マヨケーがポアされたため、現在はロシケーがメインとなっています。

恒心文庫:とうしょくのなつやすみ

提供:唐澤貴洋Wiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

本文

ああ、夏休みも今日で終わりだな。
蒸し暑い夏の昼下がりにガリガリ君をかじりながら唐澤貴洋はそう思った。
両親の実家への帰省や海水浴などこの約2ヶ月間夏の思い出になる事はしたものの掴みようのないモヤモヤした感情に覆われながら過ごした。
今後の進路は父洋に言われるがままに中高一貫校を受験する事になっているのも一因だ。
果たしてこれでいいのか?
ここで中学受験をすれば俺の人生は豊かになるのか?
地位と富のある親のレールに乗りっぱなしで本当に俺の人生は満たされるのか?
そんな考えが堂々巡りし日々唐澤貴洋の心は暗くなる。
しかし考えて見ればまだ俺は小学生なのだ。
先は長い。 これからの生き方次第でどうにでもできるだろう。 唐澤貴洋はそう思う事にした。
そして何事も無く夜も更け、最後の絵日記のページに適当な事柄を綴り唐澤貴洋は床に着いた。

唐澤貴洋は冷たい水を掛けられたかのように突然ハッと目が覚めた。
それも嫌な予感(そして悪寒)を全身に走らせながらだ。
この感覚がするのは決まってあの時だ。 貴洋は恐る恐る目覚まし時計を手に取り刻まれている時刻を見てみた。
やはりそうだった。
登校日に起きるべき時間より大幅に遅れている。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
寝坊とは言え始業式の日に欠席ではお話しにならない。 急がねば。 声にならない声をあげドタドタと足音を鳴らし居間に転がり込んだ。
「お父さん!お母さん!どうして始業式の日に起こしてくれなかったんだ!これじゃ遅刻じゃないか!」
「何言っとるんぢゃ貴洋、今日も夏休みのはずだぞ。」
「そんなはずは無___」
そう言いかけた貴洋は今日二度目の、それも生まれて始めてと言って良い程の衝撃的シーンを彼は目にした。
父洋は褌姿で優雅に朝食を摂っていたのだ。
どんな時でも身なりは整え常にブリーフを下着として穿いていた父がだ。
「せっかく今日は珍しく家族揃って朝食が摂れるんぢゃ、良い子にしてなさい。」
「そうよ、こんなにうるさいと近所迷惑になるわよ。」
母厚子はゲームに出てきたトロールの様な風体をしている。
「始業式の日だなんて驚かせないでよ兄さん。」
弟厚史は最早人間の形を留めていない。 ダチョウの姿になっている。
おかしい。おかしい。俺は何を見ているんだ。
貴洋は段々頭がクラクラしてきた。
「ほらカレンダーを見てごらん貴洋、今日も明日も明後日も明々後日もそのまた次の日も何日でも何日でも何日でも何日でも何日でも何日でも夏休みなんぢゃよ」
そのカレンダーはどこをめくってもどの日付のマスを見ても8月31日を示していた。
「実を言うとまだ終わってない宿題があるんだ、兄さん助けてよ。」
「あら悪い子ね厚史。宿題と言うのは7月の内に終わらせるべきものなのよフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」
「さあ貴洋、今日の朝食はワシの産みたて卵で作ったオムレツぢゃよ。おいしいから食べてごらん」
「ニイサん今うハ多摩川に遊ビにイコォオォォォオオォォォォオ…」
目に映る風景が歪んでいく。家族の顔が乱れていく。聴こえる音が狂っていく。平衡感覚がグラグラと揺れていく。
頭の中で何かが畝っているのがわかる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」
絶叫脱糞と共に貴洋の意識はストンと落ちた。

目覚まし時計が鳴らすけたたましい音で貴洋は再び目覚めた。
全身にびっしりと寝汗が滴っている。
夢うつつの中混乱しながら貴洋は時刻を確認した。
大丈夫、早起きしている。貴洋はとりあえず安堵した。
しばし朝の光に当たり、顔を洗う事で少しずつ現実の状況を思い出していった。
「良かった…今まで見ていたのは夢だったナリね。弁護士として初めての勤務で遅刻したらどうしようと思っていたナリ。」
彼は臥薪嘗胆の末ついに坂本総合法律事務所に就職が決まったのだった。 今日が初出勤の日である。
「これからは当職は弁護士ナリ。忙しい日々が始まる。」
否、もしかすると唐澤貴洋が見た夢は正夢だったと言えるのかも知れない。
この日を境に彼は弁護士ごっこで遊ぶ一生をかけた「夏休み」を過ごす事になるのだから…

リンク

恒心文庫
メインページ ・ この作品をウォッチする ・ 全作品一覧 ・ 本棚 ・ おまかせ表示