恒心文庫:ウサギ
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本文
「ウサギは寂しいと死んじまうんだよぉ!」
唐突に首を鷲掴みされた貴洋は、そのまま地面へと叩きつけられた。地面は灰色のコンクリートである。衝撃にぼやける視界、貴洋は自分に馬乗りになる男の姿を見た。
初老の男である。胸と局部だけをピンク色の薄い布地で抑え、その端からは弛んだ贅肉を溢れさせている。男の顔面は逆光で真っ黒に染まり、荒い呼吸とともに震える輪郭の中で目玉だけが白くギラついている。その太陽が見え隠れする頭部から、何やら細長いものが二本揺れている。
それはもみあげであった。人の腕ほど長いもみあげが、側頭部にくくられて上を向いて揺れているのだ。まるでそれはウサギの様に見えた。
「たかひろっ、たかひろぉっ」
切なげに言葉を繰り返す男は、洋であった。洋がバニーガールの格好を模して、貴洋に覆い被さっていた。
そういえば、最近相手、してなかったな。
貴洋はそう思って、ふと横に目をやった。
そこには、力任せに引き裂かれた袋の様なものが散らばっていた。肌色に塗られたそれは、辛うじて人型を保ち、その虚ろな目を貴洋に向けていた。
ラブドールである。散々使用されくたびれたところを、嫉妬で狂った洋が切り裂いたのである。貴洋は不敵な笑みを浮かべると再び上を向く。
ゆっくりと、尻が落ちてきた。
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