恒心文庫:もんじゃ焼き
本文
私はもんじゃ焼きが好きだ。
幼い頃に駄菓子屋のおばあちゃんが焼いてくれたのを初めて食べてからというもの、その存在は他の好物とは少し違った特別なものとなった。
よく火を通してから食べるもよし、少し柔らかい部分をヘラで掬って食べるもよし、食べ方、味付け共にお好み焼きとは違った自由さがそこにはある。
会長という地位に立ち、多くの業界と交流を深める中では口にすることのないもんじゃ焼き。
今日は仕事も無く自由な時間を確保しているので、その自由を存分に活かすことのできるもんじゃ焼きを作ろうと思う。
用意するのはホットプレート、ヘラ、もんじゃの具、ダシ、そして洋と下剤、拘束具、特注のアナルプラグ、内視鏡、チューブ、タンク、ポンプである。
まず、もんじゃの具を細かく刻みダシに加える。
先に具を鉄板で炒め、土手を作ってダシを流し込むのがオーソドックスな作り方だが私は先に具とダシを混ぜる方が好みだ。
そしてできたもんじゃの素をタンクに流し込む。タンクにはポンプ、チューブが接続され、ポンプを押すと素がチューブへ押し出される仕組みである。
次に、四つん這いに拘束した洋の肛門に特注のアナルプラグを挿入する。
アナルプラグの中央部にはゴムでできた穴があり、ここから内視鏡とチューブを挿入する。
内視鏡はチューブと合体しており、ポンプを押せばもんじゃの素が内視鏡の先端付近から出るようになっている。
事前に浣腸をしておいたため、大腸内は綺麗なピンク色だ。モニターで腸内を確認しつつ、少しずつ内視鏡を押し込んでいく。
直腸からS状結腸へ差し掛かったあたりで洋が呻き声を上げ、腹の中で蠢く内視鏡から逃れようと身をよじる。
そのまま強引に押し込み、下行結腸、横行結腸、上行結腸と内視鏡を進めていく。脂汗を垂らしながら体内を蠢く触手から身をよじる洋。
盲腸に差し掛かったところで一旦手を止め、内視鏡を遠隔操作するためのリモコンを手に取る。
大腸と小腸を分かつ回盲弁に内視鏡をねじ込むためだ。回盲弁に内視鏡の先端が触れる。
本来大腸から小腸への逆流を防ぐための弁であり、当然そこに異物がねじ込まれることなど想定した造りにはなっていない。
動く限り手足をばたつかせ、脂汗を撒き散らして吼える洋。
5分程の格闘の末、ようやく内視鏡を小腸へ挿入することができた。さて、ここからが長い旅だ。
おおよそ5メートルはある小腸を傷つけないよう慎重に内視鏡の歩みを進める。
ここで、私がなぜこんな回りくどいことをしているのかを説明しよう。
もんじゃ焼きを食べたことの無い人は結構いるだろう。関西圏ではほとんど食べることは無いという。
そういう地域では、もんじゃ焼きといえば専らその吐瀉物のような見た目が話題になる。
しかし、その吐瀉物のような見た目の液体が過熱され、湯気を立てて芳ばしい匂いを放ちながら徐々にもんじゃの形を成して行く、
汚物から料理への変貌がもんじゃ焼きの魅力だと私は思うのだ。
私はその吐瀉物という負の部分にもこだわり、もんじゃを作るときは洋にもんじゃの素を飲ませ、
腹を殴る蹴るして攪拌させたものを吐き出させたものを使っていた。
しかし、それだけでは足りない。上から下へ出すことが出来るなら、下から上に出すこともできるはずた。
計画はこうだ。まず、肛門から内視鏡を挿入し、大腸、小腸、胃へと進む。そこにポンプを使いもんじゃの素を流し込む。
胃がいっぱいになったところでもんじゃの素を流し込むのはそのままに内視鏡を少しずつ引き抜き、小腸にもんじゃの素を充填する。
同様に大腸にももんじゃの素を充填したのち、強力な下剤を肛門から投与し強烈な便意を引き起こす。
