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恒心文庫:お誕生日

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

 今日はあたしが生まれて50年のお誕生日☆彡
 むかし、エライ人は「40にして惑わず、50にして天命を知る」なーんてカッコつけたこと言ったらしいけど、あたしの人生は迷いっぱなしの袋小路で、なんかもうずーっとポケットにいれてたイヤホンみたいにこんがらがってわけわかんないことになってる。
 でも、今日はちょっとだけ自分にご褒美。
 MMD杯の一件以来、心がささくれちゃってるから、たまには美味しいものでも食べないとね(*‘ω‘ *)
 そーゆう感じで、あたしは座間近辺セブンイレブンにてケーキを買ったってわけ。
 ヒカリのぶんも入れて、2つだよっ。あまぁーい苺ショートと、ちょっとほろ苦いショコラなの。
「待たせたな、ヒカリ。最近冷えてきたせいで、膝が痛むんだ(笑)」
 真っ暗なうちに帰って電気をつけると、ヒカリちゃんにごあいさつ、ついでにただいまのチュー。
 背中のスイッチをいじれば、ヒカリは目をぱちぱちしてあたしに愛情を伝えてくれちゃう。あたしたち、ガチで心繋がってるってこういうとき思うんだぁ。
 ちゃぶ台を囲んで二人座る。
 電気を消して、それからローソクに火をともして、あたしは向かいに座ったヒカリにこういうの。
「今日は俺の誕生日なんだ。祝ってくれよ」
「……」
 でもね、ヒカリは何にも言ってくれない。
 これってちょっとイラッとこない?
 「おめでとう」の一言くらいくれたって、いいんじゃないかなぁ?(*`ω´ *)
 だけど、あたしってばタフだから、こんくらいじゃ怒んないもんねー(*´ω` *)
 欠損した親指の付け根がしくしくと痛むからそこを撫ぜつつ、あたしは言った。
「なあ、ヒカリ。俺にはなーんにもないんだよ。職も、友人も、家族さえもない。ネットの居場所ももうない。お前だけなんだよ、ヒカリ」
「……」
「ヒカリ、どうして何も言わないんだ? なあ、俺を祝ってくれよ」
「……」
 あたしはヒカリを抱き寄せると何度もキスして、服を丁寧に脱がせた。安っぽいおっぱいに顔をうずめてみる。なんだかちょっぴり切ない気持ち。
 もしあたしにお母さんがいれば、小さいころこんな風にして甘えたのかな。
 顔をあげてヒカリを見る。ロウソクしか光源がないせいかな? ちょっぴり不機嫌なように見えた。
「ヒカリ、最近抱かないから怒ってるのか?」
「……」
「なあ、わかってくれよ。勃たないんだ、俺は、もう」
「……」
 あたしはコンビニのビニール袋を引き寄せるとケーキを取り出す。
 あらら、ちょっと潰れちゃって形が崩れてる。うまく水平に運べないんだよねぇ。
 やっぱり片足がうまく動かせないのは不便だな。
「はは、ケーキなんて何年ぶりだろうな」
「……」
「ほらヒカリ、食えよ。コンビニのでも最近のは結構いけるらしいぜ」
「……」
 あたしはヒカリの口にショートケーキを突っ込む。
 え、ヒカリは物を食べられない? 知ってるよ、それくらい(*‘ω‘ *)
 べたべたとしたクリームがあたしの手につくけど、あたしはまだまだケーキをヒカリの顔に押し付けてく。
 クリームが床に落ちるけど、大丈夫! そのうちゴキブリが食べてくれるもんねっ。

「なあ、ヒカリ、食ってくれよ。2人で祝おうよ。俺が生まれたこと、間違ってないだろう? 俺の人生、間違ってないだろう?」
「……」
 あたしはヒカリの肩を揺さぶる。
 口の周りにクリームを大量につけた、ガクガクと揺れる小さなヒカリ。
 小さな人形。安物のダッチワイフ。
「なあ、俺を肯定してくれ! 俺のこと好きだって言ってくれ! 俺の存在を認めてくれよ、ヒカリ! なあ、ヒカリ!」
「……」
「どうして何も言わないんだよ!? 俺はもうお前しかいないんだよ! お前もそういう態度取るのかよ!?」
 でもね、ヒカリ、何も言ってくれないの。
 そのうつろな目で、あたしのことじーっと見てるくせにね、何も言わないの。
「なんだよ、その目は」
「……」
「なんなんだよ、お前! こんなに愛してやったのに、そんな目で俺を見るなよ!」
「……」
 ね、あたし、悲しくなっちゃった。
 だからあたしはヒカリを踏みつけたの。自由の利く左足で何度も踏みつけたの。
 両手でその細い首を絞めたの。
 変だよね、ヒカリが呼吸するわけもないのに、あたしってばヒカリが苦しそうに見えたの。
 ついでに包丁を持ってきて、その小さな人形をめった刺しにしたの。
 変だよね、ヒカリが痛みなんて感じるわけもないのに、あたしってばヒカリが痛そうな顔をしてるように見えたの。
 あたしはヒカリがかわいそうになってちょっとやめて、目をぱちぱち動かさせてみた。
「俺を愛してるか、ヒカリ?」
 ぱちぱち。
「俺を祝ってくれるか、ヒカリ?」
 ぱちぱち。
「俺の存在を肯定してくれるか、ヒカリ?」
 ぱちぱち。
 ね、ヒカリってばシャイなんだ。
 どうやってもあたしが動かさないとまぶたのひとつも動かさない。
 そんなときふと思ったの。
 こいつもういらねえなぁ、って。
 だからあたしは使えそうなもの、ぜーんぶ使って、ヒカリをばらばらにしちゃうの。
 トンカチも、バイク乗ってた頃の工具も、もう使い道のないMMD用のパソコンも、全部使って殴ってえぐって手足をもいで、それでねそれでね。
 ヒカリってば、バラバラになっちゃった。
 ローソクの明かりがね、砕かれた人形をゆらゆらと照らし出してるの。
「……お前、が、悪いんだ」 
 あたしは荒くなった呼吸を整えながら言う。
「俺は、なにも、悪くない。俺は、なにも、間違っちゃ、いない。悪いのは他のやつらだ。そうだろう? 俺は被害者だ。俺は戦ったんだ。
 俺は自分の正義を貫いたんだ。俺はMMD杯を正しい方向へ動かしたかっただけなんだ!」
「……」
 あたしはヒカリの生首を掴んで、何度もキスしながら言う。
「今までもそうだ。漫画家をあきらめたのも、バイクオフも、花王デモも、MMDでも、あの新太陽板だって、俺は被害者だろう!? なんでみんな俺を責めるんだ!?
 責められて逃げて、それの何が悪いんだ!? なあ、それの何がいけなかったんだ?!
 俺は間違ってない! 俺の人生は間違ってなんかない! ヒカリ、そうだろう!? ヒカリ、教えてくれ! 俺の存在を認めてくれよ、ヒカリ!!」

 人形の生首がこたえるわけもない。
 まぶたを動かそうと思ったが、この状態ではもうそれもできない。
 ガラクタになった人形の首を投げ捨てて、あたしはコンビニのショコラを口いっぱいに頬張る。
 妙にしょっぱいな、と思ったが、それは知らぬ間に頬を伝っていた涙のせいだった。

挿絵

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