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恒心文庫:おーいもってけ

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

都会とも田舎とも言えない町に住んでいるエイチ氏はここ最近不思議な現象に悩まされていた。家の玄関先に置かれたものが次々に消えていくのである。
玄関マットが消え、うさぎの置物が消えた。片付けた覚えもないので不思議だなと感じていたが、そのうち鉢植えや傘立てまでもが消え、エイチ氏は混乱した。
はじめのうちは泥棒かと思った。しかし、なくなったものは大して価値のないガラクタの類いであり、そんなものを泥棒が盗むわけもない。
次に、嫌がらせをされているのかと考えたが、やはりガラクタの類いをとっていったところで嫌がらせにはならない。
気味悪く感じたので警察に相談をしたが、なにも手がかりはなかったので捜査は進展しない。
防犯カメラを設置し誰がとっていくのかを見ようとしたが、なぜかモノが消える日に限ってカメラが故障し、なにも撮れなくなってしまった。
ならば自分の目で見てやろうとこっそりと隠れ寝ずの番をしようとしたが、気づくと寝てしまっていてその間にちゃんとモノはなくなってしまっている。
こうなるともうお手上げである。ひとまず玄関先に何も置かないことにした。
こうするととられるモノはなにもないのでなにも起きないのである。
しかし気を抜いて、例えば傘を玄関先においておくと翌朝には消えてしまう。
友人たちに話をしてもそんな現象にあったことはないと取り合ってくれない。
エイチ氏が玄関先に何も置かずに数ヶ月が経った頃、エイチ氏のもとに男が訪ねてきた。
「こんにちは。エイチさんですね」
スーツを着たその男はエイチ氏に挨拶をしながら名刺を差し出した。
そこにはある役所の名前が書いてあった。このスーツの男は政府から派遣されてやってきた役人であったのだ。
役人はエイチ氏の家の玄関先にモノを置くと消えるという話を聞いてやってきたと説明し、その玄関先を使わせて欲しいとエイチ氏に頼んだ。
役人が言うことには、玄関先に様々な廃棄物をエイチ氏の家の玄関先に置かせて欲しいということであった。
そんなことを家の前でされたら困ると思いはじめは断ったが、エイチ氏の年収に匹敵する額を毎日与えると言われると了承してしまった。
それから毎日エイチ氏の家の前にはトラックが乗り付けられ、玄関先にゴミが投棄されていく。
そのゴミは普通では処理の難しい、核燃料であったり伝染病にかかって死んだ人の死体などであった。
大量のゴミが玄関先と庭とに投棄されるが、例によって翌朝には消えてしまう。
国は一度に投棄できる量を増やそうと、エイチ氏の家の玄関先を拡張した。
一つの都市と同じだけの広さの土地がエイチ氏の家の玄関先になったのである。
外国からも様々なゴミが運び込まれ玄関先に投棄されていった。エイチ氏の受け取るお金の額も大きくなっていく。
そのお金でエイチ氏は家を大きくした。家の形や大きさが変わっても玄関先に置かれたモノがなくなる現象は変わらずに続いた。
国は外貨獲得と国際社会での地位向上を目論み、エイチ氏の家の玄関先をどんどんと拡張していく。
世界各国からお金とゴミとがエイチ氏の元へ集まり、エイチ氏はちょっとした王様になった。
ゴミの問題はエイチ氏のおかげで解決した。
人々は後処理のことなど考えずに資源を使い、浪費を続けた。
都合の悪いゴミが発生したらエイチ氏の玄関先に運び込めばいいのである。
世界は大いに発展していく。
核燃料の処理問題に頭を抱えることも、都市が出すありとあらゆる種類の大量のゴミの問題に悩む必要もなくなったのである。
大気汚染や環境破壊はエイチ氏の玄関先のおかげでなくなり、心に余裕のできた人々は争いもやめ世界は平和になった。
厄介な病原菌もエイチ氏の玄関先に捨てることでこの世から消え、病気に苦しんだり死んだりする人もかなり減少した。

そうなってから何年後のことである。
ある都市で働く弁護士が自分の事務所の入っている建物に行くと、ポストの前に見知らぬモノが置いてある。
それはどこかの家の玄関マットであった。
なんでこんなものがあるのだろうかと首をかしげたが、次の日にも同じように見知らぬモノが置かれている。
弁護士はそのうさぎの置物を不思議そうに一瞥し事務所に入っていく。
しかし事務所に入り、澄み切った青い空を窓越しに眺めると、そんな置物のことなどすっかりと忘れてしまった。

(終了)

この作品について

星新一の「おーい でてこーい」のオマージュである。

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