ニュートンの振り子はご存知だろう。一方から加えられた衝撃は球を伝わり一旦もう一方へと伝わる。
強烈な便意により肛門へ殺到したもんじゃの素は、強固に嵌められたアナルプラグに阻まれて勢いそのままに逆流し、
緩んだ回盲弁、胃と小腸の繋ぎ目である幽門を経て胃、噴門、食道を通って口腔へと至る、という寸法である。
本来ならば下から出るはずの物を上から吐き出させる。これこそが私の考える文字通り腹の底からの吐瀉物である。
さて、説明している間に内視鏡が十二指腸に到達したようだ。洋の脂汗は床に水溜りを作り、黒光りする肥えた体がてらてらと映し出されている。
体を動かすと苦痛が増すと理解したのか、その容態とは対照的に洋はぴくりとも動かない。
そんな洋を見ながら私は内視鏡を幽門、小腸と胃を隔てる部位に突っ込んだ。
一瞬目を見開き、体を僅かに反らす洋。しかし直ぐに体勢を戻し元の体位、苦痛を最小化する姿勢に戻る。
一方で脂汗はいよいよ勢いを増し、洋の苦しみが手に取るようにわかる。長い旅は往路を終えて復路へと帰る。
ポンプのスイッチを押すと機械音とともに徐々にタンク内のもんじゃの素がチューブへ押し出される。
全長7、8メートル程のチューブを充填するため、もんじゃの素も結構な量がある。
食べきれるかな?今更ながら素朴な疑問を抱く私を尻目にもんじゃの素はチューブをどんどん登り、モニターには白濁した液体が映り始めた。
ここからはさらに慎重に手を進める。洋の腹の具合を確かめつつ、私は内視鏡をゆっくりと引き抜いていく。
もんじゃの素で視界が効かない分、想像力を掻き立てつつ手の感覚に意識を集中する。
肛門を始め、消化管の各部位から生じる異物が引き抜かれる快感と、同時に新たに消化管を異物が満たす苦痛が洋を苛む。
身じろぎこそしないものの、吐き気を堪える苦悶の表情と粘り気のある汗が雄弁にその異次元の感覚を物語っている。
ゆっくりと内視鏡を引き抜く最中、胃が内容物を吐き出そうと蠕くのか、洋が絶えずえずく。私は吐かないようにと言付けながら手を早める。
幸い内視鏡は何事もなく抜き終わった。洋の腹はもんじゃの素で充填され、妊婦とは違った異様な膨れ方をしている。
最後の仕上げだ。私はアナルプラグのゴム穴(弁になっており直腸からは液体を漏らすことは無い)から下剤を注入する。
5分もしないうちに洋がこれまでにない苦悶の表情を浮かべ、今までの努力を打ち砕くかのように体を忙しなくばたつかせる。
もはや体液すら尽きたのか、体は粘液のような脂汗で覆われている。必死のいきみも肛門からの解放には叶わず、一転その圧力は逆方向に向かう。
刹那、洋は凄まじい音を立てて嘔吐した。胃液とまざったもんじゃの素。一旦嘔吐が治るとほどなくして第二波、小腸からの逆流が始まった。
胃からのとは違いほぼそのままで出てくるもんじゃの素に未消化のコーンやニラが彩りを添える。
チョロチョロと小出しではあったが、30分ほどして小腸に充填した分を吐き終わり洋はだいぶ楽になったようで、
大腸から小腸へと逆流しつつあるもんじゃの素との孤独な格闘を始めた。
一方で吐き出されたもんじゃの素の量は想像を超えていたため、私は大腸の内容物はそのままに、
ひとまず胃と小腸から吐き出された吐瀉物でもんじゃを作ることにした。
ホットプレートが熱気を放ち、酸っぱい匂いのするもんじゃの素が湯気を立てて降り立つ。
芳ばしい香りと懐かしいあの音。子供の頃の郷愁に浸りつつ私はヘラを取った。
しばらくして私の腹も膨れた頃、ぐぼっと音を立て、洋の口から一筋の糸が垂れ、それっきり動かなくなった。
リンク
- 初出 - デリュケー もんじゃ焼き(魚拓)
- 恒心文庫:もんじゃ - 同じくもんじゃ焼きを題材としたデリュケー小説