた。
仕事をしてもらうと言われた時今度こそアフリカかどこかで奴隷のように働せられると思っていたが、食べて出すだけの簡単な仕事だったので拍子抜けしてしまった。それにこの仕事自体二カ月に一度やるかやらないかという頻度のみでやっていたし、今までしてくれた事に体で応えているつもりだったのに高額な給料も出してくれたので、正直本職である弁護士の仕事の方がつらい。
それに仕事のことよりもこの食べたものを凝縮する能力の事の方が気になった。


確かその日も雨が降っていた。ほんのちょっと魔がさした。俺が仕事をしている時、男や他のスーツを着た連中は俺が仕事をしているところを見ておらず、俺が体を洗浄されるところだけを見ているらしい。普段食べた棒は何らかの装置に排出しなければならないが、俺はそれに気付き棒を食べたまま仕事を終え、家に帰った。
家で宇宙ステーションに見学に行ったと言う同僚からお土産として貰ったロケットの模型を食べた。これも同僚への愛情表現のつもりでいつもやっていることだが、その日ロケットを食べたのはたまたまだ。
散歩中に草むらでそれらを排便した。この行為すらも偶然だったわけだが、奇跡的に偶然が重なると起きるのは感激か過激のどちらかだけだということをその時思い知った。

その排出物は尻から出た瞬間猛烈な勢いで空高く舞い上がっていった。

次の日の朝、ニュースではとある宗教の過激派組織の本部が虎ノ門から発射された謎の飛翔体により迫撃を受け壊滅したことを報道していたが目にもとめなかった。
昼に男から電話でもう仕事はしなくていいと優しい声で言われた。俺は男に今までしてくれた事への感謝の言葉を伝え、電話を切った。男は俺にとって、シンデレラに出てくるカボチャの魔女だ。
これからは弁護士一筋で歩んでいかなければならないが、ガラスの靴を履いた俺にはもう恐れるものは何もない。
声なき声に力を。

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